大きな動きでみれば「第三次」となるのか、「秋の陣」ともいうべき緑茶飲料の戦いが激しさを増してきた。
各社の動きをみれば、「量少なめ、値段高め」の「プレミアム戦略」が主流のようだが、果たして市場に受け入れられるのか?
生活者視点を交えて各社の戦略を比較してみよう。
■緑茶飲料戦争のこれまで
「売れるわけがない」と言われたペットボトル入り緑茶飲料の市場を開拓したのは、専業の強みを活かした伊藤園だが、その地位を脅かす存在としてキリンビバレッジの「生茶」が登場した。
「お茶にも生があったんだ」のコピーが表す「新鮮な飲みくちと、ほのかな甘味」が、CFに起用した松嶋菜々子と共に、今まで緑茶飲用習慣の低かった女性層に受け、大ブレイクした。
2000年夏には、生茶がおーいお茶のシェアを10%余り食い、両者の壮絶な販売競争が展開された。
第一次緑茶戦争である。
2003年、壮絶な戦いの中にも均衡を保つ両者に割って入ったのが、京都の老舗・福寿園ののれんを担いできたサントリーだ。
生茶対抗として季節限定や産地限定など、様々なバリエーション展開を図っている伊藤園にとっても、サントリーはいやな相手。
何しろ、日本で初めて烏龍茶飲料を上市したものの、「烏龍茶はサントリーのこと」というコピーでお株を奪われた因縁もある。
その福寿園ブランドの「伊右衛門」は、あっさり生茶を抜いた。
さらに、日本コカ・コーラ「一(はじめ)」、アサヒ飲料「若武者」が追撃を仕掛けた第二次戦争もものとせず、緑茶飲料カテゴリー第二位の地位を確たるものとした。
しかし、さすがの伊右衛門も昨年初のマイナス成長を記録した。
その状況で、この秋・第三次戦争の前哨として日本タバコ(JT)が同じく京都の名門の名をそのまま冠した「辻利」を上市。
伊右衛門は迎え撃つ立場となったのだ。
■前哨戦・伊右衛門VS.辻利の行方は?
JTの「辻利」に関しての販売データが手元にないので、一生活者として受けている印象を少し考えてみたい。
誰しも感じるだろうが、辻利は完全に伊右衛門にぴったりポジショニングをかぶせてきている。
マーケティング的には「同質化」という戦略だ。
同じ飲料では、大塚製薬が「ポカリスエット」で作ったスポーツ飲料というカテゴリーにぴったりかぶせて、日本コカ・コーラが「アクエリアス」を上市し、シェアを取った例があげられる。
同質化を仕掛ける側には、対抗しうるだけの資本力、販売力が求められる。
それがなければ、ぴったりかぶせて、できるだけ相手の存在をかき消すという戦略目標が達成できないからだ。
さて、サントリーに対してJTが同質化を仕掛けたと見られるわけだが、まぁ、楽な戦いでないことは予想されただろう。
しかし、辻利は江崎グリコのポッキー、他メーカーにもアイスクリームに「辻利ブランド」の使用を認めている。現在その動きは見えないが、うまくすれば、クロス・マーチャンダイジング的なシナジー効果が期待できる。今後の展開次第の部分だ。
さて、世の中、全国的には京都の「福寿園」と「辻利」のどちらが上なのか分からないが、商品訴求の方法としては筆者はサントリーに歩があるように思う。
「伊右衛門(福寿園)」に対して「辻利」の名を直接もってきたインパクトは強い。
しかし、伊右衛門の原料と茶のいれ方に関する訴求は秀逸だ。
石臼びきと普通の茶葉、純水と山崎の天然水という、2種類の茶葉の形状と水の種類のブレンド、使い分け。
筆者は「さすが、“水と生きるサントリー”」と感じたがいかがだろうか。
しかし、JTとしても辻利は「育てるブランド」と位置付けているに違いない。今後の展開が楽しみだ。
後にも記すが、もう一つ同質化戦略をかけてきている銘柄がある。
現在、真田広之と京都芸子のTVCFで展開している「綾鷹・上煎茶」。
パッケージには「宇治茶舗上林春松本店」とあり、完全に先行二銘柄の持つ「京都」ワールドとの同質化をかけてきている。
綾鷹は後述する「プレミアム」の特徴の他、勝負のポイントとして、「濁り」に旨味があるとして、「振って飲む」というスタイルをTVCFでも訴求し、同質化するだけでなく差別化も図っている。
以上のように、この「京都対戦」の行方も勝負の見所だ。
■プレミアムのキーポイントは「量」と「価格」?
