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5 posts from February 2007

2007.02.28

「"知覚品質"という価値に着目してみよう」

日経BizPlusの連載が更新されました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm


今回は「マーケティングのど真ん中」「直球勝負」です。
色々な方に読んでいただきたいです。

が、4月から私の講義を履修する青学の学生、及び現在履修中のグロービスの大学院生、必読願います!!


----------------<以下バックナンバー用転載>-----------------------


「象が踏んでも壊れない」・・・40代以上の方なら懐かしいキャッチフレーズであろう。商品は、「サンスター文具の“アーム筆入れ”」。テレビCMは実際に象に筆箱を踏ませ、「わぁ~本当に壊れていないや」と男の子が目を丸くするというものだった。象が筆箱を踏むというシチュエーションはかなり謎であるが、「丈夫さ」という商品スペックを伝えるのに最大級のインパクトがあったことは確かだ。実はこの筆箱、最近復刻版が発売され、密かなブームになっているのはご存じだろうか。ではなぜまた売れているのか?

■人はモノを購入するにあらず

 昨今のマーケティング論の基本は、この小見出しの通りである。では、モノではなく、何に対して対価を支払うのか。それは「価値」に対してである。生活者はそのモノが自らにもたらしてくれる「価値」を購入しているのだ。実はこの考え方がまだ理解できずに苦戦する企業が後を絶たない。

 冒頭の「復刻版・象が踏んでも壊れない筆箱」の購入者は、再び「丈夫で長持ちする」という商品自体に対価を払っているわけではない。「子供の頃の懐かしい思い出」に「価値」を感じて対価を払っているのだ。もはや「丈夫」という商品特性・スペックは価値ではなくなっている点に注目すべきである。

 少し歴史を振り返ってみよう。「“モノ”ではなく、“価値”に対価を払う」。このような生活者の意識転換が起こったのはそう古いことではない。

 高度成長期、それこそ人は「モノに対して」対価を支払っていた。1950年代の三種の神器(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)、それに続く60年代の新三種の神器(カラーテレビ・クーラー・マイカー)。それらを何とか「人並みに手に入れよう」と汗水垂らして働いた。まさにマスプロダクト・マスセールスの時代、「迅速な生産と供給」が勝利の方程式であり、マーケティングなどあまり重要視されていなかった。

 その後70年~80年代という豊かな時代を迎え、モノが満ちあふれるようになると、「市場のパイの奪い合い」が始まった。この時代のマーケティングにおける最大の課題は「いかに魅力的な商品を作り出すか」であり、「差別化戦略」が勝利の方程式となった。だが、「商品そのものの魅力」で勝負できたのは、実にこの時代までである。

■「コモディティー化」とこだわりの低下

 バブル期の大量消費とその後のバブル崩壊を経て、生活者は「選択的な消費」と「買わない自由」を覚えた。一方、商品自体も技術的進歩によって質量ともに満たされ、従来の「高級品」と「普及品」もしくは「廉価品」の機能や品質の差がどんどん縮小していった。「コモディティー化」である。

 あるアパレル関係者に聞いた話であるが、こと「品質」という点に関して今日一番恐ろしい存在は「ユニクロ」だという。例えばジーンズの生地の規格に一番厳しいのは、老舗のジーンズメーカーではなくユニクロらしい。また、インナーウエアなども、デザインはともかく、その生産技術や品質は専業メーカーともはや差異はないそうだ。

 ジーンズのトップブランドといえばリーバイスであろう。しかし、そのマークが表す「二頭の馬が引き裂こうとしても破れない」というような「スペック」だけでは、もはや勝負ができないのである。

 1万9,800円か2万9,800円で購入できる「2プライススーツ」の店に集っているのは、まだ薄給の若いサラリーマンばかりではない。スーツ自体にコストをかけることに意味を見出せなくなり、「コモディティー品で十分」と考える多くの人が購入していっている。

 アパレルやブランド品に特に顕著な傾向であるが、身の回りを見渡すといかにコモディティー品があふれているかが分かる。例えば乗用車のうち小型車・軽自動車の比率がここまで高まったのは、何も低燃費やエコロジーを意識した結果だけではない。「車に対するこだわり」の低下も少なからず作用しているはずだ。

