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2006.12.01

「人気動物園に学ぶ顧客ニーズ対応の極意」

日経BizPlusの連載が更新されました。

今回はマーケティングのキモとは何かという、根源的なテーマを「動物園」を題材に掘り下げてみました。

文中、実は金森は高校時代「獣医を目指したこともある」という、少々恥ずかしい過去をカミングアウトしています。
高校一年の最後に、文系選抜クラスに進むか、理系選抜クラスに進むかの選択を迫られ、「獣医になりたい」などという夢見がちな少年であったため、理系を選択。が、すぐによくある「文系転び」をしたため、おかげで物理や数Ⅲなどの科目に泣かされました。。まぁ、今となっては思い出ですし、笑い話ですが。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm

----------------<以下バックナンバー用転載>-----------------------

「人気動物園に学ぶ顧客ニーズ対応の極意」

 「『カメラをください』というお客様が目の前にいたら、その人はどんなニーズを持っているか分かりますか?」。筆者が教壇に立っている、ビジネススクールのマーケティング初学者向け講義の一コマだ。受講生から「写真を撮りたい」と答えが返ってくる。「そうですね。でもそれは、表面に現れている“顕在ニーズ”です。顧客心理を洞察するには、“潜在ニーズ”までとらえなければなりません。『写真を撮りたい』という場合、どんな潜在ニーズが考えられますか?」。少し間を置いて、「思い出を作りたい」「証拠を残したい」「趣味として写真を撮りたい」などの答えが挙がる。いずれも正解である。

 ここでのラーニングポイントは、「マーケティングの第一歩は顧客ニーズの深掘りから」だ。マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラーも著書「コトラーのマーケティング・コンセプト」(東洋経済新報社)で、「マーケティングの本来のスローガンは、『ニーズを見出し、ニーズを満たせ』というものである」と述べている。

■マーケティングの第一歩は「顧客ニーズの深掘り」

 転じて、昨今の様々なブームの中でも、「これは顧客の潜在ニーズをうまく引き出したな」と感心させられる例がある。大人も楽しめる人気スポットとして復活した、動物園である。 

 筆者は動物好きだ。子供の頃はテレビの動物番組や自然番組を毎晩観ていた。高校生の頃は獣医を目指したこともある。だが、動物園というものは大嫌いで、子供の頃親に連れて行かれたきり、最近まで全く足を運んでいなかった。狭苦しい檻の中に閉じこめられ、生気を失った動物。ストレスフルに意味もなくひたすらウロウロする姿。そんなものは見たくなかったのだ。

 動物園に来園する人のニーズは何か。「動物が見たい」である。しかしそれは“顕在ニーズ”。多くの人の“潜在ニーズ”は、「生き生きした動物の姿が見たい」であろう。

 その潜在ニーズにいち早く応えたのが、旭山動物園(北海道旭川市)だ。動物の姿形を見せることに主眼を置いた従来の展示方法に対して、同園では1997年度から、動物本来の生態や能力を引き出して見せる「行動展示」に取り組んでいる。そして、水中を空飛ぶように泳ぐペンギンを見渡せる水中トンネルや、ホッキョクグマと“獲物”の視点で対面できる透明カプセルなど、動物の自然な姿を間近で観察できる施設を次々と導入し、改良を重ねてきた。

 同園の夏場の月間来園者数は2004年以降、東京・上野動物園を抜いて日本一に躍り出た。現在でもその人気は衰えることを知らず、来園者数はうなぎ上りだ。「生き生きした動物の姿が見たい」という来園者の真のニーズをとらえた結果であることは間違いない。

■潜在ニーズに応えるための工夫の積み重ね

 対する上野動物園も負けてはいない。今年の春には5億円を投じ、クマの本来の住環境を再現する新しいクマ舎を整備した。ここでは木登りや餌を取る様子など、野生のクマ本来の生態はもとより、冬には冬眠する姿も見ることができる。筆者も久々に上野動物園に行ってみたが、確かにクマ舎は立派であり、かつてのような、檻に閉じこめられた悲惨な動物の姿とは全く異なっていた。

 もちろん、5億円といえば大金だ。資金力が豊富な自治体でなければ簡単に捻出(ねんしゅつ)できるものではない。だが、上野動物園で筆者は、顧客ニーズに応えるためにはお金に頼るだけが能ではないことも実感した。ほんのちょっとした工夫で動物が生き生きし、観覧者も楽しくなるような仕掛けを見つけたのだ――ふと、頭上を見ると、カナダヤマアラシが檻の柵を飛び出した木の股にちょこんと座っている。別の場所では同じく檻から外に大きく張り出した木の枝に、ホフマンナマケモノがぶら下がっている。逃げ出す心配のある動物ではないので、檻に閉じこめておく必要はないのだ。

 旭山動物園の水中トンネルも、上野動物園のクマ舎も、来園者のニーズに応えるべく、それなりの費用を投じたものだ。財政事情の厳しい自治体の動物園では「旭山のようにやりたくてもできない」という声も多いと聞く。だが、一方で上野動物園のヤマアラシやナマケモノの展示のように、ほんの小さな工夫で来園者のニーズに応えている例もあるのだ。

■イノベーションかカイゼンか

 動物園から再び転じてビジネスの話。モノが満ちあふれた今日、生活者のニーズはほとんど開拓されつくし、全く新しいニーズを喚起できるようなイノベーションこそ必要であるとも言われている。しかし、本当にそれだけが真実だろうか。

 例えば、ソニーは1979年に初代ヘッドホンステレオ「ウォークマン」1号機を発売した。録音機能なしでは売れないとの社内外の声に反して大ヒットとなり、新たなライフスタイルを創造したのは正にイノベーションだ。だが、それ以降、ソニーを含め、各社が競って軽量化したり、メディアをカセットテープからCD、MDと変えたりしたが、それらは全て「より手軽に音楽を持ち歩きたい」という顧客ニーズに応えたカイゼンである。そして、現在大ヒットしているiPodもソニーの「パーソナルオーディオ」という概念の延長であり、「より手軽に、より大量の音楽を持ち歩けるように」という顧客ニーズに応えたカイゼンだと解釈できる。つまり、「パーソナルオーディオ」というイノベーティブな概念が誕生して以来、27年間カイゼンを積み重ねることによって、市場を広げてきたのだ。考えてみれば先の動物園の例にしても、やはりそれはイノベーションではなく、飼育環境や展示方法の愚直なまでのカイゼンの結果にほかならない。

 我々の周りにも、掘り起こし損なっている顧客ニーズはないだろうか。また、それに十分対応できているだろうか。「難しい時代」「お金がない」などと嘆く前に、マーケティングの第一歩である「顧客ニーズの深掘り」をもう一度考えてみたいものである。動物園に負けてはいられない。

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Comments

ライフサイクルの成熟期にある商品・サービスでは、“付加価値”と称してあれこれオマケをつけたがる傾向が見受けられますが、まず原点に立ち返ってみる必要があるのでしょうね。

Posted by: 課長007 | 2006.12.02 05:42 PM

課長007さん、コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりですね。
そもそもPLCが立ち上がりの時期からコテコテにオマケが付けられたような商品もありますし。
「この商品をどんな人が、どう思って買ってくれるのか」という根源的な自問自答をせずに上市される商品が多いように思います。

Posted by: 金森努 | 2006.12.04 11:00 AM

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