さて、この秋の第三次戦争の主戦場は、ちょつと割高な「プレミアム」だ。
参戦しているのは、伊藤園プレミアムおーいお茶(350ml・147円)、キリンビバレッジ生茶玉露100%(265ml・143円)、そして前出の日本コカ・コーラ綾鷹上煎茶(425ml・158円)である。
サントリーは伊右衛門で今までさんざん「上質な茶葉で丁寧にいれた」と言ってきた手前、今更プレミアムを出したら、「今までのは何だったんだ!」ということになる。
いわゆる、「理論の自縛化」によって参戦できない状態なのだろう。
アサヒ飲料は若武者は最も後塵を拝しているため、さらなるブレンド開発の余力がないということか。
では、プレミアム三銘柄を量と価格の観点で考えてみよう。
従来の緑茶飲用は500ml(150円)と350ml(120円)が標準である。
三銘柄の容量と価格は先に列挙した通りだが、各々、微妙に狙いが異なるようだ。
綾鷹は標準の500mlよりややスリムなボトルで8円高。
やはり500が標準と考えた場合、あまり量を減らさずに少しだけ高くしたという微妙なさじ加減ということか?
また、現在のペットボトル飲料の標準である500mlからあまりに少なくすると、前述の「京都ワールド」の同質化戦略との両面作戦が成立しなくなるという事情もあるのだろう。
しかし、150円を越えるという価格は筆者は少々心配だ。
150円を越えるラインには、味だけでなく、健康効果のある「特定保健用食品(特保)」がヘルシア緑茶をはじめ、味も飲みやすくなっている新商品がめじろ押しだ。価格が近くなれば強力な競合となり得る。
綾鷹は、従来の一(はじめ)と切り離した、多面性を持たせた戦略商品として上市しただけに、なかなかミッション・インポッシブルな戦いを強いられているようだ。
おーいお茶の量と価格はボトルの背の高さは従来の500で内容量は350というスリムサイズ。
そして価格はほぼ従来の500と同じ。非常にバランスが良いように思える。
実は容量と価格の比率は綾鷹より高くつくが、計算して購入するコストコンシャスな層以外は、従来の500と350の中間でかつ、150円以下という切りのいい価格は受け入れやすいのではないだろうか。
このあたりのバランス感覚は、業界のパイオニアであり、生茶対抗以来、様々な商品バリエーション開発に腐心してきた伊藤園の底力を感じる。
さて、ある意味一番勝負をかけているのが生茶玉露だろう。
価格こそ、150円以下に抑えたが、容量が明らかに少ない。ボトルの形状も独特だ。
容量と価格の比率は三銘柄の中でも突出して高い。
考えてみると、250mlに近いコンパクトな容量。
量よりも味に集中する方向性は缶コーヒーに似ていないだろうか。
緑茶飲料は、味もさることながら、食べ物と共に摂ったり、喉の渇きを癒したりという目的に供される事が多いだろう。
だとすれば、生茶玉露はプレミアムの中でも、より「嗜好品としてのペットボトル緑茶飲料」という新たな地平を目指しているのかも知れない。
このようにして比較して、様々な推察を加えると、各社の狙い、戦略を覗いてみることができる。
飲料の世界は正に「勝負は水もの」なので、実際にはどの商品が勝者となるか分からないが、こ背景を考えるといつもの商品が違って見えてくるだろう。
一生活者の視点とマーケターの視点を併せ持つと、自分のビジネス以外も面白く見えてくることを実感していただければ幸いだ。