■任天堂 VS ソニーの雌雄を決したもの

 技術の進歩によって製品のスペックには差異がなくなってきている。逆に、ここからさらにスペックを拡張させようとすればきりがなくなる。ともすれば、生活者の求めていないレベル、ついていけないレベルにまで先走ってしまう。

 ブランド論の大家、デビッド・A・アーカーが著した「ブランド・エクイティ戦略」(ダイヤモンド社)を読み返してみると、そこに世の「コモディティー化」を脱するキーワードがある。「知覚品質」という考え方である。

 「知覚品質」とは「顧客が認めている、“その製品ならでは”の価値」である。スペックを重視する「工業的な品質」は当然、「客観的に測定可能な品質」であるが、それに対してアーカーの提唱する「知覚品質」は、目に見えない「顧客の頭の中の主観的な評価」である。言い換えれば、その顧客なりの“対価を支払う理由”である。

 この考えをもう少し具体的な例で見てみよう。ソニーの次世代家庭用ゲーム機「プレイステーション3(PS3)」。グラフィックの描写機能は素晴ら しく、レースのゲームなど、あまりの現実感に見ていると車酔いしそうだ。また、単なるゲーム機にとどまらない拡張性も大きな魅力である。しかし、販売台数では任天堂の「Wii(ウィー)」に大きく水をあけられてしまった。

 理由は価格差だけではあるまい。マシンの性能としては恐らくPS3の方が上だろう。しかし、そこまでの高性能を一般の生活者が求めていたのか。一方のWiiのコントローラーに搭載されている「三次元モーションセンサー」は、体感的にゲームを楽しむという新しい価値を生活者に提示した。今までの延長線上で性能を高めたPS3と、「新しいゲーム体験」を生活者に訴えかけたWii。まさに「工業的な品質」対「知覚品質」の戦いだったのではないだろうか。

 冒頭「人はモノを購入するにあらず。価値を購入しているのだ」と述べた。PS3は「超・高性能な(ゲーム)マシン」という「モノ」だったのではないか。対してWiiは「新しいゲーム体験を提供してくれる存在」としての「価値」が評価されたのではないかと筆者は考える。

 モノは飽和し、コモディティー化の波がとどまることはないだろう。「買わない」「こだわらない」消費者も、さらに増えていくことだろう。企業が顧客視点に立って、「顧客にとっての“価値”とは何なのか」を考えられるようになった時に初めて、生活者は消費の喜びを取り戻すことができるのではないだろうか。


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2007.02.23

不安な色

昨年冬あたりから、バイオレット(もしくはパープル?)のダウンジャケットが大人気のようだ。
若い女性を中心として広がっていったが、最近では男性も着用。
ダウンだけでなく、ほかの衣類や小物にも広がっている。

バイオレットやパープルは、これまでも、秋冬のトレンドカラーとなったことはあったが、これほどの広がりを見せたことはなかったように思う。

そもそもバイオレットorパープル=紫は日本においては古来、高貴な色とされ、聖徳太子が603年に制定した冠位十二階では、最高位の「大徳」は濃い紫、それに次ぐ「小徳」は薄い紫であった。

しかし、スイス・バーゼル大学の心理学者・マックス・ルッシャーは、著書「ルッシャー博士のカラー心理テスト」(絶版)において、「情緒不安をもたらす体の機能不全」を表わすとし、同時に「心や身体が傷ついたときに癒しを求める色」としている。

そうした色が、これだけ流行を見せるということはどうしたことだろう。
好景気と言われつつも、家計に反映されず、下流化の不安もある。
世情全般も、世界情勢も全て不安がいっぱいだ。そんな人々の心の現われなのだろうか。


答えのない文章になってしまったが、流行色を身にまとう人々を見るにつけ、私自身の心も不安が満ちてくる。

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2007.02.22

センター・アイデンティティーの確立に向けて:第4回

LCAコミュニケーションズ社が発行しているコンタクトセンターの専門隔月誌「コンタクトセンターマネジメント」の連載です。
この連載は、金森の自説をコンタクトセンター向けにまとめ直して発表しています。

