「お客様の声は宝の山」をただの伝説にしてはいけない
書店へ行くと平積みで「クレーム対応本」が販売されている。売れているようだ。
しかし、いわゆる「クレーマー」という定義は未だ世間で曖昧なままな気がする。
当Blogでも幾つかの企業や店舗での顧客対応における問題を取り上げているが、そうすると「このクレーマーが!」と指弾するメールが来る。
確かにこの手の記事は可燃性が高く、また突っ込まれるのは嫌なのだが、この辺りで少し整理してみようと思う。
そもそも「クレーム」とは何か。
これがまた曖昧。
一応、Wikipediaから引用する。
<クレーム(英:Claim )とは、原義では「要求」やその要求の正当性を主張する事。苦情(くじょう)を指すが、他の意味では契約違反における損害賠償に関しても同語が用いられる。日本語に於ける和製英語としてのクレームでは、しばしばごり押しによる不当な強迫行為と混同されるケースも見られる。>
要素が少し渾然としているようだ。
そもそもが”claim”と”complaint”が一緒になっている。
ジーニアス英和辞典では以下のようにある。(主な部分抜粋)
【claim】
1.求める,必要とする
2. (当然の権利として・自分の所有物として)〈物・事・損害賠償〉を要求する,請求する
【complaint】
1.不平,不満,泣きごと,愚痴
2.不平[不満]の種;[遠回しに] (身体の)病気
3.不平[不満]の訴え
4.〔法〕不服申立て;告訴;((米))(民事訴訟における)原告側の最初の申し立て
上記を見ると、claimの2とcomplaintの4が似ていて混乱を招くきやすいが、語義としてはclaimは「求めること」。complaintは「(不明・不満を)言うこと」であろう。
しかし、Wikipediaが指摘する「日本語に於ける和製英語としてのクレームでは、しばしばごり押しによる不当な強迫行為と混同されるケースも見られる」という点が日本独自の問題点であろう。
クレームという言葉で問題になるのは「狭義の」claimの方。
Wikipediaが指摘する「ごり押しによる不当な強迫行為」を指しているのであろう。
「東芝クレーマー事件」などの記憶がよりそれを強めている感もある。
言葉の定義というものは重要だ。「クレーマー」を指弾するなら、「悪質な、ごり押しによる不当な強迫行為を為す者」を、「悪質なクレーマー」と明確に分類してはどうか。
生活者が企業や行政に物を言うことは少しも悪いことではない。
それが、指弾されるのであれば、言論に対する抑圧である。
そこに不当性があるかどうかが問題なのだ。
例えば、claimにおいて、本来の意義通り「 (当然の権利として・自分の所有物として)〈物・事・損害賠償〉を要求する,請求する」ことに何の問題があろうか。そこに「客観的な正統性」があるのであれば。
また、ここで大事なのは「当然の権利としての”事”」に、「誠意ある対応」や「謝罪」が含まれていることだ。
サービス提供者も完璧ではない。いや、何らかの明確な落ち度を指摘されているケースも少なくない。
では、落ち度があるのであれば、それを認め、、「誠意ある対応」や「謝罪」を行うのは至極当然なことである。
また、complaintとして、「不平,不満,泣きごと,愚痴」ぐらい言ってもいいではないか。社会的な通例から逸脱していないのであれば。また、多少なりとも問題があったなら。
claimもcomplaintも、「忌むべきもの」とされてしまえば、企業・行政と生活者の溝は埋まらず、サービスレベルも向上することはない。
一番恐れているのは、「クレーム対応本」の流行において、本来問題となる「悪質なクレーマー」ではなく、本当に不本意な対応にあっている無辜の生活者までが十把一絡げにされてしまうことだ。
何冊も話題の本を読んだが、本来必要な「顧客対応接点」の担当者に、本当に必要なノウハウを教えるものではなく、抑えたトーンながら「こんな困ったヤツがいて、こうして切り抜けた」という「読み物」として一般に供されていることも少なくない。
極端な例が一般化されている。
金森自身も、コンタクトセンター時代や、広告会社でのキャンペーンを担当していた時代に、様々な苦情に対応した。
しかし、そこに一般に公開するような「読み物」としての面白さは感じない。
確かにインターネットの普及によって、行政・企業と生活者の垣根はなくなり、簡単にモノを言えるようになった。また、それが伝播しやすくなった。
だが、それはネガティブなことばかりではない。
「お客様の苦情は宝の山」という言葉がある。
そこから貴重な意見が抽出され、優良なサービスや製品が開発された事例もある。
より環境が整った今日、「宝の山」が単なる「伝説」とならず、さらに活性化されるように祈らざるを得ない。
一生活者として。かつての顧客担当業務従事者として。