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2006.12.04

販促会議「質問編」顧客視点”入門講座

12月1日発売の「販促会議1月号」が発売されましたので、
前号の記事をバックナンバーとして掲出いたします。

以前、当Blogに書き下ろした「PS3のプライシング」をきちんとまとめてみました。
実際に発売されてみると、やはりWiiの強さが際だっていますね。

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第8回「PS3に見るポジショニングとプライシングの難しさ」

 「マーケティング」というと「4Pですよね」という応えが返ってくるほど、そのキーワードは一般のビジネスパーソンの間にも浸透し始めている。平易なマーケティング入門書が数多く出版されている影響であろうか。しかし、「知っている」のと「実践できる」のでは大違いだ。そこで今回は、その4Pのうちでも非常にセンシティブな“Price”について考えてみたい。

■ソニー「PS3」値下げの衝撃
 「貴重なビジネスケース」と言ったら関係者の方はご立腹されるであろうが、お許し願いたい。この原稿が掲載される頃に発売直前となっているのだろうか。11月に発売されるソニー・コンピュータエンターテイメント(SEC)の「プレイズテーション3」(以下、PS3)が9月下旬に発売前に「予定価格を引き下げる」という異例の発表があった。それを聞いた瞬間に、筆者は「製品の価格決定プロセスを考える上で、非常に参考になるケースだ」と感じたのだ。
報道によれば、12月に発売が予定され、強力なライバルになると予想されている任天堂の「Wii」が2万円代前半の価格を予定しており、同じくライバルであるマイクロソフトの「Xbox360」も3万円を切る廉価版を11月に発売する。それに対してPS3は当初6万円を超える価格が設定されていたが、一気に5万円を切る価格に引き下げたのだ。ライバル製品との価格差が大きすぎるため、市場に受入れられないと苦渋の判断を下したのであろう。PS3はそもそも「ゲーム機」というポジショニングを「情報家電の中核」というポジショニングへシフトさせようとしていたはずだ。そのため、ハイスペック、ハイプライスという結果になったのだ。

■そもそも「プライシング」とはどうやって行なうのか
 では、一般に「モノの値段」とはどうやって決められるものなのであろうか。マーケティングにはあるセオリーがある。一つは「原価からの積み上げ」であり、もう一方は「需要予測からの設定」である。前者は製品をある一定数量作るときにかかるコスト=原価をベースとして、その原価にいくら利益を載せるかという考え方であり、後者は製品を購入してくれるターゲットが、いくらまでなら払ってくれるかという予測に基づくものだ。
 当然、前者の方が試算は簡単で、原価計算をきちんと行なえばおおよその価格は設定できる。後者は、その製品を使用することによって、購入者が得られる便益、例えば生産性の向上や、時間節約効果などを試算して、その効果に対して購入者が妥当と考える価格を設定する。この場合、前述の「購入者が得られる便益」というものを洗い出し、定量化するのはかなり困難な場合も少なくない。そのため、実際には場合、原価+望ましい利益を試算した上で、競合となる製品の価格と比較し、最終的な利益を調整するということになる。
 但し、今までに前例のないような画期的な新製品の場合、「競合となるような製品」がなく、また、ユーザーはその「画期的な点」に惹かれ、「ここまでのことができるなら、いくらまでなら払うだろ」というような予測に基づいたプライシングを行なう。つまり、PS3の場合は「ゲーム機を超えた画期的な存在」であると自社でポジショニングをし、その結果、ユーザーが様々な楽しみを得られるという便益に対して、高い販売価格でも購入するであろうと予測し、当初の価格設定を行なったと推測できる。

■「シェア確保」と「利益率確保」の天秤
 前述の通り、PS3の値下げは、当初「需要予測からの設定」でプライシングしたものの、市場の反応が芳しくないことから「競合製品との比較調整」によって値下げを行なったわけだが、プライシングにはもう一つ重要な判断基準が存在する。それが「シェア確保」と「利益率確保」の天秤なのである。
 当然、販売価格が安価な方が購入しやすいため、発売から短期間で大量販売が見込め、シェア確保が可能となる。これを「ペネトレーション・プライシング」という。豊富な資金力があり、流通コントロール力があれば確実に早期にシェア確保ができ、「薄利多売」でも結果的に大きな利益を上げることができる。また、低利益率に耐えられる体力のない後発の参入を抑制することもできる。しかし、コトはそんなに単純ではない。発売した製品が「思ったより売れなかった」などという事態になれば、投下した原価の回収さえままならなくなってしまうリスクもある。また、安く発売した製品の価格を引き上げることは容易ではない。
 そうなると、やはりシェアではなく、きちんと利益率を確保した方がよいのかという考え方が出てくる。シェアよりも利益率の確保を狙う考え方を「スキミング・プライシング」という。購入者が何らかの便益や魅力を製品に感じてくれると踏んで、たとえそうした購入者が数多くいなくとも、価格を受容してくれる人に高く買ってもらおうということである。そうすることによって、投下した原価の回収は最低でも回収でき、うまく製品が売れ続ければ良質な顧客層を確保し、確固たるブランドとして育つことも期待できる。しかし、こちらにもリスクがある。利益率が高い、つまり「おいしい市場がある」と競合となる企業がかぎつけた場合、同等の機能や価値を持った製品を、利益率を落として市場に投入してきた場合、元々大きくはないシェアはあっという間に浸食されてしまうことになる。また、対抗措置として値引きをすれば、泥沼の値引き合戦になり、体力のない方が倒れることになる。以上のように「ペネトレーション・プライシング」と「スキミング・プライシング」では全く逆の価格設定となり、想定されるリスクも全く異なる。
 では、自社の場合、どちらのプライシングを行なうべきかと悩んだ場合は、当然、定量的に試算を行なうことが重要であるが、本連載の第6回(10月号)で紹介した「5forcesモデル」で考えれば、自社と競合や新規参入の関係を把握することによって、おおよその方向性はつかめるだろう。

■再びPS3について考えてみる
 ゲーム機という製品の特性を考えれば、そのゲーム機が市場でどの程度シェアを持っているかによって、サードパーティーも含めて、ソフトの作り手をどれだけ吸引できるかが変わってくる。魅力のないソフトしかない、または使えるソフトが少ないゲーム機などには商品価値はない。そのため、「シェア」は非常に重要な意味を持つ。となれば、前述の「ペネトレーション・プライシング」で戦うのが定石だ。しかし、PS3は単なるゲーム機を超えたポジショニングを設定されていた。そうなると、ゲームだけに留まらない、ハイスペックな機能によって「購入者が得られる便益」が高いとすれば、それが認められれば高い価格でも市場に受入れられるという考え方も出てくる。
しかし、実際にはやはり、元来がゲーム機であり、コアユーザーはゲーム愛好家であるため、ライバル製品との価 格差が二倍~三倍となると、コアユーザーには受容しがたい価格としてとらえられ、断腸の思いで値下げを発表したのではないだろうか。筆者は以前から「ポジショニングの大切さ」を説いてきたが、正に今回のケースはPS3が従来機からのポジショニングチェンジという挑戦を図ったものの、それが市場に受入れられず、プライシングの見直しをせざるを得なくなったと読み取ることができる。

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