今回で終了です。

この原稿とは関係ないと思いますが、最近ナゼかまた、コンタクトセンターの世界に関わることが多くなっています。
また、折に触れて原稿もしたためてみようかと思います。

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第4回「ステートメントを作成する」

■現場の関与こそが効果を倍増させる
 第1回から「センター・アイデンティティーの構築」というテーマを掲げて、随分と引っ張ってしまった感もある。しかし、既に述べたように「センター・アイデンティティー」は一度構築すると、そのコンタクトセンターの精神的支柱であり、文字通り「アイデンティティー(identity=identity:個性;独自性,固有性,主体性)」となる。故に、検討に時間をかけても、かけ過ぎと言うことはない。また、その作成プロセスは前回「環境分析」を末端のコミュニケーターも巻き込んで実施し、理解させるよう述べた。さらに、ここから先のステートメント化(明文化)も、センターマネージャー、スーパーバイザー、コミュニケーターが一体となって、まさに缶詰めのミーティングを最低でも一日は行って作成することが必要だ。なぜなら、「上から押しつけられた」という感覚が少しでもあると、「センター・アイデンティティー」は「現場を鼓舞する魔法の言葉」から、単なる(悪い意味での)「お題目」となってしまうからだ。策定プロセスはまさに「業務を行う現場の自分たちが関与した」という事実認識こそがその効果を増すのである。
では、具体的にどのように現場を巻き込めばいいのか。前号で「環境分析」を行うために現場の人間も参画させることが肝要と述べたが、その分析はあまりに多い人数で行うと収拾がつかなくなってしまうため、選抜された人員で実施することになるだろう。それを補う意味も含めて、できるだけ多くの現場スタッフ(スーパーバイザーやコミュニケーター)との個別のミーティング、もしくは少人数でのミーティングを行い、現状認識の共有とさらに詳細な意見のヒアリングを行う必要がある。そして、この時に吸い上げられた意見やキーワードを、実際のステートメント化の際に盛り込むことによって、「現場の意見がきちんと反映されている」という認識を持たせることが可能となるのである。

■「ピラミッドチャート」を活用したステートメント作り
 既にここまで繰り返し述べているように、今日の企業活動は顧客視点を持つことが必要とされている。その中で顧客接点の要諦を担うコンタクトセンターの存在はさらにその重要性は増す。それを形にするために、ここで一つのフレームワークを提唱したい。「ピラミッドチャート」という企業にとって理想的な顧客を中心に据えて、それと自社のフィロソフィーや個性をバランスさせながらステートメントを構築していくためのものだ。(図1)Photo

 そのフレームワークは以下の5つの要素から構成される。
①価値理念・・・その企業の哲学を表す、ブランドの価値ともなる部分。「自社は顧客に対してそのような存在であるのか」を明確にすることが中心となる。
②個性・・・他の企業にはない、その企業の独自性を表す部分。自社にしかできない、顧客に提示できることは何かを明確にする。
③理想とする顧客・・・誰も彼も「大切なお客様」としていたのでは「強いブランド」とはなれない。いや、ブランドとしてのアイデンティティーが形成できないことになる。自社はどのようなお客様のために存在するのかを明確に設定する。
④機能的付加価値・・・理想的な顧客に提供できる物理的メリット。自社が自信を持って提供できるものは何なのかを明確にする。
⑤情緒的付加価値・・・理想的な顧客との各種コミュニケーションを通じて、顧客をどのような気分にさせることができるかという、無形の付加価値を明確にする。
 上記①~⑤を設定するためには、図のピラミッドでそれぞれのパーツがどのような相互関係を持っているのかを意識して検討していくことが大切だ。次のような文章に当てはまる言葉として作り込んでいくといいだろう。

○○会社は、【価値理念】を約束します。
私たちは、【個性】として、
【理想的なお客様】に、
【機能的な付加価値】を提供し、
【情緒的な付加価値】を感じていただくため、努力をしていきます。

この【 】内に当てはまる言葉が見つかったら、前述の図のピラミッドに載せて相互関係を再度点検してみよう。違和感なく、整合性が感じられればブランドステートメントが完成するはずだ。
 
