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2007.02.22

センター・アイデンティティーの確立に向けて:第4回

LCAコミュニケーションズ社が発行しているコンタクトセンターの専門隔月誌「コンタクトセンターマネジメント」の連載です。
この連載は、金森の自説をコンタクトセンター向けにまとめ直して発表しています。

今回で終了です。

この原稿とは関係ないと思いますが、最近ナゼかまた、コンタクトセンターの世界に関わることが多くなっています。
また、折に触れて原稿もしたためてみようかと思います。

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第4回「ステートメントを作成する」

■現場の関与こそが効果を倍増させる
 第1回から「センター・アイデンティティーの構築」というテーマを掲げて、随分と引っ張ってしまった感もある。しかし、既に述べたように「センター・アイデンティティー」は一度構築すると、そのコンタクトセンターの精神的支柱であり、文字通り「アイデンティティー(identity=identity:個性;独自性,固有性,主体性)」となる。故に、検討に時間をかけても、かけ過ぎと言うことはない。また、その作成プロセスは前回「環境分析」を末端のコミュニケーターも巻き込んで実施し、理解させるよう述べた。さらに、ここから先のステートメント化(明文化)も、センターマネージャー、スーパーバイザー、コミュニケーターが一体となって、まさに缶詰めのミーティングを最低でも一日は行って作成することが必要だ。なぜなら、「上から押しつけられた」という感覚が少しでもあると、「センター・アイデンティティー」は「現場を鼓舞する魔法の言葉」から、単なる(悪い意味での)「お題目」となってしまうからだ。策定プロセスはまさに「業務を行う現場の自分たちが関与した」という事実認識こそがその効果を増すのである。
では、具体的にどのように現場を巻き込めばいいのか。前号で「環境分析」を行うために現場の人間も参画させることが肝要と述べたが、その分析はあまりに多い人数で行うと収拾がつかなくなってしまうため、選抜された人員で実施することになるだろう。それを補う意味も含めて、できるだけ多くの現場スタッフ(スーパーバイザーやコミュニケーター)との個別のミーティング、もしくは少人数でのミーティングを行い、現状認識の共有とさらに詳細な意見のヒアリングを行う必要がある。そして、この時に吸い上げられた意見やキーワードを、実際のステートメント化の際に盛り込むことによって、「現場の意見がきちんと反映されている」という認識を持たせることが可能となるのである。

■「ピラミッドチャート」を活用したステートメント作り
 既にここまで繰り返し述べているように、今日の企業活動は顧客視点を持つことが必要とされている。その中で顧客接点の要諦を担うコンタクトセンターの存在はさらにその重要性は増す。それを形にするために、ここで一つのフレームワークを提唱したい。「ピラミッドチャート」という企業にとって理想的な顧客を中心に据えて、それと自社のフィロソフィーや個性をバランスさせながらステートメントを構築していくためのものだ。(図1)Photo

 そのフレームワークは以下の5つの要素から構成される。
①価値理念・・・その企業の哲学を表す、ブランドの価値ともなる部分。「自社は顧客に対してそのような存在であるのか」を明確にすることが中心となる。
②個性・・・他の企業にはない、その企業の独自性を表す部分。自社にしかできない、顧客に提示できることは何かを明確にする。
③理想とする顧客・・・誰も彼も「大切なお客様」としていたのでは「強いブランド」とはなれない。いや、ブランドとしてのアイデンティティーが形成できないことになる。自社はどのようなお客様のために存在するのかを明確に設定する。
④機能的付加価値・・・理想的な顧客に提供できる物理的メリット。自社が自信を持って提供できるものは何なのかを明確にする。
⑤情緒的付加価値・・・理想的な顧客との各種コミュニケーションを通じて、顧客をどのような気分にさせることができるかという、無形の付加価値を明確にする。
 上記①~⑤を設定するためには、図のピラミッドでそれぞれのパーツがどのような相互関係を持っているのかを意識して検討していくことが大切だ。次のような文章に当てはまる言葉として作り込んでいくといいだろう。

○○会社は、【価値理念】を約束します。
私たちは、【個性】として、
【理想的なお客様】に、
【機能的な付加価値】を提供し、
【情緒的な付加価値】を感じていただくため、努力をしていきます。

この【 】内に当てはまる言葉が見つかったら、前述の図のピラミッドに載せて相互関係を再度点検してみよう。違和感なく、整合性が感じられればブランドステートメントが完成するはずだ。
 
