富士通が参戦・「電子ペーパー」を読みながら通勤する日がやってくるのか?
液晶分子に電圧をかけ液晶分子の向きを変え、外光の透過性を調節して画像を描く電子ペーパー。電力がなくても、次に電圧をかけるまで画像を半永久的にを維持することができるため、超低消費電力・薄い・軽い・明るいを実現した。
その電子ペーパーがこの秋、情報端末として商品化される。
日経新聞が7月13日に次のように報じた。
<電車で本や新聞、カラー表示の電子ペーパー 富士通がA4端末>
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080713AT1D1106Y12072008.html
<電子ペーパーを内蔵した情報端末を富士通が今秋発売する。大きさはA4サイズ、カラー画面で、電子書籍や新聞情報を通勤電車などで読むことができる>
筆者が電子ペーパーを初めて見たのは2005年の12月。JR東京駅構内で「自動的に画像の切り替わるポスター」として実証実験が行われていた時だった。
その時の電子ペーパーは日立製で、厚さ最大1センチ、A4サイズの大きさ、白黒表示。薄型電池と無線LANアンテナ内蔵で、外部から広告などのコンテンツ内容を受信し、自動的に書き換えていく様を実演していた。
http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2005/12/post_3d20.html
当時、いくつかのメディアでも取り上げられていたので、物見高い見物客が結構集まっていた。筆者もその一人だったのだが、その実物は「こんなものか・・・」という感が否めなかった。モノクロ表示で画像の鮮明さも低く、ポスターというにはあまりに小さい。確かに、じっと見ていて画像が切り替わった時には「おっ!」と思ったが、それまで。
画像の切り替えで、張り替え不要。紙もいらなければ、電力消費も極めて少ないと、エコ効果たっぷりな良さはアタマではわかるが、見た目がどうにも地味だった。
その電子ペーパーが随分と進化した。カラー表示は普通にできるようになっていたようだ。JRの自動改札周りに張ってあるSuicaのペンギンのシール広告の代替として、JR山手線・恵比寿駅でも実験が行われたようだ。この取り組みは富士通とJRによるものだ。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2008/02/20.html
さて、その富士通が<カラー対応の電子ペーパーを消費者向けに販売する>として、商品化したのが、上記の通りA4サイズカラーの「情報端末」というものだ。
筆者はデジタル系の端末に関しては、かなり新しいものにすぐ飛びつくクセがある。よく言えばイノベーターということになるのかもしれない。しかし、今回ばかりはどうにも食指が動かない。
<液晶パネルに比べ消費電力を大幅に減らせるため一度の充電で連続50時間の使用が可能><携帯電話やパソコンから無線通信やSDカードを使って情報を端末にダウンロードする仕組み。新聞1年分の情報を蓄積できる>ということなので、情報端末としてのスペックは十分かもしれない。だがしかし、この「カラー電子ペーパー情報端末」で「電子書籍や新聞情報を通勤電車などで読む」という行為をしている自分がイメージできないのだ。
通勤電車で新聞は幾重にも折り曲げて、周囲の人の迷惑にならないように遠慮がちに読む。雑誌は混雑時間は諦める。スペースを取らないので、優先席付近でなければ携帯電話で何かを見ていることが多い。そんな中で、<厚さは約1センチメートル>ながら、A4サイズは広げられないだろう。上記Webのリンク先には画像がないのだが、新聞紙面で紹介された端末はA4サイズそのままという風情で、いかにも大きい。
電子ペーパーは丸めたり、折り曲げたりできるのが大きな利点なので、せめて以下のような製品にできなかったのかと思ってしまう。
Philips傘下のPolymer Vision社が2008年2月にMobile World Congress 2008で発表した試作品だ。
<新聞を読めて音楽も聴ける“現代の巻物”――巻き取り式電子ペーパーケータイ「READiUS」>
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0802/15/news053.html
しかし、そもそも日本においては「読む」ことを目的とした端末はあまり普及する土壌がないように思われる。今年から来年にかけて、電子ブックで先鞭をつけた松下とソニーが撤退することが決まっている。
