“現場に効く”マーケティングの基本理論・第7回
※5月28日・加筆修正。図表が抜けておりましたので、掲出します。
インタラクティブマーケティングの専門誌「月刊im press(アイ・エム・プレス)」5月号が発売されましたので、連載バックナンバーをアップします。
本誌では連載第7回が掲載されています。
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「“現場に効く”マーケティングの基本理論」
あまりに“基本”と思われ忘れられているようなマーケティング理論。しかし、日々の業務が行われる“現場”で今一度振り返ってみれば、思わぬ“再発見”があるのだ。
第7回「”ポジショニング”こそが最大の山場!」
前回は戦略市場とターゲットの選定として、「セグメンテーション」「ターゲティング」を考えたが、具体的な戦略立案の最大の山場はこの「ポジショニング」にある。「ポジショニングがしっかりしていなければ売れない」といっても過言ではない。
■KBFとポジショニング
ポジショニングとは「ターゲット顧客からみて自社が魅力的に見えるようにすること」と「競合と比べても優位に見える様に特徴づけること」である。具体的に考えるためにも、連載第3回に紹介した「KBF(Key Buying Factor)」という言葉を思い出して欲しい。KBFとは「顧客が購入に踏み切る理由」であり、顧客が認める「価値」である。マーケティングとは「価値の交換活動」だ。その「価値」が明確になっていなければ対価を得ることはできない。「価値」を顧客に伝えるのがこのポジショニングなのである。
■自社の魅力を伝える
自社の独自性を一言で明確に伝えられているポジショニングの例を挙げるならば、高級乗用車がわかりやすい。「コトラーのマーティング・コンセプト」(フィリップ・コトラー著・恩藏直人監修・東洋経済社刊)の「ポジショニング」の項で欧州の自動車メーカーのポジショニングが解説されている。ボルボが「最も安全な車」。BMWが「究極のドライビング・マシン」。どちらも顧客にとっての提供価値が明確であり、それがポジショニングとなっている。一方、コトラーはGM(ゼネラル・モーターズ)不調の原因の一端を「ポジショニングの不明確さ」にあると指摘している。フルラインナップメーカーにありがちな、どんな車もあるが、全体としてどこがいいのかが伝わらないとの主旨だ。
そう考えると、ある時からトヨタが「エコ」を強力に押し出してきたのも合点がいく。同じフルラインナップメーカーでありながら、「環境負荷の低い車を作る」という、今日的でわかりやすく、かつ、あらゆる生活者にとって重要なポジショニングを取ったわけだ。このように、「自社ならでは」のポジショニングが示せるか否かは企業にとって大きな問題となるのである。
■ポジショニングマップを使って整理する
前述のような「一言で明確に示せるポジショニング」は、誰も真似できない自社独自の魅力が示せる場合の例だといえる。提供価値とマッチした価値観を持つ顧客を、誰とも争うことなく獲得できる戦略だ。しかし、それを実現するのはなかなか難しい。実際には競合との比較優位の中で自社の魅力を伝えていく場合の方が多くなる。比較優位を示すためには、何らかの「評価軸」が必要となる。それを示すものがポジショニングマップである。
二軸で区切られた四象限のどこにポジションを取るかで、ターゲット顧客の頭の中に明確なイメージを抱かせるのがポジショニングマップであり、伝わりやすさが勝負である。
■ポジショニングマップの「軸出し術」
上記の「わかりやすさ」のキモとなるのは何といっても「軸の設定」だ。マーケターはたった二つの軸で、顧客にとって自社の魅力がいかに競合より明確になるかと腐心する。
その手順は以下の通りだ。
1)顧客にとってのKBFを洗い出す。
軸とは、即ちKBFである。価格、品質、大きさ、商品バリエーション、CSランキングなどなど・・・。その商品・サービスのKBFとなる要素を余すところなく洗い出す。
2)KBFの重要度を見極める
上記のKBFのから、ターゲットとなる顧客セグメントにおける重要度を把握する。感覚的に配点を付けてしまうことも実際には多いが、できればアンケートなどを実施して裏付けを持った方がいいだろう。
3)二軸として成立するかをチェックする
KBFとなる軸を二つ設定したら、それがきちんと二軸となるか見直してみる。例えば、「価格×品質」のような関係になっている場合は要注意だ。一般に「価格の上昇に伴い、品質も向上する」という、いわゆる「バリューライン」の関係が表れ、価格の高低と、品質の高低で斜め一列に配列されることになる。これでは、自社がよほど「コストパフォーマンスに優れている(低価格で高品質)」という突出した特徴を持っていなければ「当たり前」な結果となり、優位性は示せない。
もう一つは、二軸の各々が似た意味過ぎて直交しない場合だ。「取扱店が多い×いつでも手に入る」は、一見「どこでも・いつでも」を表わしているようだが、「取扱店が多い」の一つの軸でほぼカバーできる内容となってしまっている。ターゲット顧客にとって「なるほど!」と魅力を感じさせられなければ意味がない。
4)きちんと競合優位性が示せているか
芸人にとっての致命傷は「キャラがかぶる」ことだ。同じような芸人がいては面白くも何ともない。つまり、ポジショニングがかぶっているということ。自社の魅力が示せるマップが描けても、競合もマップに落としてみたら、同じようなポジションに並んでしまった・・・としたらやり直しだ。もう一度1のKBFに戻って、軸を設定し直すということになる。
5)顧客にとって魅力あるポジションが言い表せているかチェックする
例えば一度「価格が安く・便利な多機能」というマップを書いた。しかし、競合とあまり差が出なかったとする。(図1)もう一枚「加えて、軽量コンパクト・操作性に対する評判が高い」でようやく独自性が出たとしよう。その場合、自社の競合優位な魅力は「低価格だが機能満載。さらに軽量コンパクトで操作がしやすい」となる。総じて「初心者にやさしい」などというように表せるだろう。(図2)これならターゲット顧客に伝わる。このように具体的になっていることがポイントなのだ。
■キモとなる「軸出し」は何度でもやり直せ!
前項の3や4で気づいたことと思うが、ポジショニングマップを書くときの一番の注意点は、「一発でかけると思うな」なのである。ポジショニングマップを書く作業は、ああでもないこうでもないと盛り上がるが、やがて本当にしっくりくるマップが書けずに、げんなりしてくる。しかしそれは健全なことで、「まぁ、こんなもんか」」と書かれたマップは魅力も納得感もないものになる。めげずに何度でもやり直し、何枚でも何枚でも書く根気が求められるのである。
ここで心がけてもらいたいのが「顧客視点」である。売り手の気持ちだけで書いたマップなど魅力は何度書いていても出てこないだろう。重要なのは、顧客の立場に立って魅力を表わしていくことなのだ。
いよいよ次回からは具体的な施策立案入る。おなじみ、「マーケティングの4P」だ。ご期待いただきたい。
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