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【マーケティング講座】

お勧めマーケティング関連書籍

  • 金森 努: 3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング(DOBOOKS)
    初めての人から実務者まで、「マーケティングを体系的に理解し、使えるようになること」を目的として刊行した本書は、2016年に「最新版」として第2版が発売されました。 それから6年が経過し、デジタル技術の進化やコロナ禍という大きな出来事もあり、世の中は既に「ニューノーマル」に突入しています。 その時代の変化に合わせて本文内容の改訂、新項目の追加や事例の差し替えなどを大幅に行ないました。
  • 金森 努: 9のフレームワークで理解するマーケティング超入門 (DO BOOKS)

    金森 努: 9のフレームワークで理解するマーケティング超入門 (DO BOOKS)
    「マーケティングって、なんとなく知っている」「マーケティングのフレームワークは、わかっているつもりだけど業務で使いこなせていない」・・・という方は意外と多いのが実情です。 「知っている」「わかっている」と、「使える」の間には、結構大きな溝があるのです。 その溝を、最低限の9つのフレームワークをしっかり理解し、「自分の業務で使いこなせる」ようになることを目指したのがこの書籍です。 前著、「最新版図解よくわかるこれからのマーケティング」は、「教科書」的にマーケティング全体を網羅しているのに対して、こちらの「9のフレームワーク・・・」は、「実務で使いこなすための「マニュアル」です。 もちろん、フレームワークをしっかり理解するための、実事例も豊富に掲載しています。 「よくわかる・・・」同様、多くの企業研修テキストとしてもご採用いただいています。

  • 金森 努: 最新版 図解よくわかるこれからのマーケティング (DOBOOKS)

    金森 努: 最新版 図解よくわかるこれからのマーケティング (DOBOOKS)
    旧版(水色の表紙)は6年間で1万部を販売し、それを機に内容の刷新を図りました。新章「ブランド」「社内マーケティングとマーケティングの実行」なども設け、旧版の70%を加筆修正・新項目の追加などを行っています。本書最新版は発売以来、10ヶ月で既に初版3千部を完売。以降増刷を重ね、約1万部を販売していおり、多くの個人の方、大学や企業研修で「マーケティングのテキスト」としてご愛顧いただいております。

  • 金森努(監修): あのヒット商品はなぜ売れるのか? ─気軽に読むマーケティングのツボ─ (TACビジネススキルBOOK)

    金森努(監修): あのヒット商品はなぜ売れるのか? ─気軽に読むマーケティングのツボ─ (TACビジネススキルBOOK)
    ヒット商品ネタ51連発!このブログ記事のネタを選りすぐってコンパクトで読みやすく図表付きに再編集しました!

  • 金森 努: 「売れない」を「売れる」に変える マケ女<マーケティング女子>の発想法 (DO BOOKS)

    金森 努: 「売れない」を「売れる」に変える マケ女<マーケティング女子>の発想法 (DO BOOKS)
    打倒「もしドラ」!を目論んだ(笑)ストーリー展開のマーケティング本。初心者にもわかりやすいマーケティングの全体像に基づき、実践・実務家も納得のリアリティーにこだわりました!

  • 金山宇伴(著)・金森努(監修) : ペンギンが考える

    金山宇伴(著)・金森努(監修) : ペンギンが考える
    ペンギンの世界を舞台に「考えるとはどういうことか」「論理的思考(ロジカルシンキング)とは何か」を考える、スラスラ読めて身につく本です。初心者の入門書として、一度学んだ人の復習にと活用できます。

  • 金森努: ポーター×コトラー 仕事現場で使えるマーケティングの実践法が2.5時間でわかる本

    金森努: ポーター×コトラー 仕事現場で使えるマーケティングの実践法が2.5時間でわかる本
    マーケティングをストーリーで学び、「知っている」が「使える」になる本。1つ1つのフレームワークが、面白いように「つながっていく」感覚を実感してください!

  • 金森 努: “いま”をつかむマーケティング

    金森 努: “いま”をつかむマーケティング
    7編の取材を含む、2010年のヒット商品など約30事例をフレームワークで切りまくった「マーケティング職人・金森」渾身の1冊。フレームワークを学びたい人にも、フレームワークの具体例を知りたい人にも、朝礼で話せるコネタが欲しい人にも役に立つこと間違いなしです!

