“現場に効く”マーケティングの基本理論・第2回
インタラクティブマーケティングの専門誌「月刊im press(アイ・エム・プレス)」の発売日ですので、連載バックナンバーをアップします。
本誌では連載第3回が掲載されています。
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「“現場に効く”マーケティングの基本理論」
あまりに“基本”と思われ忘れられているようなマーケティング理論。しかし、日々の業務が行われる“現場”で今一度振り返ってみれば、思わぬ“再発見”があるのだ。
第2回「マーケティングって“4Pですよね”?」
前回は改めて「マーケティングとは?」を整理したが、「普段考えていたよりも奥深い概念なんだ」と気付かれた読者もいるのではないだろうか。また、ビジネススクールなどでは「自分の日常業務とは関わりない」と思っていた受講生が、後から「何だ、自分の業務もマーケティングの一部を担っていたんだ」と気付くケースもある。奥深いだけでなく、実は幅広いのもマーケティングの実際なのだ。
■マーケティングって4Pですよね?
今回の標題だが、ある意味正解。が、実際には不正解だ。4Pに関しては連載の後半で詳説するが、製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・コミュニケーション(Promotion)の4つの要素を戦略的にどう組み合わせて施策を展開するかという考え方で、マーケティングの要諦であることは確かだ。筆者の前職は広告のビジネスに携わっていたが、そのコミュニケーションやプロモーションという一部をもってマーケティングと捉える人もいるが、それは明らかに範囲を狭く考えすぎだ。いくら広告やプロモーションが秀逸でも、製品が優れていなければ始まらない。価格戦略を間違えれば売れないか、利益が出ない。チャネル政策を間違えれば買いたい人も手に入れられない。そう考えれば、“4つのP”を正しく組み立てるのは極めて重要だ。しかし、それらは全て“打ち手”だ。打ち手を考えるより先に、自分たちの戦場を把握することが欠かせない。まずは、自社を取り巻く環境がどうなっているのかという分析から入るのが定石である。
■マーケティング全体の流れを把握しよう!
前述のように、個別の“打ち手”だけを検討し展開した場合、「思った通り売れない!」というような事態に直面したら、何が悪かったのか原因究明ができるだろうか。また、リカバリー策を考えることができるだろうか。マーケティングの全体像を理解し、正しい検討手順を身につけることは成功確率を高め、万が一失敗した場合でもすばやくリカバリーすることが可能となるのだ。故に、多少面倒でも分析や戦略の立案、ターゲットの明確化などを確実に行ってから施策の立案に入る必要があるのだ。(図1・マーケティング・マネジメント参照)
■マクロ環境分析(PEST分析)
マーケティングの分析というと、すぐに「SWOTでしょう?」と言われるのだが、それを使うのはもう少し先。まずは「社会」という最も大きな枠組みから明らかにしていきたい。つまり「マクロ環境」だ。
「マクロ」という言葉は遣われていても、実際に「社会全体の事象がどのように自社に影響を与えているのか」といった茫漠としたことを捉えるのは難しい。そんな時はマーケティングで用いられる各種のフレームワークを活用する。フレームワークとは「考えるための道具」であり、少々面倒だが、それに従って丁寧に考えていくことで、思考のモレ・ヌケをなくすことができる。また、慣れてくればダブリや余計な回り道もなくなりスピードもアップする。そして、マクロ環境を把握するフレームワークが「PEST分析」だ。
さて、PEST分析は頭文字となっている5つの要素を客観的に分析する手法である。
・Political:政治的規制事項の影響要因はどうなっているのか?
・Economical:経済環境はどのような影響を及ぼしているのか?
・Social:社会環境はどのような影響を及ぼしているのか?
・ Technical:影響要因となるような技術的変化・革新等の要素はあるか?
ポイントは、自社、及び自社のこれからの展開に各々の項目がどのように影響を与えるかを捉えると同時に、各項目がどのように影響し合うのかを観ていくことである。
■PEST分析・分析事例
PEST分析をある業界を例にとって考えてみよう。東京地区でもいよいよ値上げが決まったタクシー業界であるが、そもそも、この値上げの根本原因はどこにあるのかをPESTで考えるとよくわかるのだ。
まずは、「Political」から。一連の規制緩和の波に乗り、道路運送法改正法案が2002年2月1日から施行された。これによって、新規参入や増車は今までの免許制、認可制から、車庫の確保など一定の条件さえ満たされれば自由にできるようになり、タクシーの供給過剰がおこった。
次に「Economical」であるが、上記の緩和策も、タクシー不足だったバブルであれば利用者からも歓迎されたであろうが、2002年当時はデフレ不況まっただ中。ITバブルも崩壊直後だった。企業はタクシーチケットを絞り、個人も呑んでも終電には間に合わせるというようにライフスタイルを変化させ、生活防衛をしていた。当時の政府や運輸省は、「(規制を緩和すれば、)サービスが多様になり、タクシーの利用が促進される」としていたが、実態と合ってはいなかった。
「Social」も悪いことに先の二項目と呼応してしまっている。つまり、不況のさなか完全失業率は5.4%にも登り、利用者は減るものの、タクシー会社の新規採用・増車が失業者の受け皿となり、増車傾向に拍車をかけることになった。
「Technical」の要素としては、GPSによって、効率的な運行や配車を行えるというメリットをもたらしてはいたものの、そもそも需要と供給のバランスが合っていないため、あまり意味はなかった。また、カーナビの搭載は「道を知らなくても大丈夫」と、ドライバーの応募者の背中を押したことも事実だ。
以上のことから考えれば、全く市場や経済状況が考慮されず、政府と業界がいわば「売る側の理論」でコトを進めたことに原因があったとわかるわけだ。今後、この値上げ議論がどこに帰結するかわからないが、PEST分析の事例としては各々の項目が関連しあっていることが分かりやすかったのではないだろうか。
さて、今回はマーケティング・マネジメントの第一歩である、「マクロ環境」を分析したが、来月は「マクロ」の反対、「ミクロ」を観ていこう。但し、図1に記したように、マクロとミクロはできるだけ客観的な事実(ファクト)を洗い出していくことが基本だ。ファクトの洗い出しから「解釈」を行う方法なども、連載中で述べていくつもりだ。まずは、今回の事例のように、自分の気になった事象を分析してみてほしい。
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