■モノの本質的価値」を理解すること
 上記のようにブランドステートメントを策定し、それに従ってビジネスを展開していくにも、自社の商品・サービスの「本質的な価値」を理解していなければ顧客コミュニケーションも売り方も間違ってしまう。しかし、残念ながらそのような間違った例が散見されてならない。筆者がよく引き合いに出すのが生命保険という商品だ。生命保険という商品の本質的な価値とは何であろうか。「補償額」というものがある意味表面的な価値であろう。筆者は標準より割と高額な生命保険をかけている。その「高額な補償額」が生命保険の「本質的な価値」なのかといえば、答えは「否」である。高額な補償額は当然、月々の掛け金も高い。それを何のために払い続けているのか。その理由は「これだけの額を残せば何か自分にあっても遺された家族は大丈夫だろうという『安心感』」に対して支払っているのだ。つまり、筆者の保険の本質的な価値は「安心感」なのである。
 しかし、かつて筆者の保険の担当営業は非常に対応が悪く、コンタクトをしてこない、申し込みの意思を示しても対応が遅い、申込書類の記入を間違わせる、入院したときになかなか見舞いにも来ないというダメのオンパレードのような人物であった。当然、営業成績も悪いようだった。なぜか?それは、彼が自ら扱っている「生命保険」という商品の「本質的な価値」を理解せずに、補償額や貯蓄性の有利さなどといった表面的なスペックだけを訴求し、契約が済んだ顧客はそっちのけで、またすぐに新規を追い始めるからだ。
 優秀な生命保険の営業担当者は、本質的な価値を理解しているが故に、顧客に対するケアは万全で、それ故、既顧客から紹介をもらい自らの顧客基盤を拡大再生産していくという成功法則を身につけている。元東京大学大学院教授・丸の内ブランドフォーラム代表の片平英貴氏が提唱している「AIDMAモデル」に代わる「AIDEES(Attention・Interest・Desire・Experience・Enthusiasm・Share)モデル」がある。それもExperience(経験)して、その対応の良さにEnthusiasm(惚れ込んで)、人にShare(推奨)するというものだ。
 インターネットの普及でBlogやSNSでの推奨行為は気軽にできるようになっており、その伝播の速度と幅の広さは以前と比べるべくもない。とすれば、「対応の良さにEnthusiasm(惚れ込んで)、人にShare(推奨)する」という図式を達成するためにも、まずは「本質的な価値」を理解した行動や売り方、対応がいかに重要か分かるだろう。それだけではない。理解していない個人が企業の中に存在するだけで、その企業のブランドにダメージを与えることすらあるのだ。

■顧客を「囲い込む」のではなく、顧客が離れたくなくなるようにすること
 昨今、「顧客の囲い込み」という言葉に対する風当たりが強い。どうやらそうした論者は、携帯電話の年間割引や様々な割引サービスに加入させ、途中解約しようとすると違約金を払わねばならなくなるというような、「アトリション・コスト」最大化戦略を批判の中心としているようだ。確かにそれは、「囲い込む」というよりも、さらにカギをかけて逃げられなくするという「ロック・イン」した状態になる。効率は良いが本来的には正しい姿ではないだろう。
 それよりも前項の「Enthusiasm」のように、「惚れ込んで離れられなくなる」という状態に顧客を導く経験(Experience)を提供することが重要であろう。
 再び自身の保険契約の例で恐縮であるが、前述のダメ担当者に愛想を尽かした筆者は、その本社に電話で掛け合い、優秀な担当者に替えてもらった。すると、さすがに本社のお墨付きの“優秀な担当者”だけのことはあった。すばらしく対応がよく、納得感のある保険プランの提案なども万全であった。まさにその担当者に惚れ込んだ筆者は、彼に何か良くしてやれることはないかと、事ある毎に保険に関心のある知人や部下を紹介した。正に彼は既顧客に対する良好な対応によって、前述の既顧客から紹介をもらい自らの顧客基盤を拡大再生産していくという成功の法則を実現しているのだ。

■ミッションステートメントと対になる「運営指針」と「行動規範」
 さて、ミッションステートメントが完成したら、センターの「理念」に関する部分はきちんと設定できたことになる。さらにその理念を実行レベルに移すために、第一回で紹介したように、それと対になる、センターの「運営指針」とそのセンターの構成員のための「行動規範」を設定しよう。(図2・再掲)Photo_1
ミッションステートメントは図の例では「理念」の部分に当たる。そこに所属するスタッフの存在意義と、本来あるべき姿というもっとも根源的な要素を規定している。次の「運営指針」は「理念」で規定された存在であるスタッフが、そのセンターのミッション、つまりセンターとしてのあるべき姿や向かうべき方向性を理解するために規定する。そして、そこまでの理解がなされた後に「行動規範」で「運営指針」に従って、本来あるべき姿を理解したスタッフとしてそのように具体的に行動するべきなのかを規定する。この「運営指針」と「行動規範」は各企業の考え方や文化によって内容や表現方法が変わってくるため、フレームワーク化が難しいためここでは例示しない。しかし、理念と運営指針・行動規範は一対のものであるため整合性がとれていることが重要であることを作成上の注意点として述べておきたい。

