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2007.08.30

アナログ探索によって時空を超える

グーグルで検索して調べ物。「ググる」という言葉も随分一般化した。
だが、「検索サイト利用の落とし穴」として、8月29日の日経夕刊文化面で東京大学総長の小宮山氏が語っている。

<グーグルの検索結果は整理されすぎている。みんなが大事だと思う情報にしか上位に表示されない。下位の情報が実は自分の目的にとっては重要かもしれないのに、無視されてしまう恐れがある。>などの問題点を指摘されている。


しかし、同日の午後、そうしたデジタルの問題点とは全く無縁なナレッジに関わる体験をした。

20070829
9月1日(土)まで古本市が開かれている事務所横の新橋SL広場でのことだ。

前回は大好きなエル・グレコの画集を手に入れた。
実際に、何かを一生懸命探すのではなく、無心で探索してみると意外な発見があるものなのだ。
「検索」ではなく、足で歩き探す「探索」である。

普段はGoogleでインターネット空間を検索しまくり、また、コンサルティングの業務ではEnterprise Searchという最近のキーワードに乗って、いかに社内ナレッジを活用するかとか、文書管理を行うかとか、非常にデジタルな「検索」の世界にドップリ浸っている。
一方で、こうしたアナログの極みの空間で、ぶらりと目的もなく「探索」を行うのは実に楽しい。

古本が並べられている出店の棚には、何となく文庫や画集、写真集や古い雑誌、古地図などが固まって置いてあるため、まぁ、興味の向きに合わせて手に取るべきものを探すことはできる。
これが、デジタル的には各々の本の種類やカテゴリーを属性としてタグ付けをし、インデキシングしようと考えるだろうが、そんなものとは無縁だ。
心地よいカオス。

さて、今回手に入れたものは二点。

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一つが「愛と幻想のシャガール・ポスター芸術」。730円也。
1986年2月・東京を皮切りに、全国15カ所の大丸を中心とした百貨店の美術館をまわった展覧会の画集だ。
思えばこの頃はまだ1980年代後半~1990年代初頭のバブル経済のまっただ中。
百貨店の美術館は元気いっぱいだ。
ポスターにスポットを当てた141点もの作品はさぞや見応えがあっただろう。

また、この展覧会は、ちょうどマルク・シャガールの没後1周年というタイミングで開かれている。
シャガールは1985年3月に97歳で永眠している。
没後1周年といっても、正確には1年経たずに開催されている。何と対応の早いことか。
恐らく、バブルのさなか、シャガールの絵は高値で売れたのだろうなとも思う。
当時の世情が思い起こされて実に興味深い。

ちなみに、「1986 シャガール ポスター」という検索クエリでGoogleを検索してみる。
かろうじて1件のオンライン書店でこの画集を見つけ1,890円の値がついているも、売り切れ。
そもそも、筆者は同書の存在を知ってはいなかったので、デジタルの世界では出会ってもいなかったわけであるが・・・。

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もう一つが大正8年刊「新選各科教授法」。500円也。
「本書は師範学校における教育科の系統的教科書として編纂したるものにして、明治四十三年初版発行以来、幸に全国各府県に於いて師範学校用又は教員検定試験用として採用され、既に数版を重ねたり」と巻頭言にある。
今日、教育がゆれている。また、戦前教育への批判はかねてより強い。
しかし、まだざっと見ただけであるが、注目すべき点も多い。

本書の第六節「綴り方教授」、第四「教授の主義」においては、文章の書き方を児童に教える時、いかに自由な発想をのばしつつ、一方で文法や論旨組み立てなどは統制をかけ指導をするかという、そのバランスが重要であるなど、非常に重要なポイントが示されている。
基本的にはこの教本においては、学問の基本は国語にありとする考えがあり、極めて賛同できる。
また、文法教育が主かと思いきや、そうでもないようである点は発見だ。

一方、国語に次ぐ重要な教科は歴史であるとしている。
第四章「日本の歴史」のこあたりは、今回うっかりしたことを書くには惜しい内容だ。
ちょっと読んだだけでも当時の歴史観と今日の歴史観の違いは鮮明で面白い。
敗戦国となった日本の歴史観といかに違うのか。
また、戦前を全否定する色眼鏡でなく、まっすぐにこの本を見た時に何が見えてくるのか。
これは時間をかけてじっくり読み込んでみたいものだ。
・・・旧字体と文語調なので、だいぶ時間がかかってしまうが。

しかし、こんな書籍がネットの世界で発見できようか。
専門家でもない人間が出会い、インスパイアされて思索の幅を広げることなどあろうか。
何とも素晴らしきアナログ探索の結果であろうことか。


ちなみに、この本は最終ページに持ち主の名前が書かれている。
「台南第一高等女学校 酒井知恵」とある。
本には持ち主の書き込みがいくつかあり、重要とおぼしきポイントが示されている。
1919年から2007年までの88年の時間と、台南から東京まで約2,000㎞の距離の彼方からこの本の読み方がナビゲートされている。
これはまさに、時空を超えたアナログならではの”ナレッジ・トランスファー”である。


本書には落書きが2点ほどある。
1点は女子学生の制服姿が描かれている。この女子師範学校の制服だろうか。
もう1点は「神田先生」と記された、七三分けに小振りなメガネ、髭を蓄え教本に目を落とした紳士の姿。
あこがれの先生なのだろうか。
もうとうに亡いであろう人の思いまで伝わってくる。


デジタルに染まっている身だからこそ感じる感慨かもしれないが、アナログとは何とも心動かされる味わい深いものであろうか。

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