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15 posts from January 2009

2009.01.30

「きつキャラ”アダチン”」と「バッテリー交換電気自動車」

「固定概念を打破して発想の転換を」とは、言うは易く行うは難しの典型だ。ましてや思いつきではなく、論理的に成功する裏付けをもって逆張りを行うのは容易ではない。それをうまくやった例を発見した。

「足立区生まれの”アダチン”」と称する犬のキャラクター。日本古来の犬種「チン」と足立区をかけているというが、鋭い目つきと眉間のシワが全国に数多いるご当地キャラクターと一線を画している。
彦根市の「ひこにゃん」をトップスターとするご当地キャラクターは、ゆるいマスコットキャラクターを略して「ゆるキャラ」と呼ばれている。一般市民からの公募デザインで作られたものも数多く、クオリティーはかなりのバラツキがあり、ヘタウマ的なものも少なくない。また、ある程度万人受けすることが前提なので、存在感も中庸だ。

「アダチン」は「ゆるキャラ」へのアンチテーゼである「きつキャラ」というポジショニングを引っ提げて登場している。
<下町の“きつキャラ”アダチンが人気!> http://news.walkerplus.com/2009/0129/11/
「ゆるキャラ」の多くが、ほのぼのとした表情やヘタウマのデザインであるのに対し、ちょっと生意気そうな表情。そして新鋭の映像クリエイターが手がけたとするプロらしいデザイン。
ポジショニングマップで表現するなら【ほのぼの】←→【生意気】【プロの絵】↑↓【ヘタウマ】となるのだろう。明らかにポジショニング上の差別化を狙ってのことであることが推測できる。<一昨年に始まった足立区を“芸術の街”にしようとする運動「足立区文化産業・芸術新都心構想」のPR>だというが、これだけ全国にご当地キャラが溢れていては、その存在を突出させることは至難の業だ。しかし、「アダチン」は明確なポジショニングが奏功して<「You Tube」で公開中の「アダチンのテーマ」という動画の再生回数は28万回(1/28現在)>だという。

なんとなく、「ご当地キャラといえばゆるキャラ」というような固定概念のようなものが形成されていなかっただろうか。せっかくキャラクターを作るのであれば、アピールできなければ意味がない。固定観念を覆し、明確なポジショニング戦略を持って成功している好例といえるだろう。


もう一つ、キャラクターとは全く関係ないが、見事な固定観念の転換例を紹介したい。.
<充電ではなくバッテリー交換という発想、電気自動車の新たなステップへ>
http://greenz.jp/2009/01/30/better_place/

環境問題への切り札の一つとして注目されている電気自動車だが、充電スタンドが普及したとしても、<一般的に充電にかかる時間は十数分から数十分>という大きな弱点が残っている。それに対し、<ベタープレイス社の「バッテリー交換型電気自動車」>は<電気自動車用のバッテリーを汎用型とし、充電スタンドで充電を行うのではなく、バッテリー交換ステーションで搭載されている充電池をすでに充電された充電池と交換する>という。<交換にかかる時間は数分>だそうだ。

つい、「自動車へのエネルギー補給」と考えると、「スタンドで注入」することをガソリンと同じように電気でも考えてしまう。しかし、要は電力が得られればいいのだから、乾電池と同じ発想をすればいいのだ。言われてみればそれまでのことなのだが、固定観念に縛られてなかなか発想できない、目から鱗のしくみではないか。
<充電池はベタープレイスが貸し出すというシステムをとる>といい、<バッテリー交換ステーション自体には充電設備を必要としないことでインフラの整備も容易になる>ということだ。また、<バッテリーが汎用化されることで製造コストも低く抑えられる>ともいう。

サプライチェーンで考えると、このシステムがいかに優れているかよくわかる。
充電設備を備えたステーションを設置して、そこで電力を補充するというしくみを、ベタープレイス社が充電池の回収と補充をするという役割を担う。
<すべての自動車メイカーの電池の規格を統一できるかという問題>が残るとしているが、それが克服できれば同社は充電池車の電池交換をまとめることができるのだ。
サプライチェーンを細分化して、どこを自社で取り込めるか、または、自社が一手に束ねられるところはないかを考え抜いたに違いない。自動車産業のサプライチェーンを果敢に組み替えようとしているベタープレイス社はまだ創業1年半。固定概念を全く持たない新しい会社が、成熟しきった業界に投げかけた波紋は大きな広がりを見せるように思われる。

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2009.01.28

“現場に効く”マーケティングの基本理論・第12回

Big mistake! 読者の方からメールでご指摘いただきました。
一昨年から昨年10月までインタラクティブマーケティングの専門誌「月刊im press(アイ・エム・プレス)」で連載をしていたシリーズ、「現場に効く”マーケティングの基本理論」。
毎月、1ヶ月遅れで当Blogに転載をしてきたのですが、最終回のアップを忘れていました!

今さら感はありますが、最終回らしく結構キモなことを書いたつもりなので、改めてアップします。
「12回をまとめて読みたい」というご要望もいただいていますので、近々、連載12回分のリンクを左ナビゲーションかどこかに設定します。もうしばらくお待ちください。

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「“現場に効く”マーケティングの基本理論」

あまりに“基本”と思われ、忘れられているようなマーケティング理論。しかし、日々の業務が行われる“現場”で今一度振り返ってみれば、思わぬ“再発見”があるものだ。

第12回「マーケティングの要諦とは何なのか?」

 1年間にわたってお届けしてきた当連載も今回で最終回となる。「マーケティングとは何か?」から始めた12回。今回はそのキモを確認して締めくくりたい。


■マーケティングは循環する

 マーケティング戦略の立案・実行手順はしっかりと覚えられただろうか。外部環境・内部環境の精査→市場機会・事業機会の発見→STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の立案による戦略の方向付け→4Pによる具体的施策の展開である。
 しかし、実際の業務では個々のパーツだけを検討せざるを得ないこともある。「新たなバリエーション製品を企画せよ」。「この製品の価格改定を検討せよ」。「新たなチャネルを開拓せよ」。などなど……。よく見れば、いずれも4Pの課題である。しかし、4Pそこだけを考えていても答えは出ない。もしくは、結果の正否の原因がわからないため、成功が再現できなかったり、失敗を繰り返したりすることになってしまう。出した答えが正しいのか、結果が思わしくなくても何がいけなかったかがわからないのだ。
 製品(Product)の課題を考えたとしよう。「新しいバリエーション商品として、より高級なラインを展開しようか?」。そうしたら「価格は従来品とどのように差をつけるのか? 競合品との比較は? そもそも、その価格で顧客は買ってくれるのか?」と価格(Price)を検討が待っている。そして「高級ラインの展開は、従来の取扱店だけでいいのだろうか?」とチャネル(Place)の課題を検討することになる。当然、従来品と異なる価値の訴求をどのように広告や販売促進で伝えていくべきなのかというコミュニケーション(Promotion)の課題も解決しなくてはならない。4Pはすべて整合しなくてはならないのである。
 整合が求められるのは4Pだけではない。そもそも、高級ラインは「誰が買ってくれるのか?」というターゲティングをもう一度考え直し、そのターゲットに対し、どのような打ち出し方をするのかという、ポジショニングも再度検討しなくてはならない。4Pと同時にSTPも見直すことになる。さらに、「高級ライン」は自社の開発や生産能力で本当に実現できるのかという内部環境も再検討する必要があり、そもそも、昨今の経済環境の中で「高級」がどれだけ受け入れられるのかという外部環境も十分考慮すべきであることは言うまでもない。
 「マーケティングは循環する」。冒頭、マーケティング戦略の立案・実行手順として再確認した流れは、逆からも考える必要があるのだ。日常業務において、マーケティングの一部だけを検討するシーンは多いだろう。しかし、実際には「部分最適」だけで解決できることはほとんどないと認識すべきなのである。


■B to Bマーケティングに学ぶ:4Pに隠れた「時間」という重要事項

 とはいえ、最終的な打ち手は4Pで考えることになるのだが、そこに隠された重要事項をBtoB(企業対企業取引)から学びたい。
 モノ作りの現場における最重要課題は「QCDの向上」であるとされている。QCDとは、品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)の略だ。しかし、モノ作りだけでなく、QCDはB to B取引の必須要件なのだ。「品質」×「価格」×「納期」。この変数をどう組み合わせるのか。
 例えば、日本で一番高収益な企業として知られる、生産設備向けセンサーのメーカーである「キーエンス」。「品質」は、納入先企業の課題解決を徹底的に検討し、汎用品にベストなカスタマイズを行って提供する「超高品質」である。その代わり「価格(コスト)」は倍~数十倍。ただし、いち早い課題解決のため、基本は翌日納品という「超短納期」を実現している。極めて高価格でも、モノ作りの現場で支持される同社の秘密はそれだ。
もっと身近な例もある。文具通販の「アスクル」。小規模事業所向け文具通信販売としてスタートした同社は、「品質」は当初、親会社のプラスの製品からスタートし、他社製品の取り扱いに拡大。PB商品も数多く開発した。しかし、突出した高品質で勝負しているわけではない。「コスト」も定価販売からスタートし、独自のプライシングを行うようになったが、「最安値宣言」などをしているわけでもない。成長の秘密は「納期(Delivery)」である。小規模事業所にとって、注文すれば翌日(場合によっては当日)に確実に納品してくれることが一番の価値であったのだ。
 前記の通り、品質(Quality)・コスト(Cost)は4Pで考えれば製品(Product)と価格(Price)でカバーされている。しかし納期(Delivery)の要素は、つい忘れがちではないだろうか。特に「時間」という要素。誰もが忙しく生活している現代。人に最も平等に与えられている条件は、1日は24時間、1年は365日であるということだ。その時間をどのように戦略に組み込むのか。航空券をはじめとした早期割引制度などの例もある。しかし、もっと工夫の余地があるはずだ。また、競合との戦略を考える時なども、時間軸上でどのように差別化を図るかをもっと考慮すべきである。