  • 長沢 朋哉: 世界一やさしい「思考法」の本―「考える2人」の物語

    長沢 朋哉: 世界一やさしい「思考法」の本―「考える2人」の物語
    「分かるとできるは違う」と言われるが、両者間には距離がある。実業務のどこで使えるのか気づけない。だから使えない。本書はお菓子メーカーのマーケティング部を舞台にした「若者2人の成長物語」を通して、戦略思考、論理思考、クリティカル・シンキングなどの、様々な思考法が展開されていく。ストーリーで「使いどころ」をつかめば、実践できない悩みの解消が図れるだろう。 (★★★★★)

  • ダン アリエリー: 不合理だからすべてがうまくいく―行動経済学で「人を動かす」

    ダン アリエリー: 不合理だからすべてがうまくいく―行動経済学で「人を動かす」
    フレームワークの「使用上の注意」は、「人の心はフレームワークだけでは切れない」を常に認識することだ。「行動経済学」に注目すれば、経済合理性に背く人の行動の謎の意味が見えてくる。謎の解明を様々なユニークな実験を通して、著者ダン・アリエリー節で語る本書は、「フレームワーク思考」に偏りすぎた人の目から何枚もウロコを落としてくれるはずだ。 (★★★★★)

  • セオドア レビット: レビットのマーケティング思考法―本質・戦略・実践

    セオドア レビット: レビットのマーケティング思考法―本質・戦略・実践
    「顧客はドリルが欲しいのではない、穴が空けたいのだ」や、「マーケティング近視眼(Marketing Myopia)」で有名なレビット教授の名著。製品とは何か。サービスとは何か。顧客とは何か。そして、マーケティングとは何かと問う、今まさに考え直すべき原点が克明に記されている名著。 (★★★★★)

  • フィリップ・コトラー: コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則

    フィリップ・コトラー: コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則
    コトラーはマーケティングは「製品中心(Product out)=1.0」「消費者中心(Customer Centric)=2.0」。それが「人間中心・価値主導(Social)=3.0」にバージョンアップしたと論じている。本書は「マーケティング戦略」の本というよりは、今日の「企業のあるべき姿」を示しているといえる。その意味では、「では、どうするのか?」に関しては、新たなソーシャルメディアの趨勢などに考慮しつつ、従来のコトラー流2.0を十分に理解しておくことが必要だ。 (★★★★)

  • 鈴木 準・金森 努(共著): 広告ビジネス戦略―広告ビジネスの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ 1)

    鈴木 準・金森 努(共著): 広告ビジネス戦略―広告ビジネスの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ 1)
    広告に関する本は、いわゆる広告論や広告制作の手法を述べていても、マーケティング理論を前提としたものは少なかったように思います。「マーケティングの中における広告ビジネス」を具体的にまとめました。さらに、当Blogで「勝手分析」した事例を企業取材によって、マーケティングと広告の狙いを検証しました。多くの現役広告人と広告人を目指す人に読んでいただきたいと思います。

  • 金森 努: 図解 よくわかるこれからのマーケティング (なるほど! これでわかった) (DO BOOKS)

    金森 努: 図解 よくわかるこれからのマーケティング (なるほど! これでわかった) (DO BOOKS)
    金森の著書です。フレームワークやキーワードやセオリー、事例をマーケティングマネジメントの流れに沿って102項目で詳説しました。フレームワークの使いこなしと事例には特にこだわりました。金森のオリジナル理論もあり!

  • 山田 英夫: 新版 逆転の競争戦略―競合企業の強みを弱みに変える

    山田 英夫: 新版 逆転の競争戦略―競合企業の強みを弱みに変える
    リーダーの戦略や、チャレンジャーがリーダーを倒す方法など、ポーター、コトラーの理論を更に実践的な事例と独自フレームワークで解説した良書。事例がちょっと古いが、今、読み返してもためになる。在庫が少ないので、中古本でも出ていれば即買いをお勧め。 (★★★★)

  • 金森 努: 実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則 (ビジマル)

    金森 努: 実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則 (ビジマル)
    このBlog記事一話一話が見開きで図解されたわかりやすい本になりました。ヒット商品のヒミツをフレームワークで斬りまくった、ネタ56連発。是非一冊!