■モノの本質的価値」を理解すること
 上記のようにブランドステートメントを策定し、それに従ってビジネスを展開していくにも、自社の商品・サービスの「本質的な価値」を理解していなければ顧客コミュニケーションも売り方も間違ってしまう。しかし、残念ながらそのような間違った例が散見されてならない。筆者がよく引き合いに出すのが生命保険という商品だ。生命保険という商品の本質的な価値とは何であろうか。「補償額」というものがある意味表面的な価値であろう。筆者は標準より割と高額な生命保険をかけている。その「高額な補償額」が生命保険の「本質的な価値」なのかといえば、答えは「否」である。高額な補償額は当然、月々の掛け金も高い。それを何のために払い続けているのか。その理由は「これだけの額を残せば何か自分にあっても遺された家族は大丈夫だろうという『安心感』」に対して支払っているのだ。つまり、筆者の保険の本質的な価値は「安心感」なのである。
 しかし、かつて筆者の保険の担当営業は非常に対応が悪く、コンタクトをしてこない、申し込みの意思を示しても対応が遅い、申込書類の記入を間違わせる、入院したときになかなか見舞いにも来ないというダメのオンパレードのような人物であった。当然、営業成績も悪いようだった。なぜか?それは、彼が自ら扱っている「生命保険」という商品の「本質的な価値」を理解せずに、補償額や貯蓄性の有利さなどといった表面的なスペックだけを訴求し、契約が済んだ顧客はそっちのけで、またすぐに新規を追い始めるからだ。
 優秀な生命保険の営業担当者は、本質的な価値を理解しているが故に、顧客に対するケアは万全で、それ故、既顧客から紹介をもらい自らの顧客基盤を拡大再生産していくという成功法則を身につけている。元東京大学大学院教授・丸の内ブランドフォーラム代表の片平英貴氏が提唱している「AIDMAモデル」に代わる「AIDEES(Attention・Interest・Desire・Experience・Enthusiasm・Share)モデル」がある。それもExperience(経験)して、その対応の良さにEnthusiasm(惚れ込んで)、人にShare(推奨)するというものだ。
 インターネットの普及でBlogやSNSでの推奨行為は気軽にできるようになっており、その伝播の速度と幅の広さは以前と比べるべくもない。とすれば、「対応の良さにEnthusiasm(惚れ込んで)、人にShare(推奨)する」という図式を達成するためにも、まずは「本質的な価値」を理解した行動や売り方、対応がいかに重要か分かるだろう。それだけではない。理解していない個人が企業の中に存在するだけで、その企業のブランドにダメージを与えることすらあるのだ。

■顧客を「囲い込む」のではなく、顧客が離れたくなくなるようにすること
 昨今、「顧客の囲い込み」という言葉に対する風当たりが強い。どうやらそうした論者は、携帯電話の年間割引や様々な割引サービスに加入させ、途中解約しようとすると違約金を払わねばならなくなるというような、「アトリション・コスト」最大化戦略を批判の中心としているようだ。確かにそれは、「囲い込む」というよりも、さらにカギをかけて逃げられなくするという「ロック・イン」した状態になる。効率は良いが本来的には正しい姿ではないだろう。
 それよりも前項の「Enthusiasm」のように、「惚れ込んで離れられなくなる」という状態に顧客を導く経験(Experience)を提供することが重要であろう。
 再び自身の保険契約の例で恐縮であるが、前述のダメ担当者に愛想を尽かした筆者は、その本社に電話で掛け合い、優秀な担当者に替えてもらった。すると、さすがに本社のお墨付きの“優秀な担当者”だけのことはあった。すばらしく対応がよく、納得感のある保険プランの提案なども万全であった。まさにその担当者に惚れ込んだ筆者は、彼に何か良くしてやれることはないかと、事ある毎に保険に関心のある知人や部下を紹介した。正に彼は既顧客に対する良好な対応によって、前述の既顧客から紹介をもらい自らの顧客基盤を拡大再生産していくという成功の法則を実現しているのだ。

■ミッションステートメントと対になる「運営指針」と「行動規範」
 さて、ミッションステートメントが完成したら、センターの「理念」に関する部分はきちんと設定できたことになる。さらにその理念を実行レベルに移すために、第一回で紹介したように、それと対になる、センターの「運営指針」とそのセンターの構成員のための「行動規範」を設定しよう。(図2・再掲)Photo_1
ミッションステートメントは図の例では「理念」の部分に当たる。そこに所属するスタッフの存在意義と、本来あるべき姿というもっとも根源的な要素を規定している。次の「運営指針」は「理念」で規定された存在であるスタッフが、そのセンターのミッション、つまりセンターとしてのあるべき姿や向かうべき方向性を理解するために規定する。そして、そこまでの理解がなされた後に「行動規範」で「運営指針」に従って、本来あるべき姿を理解したスタッフとしてそのように具体的に行動するべきなのかを規定する。この「運営指針」と「行動規範」は各企業の考え方や文化によって内容や表現方法が変わってくるため、フレームワーク化が難しいためここでは例示しない。しかし、理念と運営指針・行動規範は一対のものであるため整合性がとれていることが重要であることを作成上の注意点として述べておきたい。

