「きつキャラ”アダチン”」と「バッテリー交換電気自動車」
「固定概念を打破して発想の転換を」とは、言うは易く行うは難しの典型だ。ましてや思いつきではなく、論理的に成功する裏付けをもって逆張りを行うのは容易ではない。それをうまくやった例を発見した。
「足立区生まれの”アダチン”」と称する犬のキャラクター。日本古来の犬種「チン」と足立区をかけているというが、鋭い目つきと眉間のシワが全国に数多いるご当地キャラクターと一線を画している。
彦根市の「ひこにゃん」をトップスターとするご当地キャラクターは、ゆるいマスコットキャラクターを略して「ゆるキャラ」と呼ばれている。一般市民からの公募デザインで作られたものも数多く、クオリティーはかなりのバラツキがあり、ヘタウマ的なものも少なくない。また、ある程度万人受けすることが前提なので、存在感も中庸だ。
「アダチン」は「ゆるキャラ」へのアンチテーゼである「きつキャラ」というポジショニングを引っ提げて登場している。
<下町の“きつキャラ”アダチンが人気!> http://news.walkerplus.com/2009/0129/11/
「ゆるキャラ」の多くが、ほのぼのとした表情やヘタウマのデザインであるのに対し、ちょっと生意気そうな表情。そして新鋭の映像クリエイターが手がけたとするプロらしいデザイン。
ポジショニングマップで表現するなら【ほのぼの】←→【生意気】【プロの絵】↑↓【ヘタウマ】となるのだろう。明らかにポジショニング上の差別化を狙ってのことであることが推測できる。<一昨年に始まった足立区を“芸術の街”にしようとする運動「足立区文化産業・芸術新都心構想」のPR>だというが、これだけ全国にご当地キャラが溢れていては、その存在を突出させることは至難の業だ。しかし、「アダチン」は明確なポジショニングが奏功して<「You Tube」で公開中の「アダチンのテーマ」という動画の再生回数は28万回(1/28現在)>だという。
なんとなく、「ご当地キャラといえばゆるキャラ」というような固定概念のようなものが形成されていなかっただろうか。せっかくキャラクターを作るのであれば、アピールできなければ意味がない。固定観念を覆し、明確なポジショニング戦略を持って成功している好例といえるだろう。
もう一つ、キャラクターとは全く関係ないが、見事な固定観念の転換例を紹介したい。.
<充電ではなくバッテリー交換という発想、電気自動車の新たなステップへ>
http://greenz.jp/2009/01/30/better_place/
環境問題への切り札の一つとして注目されている電気自動車だが、充電スタンドが普及したとしても、<一般的に充電にかかる時間は十数分から数十分>という大きな弱点が残っている。それに対し、<ベタープレイス社の「バッテリー交換型電気自動車」>は<電気自動車用のバッテリーを汎用型とし、充電スタンドで充電を行うのではなく、バッテリー交換ステーションで搭載されている充電池をすでに充電された充電池と交換する>という。<交換にかかる時間は数分>だそうだ。
つい、「自動車へのエネルギー補給」と考えると、「スタンドで注入」することをガソリンと同じように電気でも考えてしまう。しかし、要は電力が得られればいいのだから、乾電池と同じ発想をすればいいのだ。言われてみればそれまでのことなのだが、固定観念に縛られてなかなか発想できない、目から鱗のしくみではないか。
<充電池はベタープレイスが貸し出すというシステムをとる>といい、<バッテリー交換ステーション自体には充電設備を必要としないことでインフラの整備も容易になる>ということだ。また、<バッテリーが汎用化されることで製造コストも低く抑えられる>ともいう。
サプライチェーンで考えると、このシステムがいかに優れているかよくわかる。
充電設備を備えたステーションを設置して、そこで電力を補充するというしくみを、ベタープレイス社が充電池の回収と補充をするという役割を担う。
<すべての自動車メイカーの電池の規格を統一できるかという問題>が残るとしているが、それが克服できれば同社は充電池車の電池交換をまとめることができるのだ。
サプライチェーンを細分化して、どこを自社で取り込めるか、または、自社が一手に束ねられるところはないかを考え抜いたに違いない。自動車産業のサプライチェーンを果敢に組み替えようとしているベタープレイス社はまだ創業1年半。固定概念を全く持たない新しい会社が、成熟しきった業界に投げかけた波紋は大きな広がりを見せるように思われる。