  • 後藤 一喜: 費用対効果が見える広告 レスポンス広告のすべて

    後藤 一喜: 費用対効果が見える広告 レスポンス広告のすべて
    「レスポンス広告」とは資料・サンプルの請求や商品の注文を消費者から獲得するための広告のこと。そのための方法論は、ブランドイメージをよくするといった目的とは全く異なる。本書は多数の広告サンプル(精度の高いダミー)を用いてレスポンス広告のキモを具体的かつ詳細に解説している。「レスポンス広告の鬼」たる筆者ならではの渾身の1冊。 (★★★★★)

  • ジョン・P・コッター: カモメになったペンギン

    ジョン・P・コッター: カモメになったペンギン
    どんなすばらしいマーケティングプランも、結局は人が動かなければ成功しない。故に、リーダーシップ論が重要となる。本書はコッター教授の「企業変革8ステップ」が寓話の中でわかりやすく記されている良書である。金森絶賛の一冊です。 (★★★★★)

  • マルコム・グラッドウェル: 急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則

    マルコム・グラッドウェル: 急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則
    2000年発売の良書。旧タイトル「ティッピング・ポイント」が文庫本化されたもの。クチコミの本ではなく、イノベーションの普及が何かのきっかけで一気に進む様を、各種の事例を元に解明した、普及論にも通じる内容。(うっかりリストに入れ忘れてました)。オススメです。 (★★★★★)

  • 野中 郁次郎: イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学

    野中 郁次郎: イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学
    経済分野最強のジャーナリスト勝見 明紙と、経営学の大家野中 郁次郎先生という黄金コンビによる傑作。いくつもの企業でのイノベーション事例を物語風に紹介しながら、その変革の要諦を解明、さらなる提言をメッセージしている。読み応え十分。 (★★★★★)

  • 野中 郁次郎: イノベーションの本質

    野中 郁次郎: イノベーションの本質
    最新刊の「イノベーションの作法」に比べると、少々こちらは「野中理論」の難しい部分が表面に出ているように思えるが、発売当初、ナレッジマネジメントの観点からしか読んでいなかったが、読み返してみれば、本書の1つめの事例である「サントリー・DAKARA」はマーケティングでも有名事例である。むしろ、本書での解説は、マーケティングのフレームワーク上の整合ではなく、そのコンセプト開発に力点が置かれており、その精緻な記述は圧巻であった。読み直して得した気分になったので、ここで併せて紹介する。 (★★★★)

  • グレン・アーバン: アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業

    グレン・アーバン: アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業
    だいぶ発売されてから時間が経ってしまったのですが・・・。 二度目に読んで、「お勧め」しようと思いました。 そのわけは、一度目は「いかに顧客と優良な関係を構築することが重要か」という当たり前なことを力説しているだけの本だと思ったからです。 事実、そうなんです。アドボカシー(advocacy=支援)という新しい言葉を遣っただけで。 ただ、その「当たり前なこと」のまとめ方が秀逸であり、我々マーケターにとっては「当たり前」でも、その考え方がどうしても理解できない石頭な人に読ませると、なかなか効果的だと分かりました。 さて、皆さんもそんな人が周りにいたら読ませてみては? (★★★)

  • レスター・ワンダーマン: ワンダーマンの「売る広告」

    レスター・ワンダーマン: ワンダーマンの「売る広告」
    ダイレクトマーケティングの創始者であり、金森の心の師でもある、レスター・ワンダーマンの「BEING DIRECT」(英文名)が12年ぶりに改訂されました。 詳しくは、Blog本文の10月16日の記事を参照ください。 必読の書です。 前版は電通出版だったので入手が少々面倒でしたが、今回は一般の出版社からの刊行なので、アマゾンで購入できます。この本の画像をクリックすれば、アマゾンのサイトにリンクしますので、是非! (★★★★★)

  • フレドリック・ヘレーン: アイデア・ブック スウェーデン式

    フレドリック・ヘレーン: アイデア・ブック スウェーデン式
    実は、この本は金森の入院中の頂き物。結構はまりました。 スウェーデンの売れっ子セミナー講師が自らのセミナーで用いている30の設問を、気の利いたイラストに載せて紹介している。「レンガの使い方を10通り挙げなさい」のような、「ん?どこかの自己啓発セミナーで聞いたな~」というようなネタもありますが、ひねりの効いた問いかけもいっぱい。ざっと流し読みしたら20分で読み終わってしまう絵本になってしまいますが、本気で問いかけの答えを考えると、なかなか論理思考も鍛えられます。金森もお気に入りの問いかけは出典を明らかにして、自分の企業研修で使わせてもらっています。 ちなみに、この本の2(続編)も出ています。2冊揃えば送料も無料。「あわせて買いたい!」。 (★★★★★)