■4P+2P

 4Pと同時に考慮すべき「時間」に加えて、ずいぶん前から筆者が提唱している「4P+2P」という概念がある。即ち、「Process」と「Person」。「どのような手順で」「誰が実行するのか」ということである。
 モノだけではなく、それに付随したサービスが重要視されるようになって久しい。無形のサービスそのものを商材とした時「サービス・マーケティング」という領域も生まれ、そこでは、特に上記の「Process」と「Person」を組み合わせ、どのようにサービスを提供するかが検討されている。しかし、それはサービスという商材において語られるべきことではない。どんな商売でも「顧客接点」が存在する。そこで、どのような手順で、誰が「価値」を提供するのかが問われるのだ。例え、定型的な商品であっても、顧客接点における提供のされ方ひとつで、顧客が感じる価値は異なってくるはずなのだ。
 「マーケティングとは価値の交換活動である」と連載当初に述べた。顧客に価値を認められ、対価を得るに値するか否かは、あらゆる商材、あらゆる取引において、最終的にはもう2つのPである「Process」と「Person」にかかっていることを忘れないことだ。


■主人公は顧客であることを再認識し、より顧客を理解すべく努力を続けよう

 筆者の最も尊敬する人物は「レスター・ワンダーマン(Lester Wunderman)」である。タイム誌に「20世の3大広告人」の1人として選ばれた、「ダイレクトマーケティングの父」。
 彼は「主人公は商品ではなく、顧客である。(The Consumer , not the Product must be the hero.)」と、マスプロダクトの黄金期から、一貫して「顧客中心主義」を提唱した人物である。
 当連載の最後に、彼の言葉を紹介したい。
 「あなたの価値は、持っている知識の量によって決まる。(You Are What You Know.)~情報となり得るデータを集めること。それがひいては知識となる。知識があってこそ、成功が約束され、失敗が最小限にくいとめられる。企業は、持っている知識の範囲以上の存在にはなり得ない。」(翔泳社『ワンダーマンの売る広告』より」)
 マーケティングの要諦は「顧客の心の中を洞察し、顧客をよく見続けること」である。
昨今、「マーケティングとは何か」という答えとして「売れ続けるしくみ作り」という言葉が使われる。単に「売り込む」のではなく、顧客を理解し、自ずと商品が売れていく仕組みを作ることこそがマーケティングであるという解釈だ。それは非常にわかりやすいのだが、そのためには「しくみ」だけではダメなのだ。より顧客をよく見る。顧客の心に触れる。顧客のことを常に考え続けることこそが、マーケティングのキモなのだ。
なぜなら、「主人公は商品ではなく、顧客」なのだから。

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2009.01.27

クラシエフーズ・オンナ心をつかむスポーツ関連商品・その2

アディダス編の続き。もう一つオンナ心をつかむスポーツ関連商品を発見した。

コンビニの店頭でソイジョイやカロリーメイトやら アミノ酸やらと一緒に並んで売られているその商品。「香り発散スポーツウォーター・アロマアクティブ」。水に溶く粉末タイプのスポーツドリンクである。
販売元は クラシエフーズ。そう、「オトコ、香る」のガムと一緒のメーカーだ。同様にバラ由来の香り成分を配合しているという。

この商品はまた、女性が「香りたいのはどんな時か」を上手に調べたニーズ、潜在ニーズを的確に捉えた商品だといえる。
日常では、お気に入りのフレグンランスがある。TPOに合わせて選べる。けど、スポーツの時は・・・。
軽いスポーツの時はまだしも、レグランスなんか確認できないほど汗をかく時がある。特に昨今はマラソンブーム。長距離のランニングには給水が欠かせない。実に大量の水分を摂取し、それだけ大量に汗をかく。
スポーツの汗は体表の大半に分布している汗腺であるエクリン腺から分泌され、体温調節の機能を担っている。腋の下にあるのがアポクリン腺である腋窩腺であり、ストレスなどによって分泌される。エクリン汗の成分はアポクリン汗に比べて薄いため、本来あまり臭いを発しない。
しかし、その量が多く、しかも走るうちに空気と一緒になって飛んで入るチリやホコリやいろんなモノが合わさって、次第に汗の体は匂いを発することになるという。マラソン大会では、レース後にシャワーを浴びる場所がない会場が多い。女性ランナーに聞いたが、会場の体育館や仮設テントの中で着替えはそりゃもう大変だそうだ。熱気さめやらぬムンムンの場内では、「しゅーしゅー」と制汗剤の濃い匂いが立ちこめ、むせるようだという。
天然の汗の方がマシなのでは?と思うが、そこはオンナ心。シャワーがない以上、そうするしかない・・・ハズだった。

「アロマアクティブ」を飲むと、香気成分の「ゲラニオールリナロール」が体からイイ匂いを発散させてくれるとの事。
では「アロマアクティブ」がどのようにターゲットのニーズに応えているか、アディダス同様に「3層モデル」で分析してみよう。スポーツ時に必要な「水分補給」というニーズにいかに応えるか。中核としては「水分を補える」とうそのものだ。ミネラルウォーターでもいい。実際、アスリートではない筆者は、運動の時にはマイボトルに入れた水を呑んでいる。しかし、激しい競技になればなるほど、水分がスムーズに体内に吸収されることが求められる。その吸収という要素を製品の「実体」として高めたのがスポーツ飲料だ。
さらに、「水分補給」という要素を実現するためにはなくても構わないが、あればその製品の魅力を高める要素となる「付随機能」として、「アロマアクティブ」は「イイ匂いを発散させる」というプラスαの機能を実現させたのである。

アディダスのウェアと同じく、アロマアクティブ」は基本機能をしっかりおさえている。L-カルニチンビタミンやナトリウムなど、スポーツドリンクに必要な成分はもちろん入っている。しかし、本来の機能はちゃんとあって当然だけれど、訴求しているのはそこではない。
スポーツ飲料も液体・粉末の別なく、もはや成熟期に達している。プロダクトライフサイクルが後半に達するに従って、競争のステージは「中核」→「実体」→「付随機能」へと移行していく。つまり、基本的な機能はあって当たり前な環境の中で、機能プラスαがどれだけターゲットのハートに「きゅん」とくるか否かが運命の分かれ道となるのである。そのためにはターゲットは誰か、そのニーズは何かを的確に捉えることが求められるのだ。

その点、スポーツ関連に参入するには超後発のクラシエフーズは、セグメンテーションとターゲティングを極めて巧みに行ったといえる。
「スポーツする・しない」という大括りなセグメンテーションではなく、「スポーツした後の自分(の臭い)を気にする・気にしない」というセグメントによって、「スポーツ好きだけど、人の反応がきになるわん!」というターゲットを見つけたのだ。
セグメンテーションは本来、「ニーズで括る」ものである。単純に性別や年代などの括りをしていたら、適確なターゲティングはできない。
やはり、マーケティングのキモはニーズの深掘りなのである。

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2009.01.26

アディダス・オンナ心をつかむスポーツ関連商品・その1

83億円。ランニングウェア市場の規模だ。日経新聞1月24日朝刊・消費面コラム「数字・すうじ」によると、マラソン人気でランニングウェアメーカー出荷額が前年比9.9%増で、スポーツウェア全体の2.9%に比べて大きな伸長だという。

記事では<仕事帰りや休日にランニングを楽しむ若い女性が増加。こうした女性向けにワンピースやスカートなどのウェアの種類が豊富になり、買い増し需要が膨らむ>と指摘している。

記事中のランニングスカート、通称ランスカ(ニューバランスの登録商標)は、3年ほど前に海外で利用者の広がりを見せ始め、日本でもいち早く先進的なランナーが取り入れ、翌年ニューバランスやランナーズが国内で製品化し人気に火が付いたのは記憶に新しい。
当時ランナー達には、機能性サポートタイツなどをはいて走るスタイルが一般的になってきたものの、女性には腰回りのラインがはっきり出てしまうという問題が存在した。「かわいく腰回りを隠せるものはないか」という潜在的なニーズをすくい取ったのがランスカだったのだ。さらに記事中にあるワンピースは、DANSKINなどが、ランドレ(DANSKINの登録商標。ランニングドレスのこと)としてさらにフワリとしたシルエットを投入し、かわいさ需要を加速させたのである。