■この機会にコミュニケーターの呼称も見直してみよう
 センター・アイデンティティーを完成させるためには前述のようなミッションステートメントによる「理念」の明文化、さらに「運営指針」「行動規範」を制定するだけではなく、さらに拡大する場合もある。目的は以下に現場をモチベートし、活性化するかであるが、そのためにはコミュニケーターの呼称を改訂するという方法もお勧めである。コンタクトセンターで顧客と対応する担当者は、以前は「オペレーター」と呼ばれることが多かったが、その響きがoperation=作業をする者という、「処理」をイメージするためにあまり使われなくなっているようだ。替わって、顧客とcommunicationをする者という意味から「コミュニケーター」という呼称か、具体的な成果を出すという意味でTSR(Telephone Sales Representative)という呼称が使われる場合が多いようだ。しかし、実際には特にTSRという略称の本来の意味も理解していない担当者も多い。また、コミュニケーターとい呼称が一般的すぎて自分たちの存在の定義ができないといった声も聞かれる。そこで、効果的なのが、センター・アイデンティティーを完成させる一環として、その呼称を改訂してしまうことだ。自分たちがどのような存在でありたいのか。また、そのためにはどのような呼称がふさわしいと思うのか。それは現場の意見を十分ヒアリングする必要があるが、筆者は以前、あるセンターで「コミュニケーション・エキスパート」という呼称に改訂した事例を持っている。コミュニケーションを行う専門家という意味合いであるが、専門家としての誇りを感じつつ、それにふさわしいコミュニケーションのあり方を常に意識させるという意味で大変効果を上げることができたのである。

■インナープロモーションによって盛り上げ、定着を図る
 さて、このようにして一連のセンター・アイデンティティーを完成させていくのであるが、さらに力を入れる場合は「コンタクトセンター」という一般名称から、センターそのものの名称も開発したり、さらにそのロゴやシンボルマークを開発したりする例もある。要するに、どこまでやれば、どの程度センターのあらゆる階層の担当者がモチベートされ成果につながるかという観点で考えるのだ。さすがにセンター名称やロゴ、シンボルマークなどは各企業、センターの個別要素が大きいため、本稿で一般法則を語ることはできないため割愛するが、そこまでやって効果が上がるとなれば、ぜひとも踏み込んで欲しい部分である。
 さらに、制定した一連のセンター・アイデンティティーは定着させなければ意味がない。具体的には車内へのインナープロモーションを展開するのである。とかく、社内においてコンタクトセンターは弱い立場になりがちである。そのセンターが大きく変わったことをアピールし、存在意義やスタンスを再認識させるのだ。具体的には社内へのポスターの貼付やセンター見学会の実施、社内向け説明資料の作成などである。このインナープロモーションの展開によって、社内からの見られ方が変わるだけでなく、センターの各担当者も「社内にこれだけアピールされた」というモチベーションアップ効果も大きく作用する。

■ミッションステートメントのもう一つの活用法
 最後に、現場で頑張るスーパーバイザーやコミュニケーターのモチベーションをさらに向上させる、とっておきの方策を紹介しよう。それを筆者は「マイ・ミッションステートメントの構築」と呼んでいる。即ち、個々のコミュニケーターやスーパーバイザー自身に、先の構築したセンター全体のミッションステートメントを受けて、「その実現のために自分自身はどのように行動していくのか」ということを、同じピラミッドチャートを用いて考えさせ、「宣言」させるのだ。その際は以下のような文言になる。

 「私、○○は、【価値理念】を約束します。私は、【個性】として、【理想的なお客様】に、【機能的な付加価値】を提供し、【情緒的な付加価値】を感じていただくため、努力をしていきます」。

 センター全体のステートメントとの違いは、主語が「私」になっていることだ。いわばこれは、個々人がセンター全体のミッションステートメントをどのように解釈し、その実現のためにどのような努力をしていくかを問うて、会社に対して何を約束するのかという「宣言」をさせるのだ。「有言実行」という言葉があるが、この「宣言」をさせることにより、コミュニケーターやスーパーバイザーは自らを鼓舞することになる。その際、ステートメントの構築方法を教える、「研修」の形式を取り、20人程度を集めて構築作業をさせ、最後に研修の参加者全員の前で「宣言」をさせるとさらに効果的である。

 以上、4回にわたって述べてきたセンター・アイデンティティーの構築であるが、繰り返せばポイントはまず、第2回に記した「環境分析」によって現状認識をさせること。そして第3回に記した「顧客対応の重要性」を再認識させること。さらに、いかに現場に目的意識を持たせ、モチベーションを向上させるかにある。その意味からも総仕上げとして、今回最後に記した「宣言」のような儀式めいた方策も重要である。ぜひ、この一連の手法によって、センター全体が活性化することを祈念してこの連載を終えることとしよう。


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Really like the blog, appreciate the share!

Posted by: Allyssa | 2012.04.24 02:14 PM

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