■この機会にコミュニケーターの呼称も見直してみよう
 センター・アイデンティティーを完成させるためには前述のようなミッションステートメントによる「理念」の明文化、さらに「運営指針」「行動規範」を制定するだけではなく、さらに拡大する場合もある。目的は以下に現場をモチベートし、活性化するかであるが、そのためにはコミュニケーターの呼称を改訂するという方法もお勧めである。コンタクトセンターで顧客と対応する担当者は、以前は「オペレーター」と呼ばれることが多かったが、その響きがoperation=作業をする者という、「処理」をイメージするためにあまり使われなくなっているようだ。替わって、顧客とcommunicationをする者という意味から「コミュニケーター」という呼称か、具体的な成果を出すという意味でTSR(Telephone Sales Representative)という呼称が使われる場合が多いようだ。しかし、実際には特にTSRという略称の本来の意味も理解していない担当者も多い。また、コミュニケーターとい呼称が一般的すぎて自分たちの存在の定義ができないといった声も聞かれる。そこで、効果的なのが、センター・アイデンティティーを完成させる一環として、その呼称を改訂してしまうことだ。自分たちがどのような存在でありたいのか。また、そのためにはどのような呼称がふさわしいと思うのか。それは現場の意見を十分ヒアリングする必要があるが、筆者は以前、あるセンターで「コミュニケーション・エキスパート」という呼称に改訂した事例を持っている。コミュニケーションを行う専門家という意味合いであるが、専門家としての誇りを感じつつ、それにふさわしいコミュニケーションのあり方を常に意識させるという意味で大変効果を上げることができたのである。

■インナープロモーションによって盛り上げ、定着を図る
 さて、このようにして一連のセンター・アイデンティティーを完成させていくのであるが、さらに力を入れる場合は「コンタクトセンター」という一般名称から、センターそのものの名称も開発したり、さらにそのロゴやシンボルマークを開発したりする例もある。要するに、どこまでやれば、どの程度センターのあらゆる階層の担当者がモチベートされ成果につながるかという観点で考えるのだ。さすがにセンター名称やロゴ、シンボルマークなどは各企業、センターの個別要素が大きいため、本稿で一般法則を語ることはできないため割愛するが、そこまでやって効果が上がるとなれば、ぜひとも踏み込んで欲しい部分である。
 さらに、制定した一連のセンター・アイデンティティーは定着させなければ意味がない。具体的には車内へのインナープロモーションを展開するのである。とかく、社内においてコンタクトセンターは弱い立場になりがちである。そのセンターが大きく変わったことをアピールし、存在意義やスタンスを再認識させるのだ。具体的には社内へのポスターの貼付やセンター見学会の実施、社内向け説明資料の作成などである。このインナープロモーションの展開によって、社内からの見られ方が変わるだけでなく、センターの各担当者も「社内にこれだけアピールされた」というモチベーションアップ効果も大きく作用する。

■ミッションステートメントのもう一つの活用法
 最後に、現場で頑張るスーパーバイザーやコミュニケーターのモチベーションをさらに向上させる、とっておきの方策を紹介しよう。それを筆者は「マイ・ミッションステートメントの構築」と呼んでいる。即ち、個々のコミュニケーターやスーパーバイザー自身に、先の構築したセンター全体のミッションステートメントを受けて、「その実現のために自分自身はどのように行動していくのか」ということを、同じピラミッドチャートを用いて考えさせ、「宣言」させるのだ。その際は以下のような文言になる。

 「私、○○は、【価値理念】を約束します。私は、【個性】として、【理想的なお客様】に、【機能的な付加価値】を提供し、【情緒的な付加価値】を感じていただくため、努力をしていきます」。

