センター・アイデンティティーの確立に向けて:第3回
当社の期末が近づいているため、かなり厳しいスケジュールの日々を送っております。
というわけで、このBlogも更新できずにおりましたが、久々にバックナンバーをアップします。
LCAコミュニケーションズ社が発行しているコンタクトセンターの専門隔月誌「コンタクトセンターマネジメント」の連載、この連載は、金森の自説をコンタクトセンター向けにまとめ直して発表しています。
第3回を遅ればせながらお届けいたします。
あと1回、第4回で終了となります。
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第3回「顧客との良好な関係構築と自社の本質的価値をさらに深く考える」
前号は筆者が事故で入院してしまったため執筆ができず、休載してしまった。まずはお詫びを申し上げたい。また、久々になるため、前回の内容を振り返るところから再開したい。
前号ではセンター・アイデンティティーのステートメント化(明文化)のための準備作業として、第一に、センターに勤務するスーパーバイザーやコミュニケーターを巻き込みセンターの現状を的確にとらえるための環境分析から始めることをお勧めした。
そして次に、センター・アイデンティティーの根幹となる「カスタマーインサイト」というフレームワークを解説した。その中でも、「Peace of Mind」とその要諦である「本質的価値」の理解が重要であると述べた。「自分が顧客に提供するものの真の価値はどこにあるのか」をとことん考える。そして「自分たちはこんな存在なんだ」という確信が持てれば、おのずと次に「それではお客様にはこんなふうに接しよう」という、とるべき行動が見えてくるからだ。
しかし、残念ながら、筆致が至らなかったせいか、休載中に筆者のBlogを通じて質問のメールがいくつか寄せられた。そこで、今回はここまでのプロセスで伝え切れていない部分のモレ・抜けをなくすため、さらに別の切り口で論を補うこととしたい。
■鉄則:「顧客との良好な関係」は一足飛びには構築できない!
前回示した、<Recognition><Time Saving><Peace of Mind>という3つの要素からなる「カスタマーインサイト」というフレームワーク。そしてその実行のためには、構成要素を逆さまに組み直しRecognition→Time Saving→Peace of Mindというステップで考えれば「どのように顧客を理解すべきか」もより明確になり、行動に移しやすいと記した。そして、読者から「今まで気付きませんでした。早速実行に移せます!」とメールを頂いた。だが、もう少し待ってもらいたい。ことはそう簡単には済まないはずだ。そもそも、「顧客との良好な関係」などというものは、一朝一夕で構築できればどの企業も苦労はしない。ものごとにはステップというものがあるだろう。
マーケティングの教科書的には、顧客との関係構築のステップを5段階でまとめているものが多いようだ。「見込み客(Prospect)」→「顧客(Customer)」→「得意客(Clients)=反復購入や口コミに貢献する」→「支持者(Supporter)=企業に対する良き提案者」→「代弁者・擁護者(Advocator)=共感を示すサポーター」→「パートナー(Partners)=企業と共に新規機会を創出する」といった分類だ。しかしこのモデルだと少々複雑なため、筆者は3段階に簡素化して説明することにしている。しかし、5段階でも3段階でも注意しなくてはならないのは、このステップを「顧客進化」などと呼ぶことがあるが、「”顧客が勝手に進化する”のではなく企業側が“懸命に各種の働きかけをする”ことによって、”顧客との距離が縮まる”」のだという基本認識だ。その認識が逆転していると、顧客に対する認識も誤ったものになる。この点には留意し、顧客に対する謙虚さを忘れないことが重要なのだ。
さて、その3段階での「顧客への働きかけ」の具体的な内容を見ていきたい。(図1)
・Step 1:最低限のCSの達成段階
「新規顧客獲得コストは顧客維持コストの5倍」などと一般に言われるが、その通り、企業にとっての最大のダメージは、マーケティングコストを投下し、せっかく商品の購入などの関係が構築できた顧客が離反することである。離反を防止するには、先の「カスタマーインサイト」の第一の要素”Recognition”つまり、「顧客を理解し、適切なケアを行う」というポイントを怠らないことが肝要である。それによって最低限のCS(Customer Satisfaction =顧客満足)は達成され、顧客の不満が解消。離反防止ができる。