「女性が欲するスポーティは、機能よりもまずはスタイル」だといっても過言ではないだろう。見た目に「機能性度外視」とも思えるウェアを着ている選手はプロテニスプレイヤーのクルム伊達公子が挙げられるだろう。ブランドは「アディダス アディリブリアEDGE」。ヒラヒラと優美なシルエットは時にカラダにまとわりつき動きにくそうにも見えるが、かなりカワイイ。女性の目から見ても間違いなく憧れる存在に思うだろう。広告塔効果バッチリだ。
しかし、実はそのウェアはカワイイだけではない。ウェアの中の空気が流れ込み、熱と汗を外に排出して体力の消耗を防ぐ「クライマクール」という技術と、立体的なカッティングで身体の稼働をより自由にする「フォーモーション」という技術を取り入れているという。

カワイイのに実は機能がしっかり確保されているというウェアをマーケティングのフレームワークで考えてみよう。「製品特性3層モデル」。「製品」は、「中核」「実体」「付随機能」の三つに分けられる。「中核」とは顧客が製品やサービスの購入で手に入れたい主たる便益を表す。「実体」とは製品の特性を構成する要素である。「付随機能」とは、上記に加えて、製品の中核価値に直接的な影響は及ぼさないが、その存在によって製品の価値を高めている要素を表す。
スポーツウェアの「実体」は「運動のしやすさ」だ。それを実現する「実体」が「熱を逃がす」などの機能性である。通常のスポーツウェアはこのあたりをめいっぱい強調する。しかし、女性達のニーズはそこにない。「運動のしやすさ」に直接影響を及ぼさないが、製品の魅力を高める要素である「付随機能」の部分にある「かわいさ」の魅力付けを思い切り行っている。故に、機能性訴求よりもかわいさをより全面に押し出しているのだ。

アディダスはその方向性をさらに先鋭化している。「ステラマッカートニー」というブランドだ。「かわいさ需要」が顕在化すると、「そのウェアを着て走りたいから」とランニングを始める層が動き出した。新たなランナーが登場し、新規需要が拡大するというステージに入ったというわけだ。
このブランドのすごいところは、機能素材を使いつつも、機能性を犠牲にしてまでかわいさを追求している点にある。過度にピッタリしていたり、ヒラヒラしていたり、はたまた不要な部品が付いていたり、着方すらわからないようなデザインもある。記録だけを追い求めるシリアスでストイックなアスリートは決して着用しないかもしれない。「かわいくあるために少々の不都合には目をつぶる」というニーズを持ったユーザーをターゲットにしたものだろう。
「美しいレッグラインのためにピンヒールを履く」「セクシーさの 演出にコルセットをつける」のと同じ。外反母趾や肋骨を痛めるリスクを気にするよりも、その一瞬を美しく満足して生きる為に、 犠牲をいとわない層。そういうおしゃれにどん欲、美しさを追究するターゲットセグメントを敏感にキャッチして開発されたのだと考えられる。
「ステラマッカートニー」を再び「3層モデル」で考える。中核の「運動のしやすさ」は既に捨てられている。「運動ができる」程度だろう。その代わり、実体のレイヤーに付随機能であった「かわいさ」が入り、「機能素材」は、あればうれしいという程度の付随機能になっているのだ。

こうした価値構造の転換は、新たなユーザーニーズに対応するためには積極的に行われるべきものである。一時期下火になり、昨今また息を吹き返してきたカラオケボックスという産業。
中核は「歌が歌える」ということ。実体は「個室・防音・カラオケ機材」。付随機能が「飲食の提供」である。しかし、現在流行っているカラオケボックスの利用法は、歌を歌わない。個室・防音という実体を活かしてビジネスマンが会議の場に使用するケースも多い。また、小さな子供連れの主婦グループはさらに個室・防音で子供が騒いでも気にすることなく、飲食の注文ができることから、おしゃべりパーティーを開くという。
中核の歌が歌えるという価値を捨て、実体の防音・個室をフルに活かし、付随機能の飲食の提供の魅力を最大化する。そして、「歌わない客」を積極的に呼び込み対応する。それもこれも、ターゲットをよく見極め、ニーズを徹底的に洗い出した結果である。

マーケティングのキモは「ニーズの深掘り」である。「ニーズ」とは、現状と理想とする状態のギャップであり、そのギャップを埋めるものが、「ウォンツ」。つまり対象物としての商品である。アディダスの、女性のニーズをとらえ、スポーツ愛好家だけでなく、さらにはウェア自体がスポーツ需要を喚起するというその凄さ。「機能ではなくファッション性だ」と見抜いた慧眼には脱帽である。

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2009.01.24

【お知らせ】セミナー情報

昨年末にお知らせした、1月28日開催のセミナー、「話題のあの企業をマーケティングのフレームワークと顧客視点で読み解く!」は定員に達したため、応募を締め切らせていただきました。
ありがとうございました。
また、機会がありましたらご案内させていただきます。


と、話はそれで終わりではありません。オススメのセミナー情報です。

上記セミナーの主催者は「クイックウィンズ株式会社」。
このBlogの記事を転載「インサイトナウ」(http://www.insightnow.jp/)というサイトを運営しており、そこにはマーケティングだけでなく、人事や調達、会計など様々な分野のスペシャリストが集っているます。
そのスペシャリストが次々と、セミナーの講師を務めるのですが、今回はマーケティング領域の第2弾。

「ぎりぎりと頭をひねりつつ、フレームワークを使いたおしつつ考えるためのプランニング実務講座」

講師はTHOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役・伊藤 達夫 氏
同氏はコンサルティングファームと事業会社で、戦略構築~マーケティングプラン策定の経験が豊富にあり、フレームワークの実践的な使い方を何度も「インサイトナウ」で執筆しています。
私の経験からすると、コンサルティングファームと事業会社の両方の立場を経験すると、理論と実践のバランスがよくなります。そんな経歴の方には非常に優秀な方が多いのです。まさに伊藤氏がその典型でしょう。

伊藤氏はセミナーの内容を次のように案内しています。
「講義はレクチャー、レクチャー、レクチャーです。大量の情報を一気に流し込むことを目的としています。
ケースも出しますが、答え合わせは当日はしません。ただ、変わったやり方をしますので、ご配慮を。
持ち帰って考えた上で、メールにて提出して下さい。フィードバックは致します。」

「レクチャー、レクチャー、レクチャー」で、「大量の情報を一気に流し込む」なんて、なんとも恐ろしくもありがたい話ではありませんか。
それに「メールにて提出して下さい。フィードバックは致します」とは、通信教育的フォローも付いているということ?なんというサービス精神。

日時は2月18日(水)18:30-20:30
今回も立食形式の懇親会を予定しているそうです(21:00から)。異業種交流会的な魅力もアリですね。
受講料は5,000円と、リーズナブルな設定。
しかし、定員20名(定員で締切り)と、今回もなかなか狭き門。応募を急げ!ですね。

詳細は以下のリンクから。
https://www.insightnow.jp/events/seminar0218

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2009.01.23

アサヒ スーパードライ:キャンペーンの狙いは?

プロモーションはどんな顧客層をターゲットとして、どのような目的で行われるのかが明確になっていなければ実施する意味はないといっても過言ではない。そんな中、非常に効果的と思われるキャンペーンを目にした。

アサヒ スーパードライの”「うまい!をカタチに!」プロジェクト”が1月19日からスタートした。なんともビールがうまく飲めそうなタンブラーや、ビールをキンキンに冷やしながら次々飲めてしまいそうな卓上クーラーボックスなど、ビール呑みにはたまらない景品が用意されている。
このキャンペーンの特徴は、商品に貼付けられたシールを集めて送ると抽選で景品が当るという、「マスト・バイ型(クローズド懸賞)」と同時に、シールに加え、代金を支払えば必ず手に入るというコースが設定されている点だ。

プレミアムキャンペーンには、誰でも応募できる「オープン懸賞」、購入者のみが応募できる「クローズド懸賞」、応募せずとも商品に賞品が付いてくる「ベタ付け」などが代表的である。
今回”「うまい!をカタチに!」プロジェクト”で一部採用されているのは「セルリキ(セルフリキデーション=自己清算型)」と呼ばれる手法だ。商品をに張り付いている応募シールやパッケージの一部を切り取るなどして「購入証明」となるものを集め、代金を一部応募者が負担することで、景品を確実に手に入れられるようにするしくみである。タバコのキャンペーンではしばしば用いられる手法ではあるが、あまり一般的とはいえない。

なぜ、「セルリキ」方式がなかなか用いられないかといえば、裏方の作業の手間と、それに伴うコストがずいぶんかかるのも理由の一つだ。
応募者からハガキで送られてくる購入証明を一つ一つ確認したり、代金を振り込みで受け付ける場合は応募情報と入金情報突合したりと、なかなか大変な作業の手間とコストがかかる。筆者は前職の広告会社で経験しているのでその大変さがよくわかるのだ。
今回は景品が送られてきた時に現金かカードで支払いとのことなので、宅配便の着払いのしくみを使ったようだが、いずれにしても応募確認の手間は残る。

