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2007.06.25

接客サービスにおけるヤマアラシのジレンマ

日経BizPlusの連載・ニッポン万華鏡(カレイドスコープ)が更新されました。
「カレイドスコープ」以前に連載していた「CRM講座」と「IT & マーケティングEYE」を2001年10月から執筆し始めて以来、先月は初めて原稿を飛ばしてしまいましたので、2ヶ月ぶりです。スミマセン。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm

今回は当Blogで何度も取り上げた「高島屋」の集大成です。
第1回ではちょっと、感情的な記述になりすぎました。(反省)。
第2回で別の切り口で再考し、
先日、第3回として実際の体験を記し、
今回、全てを総括したつもりです。

では、ご覧ください。


----------------<以下バックナンバー用転載>---------------------
 景気が回復傾向にあって、今なお売上低迷が続く百貨店業界では生き残りをかけ各社各様の奮励を見せている。大丸と松坂屋ホールディングスの経営統合の大きな編成がある一方、マーケティング面で新機軸を打ち出しているのが松屋だ。従来の外商顧客よりも敷居を下げ、専用サロンを提供するなど、台頭してきたいわゆる「ニューリッチ」もしくは「プチセレブ」層の取り込みに重点を置いた取り組みは興味深い。

■「お声がけを控えるおもてなし」
 そんな中で、高島屋が何とも斬新なアプローチを試みている。静かにショッピングを楽しみたいという客に「声かけを控える」という、新しいサービスを一部店舗で始めたのだ。
冒頭の経営統合は大々的な外科手術。外商客や新たな優良顧客の囲い込みは、重点的な局所治療であるといえよう。優良顧客がもたらす収益は大きいが、百貨店が自社カード会員として囲い込めているのは、低利用者まで含めても3割程度と聞く。その他多くは、顔は見えども名前すら分からない一般客だ。その層への接客という基本部分を見直すことで「体質改善」しようという狙いだろうか。

現在このサービスを導入している東京・立川店と岐阜店のホームページには「お声がけを控えるおもてなしを、はじめました」と書かれている。来店客がサービスカウンターに赴いて「S.E.E.(シー)カード」を受け取り、首から提げれば店員からの接触を回避できるというものだ。「S.E.E.」のSは「Silent(静かに)」、2つのEは「Easy(ゆったり)」と「Each(それぞれ)」の頭文字だという。

果たして声をかけないことが「おもてなし」なのか?百聞は一見に過ぎず。立川店に行き、カードを受け取って体験してみた。・・・正直、「違和感」があった。そもそも「声をかけられたくないことを自己申告して、さらに首からカードをぶら提げ明示する」という方法論に対する違和感がある。さらに、「いらっしゃいませ」とあいさつをしたあと、首から提げたカードに気付くと、店員がどこか目をそらすようにして、スッと距離を取っていく不自然さだ。しかし、一方で「そっとしておいてほしい」という気持ちも確かにある。普段足を運ばない宝飾売り場にも行ってみたが、臆することなく見て回れるのはありがたかった。

■顧客と店員は「寒い夜の2匹のヤマアラシ」?
 「ヤマアラシのジレンマ」という言葉がある。「ある寒い夜、2匹のヤマアラシがいた。2匹は寒いので、身を寄せ合いたい。しかし、近づきすぎるとお互いを針で傷つけてしまう。だからといって、離れては寒さに耐えられない。やがて2匹は試行錯誤を繰り返し、傷つけ合わず、寒くもない距離感を見いだした」。というものだ。調べれば、おおもとはドイツの哲学者、ショーペン・ハウアーが作った例え話であり、「自己の自立」と「相手との一体感」という2つの欲求によるジレンマを表している。さらに、あとから「曲折の末、両者にとってちょうど良い距離に気付く」という肯定的な解釈が付け加えられたようだ。

 上記を接客サービスの現場における店員と顧客の関係に置き換えてみたい。インターネットが普及し、モノも情報もあふれる時代、顧客は“目利き”になり、余りアドバイスを必要とするシーンは少なくなっており、基本的には余り触れてほしくない。しかし、顧客の購入意欲が高まっていれば、全く放置されては面白くないし、かえって多少ハードセル気味に背中を押してほしい時もある。かように昨今の顧客は気難しい。しかし、それに対応しようにも店員の接客スキルは低下している。最近再び応対力強化のために正社員を増やす動きがあるものの、かつてのベテラン社員は少なくなっており、属人的な応対能力の向上は、すぐには実現しない。どこか「寒い夜の2匹のヤマアラシ」の姿のようではないだろうか。

■接客現場の“ほどよい距離感”を探れ!
 別の百貨店に勤務する知人に聞いてみたところ、百貨店の売り場での基本は「動的待機」であり、店員は常にお客様の視界に入るように位置し、何らかの作業をしながら、声をかけられるのを待つ。もしくはお客様が声をかけて欲しそうなそぶりをするのを待つという。そばでじっと立って待たれると、やはり店員の視線がやはり気になるからだ。
 本来、「動的待機」という基本が徹底できていれば、こうした「サービス」は必要ないはずだ。しかし、それ以上に一部の顧客が接触を極度に嫌うようになっており、店員の接客力を磨くだけでは限界があると高島屋は判断したのかもしれない。だとすれば限定的に2店舗で試行し、顧客の反応を蓄積するという今回のアプローチにも意味があろう。

 「声がけを控える」といえば、1990年代末に自動車販売の業界における「ノンプレッシャー対応」というコンセプトによる試行を思い出す。自動車ディーラーのハードセルが店頭から客足を遠のかせているとの反省からはじまったものであり、各自動車メーカーがいくつかの系列店で実験したが、最終的に根付いたのはトヨタ自動車のネッツ系列ぐらいだった。何が問題だったのか。実際には「全く声をかけてこない」ことに対して、来店客から「やる気がないみたい」「何だか不親切」という評価が相次いでしまったのである。一方、成功したネッツ店は少々異なる展開をした。「Ask me style」と称する接客ルールを決め、店員たちは来店客に時々、「何かございましたら、お声をおかけください」とに声かをける以外、プッシュを控えた。「全く声をかけない」と「Ask me」。この差は実は大きかった。「客を放置しない、また、踏み込みすぎない軽い声かけ」という微妙なバランスが成功要因であったようだ。

 カーディーラーと百貨店では、販売体制も顧客のスタンスも違うため、処方せんは自ずと異なるはずだが、店員と顧客が適度な距離感を見いだせない、という問題意識は共通している。最後は「ヤマアラシのジレンマ」を脱し、「曲折を経て、両者にとってちょうど良い距離を会得する」ことができるのか。まずはその成り行きを見守りたい。店員の気配りと適切なアドバイスに基づいて最良の選択ができる、買い物の楽しみ・・・百貨店の価値がそこにあるのは間違いないのだから。

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Tracked on 2007.06.25 05:06 PM

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