  • パトリシア ジョーンズ: 世界最強の社訓―ミッション・ステートメントが会社を救う

    パトリシア ジョーンズ: 世界最強の社訓―ミッション・ステートメントが会社を救う
    重要な本をお薦めするのを忘れていました。この本も結構、私の座右の書となっています。「ミッションステートメント」の重要性もコラム等で繰り返し述べてきました。それがしっかりしていないが故に、会社自体が方向性を見失い、社員も求心力をなくす。また、顧客のことも忘れてしまう。ミッションステートメントは壁に黄ばんだ紙に書いてあるものを、朝礼で呪文のように唱和するためのものではないのです。社員全員、全階層がそれを本当に理解し、行動できれば会社に強大なパワーが生まれるはずです。この本は「強い企業の強いステートメント」が紹介・解説された良書です。 (★★★★)

  • エベレット・M.ロジャーズ: イノベーション普及学

    エベレット・M.ロジャーズ: イノベーション普及学
    もはや絶版でプレミアがついて現在ユーズドで3万円!(昨年までは2万円以下でした。定価は8千円弱)。 しかし、一度は翻訳版とはいえ原書を読みたいもの。 私のコラムでもよく取り上げています。 様々なマーケティングの入門書にも部分的に取り上げられていますが、誤った解釈も多く、「イノベーションの普及速度」などの重要項目も抜けています。 ただ、基本的には社会学の学術書なので、完読するのはチトごついかも。(それで星4つ。内容的には断然5つですが。)3万円ですが、手にはいるならラッキー。 10万円にならないうちに・・・? (★★★★)

  • ジャストシステム・エンタープライズソリューション協議会/JECS: 思考停止企業

    ジャストシステム・エンタープライズソリューション協議会/JECS: 思考停止企業
    すみません。これは宣伝です。 Blogにも「共著で実践的なナレッジマネジメントの本を出しました」と紹介いたしましたが、この度第二版(重版)ができました。 初版で終わったしまうことの多いビジネス書において重版はうれしい! まだお読みになっていない方は是非! (★★★★★)

  • フィリップ・コトラー: マーケティング10の大罪

    フィリップ・コトラー: マーケティング10の大罪
    これも分かっている人向き。 コトラーの中では「最も今日的な本」であると言えるでしょう。コトラー大先生と私ごときを並べて語るのは不遜の極みですが、私が旧社電通ワンダーマンのニューズレターや日経BizPlusの連載でしきりに訴えてきた内容が集約されている気がします。うーん、大先生と何か視点が共有できているようで読んでいて嬉しくなってしまった一冊でした。 (★★★★★)

  • フィリップ・コトラー: コトラーのマーケティング・コンセプト

    フィリップ・コトラー: コトラーのマーケティング・コンセプト
    今度は分かっている人向け。そういう人はたぶんもう買っていると思いますが・・・。 コトラー特有の大作ではなく、マーケティングの中でも重要なコンセプトを80に集約して解説を加えた、ある意味他のコトラー本の「攻略本」とも言える。 常にデスクサイドに置いておき、用語集として使うもよし、ネタに困ったときにパラパラと眺める「ネタ本」としてもよし。マーケター必携の本であると言えましょう。 (★★★★★)

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December 2006の4件の記事

2006.12.26

「車中にて~ぼやけた物事の境目を憂う~」

日経BizPlusの連載が更新されました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm


今回、文中にて援用させていただいたは、前職・電通ワンダーマン時代の同僚で、現在は独立されている松尾順氏のブログです。
日々、有用な情報をメール&ブログで公開されているので頭が下がります。

http://www.mindreading.jp/blog/index.html


----------------<以下バックナンバー用転載>-----------------------


 目の前で化粧をしている。口紅を少し直す程度ではない。フルメイクだ。ビューラーでまつ毛をカール。マスカラをたっぷり。・・・いや、筆者は女性の化粧姿をのぞき込んでいるわけではない。ここは電車の中。向かいの席でせっせと化粧にいそしむ姿は、いやでも目に入る。しかし、ここで車中の化粧だけをとがめているのではない。最近、電車の中の風景がどこかオカシイのだ。

