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2008.08.25

“現場に効く”マーケティングの基本理論・第10回

インタラクティブマーケティングの専門誌「月刊im press(アイ・エム・プレス)」9月号が発売されましたので、連載バックナンバーをアップします。
本誌では連載第11回が掲載されています。
次回で1年間の連載最終回。現在、鋭意執筆中。


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“現場に効く”マーケティングの基本理論


あまりに“基本”と思われ忘れられているようなマーケティング理論。しかし、日々の業務が行われる“現場”で今一度振り返ってみれば、思わぬ“再発見”があるのだ。


第10回「”チャネル戦略”は慎重に」


今回は3つ目のPであるPlace。通常「チャネル戦略」もしくは「流通戦略」と訳される。前回「4つのPのうち、一番”厄介なP”である」と予告した。その理由も徐々に明らかにしながら、チャネル戦略の要点を考えていこう。


■商品・サービスの価値を流通させるのがチャネル戦略

「マーケティングとは、売り手と買い手の”価値の交換活動”である」と連載第1回で述べた。その意味からすると、チャネル戦略は売り手と買い手の価値を結びつける重要な機能を担っているといえる。そうして、製品・サービスの提供者(メーカー)から買い手(生活者)まで流れる仕組みを最適化するのがチャネルである。
例えば、同じ「コンピュータのソフトウエア」という製品カテゴリーでも、ユーザーがマニュアルを読めば使えて、その機能をそのまま利用する「パッケージソフト」と、企業が自社の業務に使う、いわゆる「ソリューション」とは、当然ながら求められる要素が全く違う。
前者は手軽に、必要なときにいつでも手に入ることが重要なので、量販店の店頭や通信販売などのチャネルで販売されている。
後者の企業向けソリューションは、導入企業の課題を分析し、最適な導入パターンを提案し、ソフトをカスタマイズして納品することもしばしばある。つまり、ただ単に店頭に並べておけば売れるというものではない。故に、メーカーの直販部隊か、ソリューションベンダーが販売を行い、コンサルティングやプログラム変更などのカスタマイズまでを担う仕組みになっている。つまり、チャネル設計においては何を、どのように提供することが、顧客の価値を最大化することにつながるのかに注目することが重要なのだ。


■チャネルの担う大きな3つの流れ

チャネルの定義は、メーカーから生活者までモノ(製品とサービス)を届ける役割を担うものと解釈できる。しかし、それはモノの流れ、即ち「物流」というひとつの機能に過ぎない。もうひとつは、生活者からメーカーへの対価を元としたカネの流れがある。これを「商流」という。
昨今、それに加えてもう一つ重要視されているものがある。情報の流れであり、「情報流」と呼ばれている。本来的には、メーカーと消費者の間を行ったり来たりする流れなのだが、実際には、メーカーから生活者側への一方通行となりがちだ。製品・サービスの情報をメーカーが発信することは、次回に述べる4つ目のPであるコミュニケーション戦略(Promotion)と考えられるが、いわゆる「顧客の声」などの情報がなかなかメーカーまで届かないのが実情なのだ。


■多段階化するチャネルのパターンのデメリット

前述の「顧客の声が届かない」という理由も含めて、チャネル構築のパターンを見ていこう(図表)。
10
メーカーと生活者の間に介在するのがチャネルであるが、一番上のようなメーカーが直販を行うというパターンであれば、メーカーはダイレクトに関係構築ができるため、生活者の声を聞きやすいのは間違いない。以下、1段階、2段階、3段階とチャネルが複雑化していくに従って、生活者の声はメーカーには届きにくくなる。
問題はそれだけではない。例えば、直販であれば、価格はメーカーが自由に決められる。チャネルが介在すれば、流通マージンがかかったり、他社製品との兼ね合いで値決めをしたりと、さまざまな苦労をすることになる。つまり、「情報流」だけでなく、「商流」にも影響が出る。さらに、チャネルを通じて物を動かせば、その各段階ごとに在庫を抱えることになる。そのコストや、売れ残りのリスクなどはなかなか厄介な問題だ。つまり「物流」への影響も大きいのだ。


■チャネル構築はメリットとデメリットの見極めが重要

「それでは直販が一番良いのではないか」と考えがちだが、そこにもやはりデメリットが存在する。直販はメーカーがいちから顧客獲得をしていかなくてはならない。懸命の努力と時間を費やせば、それなりの顧客ベースを確保することもできるかもしれない。しかし、すべての生活者が直販を望むわけではないし、チャネルが元々確保している顧客に売ってくれた方が時間もかからず、多くの場合、より多く売ることができる。
つまり、直販から始まり、チャネルが多段階化していくことによって、情報流・商流・物流のすべてがメーカーの思うようにコントロールしにくくなっていくということがデメリットだ。その反面、チャネルが介在するほど、それが持っている顧客ベースやセールスパワーによって、より広い市場に商品を届けるという、カバレッジが向上するのである。
重要なのは、メリット、デメリットを考慮して、それを組み合わせてチャネルを構築することである。


■チャネルが厄介な理由

さて、そろそろ前回の予告から引っ張ってきた「4つのPのうち、一番“厄介なP”である」という理由に移ろう。前項の、チャネルが介在すると「コントロールがしにくくなる」ということがヒントだ。
なぜ、コントロールがしにくくなるのか。それは、メーカーの思惑と、チャネルの思惑は必ずしも一致しないからだ。むしろ相反する場合も少なくない。では、なぜそうなるのか。答えは「チャネルは他人だから」。
直販がやりやすいのは、メーカー自身がすべてを実行する、つまり、身内だけでコトが済むからだ。チャネルも営利企業の集まりなので、自らの利益を優先させる。そこに衝突が起こる。
4Pの他の要素をもう一度考えてみよう。「価格(Price)」は自社だけで決定できる。「商品(Product)」を作ったり、「コミュニケーション(Promotion)」を展開するのには、原材料の仕入れ先や広告代理店がかかわったりするが、多くの場合、メーカーが主体的に決定し、動かすことができる。そう考えると、「チャネル(Place)」はメーカーと対等以上の立場を持った他人なので、非常にデリケートな存在だと分かるだろう。


■簡単に関係解消できないのがチャネルの厄介なところ

最も厄介なのは、チャネルと関係構築ができたら、簡単に関係解消はできないということだ。直販なら、さっさと「撤退」ということもできる。しかし、チャネルとメーカーは相互依存の関係だ。うまくいっているときはいいが、チャネルの機能が悪くなったからといって簡単に切り捨てられないのだ。
一番有名な例が、松下グループの「ナショナルショップ」だ。松下幸之助が小売店を一軒一軒訪ね歩き、松下製品を扱ってくれるように依頼したことから始まったナショナルショップは、最盛期には全国約5万店を数えるまでに成長し、松下の力の源泉となった。
しかし、時代が変わり、量販店が力を持つようになっても、ナショナルショップとの競合に配慮して一気にシフトすることはできず、さらに各ショップに手厚い販促支援を行うという取り決めが大きな不採算を招くことになった。方針を転換し、各店に販売目標を立てさせたり、ある種の自然淘汰をさせるなどの、メーカー、チャネルともに痛みを伴う改革には長い時間とコスト、そして労力を要したのだ。
チャネル選びを慎重に行わなければならないのと同時に、必要な改革は素早くなされなければならないことが分かるだろう。

チャネルは厄介ではあるが、自社の利益を創出し、顧客に「価値」を届けるためにはなくてはならない装置なのだ。故に、最大限の知恵を絞らなくてはならないのである。


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