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2008.09.30

低価格ノート市場の活況と東芝・富士通参入の意味を考える

台湾のASUS(アスース)に続き、デルやヒューレット・パッカード(HP)などの米国大手も参戦し、パソコンにおけるすっかりホットなカテゴリーとなったミニノートPC。ついに富士通が来夏、さらにそれを上回る早さで東芝が10月下旬に国内販売を開始するという。
その両社の意図と効果はどこにあるのだろうか。そして、参入は成功するのだろうか。
低価格ノートの誕生の歴史から現在までを辿りながら考えていこう。


■低価格ノート誕生の背景

MITの教授にしてメディアラボ理事長であるニコラス・ネグロポンテ氏が、「途上国の子供たちのため、100ドルのノートPCを開発しよう」と提唱し、非営利プロジェクトによって作られた「One Laptop Per Child(OLPC)」というものがある。低価格で最低限のスペックなれど、教育用としては十分用をなす「OLPC XO」という機種が出来上がったが、残念ながら100ドルは実現できなかった。
結果としてその高邁な思想の結実であるOLPC XOを徒花としてしまった感のあるのが、ASUS Eee PC 4G-Xだ。元々がマザーボードの大手メーカーであるASUSである。量産化技術なら一歩上だ。100ドルの倍近いとはいえ、明らかにXOよりもコストパフォーマンスは優れている。そのおかげで、教育用として大量発注をかけた国もあるという。しかし、ネグロポンテ教授の構想のおかげで、その後いくつものメーカーが「100ドル台パソコン」の開発に参入したのも事実である。


■199ドルノート時代の姿

最低限のスペックで、できる限りの低価格化。コミュニケーションインフラを確保するという目的で開発された、このカテゴリーの初期の姿を見てみよう。
Eee PC 4G-Xは、OSはLinux、液晶はカーナビ用などに量産され低価格化している7インチという小型のものをを用い、記憶媒体も僅か4GBのSSDという極限まで贅肉を削ぎ落としている。想定される使い方は、基本はインターネットのメールとブラウジング。文章作成などのアプリケーションは無料のWebサービスを利用するという発想だからだ。


■移り変わるターゲット

しかし、やはりOSはLinuxよりWindows XPの方が使いやすいなどという声が出るようになり、その分価格が上昇したあたりから、少々、このカテゴリーの様相が変わってきた。
途上国向けにはASUSの4G-Xに合わせてマイクロソフトが極めて低価格でXPを提供したケースもあったようだが、一般に市販する場合にはそうはいかない。しっかりXP搭載分、価格が高くなる。日本市場向けに展開されたのは全てXP搭載モデルで、価格は49,800円であった。低価格ノートの5万円台という相場はこのようにして形成されていったわけである。
199ドルならぬ49,800円という価格上昇と相まって、途上国の教育用としてではなく、「PCのヘビーユーザーのためのサブマシン」というターゲットとポジショニングが変容した。日本では取扱店の店頭に並ぶと、瞬く間にマニア層を中心としたユーザーが飛びつき、完売した。
しかし、ターゲットはさらに拡大することになる。モバイル接続会社のイーモバイルが、データカードの契約とセットでEee PC 4G-Xを19,800円で提供するキャンペーンを大手量販店で開始した。そのことから、従来PCを所持していなかった層の1台目として購入が進んだのだ。