 センター全体のステートメントとの違いは、主語が「私」になっていることだ。いわばこれは、個々人がセンター全体のミッションステートメントをどのように解釈し、その実現のためにどのような努力をしていくかを問うて、会社に対して何を約束するのかという「宣言」をさせるのだ。「有言実行」という言葉があるが、この「宣言」をさせることにより、コミュニケーターやスーパーバイザーは自らを鼓舞することになる。その際、ステートメントの構築方法を教える、「研修」の形式を取り、20人程度を集めて構築作業をさせ、最後に研修の参加者全員の前で「宣言」をさせるとさらに効果的である。

 以上、4回にわたって述べてきたセンター・アイデンティティーの構築であるが、繰り返せばポイントはまず、第2回に記した「環境分析」によって現状認識をさせること。そして第3回に記した「顧客対応の重要性」を再認識させること。さらに、いかに現場に目的意識を持たせ、モチベーションを向上させるかにある。その意味からも総仕上げとして、今回最後に記した「宣言」のような儀式めいた方策も重要である。ぜひ、この一連の手法によって、センター全体が活性化することを祈念してこの連載を終えることとしよう。


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2007.02.16

続・10個で1000円

昨年10月に、地元の駅改札付近に出店を出しているドーナツ屋の話しを書いた。

「ドーナツ各種詰め合わせ」を10個で1000円で販売している。

http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2006/10/101000_f354.html

それを見て金森は「この核家族・少子化の時代に10個は多いだろう。5個で500円なら買うのに」と考えた。

が、店員に聞いたところ、最近随分と売れているのだという。
夕方から夜までで何と、150セット、15万円。

だいぶ地道に販売を続け、認知が上がったことが大きな要因だそうだ。
さらに、一時やはり「5個で500円」も試したとのこと。

すると、10個パックが全く売れなくなってしまい、売上が落ちてしまったそうだ。

では、誰が10個ものドーナツを買って帰るのか。
それは「高齢で、誰かにお土産にする人。しかもドーナツ屋に入る習慣がなく、また、入ったとしても自分でドーナツを選べない人」だそうだ。

そうした人の認知が上がったことで、自家消費のため5個パックを販売するよりも、10個パックに絞って販売した方が高い売上を上げられるという。

果たして、そのお土産を受け取った家族が10個のドーナツを全て食べきれるのかは分からないが、ともかく、マーケティングで重要な、「誰が・どんな理由で・買うのか」を満たしている事例だと思った。

以上、10月の書き込みの続編でした。

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2007.02.02

"コミュニケーション不全"時代のマーケティングとビジネス

日経BizPlusの連載が更新されました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm


少々大きなテーマなので、執筆を躊躇しましたが、思い切って書いてみました。
皆様の周りで同様な事象が起きているということがあれば、是非お聞かせいただければと思います。


----------------<以下バックナンバー用転載>-----------------------

 「コミュニケーション不全」は昨今、ニッポンの現代病の1つとも言われている。「コミュニケーション(communication)」の語源は、ラテン語の「共通したもの」を表す(コミュニス:communis)や、「共有物」を表す(コモン:common)にあるという説が有力だ。それが「不全(機能や活動が完全でないこと)」であるというのは、すなわち人と人、もしくは特定の集団内、さらには社会において、他者の意識や価値観を共有できず、適切な(relevant)関係が構築できない状態を表している。

 このコミュニケーション不全、「過度のメール依存」や「引きこもり」などに通じる若者の問題としてクローズアップされることが多いが、ビジネスの世界も例外ではない。達成されない営業目標、繰り返し起きるミス、製品トラブル・・・。それらの原因が「コミュニケーション」にあることも少なくない。

■「伝わっているハズ」という思い込み

 コミュニケーションはマーケティングの要であり、マーケティングの世界で「コミュニケーション不全」は看過できない問題になりつつある。

 ある飲料メーカーのお客様相談センターマネジャーの話である。ホットの緑茶ボトルに「ホット専用」と記して発売したところ、「冷めてしまったが飲んで大丈夫か?」という問い合わせが相次ぎ、やむなく「温めてもおいしい」と表記を変更したという。

 普通に考えればいくら「専用」と書いてあったとしても、それがぬるくなったり、冷めてしまったりしたからといって、飲用に問題があるとは思い難い。しかし、顧客の感覚はそうではなかった。これは、旧来企業が考えていた「分かるハズ」「伝わるハズ」という感覚が、今日では危うい幻想でしかないことを示す事例といえるだろう。

■ミドルの得意技は“スルーパス”?