■「自分だけの世界」に埋没する人々

 電車で化粧をするという行為。少し大きめの四角い折りたたみの鏡が若い女性の必携アイテムになったころから、彼女たちは堂々と車中で化粧をするようになった。鏡を取り出した瞬間に周りの人々の存在は意識から消え失せ、「自分だけの世界」に入り込んでいるのであろう。そういえば、車中でカメラ付き携帯電話をかざし、夢中で自分の顔を撮る姿もよく目にするようになった。

 「自分だけの世界」という意味では、ゲームに興じている人々もそうだ。ポータブルゲーム機を持ち歩いている本格派だけではない。深刻そうな顔をして携帯電話を見つめているビジネスマンの、視線の先の画面はゲームであったりする。これももはや、日常的な光景である。

 ゲーム以外に携帯電話をいじっているのはインターネット派だ。2003年に首都圏の鉄道各社が一斉に、優先席付近を除き携帯メールとWebブラウジングを解禁した。以来、身体は電車の中にありながら、心は携帯電話の画面を通じてその場にいない友人・知人の所に飛んでいってしまっている人が数多く出現した。

 かくして、公共輸送機関に乗り合わせた彼ら、彼女らは各々、「自分だけの世界」にいるか「心ここに在らず」の状態なのだ。何とも異様な光景ではないか。

■崩壊する“TPO”と“マーケティングの基本原則”

 Time, Place, Occasion 略してTPO。時と場所と場合に応じること。以前はよく使われていた言葉であるが、最近めっきり耳にしなくなったように思う。「自分だけの世界」「心ここに在らず」は、言い換えれば「いつでも・どこでも」自分に都合のよい時間と空間の感覚で行動していることを表している。つまり、TPOの逆である。昨今の風潮であり、技術の進化がそれをどんどん可能にしている。

 「いつでも・どこでも」はユビキタスのキーワードでもあり、あるモバイルマーケティングの専門家は、今日の状況を「生活者にアプローチする機会が無限に増えた」と喜んでいた。退屈極まりない通勤・通学手段である電車の車内が、大きな可能性を秘めたプロモーション空間になったと言うのだ。だが、本当にそうであろうか。

 TPOとは本来、その場に居合わせた人と人が、お互いを気遣うことで相互が快適に過ごすための最低限のルールである。しかし、人々が「自分だけの世界」か「心ここに在らず」で他者の存在を軽んじるようになれば、そのルールは崩壊する。

 このことは、マーケティング的に考えても大きな問題である。なぜなら、顧客に対する「時と場所と場合」に応じたアプローチは、効果を上げる必須要件であるからだ。電車の中だけではなく、自分中心で時間も場所も他者もお構いなしという人間が増えたら、どのようなタイミングで、どのようなアプローチを行うかという設計ができなくなってしまう。“Right timing, Right approach.”というマーケティングの基本原則が崩壊してしまうことを意味しているのだ。

■マーケティングへの影響

 分かりやすい事例を示そう。前述の通り、ターゲットとなる生活者のシチュエーションとタイミングをうまくとらえることは、マーケティングの要諦である。リクルート社のフリーペーパー「R25」について、あるマーケターが次のように分析している。(※)

 曰く『「R25」は、「帰りの電車の中で読んでもらう」ことを前提に作られている。最初の方のページは固い内容。そして、読み進めていくうちにどんどん話題がやわらかくなり、気持ちもオフタイムモードへ切り替わっていく。そして、自宅の最寄り駅に着くころには、ちょうどコンビニ関連の記事を読んだばかりになり、自然と地元の店に足が向く。家に着いたらR25の深夜番組表で見たい番組を探し、PCやケータイWebですぐに手に入る通販商品のページをチェックする。』

 つまり、同誌は生活者のライフタイルと心理変容を時間軸でとらえ、TPOに応じてその「文脈(context)」を適切に組み立てている。文脈とは本来、物事の脈絡や筋道、そして背景を表す言葉であり、人と人とのコミュニケーションにおいては相互理解のために欠かせない要素である。そして、マーケティングにおいては、売る側が顧客に「買うべき理由」を説明する大切なプロセスである。文脈が機能していれば、生活者を十把一絡(じっぱひとから)げにした絨毯(じゅうたん)爆撃的なマスアプローチではなく、一人一人に納得性も効果も高いアプローチをとることができる。昨今の技術の進化によって、かつてはできなかったこうしたOne to Oneのアプローチが、実現できるようになってきているのだ。