しかし、あえてこの「セルリキ」を実施するのは、ヘビーユーザーの囲い込みには大きな効果を発揮するからだ。
シール12枚~24枚を集めるために、缶ビールを1~2ダース分飲む。そして、代金を払う。昨今の景気の低迷で嗜好品は節約対象に挙げられがちだ。「少し本数を減らそうかな」と思っていたところにこのキャンペーンを目にしたユーザーも多いだろう。景品ほしさに飲み続けることになる。
もしくは節約のために「発泡酒に変えようかな」と思っていたらどうだろう。思わずキャンペーンに応募して、スーパードライのロゴ入りのグッズを手に入れてしまっては、そこに発泡酒を注いだり、冷やしたりするのでは格好が付かない。まして、自分が代金を一部負担しているのだ。余計に手に入れたグッズにもブランドにも愛着がわく。

昨今の若年層を中心とした「ビール離れ」はますます加速している。それに対応するため、ビールメーカー各社は、ビールとは全く異なる味わいの発泡酒を開発・発売し、販売に力を入れている。そんな環境の中、本丸であるビールがきちんと売れ続けること。そして、そのユーザーをがっちり囲い込むことは最重要課題であるはずだ。

1月19日から始まった”「うまい!をカタチに!」プロジェクト”は3月17日まで。ずいぶんと長いキャンペーンだなと思っていたら、何とこれは「第1弾」だという。
同社のWebサイトを見てみると、「Coming soon」となっているその後のキャンペーンは「第5弾」まで表記され、その先にも矢印がつながっている気配だ。景品を次々と変え、1年以上継続するキャンペーンにするつもりなのだろう。その勢いに、いかにこのキャンペーンが重要な目的のもと、実行されているかがわかる。

恐らく、キャンペーンはヘビーユーザーの囲い込み効果を発揮するだろう。うまくすると、一度離反したユーザーを呼び戻すこともできるかもしれない。筆者自身は、プリン体の少ない発泡酒に変え、節酒もしているのだが、何やらムズムズとこのキャンペーンに反応してしまいそうな気配がしてきた。しばらく要ウォッチである。


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2009.01.20

「フツーのモノじゃぁ売れないよ~」

景気の低迷は家計を圧迫し、生活者は生活防衛のため財布の紐を固く締めるようになった。そんな時代に売れる商品とはどんなモノだろうか。

不景気は消費の低迷をもたらし、不要不急の消費は控えられ、商品の選択基準はより厳しいものになっている。そんな中で贅沢消費はまっ先に棄却される。年末年始の旅行者数の減少などが如実に物語っている。その次に来るのは嗜好品の買い控えで、そして、最後に来るのは食料品をはじめとした生活必需品の低価格帯への移行だ。大手流通のプライベートブランドが隆盛を誇っているのもその現れだといっていいだろう。
そんな中で、生活者にアピールすべく製品特性を大きく極端に振った商品を広告やニュースリリースの中で見つけた。

まず、気になった商品はカップ麺「日清・味の二重奏Wホワイト濃厚とんこつ麺」。1月26日発売だという。昨今のラーメンの流行は「2つの素材で仕上げるWテイスト」だというが、そのトレンドを巧みにとらえた同商品の価格は税別235円。カップメントしては高価格帯狙いだ。
カップ麺の生活者が妥当と考える価格、つまり「カスタマーバリュー」は100円だ。昨年、日清のカップヌードルが原材料の高騰を受け値上げをし、店頭小売価格が100円を超えた翌月に、値上げ前比-56%の売上げになったのは記憶に新しい。そのカスタマーバリューに適合するように、プライベートブランドは見事に88円~98円の価格帯で商品を販売している。もはや価格勝負では、メーカーは独自商品を維持できない。「Wホワイト濃厚とんこつ麺」はフツーのカップ麺が設定している倍以上の価格を付け、プライベートブランドのどちらかといえば万人受けするあっさり味に対し、「特濃」という切り口で独自の魅力をアピールしているのだ。

「濃い味」で勝負に出た商品を、飲料でも見つけた。「不二家・ネクター濃い果汁 白桃」。同じく1月26日発売だ。国産の白桃を丸ごと裏ごししたピューレを40%も使い、「本物の桃を食べているような、濃く果肉感のあるのどごし」が特徴だという。290g入りの小型ペットボトル入りで税別147円。これもまた、量と価格のバランスでいえば少々割高の商品を、いままでにない製品特性をアピールして購入させようという戦略だろう。
そもそも、果汁ジュースは高度成長期以降、果実の栄養を重視し、100%ジュースが珍重されたが、一昔前に「なっちゃん」が火を付けた低果汁ジュースブームによって嗜好品としてのポジションに移行している。嗜好品であれば、買い控えの今日においては、より強烈なアピールが求められる。低果汁のほんのりとした味わいでなく、果物そのもののような充実感で勝負するということだろう。

「濃い味」に対して、「すっきり」で勝負する商品もある。「カゴメ・野菜生活100 Refresh!」。「グレープフルーツ&レモン」と「青リンゴ&ライム」という、いかにも爽やかそうな果汁と野菜汁を50%ずつ、「クリアブレンド」という独自の技術でブレンドし、「これまでにないすっきりした味わい」を実現したという。すっきり感にこだわるのは、同社が消費者調査をした結果、野菜ジュースの飲用シーンで、「お風呂上がり」や「気分転換がしたい時」 という回答が大きく伸長しているからだという。つまり、「身体にいいから」「栄養が取れるから」という理由で飲まれているという先入観を一度クリアして、生活者のニーズの変化をとらえた結果だ。「運動後にもピッタリ」と、新たな飲用習慣を訴求し、需要を掘り起こす狙いもあるようだ。

もう一つ、「すっきり」の飲料がある。「サッポロ・新ドラフトワン」。「ビールより、スッキリ!が欲しい。」というキャッチコピーが印象的だ。さらに商品名とセットで「スッキリの代名詞」とまでうたっている。
「これはビールではない!」というポジショニングを取ろうと、「キリン・Sparkling Hop(スパークリングホップ)」が、<ニュージーランド産ホップのフルーティで華やかな香りをさらにグレードアップさせるとともに、よりすっきりした軽快な味わいに仕上げた>と昨年11月下旬に製品リニューアルを行った。「フルーティーですっきり」は、ビール離れが激しい若年層の取り込みを狙ってのこと。
しかし、「ドラフトワン」はそこから「フルーティー」という要素を歯牙にもかけず、ひたすら「スッキリ」という一点突破で勝負を挑んできているのだ。味わいよりもひたすら「のどごし」にこだわるターゲットに絞り込み、さらにメッセージも先鋭化するという戦略。
ついつい、製品を提供する側としてはターゲットを絞り込むと、「そんなにターゲットはいるだろうか?」と心配になる。また、製品作りも「こんな特性持たせたい」と欲張ってしまう。その意味からすると、新しいドラフトワンは、見事な割り切りをしているといえるだろう。

カップ麺、飲料、トレンドとしては普通の味ではなく、「とことん濃い」か「今までにないスッキリ」か、両極端に振れている傾向が見てとれる。その背後にあるものは、「普通の商品では戦えない」という環境下で、ターゲットを絞って独自のポジショニングを確立しようという戦略が見てとれる。
たった4つの商品ではあるが、普通の商品が、幅広い生活者から求められるという時代が、いよいよ終焉を迎えたという証左ではないだろうか。この4商品の売れ行きは要チェックだ。

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2009.01.19

「コーヒーを注がないで!」

「マニュアル」という形にまとまっている場合もあるし、口答指示による伝達という形式の場合もあるが、業務には何らかの「プロセス」が規定されている。そのプロセスは、業務の精度と効率の維持・向上のためには欠かせないものであり、現時点までの業務の積み重ねによって改善・改良されてきた組織の資産であることは間違いない。しかし、その資産が形骸化してはいないだろうか。

ある日、某ホテルでのこと。筆者は朝のバイキングを食べていた。そしてその朝の気分は完全和食だった。味噌汁とご飯、焼き魚や煮物、各種漬け物や小鉢などを取って食していた。
テーブルの上にはコーヒーポットが置いてある。料理を取りに行く前に、係の人がコーヒーか紅茶の希望を聞き、置いていったものだ。トレーの上の料理を半分ほど食した時、係の人が近寄ってきて、何も言わずにコーヒーをポットからマグカップに注いでくれた。他のテーブルも見ると同様なことが行われている。コーヒーを自分でカップに入れずに食事を半分ぐらい済ませた客には、係員がコーヒーを注ぐというプロセスが設定されているらしい。
一見、「気の利いたサービス」とも思えるこのプロセス。しかし、和食を食べている途中で、日本茶ならまだしもコーヒーは飲みたくないと思うのは筆者だけだろうか。そして、食事が終わりコーヒーを飲む段階になると、コーヒーは冷めている。ポットの中にはまだ暖かいコーヒーが残っているが、マグカップは大きく、冷めたコーヒーはなかなかなくならない。
きっと、洋食を食べている客、パンを食べている客などには、本来的な「気の利いたサービス」になるのだろう。和食を食べている客にはサービスを控えるなどの配慮ができなかっただろうか。もしくは一言「コーヒーをお注ぎしましょうか?」という顧客に問いかけはできなかったのだろうか。

