プールの底で息を止め合うミニノート市場
何でも値上げの世の中で、ミニノート、またはネットブックと呼ばれる小型ノートパソコンだけが強烈な値下げ合戦を演じている。なんとも厳しい消耗戦だが、これは「プールの底での息の止め合い」だと考えればわかりやすい。
ASUS Eee PC901を買ったのが数ヶ月前。5,9800円。プライベートで出かけるときに、いつものゼロハリバートンにLet'sノートを慎重にしまい込むのではなく、故障の少ないSDD仕様の気軽さでヒョイと持ち出せる気軽さが気に入った。ただ、プライベートでお出かけが少ない筆者にとって、今のところ使用1回あたり幾らかかっているのかと気になるところだ。
しかし、それ以上に気になるのがミニノートの値下げ競争である。多くの企業が参入、大混戦となり値下げ合戦となっているのだ。さらに大手HPが参入し、短期間で最大25%もの値下げを行ったため、混迷度は一層高まった。
<HPの大幅値下げが引き金 ミニノートPCの「消耗戦」>
http://diamond.jp/series/it_biz_dw/10018/
HPの狙いは明らかにシェア奪取である。
<9月時点の国内ミニノートPC市場のシェアは、エイサー53%、ASUS32%に対し、HPは6%弱にとどまっていた(BCN調査)>という状況ではとうてい生き残りは望めない。
「クープマンの目標値」で考えれば、HPは、「市場存在シェア(6.8%)」=生活者が人からヒントを出されて思い出せる(助成想起)レベルのシェアにも届いていない。
エイサーは過半を握っているため、「安定的シェア(41.7%)」=不測の事態がない限り、競合からの逆転や、新規参入によってトップが奪われることがない安定的なシェアを既に大きく超えている。
ASUSは「市場影響シェア(26.1%)」=2位以下であってもトップを狙えるポジションを十分確保している。
つまり、新参者を寄せ付けないトップのエイサー、それを虎視眈々と狙うASUS、やっとやっと存在を許されているHPという構図になっていたわけだ。これは、パソコン業界では王者として君臨するHPには我慢がならなかっただろう。
しかし、問題は我慢がなるかならないかというような、感情的な問題ではない。
そもそも、値下げせずともミニノートの値段は安い。安すぎる。
HPは<「ミニノートPCは戦略的な価格設定でシェアを獲りにいく。ノートPC全体で利益を出せればいい」>という、戦略的な赤字さえ覚悟しているのだ。
赤字を覚悟して、徹底してシェアを取りに行くプライシング戦略。典型的な「ペネトレーション・プライシング(市場浸透価格)」である。
ペネトレーションが成立するには重要な要件がある。シェアを取れる目処があることだ。赤字を垂れ流さない。どこかで黒字転換しようと思えば、スケールメリットである「規模の経済」を働かせ、さらに「経験効果」で生産効率を向上させるという戦い方が必須だからだ。
しかし、ASUSも黙ってはいない。
<ASUSTeK、2009年にはEee PCを200ドルで提供へ>
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20382990,00.htm?ref=rss
日本市場向けは仕様が異なるため、今までも実際には割高になって市場投入されたが、こちらも大胆なプライシングを2009年にしてくることが予想される。
ポーターの市場ポジションの3類型では、市場においてコストを武器に戦う「コストリーダー戦略」と、それに対する「差別化戦略」。より狭い市場に集中特化する「集中戦略」という分類がされている。もともとはミニノート市場はノートパソコンという市場の中で、ミニノートという狭い市場に特化した存在だった。しかし、その市場が大きくなり、逆にHPのような巨大な存在が参入してきたのだ。
現在、ミニノートメーカーは皆、「コストリーダー」のポジションを狙っている。しかし、現実的にそのポジションにはただの一社しか存在できない。自動車では、トヨタ自動車。ファストフードでは、マクドナルド。他社はもはやどこも追随できない。
ただ一社のポジションをめぐって、多くの企業が赤字覚悟でコストを武器に戦う。それは、例えるならば「プールの底で息を止め合う」ようなものだ。我慢ができなくなって、水面に逃げれば負け。最後まで息を止めて残ったのがコストリーダーなのだ。
今後、この市場の覇者がどの企業になるのかはまだわからないが、いずれにしても非常に厳しい業界であることは間違いない。
ユーザーには当面恩恵がもたらされるわけではあるが。
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