・Step 2:満足度の向上段階
一度顧客になってもらったら、その顧客には再度購入してもらいたい。そのために第一段階のステップを踏んできたのだから。企業の収益構造(レベニューモデル)として、再購入を前提としたマーケティングプログラムが構築されている場合も少なくない。つまり反復購入なくして早期に離反が起これば、マーケティングコストのROI(Return On Investment =投資対効果)は赤字となってしまう。確かに一度自社の商品・サービスを購入し、使用体験を持つ顧客であれば、初回購入に踏み切らせることよりも壁は高くはないだろう。しかし、再購入・反復購入という壁は一見低そうに見えるが厚く、突き破ることは難しいのである。なぜなら、関係ができたばかりの顧客の側から見れば、特段不満のない企業との取引を新規の他社に変える理由はないが、かといって、何が何でもその企業から再購入する理由もないからだ。これは、購入に際して関与度の低い商品の場合、より顕著である。ではどうすればいいのか。Recognitionは当然として、Time savingの要素を忘れないことが肝要だ。顧客に対してタイミングよく適切なお勧め(レコメンデーション)を行い、その商品の買い換え、または買い増し(アップセリング)、もしくは関連商品の購入(クロスセリング)の必要性を感じさせ、納得してもらい、購入結果に満足してもらうのだ。その際には、むやみやたらとお勧めを繰り返すのではなく、「顧客に最も必要なものを提供する」という基本精神を忘れないことである。
・Step 3:満足度の最大化段階
反復購入を続けてくれる顧客と企業の間には次第に信頼関係が生まれ、強固になっていく。そして顧客がファン化する。この段階までくれば、顧客と企業の最適な関係が維持されさらに拡大されていくことになる。つまりPeace of mindが達成された状態だ。ここに至るまでには前段階でいかに努力したかが重要であり、最初からこの段階を狙ってできるものではない。さらに前の二段階と大きく違うことは、2段階目までは企業側の努力で顧客の背中を押すことができるが、最後の一段は、顧客自身が「納得と満足」を原動力として、自らの意思で階段を上がってくれる以外にないということである。
しかし、この段階に至ると企業にとって嬉しいことに、顧客が企業(もしくは企業側の担当者)に対して積極的にコミット(関与)してくれることだ。つまり、顧客自身が満足している商品・サービスを友人・知人に勧めてくれるのだ。さらにこのタイミングを見計らって、何らかの紹介インセンティブを付与するMGM(Member Get Member =知人紹介)のプログラムを行うと非常に効果的である。
■「本質的価値」の理解のためにマーケティングの基礎で再考する①:STPの“P”
「カスタマーインサイト」というフレームワークにおいて、最も胆となる部分は、「いかに自社の“本質的価値”を的確に理解・定義できるか」ということだ。しかし、本当に理解することはなかなか難しい。そこで、従来のマーケティングのセオリーの中から近い考え方に触れることによって、理解を深めてみよう。
まずは、マーケティングの基本中の基本である"STP"(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)である。ここでは中でも「ポジショニング」が重要だが、まずは一通り見ていこう。(図2)
セグメンテーションとは、一般にそれに続くターゲティングにおいて、どのような顧客層を狙うのかを検討するための下準備であると考えられる。市場を幾つかの同じような「集合体」に分類するために、ジオグラフィック(地理的要因)=地域・人口密度等、デモグラフィック(人口動態的要因)=年齢・性別・所得・世帯規模・ライフステージ等、サイコグラフィック(心理的要因)=ライフスタイル・ロイヤルティー等の変数を用いることが一般である。そしてSTPセグメンテーションが完了したら、次は「どのような市場を狙うのか」というターゲティングを行うのが一般的である。
そして次がポジショニングであるが、実はこのポジショニングこそSTPのうちで最も重要なパートであると言っても過言ではない。なぜなら、この後、具体的な「打ち手」を考えるには、自社及び商品の市場におけるポジショニングを明確に定義していなければ、それを検討することができないからだ。いや、むしろ「ポジショニング」がはっきりしてさえすれば、自ずとどのような顧客層に向けて、どのような売り方をしていけばいいのかも自ずと明らかになる。一つ企業事例を示すが、その典型がドイツの自動車メーカー、BMWである。同社は自社のポジショニングを「究極のドライビング・マシン」と定義し、そのポジショニングに反しない車作り、販売現場での応対、広告コミュニケーションと全てに一貫性を持たせ、それに共感する顧客層を確実に取り込んで離さないことで成功している。