某大手雑貨ストアでのこと。筆者以外に客はおらず、店は閑散としている。昨今の流通不振によるものではなく、時間帯の問題。平日の午前中だからだろう。目当ての商品を見つけ、レジに向かった。レジにも客は誰もいない。商品をレジ係に差し出すと、「レジの列にお並びください」と言う。
レジに並んでいる客が見えていないのは筆者だけなのだろうか。もしくは見えない何者かが並んでいるというのか。いや、やはり筆者だけしかいない。
レジ係の言葉の真意は、レジの「出口」から進入した筆者に対して、「入口」から入り直せということだった。
店内が混雑した状況であれば、待ち行列をすっ飛ばして出口から逆に進入した客に入り口から並び直させるのは、当然、発動されるべきプロセスだろう。しかし、その時は明らかに状況が違う。

某百貨店でのこと。時は11月下旬。売り場に目当ての商品が見つからないので、店員に尋ねたところ、店員は確かにその商品を見かけた記憶があるという。店員はバックヤードまで商品を探しに行ってくれた。そして、商品を手に提げて戻ってきた。
聞けばその商品は12月から発売だという。しかし、「値札も付いているし、あと数日で店頭に並ぶものだし、メーカーから全国一斉発売などの指示もないので今日、お渡しできます」ということだった。
途中まで話を聞いた段階で、12月に入ってから出直せといわれるか、よくて発売開始日まで取り置きをしてくれるかかなと思っていた。大至急必要というものではなかったが、またその百貨店まで足を運ぶのも手間だし、その時間がとれるかわからなかったので、正直、非常にうれしかった。


どこまで個々の担当者に判断の権限を与えるか、組織がその前提となる条件を規定するのは普通のことだ。しかし、最低限、顧客の状況を見て、顧客の立場に立って柔軟にプロセスを変更する自由度は持たせたいものだ。
プロセスは、業務の精度と効率の維持・向上のためにある。しかし、それが、売り手の理論になっていたら、顧客は離反する。顧客の視点でプロセスを見直し、基本的なプロセスは踏襲しつつ、顧客の立場に立った行動ができることが求められるのである。

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2009.01.16

カシオ・社長コメントに、未踏の地を目指し強敵と戦う覚悟を見た

<「2009年はデジカメ革新の年にしたい」と強調する>というカシオ計算機株式会社の樫尾社長のコメントが、日経新聞13日朝刊・企業欄の「人こと」コラムに掲載された。

コラムは<「世界景気は悪化しているが、全く新しい発想でデジタルカメラの需要を刺激する」>という樫尾社長の力強いコメントで始まっている。「革新」を体現する商品として<動画と静止画の合成や超スローモーション動画撮影ができるコンパクト製品>が発売されるとあった。
ニュースリリースされている、1月23日日発売の『EXILIM ZOOM EX-Z400』の『EXILIM CARD EX-S12』ことだろう。
http://www.casio.co.jp/release/2009/ex-z400_s12.html

短い記事中ではあるが、社長のコメントを拾ってみる。<キャノンやソニーなどより規模は小さいが、「デジタル化の発想では負けない」><「ゼロから一を生み出すのが樫尾の伝統」>とある。
このような経営者の方針を前にした時(カシオ計算機の担当者にとっては現実の話だ)、どのようにマーケティング担当者は解釈をすればいいのだろうか。

恐らく、カシオ社内では膨大な蓄積の中から「USP(unique selling proposition):競合が真似できない、自社独自のセールスポイント」となり得る技術を棚卸しし、精査して今回の<動画と静止画の合成>を実現する「新開発エンジン」を実現したのだろう。
「デジタル化の発想」や「ゼロから一を生み出す」という言葉は、自社の技術をユニークな商品作りに活かせと言われていると解釈できる。企業が研究開発を重ねて蓄積した技術を「シーズ(Seeds:”種”の意)」である。その技術の中からユニークなものを伸ばして開発をしていくのが「シーズ志向」の製品開発である。

顧客の叶えられていない要望や、不満、もしくは希望を元に商品開発を行うのが「ニーズ志向」の開発だ。この場合、顕在化したニーズには、どう対応すればいいのかは考えやすいし、潜在的なニーズであれば、アンケートやインタビューで引き出すこともできる。比較的ハズさない開発方法だと言える。

しかし、顕在ニーズはもとより、潜在的なニーズも成熟化したデジタルカメラの市場においては刈り取り尽くされている。もはや「顧客が考えたこともないような使い方や機能」はニーズからは浮かび上がってこないのだ。「シーズ型の開発」のリスクは、開発費を投じたそれが、果たして顧客に受け入れられるのかがわからないという点にある。
しかし、カシオは社長の「ゼロから一を生み出す」と言うように、道なき道を行き、未踏の地を目指す覚悟を決めたことがわかる。

もう一つは、<動画と静止画の合成や超スローモーション動画>というように、「動画技術」の部分に踏み込めば踏み込むほど、「デジタルカメラ」という製品カテゴリから、「デジタルビデオカメラ」との競合を覚悟することにもなる。動画を撮ることにおいては専門領域であるプレイヤーにさえ、独自の機能性で戦いを挑もうというのだ。

新たな機能を提案し、領域を超えた戦いを展開しようというカシオの戦略。そこでもう一つ重要なものが、「ターゲティング」ではないだろうか。USPがUSPとして成立するには、そのユニークさを認めてくれる顧客(顧客層)が存在するということが欠かせない。そうでなければ、「売る側の思いつき」として忘却の彼方に追いやられることになる。

シーズ志向で開発された商品は、当初はそれをどのように評価し、どのように使いこなしてくれる顧客がいるのかということが見えにくい。もちろん、上市(発売)前には何度も顧客インタビューや調査が行われたであろうが、それでもまだ、完全ではないだろう。
当初設定したターゲットや、市場に向けて提案した使い方以外で大ヒットした商品もある。カシオの戦略においては、市場からの「顧客の声」を吸い上げる取り組みがまさに欠かせないといえるのだ。

「その技術・商品を受け入れた顧客は誰なのか?」・・・「ターゲティング」
「そのターゲットに商品をどのような存在(使い途も含め)として認知させればいいのか?」・・・「ポジショニング」
「どのように製品改良を重ねればいいのか?」・・・「製品戦略(Product)」
「どのような訴求方法なら魅力が伝わるのか?」・・・「コミュニケーション戦略(Promotion)」
「未踏の地を目指し強敵と戦う覚悟」。その経営者の卓然たる決断を成功に導くのは、技術力だけではない。最後はやはり「顧客」に立ち戻って、マーケティングプロセスを進めることが求められるのだ。

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2009.01.14

「ソニーVAIO type P」がオンナ心をわしづかみ!

「予約しないと買えない!」とネットで話題騒然のソニーのバイオ・type P。しかし、実際に購入予約をしたり、検討したりしているのは熱狂的にBlogなどで記事をアップしているようなパソコンのヘビーユーザーだけではないようだ。

バイオ・type Pのキャッチコピーは”小さい、軽い、美しい。「ポケットスタイルPC」誕生”。
そのコピー通り、CMでは歩く女性の、ジーンズのポケットにtype Pがしっかりと収まっている。
http://www.vaio.sony.co.jp/ (バイオトップページにCM動画あり)

確かに「美しい」。カラーリングのキレイさや、仕上げの質感の良さが伝わってくる。まさか本当にポケットに入れて歩くことはしないだろうが、小さい、軽いもよくわかる。よくできたCMだ。魅惑的な女性のヒップラインに目を奪われることなく、商品に目が引きつけられる。

冷静になって、商品スペックを見てみる。
液晶は1600×768ピクセルと高解像度だ。メモリも標準で2GB載っている。ソニーらしくブルートゥースも搭載している。
が、CPUは「インテル Atom 」。この時点で、実はこれが「ソニーも”ネットブック(ミニノート)”市場に参戦」と噂されていた商品なのだと気付かされる。
5万円を切るか切らないかで激しい価格競争を繰り広げているネットブック、もしくはミニノートPCと呼ばれる低価格ノートパソコン市場に乗り込んだソニーは、オシャレな外観とちょっと豪華なスペックで9万円台という価格戦略を提示してきた。約倍近い価格をものとせず、購入予約をしているのはどんな人なのだろう。

「予約されている方の半数以上が女性ですよ」。ヨドバシカメラの店員が語った。
「ネットブックは本来セカンドマシンの位置づけなので、決してスペックが高いとは言えないので1台目のパソコンとしてはあまりお勧めしないとご説明しているんですが、女性の方は固くご購入を決めて予約されておりまして」と、予約者の様子も伝えてくれた。
バイオtype P、オンナ心をわしづかみだ。

