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2007.02.02

"コミュニケーション不全"時代のマーケティングとビジネス

日経BizPlusの連載が更新されました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm


少々大きなテーマなので、執筆を躊躇しましたが、思い切って書いてみました。
皆様の周りで同様な事象が起きているということがあれば、是非お聞かせいただければと思います。


----------------<以下バックナンバー用転載>-----------------------

 「コミュニケーション不全」は昨今、ニッポンの現代病の1つとも言われている。「コミュニケーション(communication)」の語源は、ラテン語の「共通したもの」を表す(コミュニス:communis)や、「共有物」を表す(コモン:common)にあるという説が有力だ。それが「不全(機能や活動が完全でないこと)」であるというのは、すなわち人と人、もしくは特定の集団内、さらには社会において、他者の意識や価値観を共有できず、適切な(relevant)関係が構築できない状態を表している。

 このコミュニケーション不全、「過度のメール依存」や「引きこもり」などに通じる若者の問題としてクローズアップされることが多いが、ビジネスの世界も例外ではない。達成されない営業目標、繰り返し起きるミス、製品トラブル・・・。それらの原因が「コミュニケーション」にあることも少なくない。

■「伝わっているハズ」という思い込み

 コミュニケーションはマーケティングの要であり、マーケティングの世界で「コミュニケーション不全」は看過できない問題になりつつある。

 ある飲料メーカーのお客様相談センターマネジャーの話である。ホットの緑茶ボトルに「ホット専用」と記して発売したところ、「冷めてしまったが飲んで大丈夫か?」という問い合わせが相次ぎ、やむなく「温めてもおいしい」と表記を変更したという。

 普通に考えればいくら「専用」と書いてあったとしても、それがぬるくなったり、冷めてしまったりしたからといって、飲用に問題があるとは思い難い。しかし、顧客の感覚はそうではなかった。これは、旧来企業が考えていた「分かるハズ」「伝わるハズ」という感覚が、今日では危うい幻想でしかないことを示す事例といえるだろう。

■ミドルの得意技は“スルーパス”?

 企業の社員間であれば、古い言葉でいえば「同じ釜の飯を食った仲」であり共通認識も持ちやすく、コミュニケーションロスなど発生しないと思いがちだ。だが、現実にそれは起きている。

 スルーパスといえば、昨年のW杯ドイツ大会におけるブラジル-日本戦で、後半14分のジウベルトによるブラジル3点目のゴールをもたらした、ロナウジーニョのスルーパスが記憶に新しい。しかし、ここで筆者がいう“スルーパス”は、そのような芸術的な技とはほど遠い。企業内でトップからの方針を、そのままスルー(threw:通り抜け)して、部下に落とす中間管理職の様を指す。

 トップから提示されるのはどの企業でも「方向性」であり、それをミドルが解釈した上で、効果的・効率的な方法論に基づいて現場を指揮し、実行に導く。各々の持ち場でトップの方針を具体化し実現するのが、ミドルの正常な姿だ。しかし現実には、トップの方針がブレイクダウンされないまま、現場への「スルーパス」が横行している。

 企業業績がよく、勢いのあるうちは現場が各々の解釈で動き、それなりの成果を上げていく。しかし、いったん業績が悪化し始め、苦境に立たされると、途端に現場の動きが鈍くなったり、ちくはぐになったりする。そして、その時点で「スルーパス」という悪弊のツケがあらわになり、ミドルは自身の存在意義と責任を問われることになる。

■一人歩きするスローガンやキャッチコピー

 今日、多くの企業内で、また巷(ちまた)で、うわべだけのスローガンやキャッチフレーズが一人歩きしている。誰が聞いてもNOとは言いにくい「体言止め」や美辞麗句、聞こえのよいカタカナや英語など――例えば「お客様への安心と満足感の提供」のような言葉だ。

 しかし実態としては、各々の社員や顧客が理解する「安心」と「満足」は異なっていたりする。そもそも「お客様が安心できる」とはどのような状態なのか?そしてそれは、そのようにして実現できるものなのか?また、顧客は何に対して、どのような状態になれば「満足」を感じるのか。そうした定義と、実現のための方法論が明らかになっていない。共通認識のないまま、便利な言葉をもてあそび、そこから先を考えなくなる「思考停止」に陥っているのだ。当然、言葉が表すような成果は達成されない。こうした現象も、「コミュニケーション不全」以外の何者でもない。

■「論理思考」に基づくコミュニケーションへの転換

 コピーライターは広告コミュニケーションの花形職業だが、筆者の知人は、「最近、ヒット作と評価されるキャッチコピーが作りにくくなっている」と嘆く。曰く、「人々の行動様式が多様化している結果、価値観や心理も様々に細分化した。共通の体験や知識のバックグラウンドを元に、誰もが『ああ、こんなことを言っているのか。うまい言葉を遣うなぁ』と感心するようなコピーはもはや成立しない」のだと。加えて、日本人に特徴的な相手への「思いやり」や「行間を読む」能力が低下していることも、「伝わりにくさ」の要因なのだろうと分析する。

 確かに、これまで日本語はあいまいさや、「言わずもがな」といった土壌を容認してきた。だが、今日のビジネス環境は、もはやそれを許さなくなっている。「コミュニケーション不全」を放置すれば、業績に影響するだけでなく、企業の信頼が失墜するような、製品の安全や品質に関するトラブルや、顧客対応における大きなミスといったクリティカルな事象を引き起こしかねない。

 今日のビジネスにおいては、旧来の「伝わること」「分かり合えること」を前提としたコミュニケーションを改め、逆に「非論理的な表現・論旨の展開では伝わらない」ことを認識し、「伝わらない前提で、どうすれば伝わるか」を考える必要がある。「きちんと伝わる」「理解される」ためには、もはや感覚に訴えた耳あたりのよい言葉の羅列では済まされなくなっているのだ。ビジネスパーソンの必須リテラシーの1つとして、「論理思考」の重要性が叫ばれている。対顧客や社内におけるコミュニケーションも、この「論理思考」を基軸として、早急に考え直すべきではないだろうか。


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