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2008.12.10

「バリューライン」で考える、ユニクロとH&Mの戦い

昨今の大幅な景気後退局面にあって、なおも好業績を叩き出しているユニクロ。その力の源泉は何なのだろうか。また、銀座、原宿の店舗オープンから長蛇の列を形成したH&M(Hennes & Mauritz:ヘネス・アンド・マウリッツ)は、SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:製造から小売までの垂直統合型アパレル事業)という同じ業態をとていることから比較されることが多いが、両社の目指しているものは何なのだろうか。

ユニクロの好業績は各紙が伝えるところであり、株価もストップ高だという。
<ユニクロの驚異的な伸長を高評価>
http://zai.diamond.jp/servlets/Query?SRC=zai/news/top&newsid=7617

同紙の記事でも<衣料品業界ではユニクロの1人勝ち状態が鮮明>としているように、11月度締めの各衣料品販売会社が軒並みマイナスの業績を発表している中、32.2%成長は驚きである。
その要因を<家計消費が抑制傾向にあるなか、機能性を兼ね備えた「ヒートテックインナー」、「プレミアムダウンジャケット」といった低価格商品を相次いで投入する同社が1人勝ちの様相を呈している。きわめてシンプルな営業戦略>と分析しているが、しかし、そのようなシンプルな構造ではないように筆者は思うのだ。

そもそも、ユニクロが成長の軌道に乗ったのは1997年頃のこと。SPAという業態は、米国GAPが1986年に発表したものであるが、ゆにくろはその時期に一気にSPAに業態転換をした。そして、成長の原動力となったのは、「プロダクトフォーカス」と呼ばれる戦略だ。定番商品に絞り込み、大量ロットで生産。大量の広告展開によって需要を喚起し、全量を残さず販売する。結果として低価格で高品質な商品提供ができる。
当時も景気は低迷しており、衣料品は前年比30%減益という大きな地盤沈下をしていた。
ロードサイド店を中心として、業績を伸ばし、成長軌道に乗った同社は97年に東証二部上場を果たした。豊富なキャッシュを手に入れ、それまでのチラシ中心の広告宣伝からメディア戦略に転換。長野オリンピックではユニフォームを提供し、98年には原宿に出店するなど、一気に注目度を高めたのである。

前述の通り、同社の力の源泉は「プロダクトフォーカス」であるが、その効果がどのようなものであるのか、もう少し詳しく考えてみよう。
「バリューライン」という考え方がある。横軸に製品・サービスの「価格」、縦軸に「価値」の二軸を取る。すると、「安くてそれなりの価値のもの(安かろう、悪かろう)」「そこそこの価格で、ほぼ妥当な価値のもの(市場相場的価値)」「高くて価値の高いもの」という比例した関係が出来上がる。これがバリューラインだ。消費者は市場価値と自らに提供される価値の相関で、価格を判断している。このバリューライン上のどこを選択するかは、消費者自身の価値観による。
当然、バリューラインを下回る、例えば「中間的な価格で価値が低い」ようなものは、市場から撤退を余儀なくされる。しかし、バリューラインを上回るものは、消費者の支持が得られることになる。例えば「低価格なのに中間価格と同等の価値=グッドバリュー」「低価格なのに高価格のものと同等の価値=スーパーバリュー」という存在になる。
ユニクロの場合、その「価値」は「品質」ととらえていいだろう。同社の生産拠点の多くは中国であるが、その生産管理へのこだわりは凄まじい。製品は全て全品検査がなされる。抜き取り検査ではない。生産現場は手抜きは不可能だ。ある大手アパレルメーカーの幹部は「品質へのこだわりでいえば、もはや大手ブランドでもユニクロにはかなわない」ともらした。
そして、ユニクロの新たな「価値」が新素材へのこだわりだ。人気の「ヒートテック」のような、人の体温を利用した、薄く暖かいインナーウエアは他の大手スポーツブランドも上市している。しかし、価格が何倍も違う。同等の機能で、何分の一もの価格で提供する。それを可能にするのも一つの技術である。冬物だけではない。夏の定番「ドライカノコポロ」は汗の吸湿性とさらさら感にこだわった素材づくりをして、毎年改良が加えられている。ユニクロの強さは、バリューラインのまさに「品質と技術という価値の軸」で「グッドバリュー」もしくは「スーパーバリュー」のポジションを消費者から獲得しているからなのである。

では、同じSPAという業態で比較されるH&Mはどうなのだろうか。H&Mもバリューラインを超えることによって、消費者からの高い評価を得ているのは間違いない。しかし、その縦軸がユニクロと同じ「品質」ではないことは、店頭で商品を見たり購入したりした人なら誰でもわかるだろう。決して悪口を言うつもりはないが、その素材の品質、縫製の精度はかなり低いといわざるを得ない。質感としてはひとシーズン着られればいいかというレベルだ。仕上げの手間もほとんどかけておらず、通常の店舗であれば考えられないような、シワクチャな状態で商品が並んでいる。
では、なぜにあれほどの人気を誇るのかといえば、「デザイン性」「ファッション性」に他ならない。自社Webサイトでも<H&Mのコレクション製作には、約100のデザイナーがバイヤーとパタンナーと協力して取り組んでいます>と豪語する。また、「コム・デ・ギャルソン」のデザイナー川久保玲氏とのコラボレーションライン「エイチ・アンド・エム コム デ ギャルソン」などの話題の商品も手軽な価格で手に入る。「定番」で勝負するユニクロに対し、同じデザインの増産は決してしないのも特徴だ。

以上のことから考えると、「ユニクロ 対 H&M」という構造は成立しないことがわかる。バリュープロポジション(value proposition=競合に真似できない自社独自の顧客への提供価値)は、ユニクロの「品質」とH&Mの「ファッション性」を同質にとらえることはできない。つまり、各々のブランドを選んでいる顧客は、バリューラインの縦軸である「価値」を全く異なる要素として評価し、「グッドバリュー」もしくは「スーパーバリュー」のポジションにあるブランドとして選択しているのだ。
ユニクロとH&Mは戦っていないのである。

安価で気軽に着られる服を表わす「ファストファッション」という言葉が生まれて数年が経つ。景気の低迷はますます、消費者の低価格志向を促進するだろう。
しかし、ただ安いだけでは支持されない。あくまで「品質」を高めるか。「ファッション性」を目指すか。競合関係にあるか否かは別として、ポジショニングと提供価値の明確さが勝ち残りの必須要件になっていることは間違いない。

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