顧客が製品を購入する主たる理由をKBF(Key Buying Factor)という。ノートパソコンで考えれば、軽さやバッテリーの持ち、画面の見やすさ、タイピングしやすいキーピッチなどが挙げられるだろう。確かにtype Pはそのいずれも満たしている。
しかし、予約者の過半を占めるという女性たちのKBFはそこにあるのだろうか。恐らくそれだけではないだろう。

P.コトラーの提唱した「製品特性3層モデル」で考えてみる。
ノートパソコンを購入するにあたって、顧客が手に入れたいと考える「中核となる価値」は、「持ち運んで便利に使えるPC」であることだ。そして、その「中核」を実現するための製品の「実体」は、「小さくて、軽くて持ち運びに便利」なことだ。電源の心配をしなくともいいという「バッテリーの持ち」も欠かせないだろう。さらに次の段階は、それがなくとも「中核となる価値」は損なわれないが、あればより魅力的な製品となる要素としての「付随機能」だ。ここにソニーは「美しい」という要素を持ち込んだのである。

プロダクト・ライフサイクルで考えれば、製品の市場が成熟化するに従って、製品を構成する価値の要素が、「中核」から次第に「実体」「付随機能」へと、3層の外へ外へと移行していくのが常だ。例えば、既に成熟期を迎えているコンパクトデジタルカメラの市場は、「キレイにデジタルで画像が残せる」という「中核」である画素数競争に始まり、薄さやコンパクトさという「実体」の競争を経て、昨今では「そのままBlogやSNSに画像をアップできる」とか、「プリント機能が付いている」といった「付随機能」の競争となっている。

ネットブック市場が早晩、成熟化することは目に見えていたと言えるだろう。しかし、ソニーの凄さは、そこに「価格競争」を持ち込まなかったことだ。9万円台といえば、相場の倍の価格。それを、「美しい」という付随機能で通常のネットブックとの戦いをあっさりと回避したのだ。
「ネットブックはセカンドマシン」という常識ではなく、女性の「ケータイからの乗り換え」を狙った、「小さい、軽い、美しい」メインマシンとして購入するのであれば、通常のノートパソコンに比べればその価格はむしろ割安に映る。ユーザーの利用ニーズがケータイからの乗り換えであれば、まさにネットブックらしい使い方であり、スペックの問題は全くない。

果たして、ソニーが女性層をtype Pで本当に狙っていたのかは定かではない。しかし、潜在的な女性のニーズをしっかりととらえたことだけは確かなようだ。
製品のスペックなどだけを考えるだけでなく、ターゲットと、そのKBFをじっくる考えることの重要性を改めて認識させられた気がした。

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2009.01.13

「プリントする」という、「ソリューション(課題解決)」

「デジカメによってアナログ時代の写真アルバムの思い出が失われた」こんな一文をある記事で読んだ。

<プリクラ第一世代をターゲットに開発 スペックよりプリントの楽しさを訴える タカラトミー「プリンター一体型のデジタルカメラ」>
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090109/124074/?P=1

<撮ったらその場でプリントして写真を友達と交換し合い、コミュニケーションをとって遊ぶ>という、プリンタ内蔵のデジタルカメラ、「xiao(シャオ) TIP-521」の開発物語だ。「シャオ」の原点は女子校生を中心に国内で350万台を売り上げたという1998年発売・、ポラロイド社と共同開発した世界最小のポラロイドカメラ「xiao(シャオ)」である。
女子高生ならぬ筆者も実は1台持っていた。その場でプリクラ大のインスタント写真が撮影でき、透明シールを上から貼ると、プリクラのような仕上がりにもなったものだった。飲み会、旅行などではなかなか盛り上がるツールだった。

記事によれば「xiao(シャオ) TIP-521」の開発者は友人同士の旅行のシチュエーションをイメージしたという。<(友人同士で)「あとで写真を送るね」というんですが、実際は意外と送らない。プリントした写真を手紙で送るのは面倒だから。だったら、その場で出力してあげればいい>
確かにその通りだ。しかし、昨今、写真を「出力する」という機会は滅多にない。

さてここから、話題は「シャオ」から離れていく。
おいおい、いつものの「マーケティング的”話題の商品分析”」じゃないのか?と、思われた方、申し訳ない。

昨今の写真は撮影機材がデジタルカメラに置き換わったことによって、撮影数(ショット数)が爆発的に増えているのだが、プリント数が激減している。街の写真屋に出さないだけではない。家のプリンタで出力することもしない。パソコンの画面で見る。もしくは、デジタスカメラに使うメディアが大容量化していることから、そこに延々とため込んでいる。カメラの液晶画面も大型化しているので、溜め込んだ画像をそれで見るというような、カメラとアルバムが一体化しているような使い方をしている人もいるようだ。

「液晶画面で見る」ということに関しては悪いことではないだろう。デジタル化されて、バックライト付きの液晶で見るということは、「透過光」で画像を見ているということだ。
プリントしたものを見るということは、印画紙に焼き付けられた画像を光の反射で見ているということ。液晶のきれいさと、プリントのきれいさにもよるが、本来は透過光の方がきれいに見えるのだ。

しかし、問題は大容量化したストレージに収まっているデータの方だ。最近では切手の半分の大きさにも満たないマイクロSDカードですら、「テラバイト」という恐ろしい単位の容量にならんとしていると聞く。

「大容量のストレージの中でさまようデータ」。そんなキーワードは数年前から企業の情報システムの世界で課題になっている。企業内のほとんどの文書がデジタル化された。
マイクロソフトのオフィス系ソフトで作られた文書は、誰もが使えることから安易な複製や改編が行われ、爆発的に増加してく。「いらないデータは消しましょう」と情報システム部が声をからしても、ほとんど効果はない。ストレージが安価になったので、渋々、増設をする。さらにデータは増える。高度に発達しつつある検索技術によって、藁山の中から針を探すような取り組みもなされているが、それだけでは解決は困難だろう。

企業システムにおいてさえ、その状況だ。個人のパソコンの中や、何枚かのメディアに保存されているデータの中から、目的の一枚を探すことの何と難しいことか。
いや、できる人にはできるのだ。
パソコンに画像を整理するためのソフトを組み込み、きちんと管理している人も多い。
それは、企業内の情報システムも実は同じ。あるべきデータを、あるべきように、きちんと整理して保管すれば混乱は起こらない。検索技術に頼る必要もない。もしくは高度な技術を用いなくても、簡単に探すことができるはずなのだ。
だが、「ちゃんとできるユーザー」に対して、「できないユーザー」の方が多いのが現実だ。
ここに、意外な企業システムと、個人のデジカメデータの共通点が見える。

企業システムの課題を解決するソリューションの登場には、もう少しだけ時間がかかるかもしれない。
しかし、個人の写真管理は意外と簡単な解決策が既にあるように思えるのだ。

写真を撮る→「プリントする」というソリューションだ。
デジタルカメラで撮影した際、失敗写真は保存されずに消去されているだろう。もともと、筋がいい画像が残っているのだ。その中から、気に入ったモノを時々ピックアップしてプリントすれば、手元に保存していつでも見ることができる。
単純な1枚1枚の写真ではなく、アルバム形式に仕上げてくれるサービスが「フォトアルバム」などの名称で、フジカラーやカメラのキタムラなどで行われている。

しかし、何といっても気になるのは冒頭の「シャオ」の開発者の言葉、<「あとで写真を送るね」というんですが、実際は意外と送らない>という不義理な問題だ。今、この原稿を打っているパソコンのデスクトップにも、1つ送りそびれたデータファイルが張り付いていて、どうしたものかとずっと悩んでいる。
<だったら、その場で出力してあげればいい>という開発者の言葉は正鵠を得ている。
盛り上がるところに出かけるのであれば、はじめからカメラは「xiao(シャオ) TIP-521」にすればいいのではないだろうか。(話、戻ってきました)。
<デジカメがはやっていることによって、コミュニケーションによる思い出というのが薄くなっているんじゃないか>と開発者は考え、<写真を友達と交換し合い、コミュニケーションをとって遊ぶ>という「原点回帰」を目指さすという。

企業の情報システムにおける情報爆発の解決も、実際にはシステムだけでは解決しない。「あるべきデータをあるべき所に整理する」という人の手を加えなければ解決しない。
こちらも今後、ある部分は「原点回帰」が求められてくるのだ。

まずは、今年、「プリントする」という原点回帰をして、「写真の楽しさ」や「写真を介したコミュニケーション」などというものを復活させてはどうだろうか。

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2009.01.09

これがモスバーガーの生きる道!