■スペックアップへの対応

サブマシンではなく、1台目マシンとしての使われ方は、スペック不足も顕在化しだした。ASUS社は独特のこだわりで、記憶装置をSSDにしているが、コストの関係で4GBしかない。XPにあらかた容量を取られ、自由になるのは僅か1GB程度。これではさすがに使い勝手が悪い。さらに、サブマシンとしてたまに使うならまだしも、メインで使うなら7インチ液晶は少々辛い。
全てはコストの問題から仕様が限定されていたコトが原因だが、一つには199ドルが制約条件ではなくなっていることが挙げられる。日本円で5万円台という相場は自由度が生まれる。さらに、マニア層のサブマシンでなく、エントリーユーザーのメインマシンというポジションが獲得できれば、裾野が広がり、多くの台数の生産が可能となる。いわゆる、規模の経済が働くのだ。そして、ASUSは大幅にスペックを向上させた901-Xを投入した。
しかし、多のメーカーも黙って見てはいない。冒頭に記した米国大手のデル、HPや、同じ台湾勢のエイサー社も参入してきた。スペックは各社とも8.9インチの液晶を備え、ASUS、デルがSSD、HPとエイサーがHDDと分かれているが、記憶容量も十分だ。その他スペックもヘビーユーザーが使い倒すという状況でない、日常使いなら十分なレベルに引き上げられている。ここに至って今年の夏までに、完全に低価格ノート市場に各機種が勢揃いした感がある。さらに、イーモバイルのキャンペーンは4G-Xを100円に値下げすると共に、上級機群を2万円以下で販売する内容に切り替え、展開。普及に弾みをつけている。


■参入を躊躇していた日本メーカー

低価格ノートが1機種、また1機種と上市される度に、パソコンやインターネット関連の記事に日本メーカーの担当者やアナリストの談話が掲載されていた。「低価格機は儲からない」と。相場価格が多少上昇し、規模の経済が効くレベルまで市場が成長したが、何とか生産してトントンにすることはできるかもしれないが、決して利益の出る市場ではない。厳しいばかりで、おいしくない市場であると。
確かに日本メーカーのパソコンはハイスペックで高価格である。考える限りのスペックと機能を詰め込んでいる。量販店に並んでいるノートパソコンを見てみると、最安値の機種群で13万円弱~15万円強。その上は20万円オーバーに突入する。低価格ノートが何台も買える価格だ。
高い価格で高品質を提供する。マーケティングの価格戦略でいえば、「プレミアム戦略」である。ちなみに、中価格で標準的な品質を提供するのが「中価値戦略」。低価格で低品質なのが「エコノミー戦略」である。この価格と品質が正比例している状態を「バリューライン」と呼び、この価格×品質のライン上にいる状態では、購入者にコストパフォーマンスによる魅力は訴求できない。低価格だが、価値は中程度なのが「グッドバリュー戦略」。さらに低価格で高品質を提供するのが「スーパーバリュー戦略」だ。現在、低価格ノートは「グッドバリュー戦略」のポジションにあると言っていい。


■「ガラパゴス化」との決別の第一歩か?

自社は担保すべき「品質」とは何かを明確にすることは非常に重要だ。日本メーカーは「あらゆるユーザーが満足できる、フルスペックの機能・性能」を目指していなかっただろうか。しかし、それを誰が求めていたのか。
携帯電話を見てみるといい。恐ろしく多くの機能が盛り込まれている。そのうち、いったいいくつを使っているのか。いや、使い方がわかっているのか。もっといえば、機能の存在を知っているのか。携帯キャリアとメーカー各社が一緒になって競い合い、あまりにそれが行き過ぎて日本市場独自仕様が進んでしまった。俗に言う「ガラパゴス化」だ。確かに日本人は小さな機械を操作するのが上手であり、また好きではあるものの、それを本当に求めていたのだろうか。決してそうではない。

そうして考えてみると、日本メーカーが低価格市場に参入するためには、もともとASUSが行い、さらに競争激化の後に各社も努力したであろう、「絞り込み」が必要となるのだ。
必要な機能・スペックを絞り込んでコストパフォーマンスよく実現する。さらに、そこにキラリと光る自社のこだわりを加える。そんな「何でもかんでも盛り込む」というような戦い方ができない中での差別化を行うのがこの市場だ。

厳しい市場でしのぎを削ることは、日本メーカーにとって大きな意味を持つことになるだろう。参入が噂されながら、まだ姿を見せないソニーも、もしかすると今、牙を磨いているのかもしれない。東芝、富士通の検討に期待しつつ、ソニーをはじめとした他の日本メーカーの参入も待ってみたい。

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