専門誌連載しています:“現場に効く”マーケティングの基本理論・第1回
実は先々月からインタラクティブマーケティングの専門誌「月刊im press(アイ・エム・プレス)」で連載をしています。現在第2回の掲載号まで発売されています。
この雑誌はコンタクトセンターやCRM(カスタマーリレーションシップ・マネジメント)、ダイレクトマーケティングといった、マーケティングの中でもとりわけ金森の専門。20年近くやってきた領域です。
今までも何度か特集記事や短期連載には寄稿してきましたが、今回は1年間の予定。
さらに内容もマーケティング論の基本ど真ん中をもう一度見直そうというもの。
独立してから、現場と講師業の両方を行ってきた経験から、「現場でこそ見直してほしい基本」を書いていくことにしました。
雑誌発行から1ヶ月以降に当Blogでバックナンバーを掲載することにしました。
ビジネススクールや大学での講義、企業研修では何度も述べていることではありますが、
お聞きいただいた方ももう一度整理のためにもご一読いただければ幸いです。
第1回は以下をご覧ください。
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「“現場に効く”マーケティングの基本理論」
あまりに“基本”と思われ忘れられているようなマーケティング理論。しかし、日々の業務が行われる“現場”で今一度振り返ってみれば、思わぬ“再発見”があるのだ。
第1回「マーケティングってそもそもなんだ?」
筆者はマーケティングのコンサルタントとしてクライアントの問題解決をサポートしつつ、大学、ビジネススクールや企業研修で講師としてマーケティングを教えている。いわば、実践と理論の間を行ったり来たりしているわけだ。その中で思うのは、「実践と理論がうまく結びつけられていないな」ということだ。コトラーやポーターの理論は現場では「机上論」として扱われることが多いが、本当は実践の場で見直せば有用なのだ。そんな気付きを読者に提供したいと当連載を思いたった次第である。1年間よろしくお付合い願いたい。
■そもそもマーケティングとは?
「マーケティングとはなんですか?」こんな素朴な問いを投げかけられたら、実務者としてはどのように答えるべきだろうか。筆者の前職、広告業界なら広告や広報、プロモーションといったコミュニケーション戦略を中心に語ることになるかもしれない。メーカーのブランドマネージャーであれば、自身の担当商品に関する製品、価格、流通、コミュニケーションという、いわゆるマーケティングの4Pについて説明するかもしれない。しかし、それではマーケティング本来の意味を説明したことにはならない。「マーケティングとは?」を一言で表わすのは意外と難しいのだ。
■コトラーの定義からキーワードを読み解く
マーケティングの大家、フリップ・コトラーの定義を見てみよう。「製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセスである」とある。少々難解だが、キーワードは「製品」「価値」「交換」「プロセス」という言葉である。
売り手と買い手は何を「交換」しているのか。(図1参照)普通に考えれば「製品(モノ・サービス)」を提供し、対価と「交換」していると考えられる。しかし、もう一歩踏み込んで考えてみて欲しい。
例えば、ペットボトル入りのミネラルウォーター。価格は130円ぐらいか。購入者は130円という対価を何に対して支払っているのか。中身の水は、湧出地毎に硬度や含有するミネラルが異なり微妙に「味」が異なる。水道水より「安心」という比較優位性もあるだろう。さらに突き詰めれば「喉の渇きをいやせる」という「効用」が130円という対価に値しているから購入されているということがわかる。つまり、「買い手」は「喉の渇き」がいやせ、「味」「安心」という「価値」を認めて130円を払っているのである。単なるモノやサービスと対価の「交換」ではない。買い手は「ペット容器に入った水」に「効用」「味」「安心」といった「価値」を見出しているから対価を払うのだ。
このことから“マーケティングとは「価値」の「交換」である”ということができるだろう。売り手は自分たちの製品が買い手から対価を払ってもらうために、どんな「価値」を提供しているのかを今一度考え直してみることが必要だ。もし「思ったように売れない」という状況なら、買い手に提供すべき「価値」が満たされていないのかもしれない。また、うまく売れているのなら、どんな「価値」が支持されているのか再認識すべきであろう。そうすれば売れ続けることができる。
■「売れ続けるしくみづくり」という言葉
「マーケティングとは?」に答える言葉として提唱者が誰かはわからないが、「売れ続けるしくみづくり」という表現が用いられることも多い。シンプルでわかりやすい言葉だ。ここは「売れる」ではなく「売れ続ける」という差異と、「しくみづくり」という部分に注目したい。
例えば、大きな契約が取れた営業担当者が「ラッキーでした」と言うことがある。謙虚なのかもしれないが、本当にラッキーだった場合や、その人だけにしかできない特殊なスキルによる結果だとしたら困ってしまう。企業は永続性が求められる。誰でも、何度でも「続ける」ことができる、再現性と継続性が必要なのだ。故に「しくみ」にしなくてはならない。この「しくみ」とは、前述のコトラーの定義では「プロセス」という言葉で表わされている。
■マーケティングのキモは「ニーズ」の深掘り
マーケティングの要諦は「ニーズの深掘り」である。「ニーズ」という言葉も今日では何気なく遣われるようになっているが、本来の意味をもう一度考えてみよう。(図2参照)
マーケティングの有名な言い回しがある。「顧客はドリルが欲しいのではない、穴が空けたいのだ」という言葉である。顧客は何か実現したい理想の状態を求めている。それが「ニーズ」だ。そして、実現できていない現状を解決する「対象物」として求められるのが「ウォンツ」。この関係がしばしば混同される。前述の「価値」というキーワードとも関連する。顧客は単なるモノとしての「ドリル」に対価を払うのではない。「穴を空けられる」という「価値」に対して対価を払っているのだ。自分が提供しているモノの価値は何か。何度でも繰り返し自問すべきことがここからもわかる。
さて、「穴が空けたい」というニーズ。さらに深掘りしなくてはならない。「なぜ、どんな穴を空けたいのか?」。例えば「日曜大工でボルトを入れる穴を空けたい」だとすれば、「電動ドリル」が最適だろう。「子供の工作を手伝うため釘の下穴を空けたい」なら、電動ドリルではなく「錐(キリ)」がちょうどよいはずだ。このように深掘りすれば顧客が本来求めているものがわかり、適切に提供できる。「ハコ売り」ではなく「ソリューション(=問題解決)」とITの世界で言われるようになって久しい。単なるモノではなく、顧客が本来必要としている価値を提供するということと同じだ。