クラブハリエ・行列のできるバウムクーヘンと製造会社のヒミツ
各地に店舗があるものの、どこも長蛇の列ができる大人気のバウムクーヘン、「クラブハリエ」。購入するまでに1時間近く待つことも珍しくないが、食した瞬間に「今までのバウムクーヘンのイメージが全く変わった」と多くの人が絶賛する。
その人気の秘密は何といっても、同社の職人が手間暇かけて焼き上げた味わいにあるのだが、果たしてそれだけだろうか。
知っている人は知っている豆知識。「クラブハリエ」( http://clubharie.jp/ )の母体は、滋賀に本拠地を置く和菓子の「たねや」。( http://taneya.jp/ )
和菓子店の洋菓子部門がクラブハリエであり、そのメインたる大人気商品がバウムクーヘンというわけ。
和菓子から洋菓子への進出。その成長戦略は、例えばアンゾフのマトリックスで考えれば、どう解釈できるのか。和菓子しか食べない!という頑なな人でなければ、顧客層は重なる部分も多いだろう。だとすると、既存の顧客に新しい商品を提供する「新商品開発」という成長戦略のパターンだ。
同様の和菓子から洋菓子への進出で人気商品を開発した例でいえば、「銀座あけぼの」の「銀座イチゴ」もあるが、たねやは「経営シナジー」を発揮している点もさらに注目できる。
事業会社内での人材や経営ノウハウを活かすことを「経営シナジー」という。
たねやはグループ内に「菓子職人訓練校」を抱えている。単なる企業内の研修制度ではない。
1998年に滋賀県知事より認定されている職業訓練認定校である。和菓子・洋菓子と製法は異なるものの、菓子作りという土台の上でここでもシナジーが発揮でき、さらに職人を創り出し、囲い込むこともできる。成長戦略のパターンとしてはかなり手堅いことがわかるのである。
企業風土も特筆すべきものがあるだろう。滋賀を拠点とするため、近江商人の「三方よし」の考え方が種谷の底流にはあるのだろう。クラブハリエで出される商品にならないバームクーヘンの両端は、養豚場の飼料としてリサイクルするなど、環境意識も高い。和菓子の原料を生産する農薬や化学肥料を使わない農園経営をし、地域には自然と触れ合う保育園の経営で貢献する。根強いコアなファンづくりに貢献していることは間違いない。
グループとしての魅力づくりだけで、あのバウムクーヘンの行列ができているわけではない。そのバックグラウンドを知らない人も多いのだから。では、バウムクーヘンの人気の秘密をもう少し掘り下げてみよう。
コトラーの製品特性分析3層モデルで考えれば、誰もが虜になるその「味」は、間違いなく中心としての価値「中核」だ。
さらに、夕方あたりにいいにおいを漂わせ、大げさにバウム クーヘン焼いて見せる。いわばおいしさの「見える化」である。そしてそこで活躍しているのは「菓子職人訓練校」の出身者なのだろう。クラブハリエのWEBサイトでは<バームクーヘンを焼き上げる技を身につけるには、熟練した菓子職人でも3年から5年の歳月が必要>と言い切る。その商品と職人の動きの「見える化」は、その味を作り上げるに欠かせない製品特性の第2層目である「実態」だ。
コトラーの定義によれば、製品価値の中核には影響を及ぼさないが、あればさらに魅力を訴求できる「付随機能」が第3層目の価値と定義できる。この場合、「パッケージ」がそうだ。クラブハリエのバウムクーヘンを購入すると、そのしっかりしたパッケージやリボンに驚かされ、「捨てられない」とするファンも多い。また、そのファン自身によるパッケージデザインコンテストなどの話題喚起も非常に効果的である。( http://www.taneya.jp/newyear/2009/ :今年度は終了)
このように、コトラーの3層分析で考えても、あたかもバウムクーヘンが幾重にも層をなしておいしさを形成するが如く、しっかりと価値構成がなされているのである。
最後に付け加えるならば、積極的な他店舗展開に加え、通信販売への注力が上げられるだろう。並ばなくても替える自家用に、ギフトにと、片手間ではなくたねやグループには「通販本部」が組織され、<15時までのご注文は、翌日中にお客様のお手元へ。美味しさをそのままにお届けいたします>という体制が整備されているのだ。さらに美味しいというクチコミ促進に貢献しているのは間違いない。
たまたま、何かのメディアに取り上げられ行列ができる店は数多い。しかし、一見客ばかりで結局は忘れられるケースは枚挙にいとまがない。
「マーケティング」とは「売れ続けるしくみ」である。行列のできるバウムクーヘン・クラブハリエと製造会社であるたねやにマーケティングの妙を見た。
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