数字を見るな。顧客を観ろ。
先般、当Blogの左サイドにある「お勧め書籍」にアップした野中 郁次郎先生の「イノベーションの本質」について少々記したい。
わずか3年あまり前の刊行であるが、読み返してみて重要なポイントを忘れていたので、自戒と備忘の意味も込めてである。
同書にある13の事例のうち、一番はじめに取り上げられている「サントリー・DAKARA」はマーケティングの成功事例としてもよく知られている。
スポーツ飲料市場参入を狙うサントリーは、先行する「大塚製薬・ポカリスェット」、「日本コカコーラ・アクエリアス」に対抗すべく、新製品を企画していた。
まず「市場機会の発見」として、サントリーはスポーツ飲料飲用者のうち、実は「スポーツをしない」にもかかわらずスポーツ飲料を飲んでいる人が8割も存在することに気が付いた。
そこから、「スポーツをしないが、自らの体質改善に関心がある人」をターゲットとして、さらに「老廃物の”排出”」という、従来の飲料では考えられない”摂取”の逆、”排出”を初めてポジショニングとした。
具体的な施策(4P)の展開では、「からだをいたわる」ということを連想させる「DAKARA」というネーミングと、白地のボトルの中心に赤いハートあしらい、どこかメディカルっぽいパッケージが製品戦略の特長であり、コミュニケーション戦略は”排出”をストレートに表現した”小便小僧”をキャラクターとして登用。大量のCFを投入した。
その、市場機会の発見~具体的な施策までの一貫性・整合性が非常に優れているところが、マーケティングの事例としては秀逸であるといわれる所以である。
しかし、さらっと説明してみれば(実際に金森自身もこの事例を解説する時には上記のような内容で話している)こんなものなのだが、その「市場機会の発見」と「コンセプトメイク」の過程が同書には実に生き生きと描かれており、重要なパートとなっているのだ。
実は「どんなときにポカリやアクエリアスを飲むか」という一般的な質問を定量調査で行うと、「スポーツ時/スポーツ後」が76%を占めたという。しかし、対象者に「毎日いつ、どの飲料を何と一緒に誰と飲んだか」を詳細に記述させる日記調査では、スポーツ時/スポーツ後」はわずか18%。二日酔いの時や仕事の合間などが圧倒的に多かったという結果が出た。
当初考えられていた製品コンセプトは「もうひと頑張りできる働く男のスポーツドリンク」であったそうだが、この定量調査と、実体により近いと思われる日記調査のズレから、開発メンバーは、さらに生活者の生の姿に迫る必要性を感じたという。
あるメンバーは宅配ドライバーに密着し、夜ヘトヘトになるまで働き、留守宅があるため仕事が終わらず、家に帰れない姿を見た。そこで、仕事の合間に寂しげに自販機で買った”ポカリ”を飲むドライバーの姿に、どうして「もうひと頑張り」を強要する飲料を作れようかとハッとしたという。
また、別のメンバーはコンビニの店員になり、客の「食生活の乱れ」を間近で実感したという。そこから、飲料には”不足分を補充する”以上に、”余分なものを排出させる”という機能の重要性に気付いたという。
「コンセプト」とは、「誰に」「どのようなシーンで」「どのような便益を提供するのか」が組み合わさってできあがるものだ。飲料は、年に1000ものアイテムが上市され、翌年まで生き残るのは3種類程度という、正に「千三つ」の世界である。「DAKARA」は「打倒ポカリ、アクエリアス」を賭けていたため、最初のコンセプトである「もうひと頑張りできる働く男のスポーツドリンク」に至るまで2年間の歳月を費やした。しかし、定量調査と日記調査の結果のズレから違和感を感じ、発売時期を延期し、さらに2年を費やして生活者に密着し、真のコンセプトに辿り着いたのである。
この記事のタイトルとした「数字を見るな。顧客を観ろ。」であるが、確かに数字は一定の判断基準や参考値にはなろう。しかし、それが真実を語ってくれているとは限らない。必ず、定性的な判断材料と、何より生の顧客・生活者に触れ、そこから何かを学び取ろうとする意識がなければ、いつまで経っても「千三つ」から抜け出られない。これは飲料の業界に限ったことではない。
「成功事例」も成功に至るまでのスタッフの生の姿に注目すれば、何が大切なのかがより理解できる。
重要なポイントを思い出したため、本日は珍しく書籍内容の詳細な解説などをしてみた次第だ。
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