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2007.04.27

「花盛りのカラーバリエーション戦略が発するシグナル」

日経BizPlusの連載・ニッポン万華鏡(カレイドスコープ)が更新されました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm

今回は再びマーケティングど真ん中で勝負です。
実は、「小手先のカラーバリエーション問題」は日経の前任デスクと1年以上前に議論し、ずっと暖めていたネタでした。
で、4月12日(木)の記事「高度化の代償?」を書きながら、同時に思いついたのがこの原稿です。

では、ご覧ください。


----------------<以下バックナンバー用転載>---------------------


 ブロックを使ったアニメーションかと思いきや、色とりどりの携帯電話であった。2月10日から放映されているソフトバンクモバイルのテレビCMである。シャープ製端末「812S H」は孫正義社長の発案で1機種20色というバリエーションをそろえた。「まずは、色数ありき」という孫社長の強い要望に、シャープが折れたとのことだ。(IT PLUSコラム「孫社長の『思いつき』が変えるケータイ業界・1機種20色の舞台裏」) 番号ポータビリティー制度で「草刈り場になる」と予想された割に同社が検討した背景には、料金プランだけではなく、この「カラーバリエーション戦略」もあったのだろうか。

携帯電話端末は、今までの「多機能競争」から、auが「デザイン」という新天地を切り開き、そして次に、ソフトバンクが「カラーバリエーション」という新たな戦略を打ち出したという。確かにどんどん高機能化してきた携帯電話端末には、めったに使わない、もしくは使い方さえ分からない機能が多数搭載されている。そんなものよりも、「自分好みの色」がユーザーの選択ポイントなるとの孫社長の読みには、一理あるように思える。

■コトラーの理論で考える「カラーバリエーションの意味」
家電量販店で携帯電話コーナーからパソコンのコーナーに目を転じると、ノートパソコンの新製品も随分とカラーバリエーションが増えたことに気付く。筆者のノートパソコンも、某メーカーの直販サイトで「十数色のバリエーションから天板の色が選べる」という売りに惹かれて2年ほど前に購入したものであが、量販店の店頭モデルですら、こんなに色とりどりになっているとは少々驚きである。

ノートパソコンの競争が「カラーバリエーション戦略」に移行した理由をマーケティングの大家、フィリップ・コトラーが提唱した、製品特性を表わす5層モデルで考えてみよう。まずは下図を参照されたい。コトラーは製品に対し、ユーザーが期待する特性を「中核」「基本」「期待」「拡大」「潜在」の5つに分割し整理し、どのような要素によって構成されるべきかを説いている。

5layer_3


パソコンの便益(「中核」)は、本来「ドキュメントの作成や計算ができること」であった。それが、米アップルコンピュータ(2007年にアップルに社名変更)の「マッキントッシュ」の登場によって、従来のコマンドを打ち込むオペレーティングシステム(OS)から解放され、アイコンによる直感的な操作が可能となり、「ウインドウズ」によってそれがすべてのパソコンに広がった。この時点で「中核」は「ドキュメントの作成や計算が“誰にでも”“簡単・快適”にできること」となる。その後インターネットの普及により、「インターネットが使用できること」が「中核」に加わった。

そして、ユーザーの利用内容が高度化してくると、この「中核」を実現するために必要不可欠な要素(「基本」)として、CPU(中央演算装置)・メモリ・ハードディスクなどの、より「高度なスペック」が求められることになった。また、ユーザーのすそのの広がりと高機能化に対応すべく、「サポート(ヘルプデスク)」も必須になった。

次に、持ち歩けるノートパソコンが登場すると、「より軽く、より丈夫で、より長時間バッテリが持つ」といった要素が「期待」されるようになった。

■カラーバリエーションが示す市場の飽和と競争激化
どんな商品でも、市場が成長途上にありコモデティー化していない場合、「中核」から「期待」あたりの階層で十分競争できる。あるいは、パソコンにおけるインターネットの登場のように、新たな活用方法が発案され、市場が再活性化するような場合は、「中核」から再定義されることになる。

だが、インターネットが浸透し、パソコン自体の機能も十分強化された今日、競争要因はどんどん外側の階層に及んでいる。その結果、「期待はされていないが、実現できれば価値を増大させることができる要素」として、5層目の「潜在」の部分でカラーバリエーションに着目されるようになったと解釈できる。

 マーケティングの通説で「カラーバリエーションはマーケティングの行き詰まり」と言われることがある。ソフトバンクの場合はメーカーの努力により、色数の展開の割には部品点数を抑える生産方式を編み出したと伝えられている。そうした工夫なしに「カラーバリエーション」を増やせば、生産工程や在庫での無駄やリスクが果てしなく増大する。いや、いくら無駄やリスクを低減しても、ゼロにはならない。それ故、「行き詰まり」と言われるのである。