「モス史上最高!国産肉100%のうまさ」を豪語する、モスバーガーの「とびきりハンバーグサンド」が、暮れも押し迫った昨年12月27日に発売された。確かに美味い。が、その味以上にモスフードサービスが自社の戦略ポジションを活かした「巧い」商品戦略であることが覗える。

「ハンバーガーと言えば、やっぱりモスだよねぇ」とかつては固く信じていた筆者であるが、正直ここ数年、足が遠のいていた。「できたて」にこだわり、ファストフードではなく、むしろスローフードを目指すポリシー。二等立地にも足を運ばせるファンづくり。そんな本来の魅力が見えなくなった感じがしていたからだ。
高級路線を狙った「緑モス」への転換において、ファンとしてはどうにも中途半端に思えるメニューのラインナップが続き、さらに高級バーガーとして投入された「匠味」も原材料高騰のあおりを受けてか、ネット上でも多くのファンが指摘しているように味の低下も顕著だった。加えて、低迷脱却の次の一手として、櫻田厚社長が決算会見の席上で「200円前後の低価格メニューの開発を進めている」と発表は、筆者に「モスは終わった・・・」と失望に追い打ちをかけた。

が、モスは終わっていなかった!「とびきりハンバーグサンド」。その戦略が実に見事なのだ。
バンズに挟まれているのはパティと刻みキャベツだけ。ソースは王道のトマトデミソース。かなり直球勝負の気合いが感じられる。「バンズからお肉がはみ出している」とのコピーに偽りはなく、こんがり焦げて香ばしい香りを放つパティがしっかりその存在を主張している。90グラムとなかなかのボリュームだ。
もっと重要なのが、「ハンバーグに使用しているお肉は100%国産です」と明記していること。昨今の食の不安を払拭してくれるのがなんともうれしい。
それでいて390円という、かつての「匠味」のような高価格を打ち出していないのも良心的。肉は国産の牛・豚合い挽き。豚肉独特の風味がかなり感じられるので、豚の配合率は高そうだが、筆者の好みには合っている。「合い挽き」の選択は価格にも大きく反映されていると思われる。

同社のWebサイトにはこう記されている。
<本当に美味しいハンバーグを、手軽に食べてもらいたい。そんな気持ちでモスがたどり着いたのは、ハンバーグに使用するお肉を100%国産にする、というシンプルな答えでした。美味しいものに恵まれた国、日本に生まれてよかった!と思えるようなハンバーグ>

マクドナルドが挑発的に「ニッポンのハンバーガーよ、もう遊びは終わりだ」と、いかにも「本場米国から黒船上陸」といった演出をしたのに対し、「日本人の好みにあったハンバーガーを提供する」というモスバーガーの創業の理念に立ち返ったポジショニング。
そして、「100%国産肉」という要素は、マクドナルドだけでなく、ほかの多くのハンバーガーに対しても大きな差別化要因として機能する。

モスバーガーの属する「ハンバーガーショップ業界」においては、モスバーガーはもはやフォロアーのポジションにあったといえよう。後発のフレッシュネスバーガーに、その「作りたてにこだわる」という点など、ユニークさを模倣され、業界における差別化ポイントを失ってしまっていたからだ。
業界の「リーダー」にも挑戦できる「チャレンジャー」と、ひたすら存続のみを目的として生き残りを図る「フォロアー」のポジションにおける決定的な違いは何かといえば、「差別化」ができるかどうかにかかっている。コーラ業界におけるリーダーであるコカ・コーラに対して、ペプシコーラがレモンフレーバーを効かせたり、変わり種コーラを上市したりするのもチャレンジャーとしての差別化策である。

差別化には2つの種類がある。一つはリーダー企業が同じような施策を被してくる、「同質化」を図ってくるのを覚悟で、先んじて行うことを価値として展開する施策だ。コーラの例でいえば、レモンフレーバーは同質化されることを覚悟で行った施策であったと解釈できるだろう。もう一つが、リーダーが決してできないことを行う差別化である。変わり種コーラ、昨年発売されたペプシの青いコーラ、「ブルーハワイ」など、コカ・コーラには決して手を出さないはずだ。コーラらしからぬコーラに手を出すことは、リーダーにはリスクが大きすぎる。

モスバーガーの打ち出した、「合い挽きの100%国産肉」は、リーダーであるマクドナルドは絶対に同質化戦略はかけてこないだろう。なぜなら、同社が掲げてきた「100%ビーフ」というポリシーに反してしまうからだ。マクドナルドにも細長いバンズにポークパティをはさんだ「マックリブ」や、100円マックの「マックポーク」が存在するが、あくまでメインストリームではない。まして、「合い挽き」をうまさの最上級と位置づけることはあり得ないだろう。
リーダーが訴求してきたことと別の方向性を打ち出して、手出しができないようにすることを「理論の自縛化」という。今までビールの「コクや旨み」を訴求してきたキリンビールが、アサヒスーパードライの「ビールはキレです」という新たな価値観を打ち出されても、それに追随して同質化できなかったのが過去の例としてあげられる。

調達力において、コストリーダーであるマクドナルドに圧倒的に劣後するモスバーガーは、価格的な追随などすべきではない。徹底した差別化戦略をとるのが正解だ。「200円前後の低価格メニュー」ではなく、極めて戦略的に計算された差別化のポジションを実現した、今回の「とびきりハンバーグサンド」の登場は、かつてのファンとして極めてうれしい。
また、モスバーガーに通ってしまいそうだ。ダイエット中なのに・・・。

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2009.01.07

発売直前「『カルピスソーダ』ジンジャーゼロカロリー」の戦略を分析する

カルピス株式会社のリリースによると、1月19日から<、“ジンジャー”の爽快な刺激が楽しめる乳性炭酸飲料「『カルピスソーダ』ジンジャーゼロカロリー」>を全国発売するという。この商品はいったいどのような戦略で上市されるのだろうか。

プレスリリース
http://www.calpis.co.jp/corporate/press/nr_00343.html

リリースによれば、ターゲットは<健康を意識する20~30代の大人世代>だという。
そして、ポジショニングの要は<「カルピス」と“ジンジャー”の新しいおいしさをゼロカロリーで楽しめる>という製品特性だろう。

カルピスは、「カルピスサワー」でアルコール飲料カテゴリーにも進出しているが、どちらかといえば、子供向けのイメージが強い。しかし、今回はあえて、「大人世代」をターゲットにしているという。
「大人向け乳性炭酸飲料」というカテゴリーで考えれば、昨年10月にサントリーから発売された、「ペプシホワイト」が思い出される。歴代の期間限定変わり種ペプシの中では大ヒットであった。

商品やブランドの戦略を考える時には、市場でのポジションに合わせた戦い方が肝要だ。「飲料」という市場で考えれば、飲料業界第2位のサントリーに対して、カルピスは明らかに「フォロアー」である。フォロアーにとっての戦い方の一つは「模倣戦略」だ。リーダー企業が作り上げた市場に同種の商品を上市し、密かにシェアを浸食する。
その見方をすれば、「ゼロカロリー」はコーラ系飲料の得意技だ。また、レモンなどのフレーバーを加えるのはペプシのお家芸でもある。そして、期間限定ゆえ、もはや市場には「ペプシホワイト」はない。リーダーから開拓したポジションをうまく禅譲されたという見方もできるだろう。

一方、「市場」の定義を変えれば別の見方もできる。「飲料」という大きなくくりではなく、「乳酸菌飲料」もしくは「乳性炭酸飲料」という市場定義だ。1919年にカルピスを発売し、日本で初めて市場を開拓。1973年にカルピスソーダ発売して乳性炭酸飲料ブームをおこした。「乳酸炭酸飲料」カテゴリーでは、日本コカコーラの「アンバサ」など、大手飲料メーカーの同質化戦略にも耐え抜いてブランドを保ってきたカルピスソーダは、紛れもなく「リーダー」である。
しかし、子供向けイメージの強い乳酸飲料市場において、少子高齢化の市場傾向は明らかにアゲインストの風である。2006年に味の素株式会社の傘下に入ったのも、少子高齢化で縮む市場に対応するためだといわれている。また、乳酸飲料だけでなく、ミネラルウォーター「エビアン」やワインの輸入などを手がけているのも、企業として製品ポートフォリオの安定化を図っているためだと解釈できるだろう。

しかし、主力商品のカルピスをテコ入れしなければ、状況は変わらない。
幸いにもカルピスソーダに関しては、同社の戦略が奏功している。リリースに市場概況が記されている。「ゼロカロリーブーム」を背景に<炭酸飲料市場は昨年に引き続き、今年も前年比106%>伸長だという。さらに、2008年3月の全面リニューアル効果でカルピスソーダは<1-11月の売上げが前年比166%(数量ベース)と市場の伸びを大幅に上回って好調に推移>しているという。
先の全面リニューアルは、<炭酸飲料の飲用率が高い10代男性をメインターゲット>として、<炭酸飲料に求められるすっきりとした切れ味はそのままに、コクとまろやかさを高め>たという。
http://www.calpis.co.jp/corporate/press/nr_00285.html

