「5つの力」で読み解く100円ショップ業界の未来
原材料高に苦しむ100円ショップ業界。100円ぽっきりワンコインという価格の魅力が打ち出しづらくなっているのだ。環境分析の定番フレームワークで今後を読み解いてみたい。
日経新聞10月18日朝刊10面「価格攻防 変わる潮目」という連載の第2回は「揺れる100円ショップ メーカー・消費者の板挟み」と題されていた。
<原油や金属の価格は一時より下がったが数年前よりまだ高い>ことからメーカーからの値上げ要請がひっきりなしだという。一方、<消費者は生活防衛に走る>ことから、本当に必要な物しか買わなくなった。さらに<スーパーも百円売り場を拡大し、包囲網が狭まる>という状況にもある。その中で、100円ショップ業界のプレイヤーは生き残りをかけて戦っているのである。
さて、上記を見てみれば、メーカーは「売り手」、消費者は「買い手」。そして、100円ショップではなく、スーパーに置いてある100円商品は「代替品」と考えられる。そして、業界は「100円ショップ業界」だ。分析に必要な要素はほぼ揃った。
「5つの力分析」とはマイケル・ポーターが著書『競争の戦略』で紹介した。自社の属する業界の5つの競争要因から、業界の構造分析をおこなう手法である。
5つの競争要因とは以下の通り。
・「業界内の競争」=同じ業界内の競合企業との力関係と競争の激しさ。
・「売り手交渉力」=商品を作る原材料を供給してくれる企業がどの程度供給価格に変化を付けてくるかという要素。
・「買い手の交渉力」=自社の商品を購入してくれる顧客がどの程度スイッチングの可能性を持っているかという要素。
・「新規参入業者の脅威」=現在競合関係にない企業が突如参入してくる可能性。
・「代替品の脅威」=自社が提供している商品より魅力的な商品が開発され代替されてしまうという可能性。
では、100円ショップ業界はどうだろうか。
「業界内の競争」はいわずもがなであるが、生き残りをかけた熾烈な競争を展開している状況だ。メーカーの値上げ圧力は強烈な「売り手の交渉力」として作用している。
一方の顧客の買い控えはスイッチして顧客を失うのではないが、結果として顧客喪失をしている状況なので、「買い手の交渉力」の影響も甚大だ。
新規参入に関しては、この環境で100円ショップに参入してくる企業はあまりなさそうなので、「新規参入業者の脅威」は考慮する必要はないだろう。
その代わりに100円ショップに参入するのではないが、スーパーが自社の売り場に100円商品を並べることで、消費者にとっては代替品となる。他の買い物のついでに利用できることから、「代替品の脅威」としては手強い存在だ。
以上のように、5つの力のうち4つまでが非常に強く働き、収益を圧迫してくる状況にあることがわかる。
この分析で影響を及ぼす力が強いところがわかったら、まず、その力を弱めて収益を確保することを考えなくてはならない。
業界第2位のキャンドゥは<百円を維持できるコスト競争力のある会社だけと取引をする>と決断したという。つまり、「売り手の交渉力」に対して手を打とうということだ。しかし、<メーカーの選定は取扱商品の減少にもなりかねない>という弱みも抱えることになる。さらに、キャンドゥには弱みがある。記事によれば、直営店の半数は既に100円越えの商品を扱っているとある。
そもそも100円ショップで消費者が物を買う理由、つまりKBF(Key Buying Factor=購買主要因)は「100円という価格で様々な物が変える」という、「価格と品揃え」はどちらも欠かすことのできない要素であるのだ。そのことから考えれば、単価を守り品揃えが減ることも、100円という価格を維持できないことも100円ショップ業界では許されないことなのだ。
5つの力分析によって、どうにも自社を取り巻く力を弱められないことがわかった場合、「業界定義を変える」という決断もある。業界トップのダイソーの動きは、そちらを指向しているようだ。<数年前から新規店を中心に店の看板に百円を付けなくなった>という。
つまり、実質的な100円ショップ業界からの撤退だ。100円ショップ業界ではなく、一般的な「家庭用品・雑貨販売業界」を戦いの場としたということになるのだ。
<「百円越えの商品が増えれば魅力が減るのでは」。消費者の目は厳しい>という記事では消費者の意見を掲載している。価格の特徴を失い、より広い業界で戦うことは本来的にはより厳しさが待っていることになる。しかし、100円ショップ業界にとどまることもジリ貧の未来を暗示している。あえて、その業界を飛び出す決断もあながち間違いだとは言えないだろう。
<業界3位のセリアは店内の内装にもこだわる>とある。店内改装がどのような効果をもたらすかはわからないが、今まで通りでは立ち行かないが故の決断だろう。
100円ショップ業界という業界自体の経済環境の変化という外的要因を前に命脈が尽きようとしているのは明らかだ。業界自体の最後に企業が巻き込まれないためには、企業自体が変わるほかないのだろう。
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