 サービスであれば、顧客に対するサプライズを与えるような体験や、期待を大きく上回るサービスレベルの提供、もしくは顧客のプライドをくすぐるなど、展開の余地は大きい。しかし、形ある製品の場合、「ユーザーの潜在的な選択に応える要素」を実現するのはなかなかに難しい。もっと言えば、5層の外側に行けば行くほど、「小手先」になりがちなのが現実だ。

■イノベーティブなブレイクスルーを見つけ出せ!
 本連載の第27回で筆者は「大胆なイノベーションに賭けるだけでなく、掘り起こし損なっている顧客ニーズを探り当て、細かなカイゼンを積み重ねるべし」と述べた。その自説を丸々覆すようであるが、逆もまた真なり。前述の携帯電話やパソコンのように、もはやカイゼンでは対応しきれない状況に市場がなっているとしたら、いつまでも小手先の延命を図り、どんどんリスクの増大や効率の低下を招いてしまう前に「大胆なイノベーション」にチャレンジすることも必要であろう。パソコンであれば前述の通り、マッキントッシュやウインドウズの登場、またはインターネットによって、「中核」の要素が書き換わるようなイノベーションである。

 カイゼンの総本山であるトヨタ自動車もまた、イノベーションを目指している。渡辺社長は社長就任時の挨拶で「走れば走るほど空気を綺麗にする車を作りたい」と述べ、以降も社内に檄を飛ばしているとメディアで伝えられた。日本自動車販売協会連合会(自販連)によれば、2006年度新車販売台数(軽自動車を除く)は、前年度比マイナス8.3%と4年連続で減少した。様々な性能や意匠を凝らし、カラーバリエーションを広げても、もはやその自動車という存在そのものに生活者が魅力を感じなくなっている生活者は多い。

 消費社会が成熟・飽和し、モノが満ちあふれている。もはや、小手先ではモノは売れない。しかし、「空気をきれいにする自動車」のように、環境問題という巨大な脅威に対して貢献できるようなイノベーティブな商品であれば、購買を考える生活者もたくさんいるはずだ。

 地球環境への貢献となると、いささか話しが大きくなるが、モノが売れないと嘆いてばかりいないで、何とかイノベーティブなブレイクスルーを発見しようという気概だけは常に持ち続けねばならないだろう。マーケティングだけの問題ではない、開発者も、経営者も一体となって考えるべき課題である。


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Comments

ちょっと反論。というか疑問です。

スペック重視なPCはよく理解できました。ありがとうございます。
ただアパレル商品はどうなるんでしょうか?

うちの商品(ご存知ですよね?)は、素材とカラーバリエーションでしか特性でないんですよね。
機能として、グリップ性とクッション性は必要とされています。

Posted by: 884 | 2007.04.29 at 03:48 AM

コメントありがとうございます。

アパレルに関してですが、この「5層モデル」での「カラーバリエーション」の位置づけが、携帯やPCと異なると考えます。
どの程度のバリエーションを展開するかによりますが、多少の色数は、当然「基本」に入るでしょうし、かなり大胆な色数であれば、「おおすごい!」と、単にデザインや素材だけではない展開に「あればウレシイ」という「期待」まで拡大できると思います。

代表的なのがご存じ「ベネトン」。ただ、無尽蔵にカラーバリエーションを在庫するためにはいかないため”白地で縫製しておいた服に後染めする”という、生産工程上での「イノベーション」を起こしたのですね。
ただ、後に続くユニクロなども同様な工程を導入したものの、「数多くのカラーバリエーション」も生活者には当たり前なものとなってしまい、かえって、その染める前の白地の半感性服のデザインが「無難」とならざるを得ないため、別ブランドのguにおいて、カラーバリエーションよりも、意匠の今日性を打ち出す「改善」を起こす選択をしたのではないでしょうか。


アパレルの場合、なかなか「イノベーション論」で語るのは難しいかもしれません。しかし、目先の小さな流行の変化ではなく、大きな「モードの流れ」はイノベーションそのものかもしれません。
かの、ジャン・ポール・ゴルチェがかつて生み出したボディーコンシャスは、それまでの「女性の自立=女を捨てる」的な考え方を逆転し、「女性らしさ」を極限まで強調したと聞いています。(詳しい分野ではないです。すみません。)・・・バブルの頃、日本においてはオネエサンの”イケイケ服”と解釈されてしまったのが残念ですが。
アパレルにおける「イノベーション論」=「モード論」ではないかと金森は考えますが、詳しい方、是非、ご意見賜れれば幸いです。

Posted by: 金森努 | 2007.05.01 at 04:37 PM

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