「ミスド値下げ」に感じる不安
原料高に苦しむ食品業界や外食産業では値上げラッシュが続いている。そんな中、ミスタードーナツは11月1日から商品の値下げを行うと発表した。いわゆる「逆張り」の戦略とも思えるのだが、実際には大きな不安が感じ取れる内容であった。
同社のニュースリリースによると、<“お手軽・お手頃、フレンドリー”をテーマに一部商品の規格・価格を改定>をするということだ。
http://www.duskin.co.jp/news/2008/1024_02.html
<平均単価を125円から119円に引き下げ>ということなので、平均した値下げ率は僅かではあるが、この環境下でよくぞ決断したと言えるだろう。しかし、この値下げ戦略にはウラがあったようだ。
Tech insightというニュースサイトがリリースにない情報をつかんでいた。
<手放しに喜べない… ミスド10商品価格引き下げへ>
http://japan.techinsight.jp/2008/10/suzuki081027014.html
<今回の発表では価格だけではなく規格も改定されることが明らかとなった。対象となる10商品はいずれもサイズが小さくなる><「スティックパイ アップル」は、現行の約70グラムから約45グラムへとサイズも大幅ダウン><グラムあたりの単価は改定前の約2.7円/gから改定後は約3.27円/gとなり、実質の値上げとなっている>
パイの大きさが70グラムから45グラムに減ると、見た目にもいかにも小さくなったと感じることになるだろう。スティックパイ アップルは189円から147円へと改定されるので、22%値段が下がって35%量が減ることになる。計算しなくとも見た目で「割が合わない」と消費者は感じるのではないだろうか。
「割が合う・合わない」という判断基準には「カスタマーバリュー」いう考え方が当てはまる。カスタマーバリューとは、その製品に対し顧客がいくら払ってもいいと感じる値段であり、価格がその基準を超えてしまうと全く売れなくなるものだ。
例えば、今年6月に行われたカップヌードルの値上げの影響がそれを如実に物語っている。メーカー希望価格155円から170円に15円値上げをしたが、店頭実勢価格が88円から118円と30円の値上げとなった。その結果、値上げ前月比で-52%の打ち上げという結果となったのだ。おそらく、消費者のカップ麺に対するカスタマーバリューは100円以下だったのだろう。
外食産業の例では、2006年9月のリンガーハットの価格改定が思い出される。同社の商品であるレギュラーのチャンポンは価格改定前399円だったのが、値上げ後は450円となった。結果、顧客の激減を招いてしまった。カスタマーバリューは400円のラインにあったのではないかと思われる。
その意味からすると、ミスタードーナツは189円のパイを値上げで解消しようとすれば、200円を超えてしまうかもしれない。それは明らかにカスタマーバリューを超えることになるだろう。
Tech insightは<価格とサイズを同時に下げるというのは業界でも珍しい試み>と分析しているが、これは食品業界ではよく行われる「量目調整」という手法だ。
例えば、今年の6月に日経新聞が行った調査では、袋入りウィンナーの「シャウエッセン」が量目調整を行って、店頭価格277円から271円と、見かけ上6円の値下げをして売り上げを9%上昇させることに成功している。しかし、ドーナツやパイは袋入りウィンナーのように一見、減量が分かりにくい商品とは明らかに異なる。
昨今の原料高はもはや企業努力だけでは吸収しきれない段階になっているのは確かだ。かといって、カスタマーバリューを超える値上げはできない。ミスタードーナツの外食産業では珍しいとされる量目調整は苦渋の選択であったことはわかる。
しかし、その厳しい選択の結果であるという価格改定の理由が消費者に理解されるか否かという、最後の部分に大きな不安が感じられるのだ。
ミスタードーナツのニュースリリースによると、今回の価格改定を以下のように説明している。
<お客様がよりお買い求めやすい価格で商品を提供するため>とし、<お客様に“お手軽・お手頃”にご利用いただけるよう低価格の商品発売にも力を入れ、バラエティーに富んだ商品を取り揃えた“フレンドリー”なドーナツショップを目指します>と結んでいる。
いかにも小さくなった商品を見たとき、消費者はフレンドリーさを感じられるだろうか。
価格改定の理由は「お求めやすい価格での提供」や「フレンドリー」などというきれいな言葉ではなく、「やむなき実質値上げ」という真情を吐露し、消費者に理解を求めた方がよかったのではないかと思う次第だ。
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