販促会議 「質問編」顧客視点”入門講座
販促会議の連載を掲出します。
予告通り、BtoBについて2回連続で執筆しました。
2月1日発売の本誌には第11回(通算第23回)が掲載されていますので、連載はあと1回で終了です。
現在、最終回を執筆しています。
2年間の長きに渡って、マーケティングの基礎を「顧客視点」で洗い直すという作業をやってきました。
全て書き上げたら、この連載原稿を書籍用に改変していこうと思っています。
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第10回「我が社はB to Bの会社なのですが」
読者の方から「我が社はB to Bの会社なのですが、その場合のマーケティングのキモとは何でしょうか?」という質問を頂いた。確かに当連載では主に個人顧客向け(B to C:Business to Consumer)寄りの論説が多かった。法人顧客向け(B to C:Business to Business)のマーケティングは、いくつかの点でB to Cと大きな違いがあり、そのままでは応用が難しい場合も少なくない。そこで今回と次回の2回にわたってB to Bにおける要諦を記す。
■まずはB to CとB to Bの違いを認識せよ
顧客が個人であった場合のマーケティングのキモとは何かと考えれば、今までの連載を思い出す以前に、自分自身の一生活者としての購入意思決定プロセスを考えてみればわかるだろう。まず、自分自身はその企業にとって、どの程度の上顧客であるかはともかくとして、数多存在する顧客の一人でしかない。しかし、法人顧客は業種にもよるが、対象となる数が限られている。つまり、B to Bの第一に怖いところは、B to Cと違い、一個客を喪失したときのダメージが大きいことだ。B to Cの場合でも顧客、特に上顧客は大切にしなくてはならないが、B to Bの場合、顧客一社の喪失がその企業の命取りにもなりかねない場合すらあるのだ。
次に、購買動機に注目してみよう。B to Cの場合は購入者自身が満足か何らかの便益を得ることを目的として、ある時は衝動的に、もしくは習慣的な購入が行われることが多い。対してB to Bの場合は、企業の利益を目的として、計画的かつ合理的な判断の下に購買が決定される。購買担当者はその取引の内容によって、自身の業務評価にかかわる場合もあるため真剣である。
さらに購買プロセスを考えよう。B to Cの場合、購買関与者は本人か、その本人と親しい少数の人間に限られ、購買決定までの期間も短い。逆にB to Bの場合、購買関与者は多人数であり、企業内の複数部門にまたがって存在することも少なくない。そのため、その調整や意思決定に時間を要することも特徴的だ。
■DMU(Decision Making Unit =意思決定構成単位)を見つけて攻略せよ
さて、B to C とB to Bの対比によってその特徴がわかったら、まずはその中の一番目のキモをおさえよう。それは「DMUを見つけ出し、その各々に対する攻略方法を練ること」である。DMUを日本語に直すと「意思決定構成単位」などというわかりにくい表現になってしまうが、要するに企業内で商品(製品)を購入(導入)しようとする場合にかかわってくる人々の総称である。代表的なのは、導入の検討・申請をするキーマン。その申請によって購入(導入)の意思決定をするディシジョンメーカー。キーマンの検討やディシジョンメーカーの意思決定に何らかの影響を与えるインフルエンサーなどがいる。また、新規取引の場合は、キーマンに行き当たるまで突破しなくてはならないゲートキーパーが存在する場合もある。さらに、前述のキーマン以外のディシジョンメーカー、インフルエンサーが複数存在する場合もある。そして、各々の関心事が立場によって随分と異なるのが難しいところだ。
■DMU各々の関心事に注意せよ
具体的な例を見てみよう。ある企業がコンピュータシステムを導入しようとした場合、キーマンはIT部門の担当者ということになるだろう。その担当者の関心事は、製品であるシステムの安定性(品質)とスペックの高さ。さらに、納期の正確性などにあるはずだ。また、システムのメンテナンスを外部委託している場合など、委託先の責任者は購入の意思決定の権限はないにしろ、直接導入したシステムのメンテナンスを行う関係上、インフルエンサーとしての意見を言うだろう。その際、メーカーの技術支援体制などを気にするはずだ。そして、キーマンとインフルエンサーは過去にそのメーカーと良好な取引を行われているのであれば、できるだけその企業を指名したがる傾向が強い。
その申請を受け、意思決定する部門の上司はディシジョンメーカーになるが、この立場の関心事は過去の取引関係などよりも、安定性(品質)とスペックの高さに絞り込まれる。要するに「結果」である。当然、購入(導入)の最終的な結果責任を負う立場である以上、当然だ。
さらに、インフルエンサーとして最もドライな存在が登場する場合もある。購買部門がその企業にある場合だ。担当部門長が意思決定したとしても、最終的に購買部門がOKを出さなければ、取引が成立しない。今日ではある程度の大きな規模の企業ではめずらしくない存在であり、その関心事はコストである。そのため、現場担当者が過去の実績や良好な取引関係などによって、特定企業との継続取引をしようとするのに対して、複数企業との競合環境を作りたがる。インフルエンサーとして購買部門が乗り出してくるか否かは大きな要因なので注意が必要だ。
以上のように、DMUを特定し、DMUごとに異なる関心事をおさえてアプローチすることがB to Bの場合非常に重要であると理解してほしい。
■新規開拓の場合:ゲートキーパー突破法を考えよ
B to Bの場合、B to Cと異なり、購買関与者は多人数であり、企業内の複数部門にまたがって存在することも少なくないと先に述べたが、そもそもDMUがどこにどう存在するのか、新規開拓の場合は皆目わからない。又は、組織体制などがWEBで公開されており、おおよその攻略すべき部署がわかったとしても、この個人情報保護は進む今日、キーマンの個人名を特定して人的セールスをいきなり行うことはできない。そのため、B to Bの場合はセミナーや展示会の開催などによって、キーマンの名刺・アンケートなどを収集する活動が頻繁に行われる。しかし、そのようなコストや時間がかけられない場合、電話やDMなどでダイレクトなアプローチをかけることになる。「○○業務御担当者様」など個人名を特定せずに(スラッグタイトルという)届けられるDMを受け取ったこともあるだろう。担当者レベルにはまだこの方法でもアプローチできるが、役員やトップに対するアプローチを行おうとした場合は、秘書部門や総務部門が強力なゲートキーパーとして立ちふさがる。彼らの関心事は、役員やトップに無駄な情報で時間を浪費させないことである。そのため、DMはまず開封され、大方が捨てられてしまう。電話なら取り次がれずに丁重に断られる。
以前、成功したトップ向けのDMアプローチは以下のようなものがある。まず、封書のあて先は秘書あてとして、レターにどのような主旨の案内であり、その企業にとってどのような便益を提供するものであるかを明確に述べた。そして、さらにもう一通封書の中に社長あての封書を同封し(メール・イン・メールという)、さらにそれを社長に秘書から手渡してもらう労に対するちょっとしたオファーも同封した。この結果、秘書はDMの主旨を理解し、社長にどのような主旨のDMが届いているかということを伝えて手渡してくれたのであろう。アプローチした企業の社長から、予想を大きく上回るレスポンスを得ることができた。つまり、ゲートキーパーというDMUは「役員やトップに無駄な情報で時間を浪費させないこと」という関心事に加え、「必要な情報は適切に伝達すること」であるという本質を考えたことが勝因である。
以上、今回はB to Bのマーケティングの要諦としてDMUに関することを中心に述べたが、次回もB to Bのマーケティングを引き続き論説していきたい。
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