「東芝ダイレクトPC 楽天市場店」の意味するものは?
東芝が自社サイトでの直販に続き、楽天市場にも出店をした。この意味するものは何だろうか。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0811/10/news074.html
<従来、自社サイト中心にPC直販を行っていたが、楽天を通じて直販モデルの認知・販売を拡大する>とのことだ。
実際に楽天のサイトを見てみる。
http://www.rakuten.co.jp/toshiba/
当面は、ネット限定モデルからスタートのようだ。
マーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)のうち、place、つまり流通戦略(Place)は最も厄介で慎重を期するPである。それはなぜか。製品(Product)を作る。価格(Price)を設定する。これは、全部自社だけでコントロールできる。広告などのコミュニケーション戦略(Promotion)はメディアや広告代理店が絡むが、あくまで受発注の関係。あえて良くない言葉でいえば「下請け」である。
ところが、流通戦略はチャネルという全くの「他人」が対等の立場で絡んでくる。対等という表現には違和感があるかもしれない。しかし、メーカーはチャネルがなければ商品が売れない。しかし、チャネルもメーカーの商品がなければ売るものがない。言い換えれば相互依存の関係といえる。
相互依存の関係を良好に保つために、最も留意すべきは「チャネル・コンフリクト(衝突)」を回避することだ。チャネル戦略を変更すると、既存のチャネルとの軋轢が発生する。有名なのは旧松下の「ナショナルの店」だろう。松下幸之助が自らも一店一店足で回り、自社商品を扱ってくれるように口説いた店は最盛期全国で5万店に登った。店舗数ナンバー1のセブンイレブンですら全国12,000店強なので、いかにその数が多いか分かる。
しかし、松下の「力の源泉」であったナショナルの店が足かせとなった。家電量販店の登場である。圧倒的なバイイングパワーによる安値、品揃えが消費者の心をとらえ、購買行動が変化した。その変化に対応すべく、松下も量販店に注力したかったのだが、それをすれば、同一エリアに展開するナショナルの店をつぶすことになる。量販店に積極展開できない松下を尻目に成長したのが、シャープと三洋電機だ。なぜなら、両社はチェーンストアを持っていないため、しがらみがなかったからだ。その後、松下はナショナルの店をメンテナンスや工事までできる「プロショップ」化するなど、チャネル改革に懸命になったが、長い時間を要した。斯様に、流通戦略におけるチャネルコンフリクト回避には多大な配慮が必要なのである。
では、量販店の天下はいつまで続くのか。
家電量販店トップのヤマダ電機は売上高1兆1千億円を超えている。主要10社の売上規模は日本のGDPの10%以上を超える約56兆円にも上る。全国の主要駅前一等地にも次々と家電量販店の大型店が出店している。
しかし、その勢いにもかげりが見えてきた。
<家電量販大手4社、消費不振で最終損益悪化 4―6月>
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080808AT1D0808J08082008.html
9月のサブプライムショック以降、一段と店頭から客足が遠のいているともいう。
チャネルコンフリクトは回避したい。しかし、チャネルと心中はしたくない。これはメーカーの永遠のテーマでもある。あるアパレルメーカーは、百貨店への配慮から、ショッピングモールなどへの直販店展開に躊躇し、如実に購入客数の低下を招いている。低迷する百貨店と緩やかな心中という方向が見えてくる。
東芝は特に低価格ノート市場へ積極参入している。「NB100」である。しかし、その市場は明らかに低価格でとにかく市場のシェアを取り合うペネトレーション・プライシングの戦いに突入している。大手デルの参入。さらに値下げ戦略に対抗するため、「NB100」も発売早々2万円近く値下げを余儀なくされた。ペネトレーションの要諦はとにかく数を売ること。売って売って、規模の経済や経験効果を発揮して、生産原価を下げ利益創出するしかないのだ。
メーカーがネット直販を行う場合、チャネルコンフリクトを回避するために、「ネット専用モデル」から展開する。そして、順次、チャネルに対する配慮をしながら取扱商品を拡大していくのが普通である。
しかし、最終的に自社直販サイトが充実しても集客数には限界がある。そこで、大手ECサイトへの進出という選択肢が持ち上がってくる。自社直販サイトでの展開と、大手ECサイトへの進出では意味合いが大きく異なる。量販店の立場からすれば、明らかに競合となる存在だからだ。
チャネルコンフリクトの懸念を抱えてまで楽天に出店した東芝。まだ、ネット限定モデルでの展開だが、早晩ラインナップの充実も図るだろう。楽天への出店。それは、東芝が家電量販店の失速を見て、やがて凋落した場合に備えた「保険」なのではないかとも考えられるのである。
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