<電子書籍端末売れず──ソニーと松下が事実上撤退>
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0807/01/news122.html
米国においてはAmazonが昨年から販売した電子書籍端末”Kindle”が大人気だ。しかし、日本においては携帯電話でのコンテンツ閲覧が主流となっているため、電子ブックはなかなか普及の芽が出ない。前出の松下もソニーも、結局はコンテンツの配信・販売は携帯電話向けで存続することになっている。
電子ペーパーの超低消費電力(バッテリー長持ち)・薄い・軽い・明るいという特徴を「読む」という機能の端末に応用した場合、携帯電話に対して優位性を発揮できるのだろうか。
市場にイノベーションが受け入れられる要件をまとめた、E.M.ロジャースの「イノベーション普及要件」に照らし合わせて考えてみよう。
1.相対優位性…今まで使っていたものと比べ、いかに優れているかが分かりやすいこと。
2.両立性…当面は今まで使っていたものを捨てることなく、両立できること。
3.複雑性…理解できないほどの複雑性を持っていないこと。逆に当たり前に見えすぎない程度に複雑であること。そのバランス。
4.試行可能性…とりあえず、本格的な導入の前にプロトタイプやデモなどで効果を認識できること。自ら触ってみることができること。
5.観察可能性…目に見えない効果ではなく、明らかに効率が上がるもしくは質が向上するなどの効果が観察・実感できること。
「複雑性」に関してはさほど問題ないだろうが、「相対優位性」「両立性」は少々厳しい。そして、普及のためには「試行可能性」と「観察可能性」の確保が必須であることがわかる。
「相対優位性」においては、携帯電話でコンテンツを「読む」という機能だけを切り取って比較してみれば、確かに画面も大きく読みやすい。しかし、この度の富士通製のものは携行性に少々疑問が残る。
Polymer Vision社製のように、電子ペーパーの特性を活かした製品で、初めて携帯電話に携行性という面で劣後しない土俵に登れるといえるだろう。
「両立性」はといえば、読みやすく、携行性が確保できれば、何かを「しっかり読む」という使い方と、メールや簡単なコンテンツを「さっと見る」という使い方で棲み分けし、「両立」ということもできるかもしれない。
しかし、電子ブックの普及は如何せん、遅きに失してはいないだろうか。もはや、「携帯電話で読む」ということは一般化しており、ケータイ小説に代表されるように文字数や改行を携帯向けの読みやすさを確保するという進化を遂げたコンテンツも一般化している。本来的には端末に左右されることなく、しっかりと本来のコンテンツの情報量を取得するべきかもしれないが、もはや「携帯で読む」がスタンダードとなっている以上、携帯電話だけで用に足りてしまい「両立」させる意味合いが乏しくなっているのが現状だ。
「試行可能性」はAmazonの”Kindle”は399ドルなのに対し、富士通製は10万円前後だという。ちょっと気軽に試す価格とは言い難い。それでも果敢にチャレンジするイノベーターは登場するかもしれない。そうした彼らが、電車の中で取り出してみた時、恐らく周囲の人はのぞき込むなどの行為をして、その存在を認識するだろう。自ら試行するのではなく、人のものを見ることで代替することになる。そして、本当に良さが認識できれば、導入の検討がなされるかもしれない。そのためにも、イノベーターやそれに続く人々の購入障壁にならないような価格設定が望まれる。
「観察可能性」は前項の「試行可能性」の、のぞき見も同義になるが、電子ペーパーという意味からは電子ブックの形態になる前に、もっと人々の目に触れている必要があるだろう。例えば電子ペーパーで作られたポスターや様々なサインが街のあちこちにある。それが非常に鮮明かつ精緻な画像や文字が実感でき、自らがそれを日常的に読むということに魅力を感じられることが前提ではないだろうか。その意味からすると、電子ペーパー自体の認識がまだ高まっていない段階で、携帯電話に対抗せざるを得ないポジションとして、電子ブックの形態の商品として市場に出て行くのはかなり厳しそうだ。
以上のように、普通に考えれば、かなり苦戦しそうな製品であるが、何とか展開していくには前述の「試行可能性」と「観察可能性」に注力することだろう。
筆者はデジタルもの、特に携帯端末に関してはかなりのマニアと自認している。そんな筆者が飛びつくような展開を用意して、発売の秋を迎えてほしいと思う。
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