メインターゲットをしっかりと取り込み、さらに新たな市場開拓をするという、リーダー企業らしい戦略が見えてくる。そこで、次のターゲットとして選んだのが「20~30代の大人世代」なのだ。
子供の頃にカルピスソーダを飲んで育った世代をもう一度呼び戻す「オトナ戦略」。
「あ、大人になってる」で、25年後のサザエさん一家を人気タレントを用いて実写化したCMで大きな話題となった江崎グリコの「オトナグリコ」がが成功例だ。

少子高齢化という如何ともしがたい外部環境。さらに昨今の長期化する経済不況では様々な市場が縮小することは間違いない。しかし、そこで立ち止まっては緩やかな、もしくは急速な死を迎えるばかりだ。
ターゲットを変え、ポジショニングを変化させ、しぶとく生き抜こうとする「『カルピスソーダ』ジンジャーゼロカロリー」の戦略が見えてきた。
この商品の成功を祈りつつ、19日の発売初日にはターゲット世代よりも少々歳をくっているが、試してみようと思う筆者であった。

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2009.01.06

富士Q・ひらパー:ポジショニングマップで描けないその魅力

ポジショニングは、ターゲット顧客のアタマの中にいかに明確に自社の商品、もしくはブランドの魅力が明確に描き出せるか。競合と比べていかに優位に見えるようにするかという点が勝負のポイントだ。その魅力の明確化や競合優位性を表すために、マーケティングのフレームワークである「ポジショニングマップ」が用いられる。
しかし、当然ながらポジショニングとは、ポジショニングマップを描くことが目的ではない。

特に企画を練るときには、ポジショニングマップを用いるのは有用である。商品開発や広告宣伝物の制作などの際に、上司やクライアント、社内外へのスタッフ一同への説明と合意形成には大いに活躍する。
自社が打ち出したい魅力を二本の軸で表し、四つの象限で説明するポジショニングマップ。
例えば、自社の商品が「価格が安い」にもかかわらず、「多機能」である、というような魅力を打ち出したい場合、X軸を価格の高←→低、Y軸を機能の多←→少とするマップを作れば、「安くて多機能」という象限に位置することが非常にわかりやすくなる。

もちろん、このマップが顧客向けの商品パンフレットや広告で説明的に掲載されることはありえない。ありえないのだが、得てしてマーケティング企画を考えているときなど、つい、ポジショニングマップを描いて安心してしまうことがある。
ポジショニングマップに重要なこと。それは、そこで終わることなく、その意味するところがターゲット顧客にとって、「本当に魅力的なポジショニングを表す言葉まで昇華されていること」なのだ。

例えば、BMWのポジショニングを表す言葉は、「地上最強のドライビングマシン(日本語訳)」である。
これは世界共通のポジショニングを表す言葉で、それを元に日本では、広告にロゴマークと常にセットで表現されている、「駆け抜ける喜び」という名コピーとなっている。これほど一言で分かりやすいポジショニングはないだろう。
「移動手段としての車」とは一線を画す、明確な「(スポーツ)ドライビングを目的とした車(マシン)」なのであるというポジションの示し方。
そして、コピーではそのマシンを手に入れれば、単に「車で走る」だけではなく、走るという行為が「駆け抜ける喜び」をもたらしてくれるという約束を語っている。


さて、実はここまでが第一段階。
マップをつくる。フレームワークを完成させて安心するのではなく、真にターゲット顧客に魅力が伝わるコトバまで、コピーの手前まで落とし込め」というのが今回の筆者からのメッセージの第一だ。実践的なマーケティング現場では欠かせないのである。
しかし、コトバではないが、的確に伝わる雰囲気、もしくは言い方を変えれば「世界観」を伝えるというポジショニングの示し方もある。

以下の2つのCMをご覧いただきたい。

富士急ハイランド 「ええじゃないか桃太郎編」(CM動画をご覧ください)
http://www.fujiq.jp/cm/cm.html

ひらかたパーク 「キャラクター”ピピン”シリーズ」(CM動画をご覧ください)
http://www.hirakatapark.co.jp/tvcm/

東の富士急ハイランド(通称・富士Q)、西のひらかたパーク(通称・ひらパー)、どれだけディズニーリゾートがきらめこうが、どれだけユニバーサルスタジオが華やごうが、まったくどうでもよいと主張するかのような見事な世界観が伝わってくる。

ディズニーのポジショニングが、「夢と魔法の王国」であるということは、ほとんどの人々に伝わっているだろう。
ユニバーサルスタジオに行けば「ハリウッド映画の体験」ができることも広く知られている。
東西の両雄は、有形・無形の”テーマパークとしての世界観”の構築と実現には、とてつもない予算をかけている。しかし、富士Q、ひらパー、ふたつの遊園地は、まぎれもなく遊園地。テーマパークではない。
あえて、コトバにするなら、「とてつもないライドでの体験」を約束する富士Q、「キャラクターが導く、日常的な非日常」となるのではないだろうか。

全国各地にある遊園地。「テーマパーク」と称してはいるものの、実質的には「ただの遊園地」であるものも多く、経営的に苦戦しているところも多いと聞く。
どこでも、似たようなライドが設置され、同じようなイベントが繰り返されているのだろう。各々工夫はあるものの、富士Q、ひらパーも遊園地である以上、それらと類似点があるのは否めないだろう。
しかし、そのオリジナリティー溢れるポジショニングと、そこから発せられる、ターゲット顧客(来場者)に対し、期待させるものの明確さは見事だと言えるだろう。


長引く景気の低迷によって、モノもサービスも売れなくなっている。
その魅力を明確に伝えることができなければ、市場からの退場を余儀なくされるのは間違いない。そのためには、単なるフレームワークをいじくるだけでなく、明確なコトバに変え、さらに世界観まで伝えることが必要なのだ。
マーケティングの大家、フィリップ・コトラーは「セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング(STP)」という、マーケティング戦略策定の要諦となるステップの総仕上げとして、また、マーケティング戦略全体の流れの中で、「ポジショニング」は最重要事項であると明言している。
自社のポジショニングは明確か。魅力は伝わっているか。顧客をその世界観にまで巻き込むことができているのか。もう一度見直してみることをお勧めしたい。

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2009.01.01

今年を「変」にするために。

明けましておめでとうございます。

何とも、重く、暗い経済環境の中での年明けとなりました。

2008年を表す漢字は「変」でした。
ネガティブな意味での「変」も多々ありますが、ここはひとつ、
オバマ次期大統領に倣って「変革」について考えてみましょう。

私の一番好きな言葉は、
「今日はきのうの続きでも、あしたは今日の続きではない」
というものであります。
幕末の勤皇の志士・変革のリーダーである坂本龍馬の言葉だと聞きました。


では、今日と明日をつなげるものは何なのでしょうか。
「あしたは今日の続きではない」のであれば、その、非連続性を埋めるものが必要なはずです。


私がもうひとつ好きな話があります。
アフリカなのか、アマゾンなのかわかりませんが、
「その部族が雨乞いをすると、必ず雨が降る」というものです。
魔術や超科学に長けているわけではありません。
本当に自然の神と通じているわけでもありません。


理由はカンタンなのです。
「雨が降るまで、ひたすら雨乞いをするから」 なのです。

でも、実際にはそんなにカンタンなことではありません。
全身全霊を尽くし、祈り、踊り、謡い。
それを、ひたすら雨が降るまで、毎日毎日続けるのです。

「今日はきのうの続きでも、あしたは今日の続きではない」
これはそのとおりで、私の座右の銘です。
しかし、それを現実にするためには。
「今日とあした」の、「非連続性」を埋めるためには、
ひたすら、「祈り、踊り、謡う」という、
壮絶な「今日」がなければいけないのだと思います。


「祈り、踊り、謡う」を現代人はうまくできるのでしょうか。
できないのであれば、その代わりを行わなくてはないのではないでしょうか。
「踊る」代わりに、必死でおろおろと動き回り、足掻く。
そして、「謡う」代わりに、自らの哀れを嘆く。
いつしか足掻きに疲れ、嘆きに疲れ、「祈る」。
最後は「祈り」に通じる。
しかし、祈るだけではだめなのだとも思います。


これは、キリスト教の言葉だと思います。
「神は自らを助くる者を助ける」。


辛い昨日があっても、そこからただ、「逃げる」だけではなく、
何かを少しずつでも、「今日はあしたとは違う」という変革の気概を持ちましょう。
現実には、必死でおろおろと動き回り、足掻くいて、嘆いて、何かに祈るのだとしても。

その過程で何かが見えてくるはずです。
自らが何を護らねばならないのか。
自らは何を信じればいいのか。


昨年の経済危機に際して、政府要人や経済学者、アナリストなどからはは、
「回復には2年を要する」という論も聞こえました。
だとすれば、今年はちょうどトンネルの真ん中。真っ暗です。

しかし、出口のないトンネルはありません。
明けない夜もありません。

もう一度言います。
「今日はきのうの続きでも、あしたは今日の続きではない」。
「雨が降るまで、雨乞いをすれば、必ず、雨が降る」。

せっかくの新年ですが、楽観的なことは書けませんでした。
この厳しい年を、強く意思を持って生き抜いていきましょう。

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