 企業の社員間であれば、古い言葉でいえば「同じ釜の飯を食った仲」であり共通認識も持ちやすく、コミュニケーションロスなど発生しないと思いがちだ。だが、現実にそれは起きている。

 スルーパスといえば、昨年のW杯ドイツ大会におけるブラジル-日本戦で、後半14分のジウベルトによるブラジル3点目のゴールをもたらした、ロナウジーニョのスルーパスが記憶に新しい。しかし、ここで筆者がいう“スルーパス”は、そのような芸術的な技とはほど遠い。企業内でトップからの方針を、そのままスルー(threw:通り抜け)して、部下に落とす中間管理職の様を指す。

 トップから提示されるのはどの企業でも「方向性」であり、それをミドルが解釈した上で、効果的・効率的な方法論に基づいて現場を指揮し、実行に導く。各々の持ち場でトップの方針を具体化し実現するのが、ミドルの正常な姿だ。しかし現実には、トップの方針がブレイクダウンされないまま、現場への「スルーパス」が横行している。

 企業業績がよく、勢いのあるうちは現場が各々の解釈で動き、それなりの成果を上げていく。しかし、いったん業績が悪化し始め、苦境に立たされると、途端に現場の動きが鈍くなったり、ちくはぐになったりする。そして、その時点で「スルーパス」という悪弊のツケがあらわになり、ミドルは自身の存在意義と責任を問われることになる。

■一人歩きするスローガンやキャッチコピー

 今日、多くの企業内で、また巷(ちまた)で、うわべだけのスローガンやキャッチフレーズが一人歩きしている。誰が聞いてもNOとは言いにくい「体言止め」や美辞麗句、聞こえのよいカタカナや英語など――例えば「お客様への安心と満足感の提供」のような言葉だ。

 しかし実態としては、各々の社員や顧客が理解する「安心」と「満足」は異なっていたりする。そもそも「お客様が安心できる」とはどのような状態なのか?そしてそれは、そのようにして実現できるものなのか?また、顧客は何に対して、どのような状態になれば「満足」を感じるのか。そうした定義と、実現のための方法論が明らかになっていない。共通認識のないまま、便利な言葉をもてあそび、そこから先を考えなくなる「思考停止」に陥っているのだ。当然、言葉が表すような成果は達成されない。こうした現象も、「コミュニケーション不全」以外の何者でもない。

■「論理思考」に基づくコミュニケーションへの転換

 コピーライターは広告コミュニケーションの花形職業だが、筆者の知人は、「最近、ヒット作と評価されるキャッチコピーが作りにくくなっている」と嘆く。曰く、「人々の行動様式が多様化している結果、価値観や心理も様々に細分化した。共通の体験や知識のバックグラウンドを元に、誰もが『ああ、こんなことを言っているのか。うまい言葉を遣うなぁ』と感心するようなコピーはもはや成立しない」のだと。加えて、日本人に特徴的な相手への「思いやり」や「行間を読む」能力が低下していることも、「伝わりにくさ」の要因なのだろうと分析する。

 確かに、これまで日本語はあいまいさや、「言わずもがな」といった土壌を容認してきた。だが、今日のビジネス環境は、もはやそれを許さなくなっている。「コミュニケーション不全」を放置すれば、業績に影響するだけでなく、企業の信頼が失墜するような、製品の安全や品質に関するトラブルや、顧客対応における大きなミスといったクリティカルな事象を引き起こしかねない。

 今日のビジネスにおいては、旧来の「伝わること」「分かり合えること」を前提としたコミュニケーションを改め、逆に「非論理的な表現・論旨の展開では伝わらない」ことを認識し、「伝わらない前提で、どうすれば伝わるか」を考える必要がある。「きちんと伝わる」「理解される」ためには、もはや感覚に訴えた耳あたりのよい言葉の羅列では済まされなくなっているのだ。ビジネスパーソンの必須リテラシーの1つとして、「論理思考」の重要性が叫ばれている。対顧客や社内におけるコミュニケーションも、この「論理思考」を基軸として、早急に考え直すべきではないだろうか。


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