お気づきであろうか。この「ポジショニング」が明確になっていれば、「本質的価値」の理解がしやすいのだ。一度、自社及びその製品・サービスのポジショニングがどのように定義されているか確認してみることをお勧めしたい。
■「本質的価値」の理解のためにマーケティングの基礎で再考する②:製品特性分析
次に、マーケティングの基本ということであれば、やはり大家・フィリップ・コトラーが示した「製品特性分析」でも考えてみたい。同氏は製品の特性を分割し、「中核(ベネフィット)」「一般製品」「期待された製品」「拡大された製品」「潜在的製品」の5層に分割して様々な角度から見る方法を説いた。しかし、この5層だとやはり少々複雑なため、今回はこれも3層モデルに組み替えて考えてみよう。(図3)
製品を「コア」「形態」「付加機能」に分割する。こうして考えてみると、「コア」が「本質的価値」に意味としては近くなる。それは、顧客に提供するべき中核たる「ベネフィット(便益)」である。それを取り巻く「形態」は、「ベネフィット(便益)」がどのような提供形態取っているかを表し、「付随機能」はさらにどのような提供形態に付加的な要素が加わっているかを洗い出すことができる。
具体例を挙げてみよう。「自動車」という製品を考えたとき、「コア」を簡単に定義すると「移動手段の提供」ということになる。そして、その移動手段がガソリンエンジンという内燃機関を備え、四輪で移動する「自動車」という形態で提供され、その自動車の基本性能としての安全性や移動スピードの速さ、故障をしないという製品品質なども「形態」の一部に含まれる。さらに、軽自動車である場合は手軽なことや維持費の安さ。プレミアムカーであれば、その高品質さとステータスなども品質・特徴として「形態」の一部として含まれる。さらにその外側にある「付加機能」は、アフターサービスや品質保証、そのメーカーとしての信用力などが重要となってくるだろう。
この製品特性分析は、さらに自社及びその製品・サービスの3層構造を、競合する業界・企業・製品・サービスと比較すると、より各要素が明確になる。(図4)
特に、先の例で言えば同じ自動車業界同士の比較を行なうよりも、より幅広に競合の定義を行ない比較すると「コア」を中心とした差異や同質点が見えてくることによって、思わぬ競合を発見できる場合もある。
これも具体例を挙げよう。「自動車」の場合、「コア」を簡単に定義すると「移動手段の提供」であった。しかし、「移動手段の提供」であれば、あらゆる乗り物や交通機関が同じコアを持つことになる。その場合、考え方は二つある。一つは、その外側の提供形態を考えれば、移動の早さ(スピード)や航続距離を考えれば、自転車やスクーターは競合とはなりえなくなる。また、自ら運転することや所有することを考えれば、公共交通機関は競合ではなくなる。そのように提供形態に注目して競合を絞り込んでいくことが一つの方法だ。しかし、顧客が「移動手段の提供」という「コア」の実現のための提供形態として、「移動の早さ」「航続距離」「安全性」などのみに注目していた場合、自家用車を購入するか、タクシーや列車・新幹線・飛行機などを頻繁に使うかといった選択肢も考えられ、公共交通機関にお金を払うということも「自動車の購入」ということに対しては「競合」となりえてしまうのだ。その場合、第二の考え方に切り替えてみたい。即ち、「コア」の定義をもっと明確にするのだ。単なる「移動手段の提供」に加えて、自社の製品=自動車は顧客に「どのような移動の体験」を提供するのかと考えればよい。その際、外側の提供形態や付随機能の要素まで取り込んで補完してしまっても良いだろう。本来のコトラー理論とはだいぶかけ離れてしまうが、今回目的としている「自社、及びその製品・サービスの本質的価値」を探るためには有用である。前述の分析をそのような観点で、是非一度実施してみて欲しい。
次号では、さらに自社にとっての理想的な顧客とはどのような顧客なのかといった、センター・アイデンティティーのステートメント化(明文化)のために欠かせない要素をさらに掘り下げていく。
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