 しかし、TPOが崩壊し、帰りの電車で雑誌を読んだり、家に帰ってからテレビを見たりするとは限らなくなれば、One to Oneアプローチの機軸となる「精緻な文脈の設計」=「売る側と買う側の相互理解のプロセス」も成り立たなくなってしまう。そうなると、顧客への接触機会としてモバイルの出番が増えたとしても、適切なマーケティングを展開する機会を見つけ、効果を上げられる保証はない。モバイルマーケティングといえども、打てども響かぬ状況になりかねないのだ。

■関係性の喪失がもたらすもの

 鉄道各社が取り組んでいる「車内迷惑行為撲滅運動」。迷惑行為とは「痴漢」「破壊」「暴力」を指すが、「暴力」に発展しないまでも、車内でのトラブルを最近、随分と目にするようになった。乗客同士が、押されたの、荷物が当たったのと、ささいなことで諍(いさか)いになる。車内の混雑状況や、相手の荷物を持っている状況を考えれば致し方ないのではないかと思えるケースも多々ある。しかし、電車の中で、その場の状況を顧みず、自分だけの時間・空間の中に存在している人間にとって、自らの世界を侵されるような状況には、突発的に怒りが高まるようだ。

 物事の境目があいまいになっている。別の言い方をすれば、公私の別もあいまいになり、モラルが低下しているともいえるだろう。それは今日の社会を象徴してはいまいか。筆者はマーケターである故、マーケティングへの影響という観点から論じたが、社会全体に及ぼす影響を考えれば、決して看過すべからざる問題であるように思う。


 (※) 有限会社シャープマインド デイリーブログ「マインドリーダーへの道」から援用


2006.12.23

「定番のヒミツ」第3回

日本実業出版社の季刊誌「ザッツ営業」好評発売中です。

ザッツ営業 http://www.njh.co.jp/that/that.html

同誌に連載中のコラム欄第3回が掲載されています。

以下、転載。

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「1世紀近くAIDEESを実践してきたL.L.Bean」

 前回、「AIDEES」という最近注目されている消費者行動モデルを紹介した。Experience(経験)し、対応の良さにEnthusiasm(惚れ込み)、人にShare(推奨)するというものだ。それを1世紀以上前に実現したのがL.L.Bean, inc.同社の根幹をなすポリシーが“Guaranteed You Have Our Word”である。今でこそ「100%顧客満足」を標榜する企業は多いが、その誕生物語を紹介したい。
 創業者はレオン・レオンウッド・ビーン。米国北西部メイン州の生粋のハンターでもあった。彼が、自らの経験を生かして開発・販売したのが「メイン・ハンティングシュー」。1912年のことである。作業用のゴム靴にレザートップを縫いつけた、ハンティング中に足が冷たく濡れることのない画期的な商品であった。
 彼は早速狩猟許可証保持者リストを元にチラシを発送。100足の注文を獲得した。しかし100足中、90足がゴムの靴底とレザーのトップがはがれてしまったと返品されてきた。これによってレオンは垣間見えた成功から一気に事業を失う危機に瀕したのだ。しかし、彼は顧客への約束通り全額を返金。さらに完全な商品を完成さると共に、どんな対価を払ってでも顧客を満足させるというポリシーを確固たるものにしたのである。
 その真摯な対応に顧客は心から満足し、同社の製品・サービスの質の高さを揃って喧伝した。まさに「AIDEES」である。
 L.L.Beanは現在日本でも数店舗を構え、日本語版カタログも数多くの人が利用し、有名になっている。同社が日本に進出したのも「AIDEES」の効果によるものだろう。20年ほど前の個人輸入ブームの頃、一部マニアが英語のカタログと格闘し、関税の計算に頭を悩ませながら、知る人ぞ知るブランド、L.L.Beanに触れた。当時は新鮮だったフリース素材の鮮やかな衣類や、何より確かな質感を持ったハンティング・シュー。それらを誇らしげに身につけ、日本の顧客もL.L.Beanを喧伝したのだ。筆者もその一人である。

2006.12.04

販促会議「質問編」顧客視点”入門講座

12月1日発売の「販促会議1月号」が発売されましたので、
前号の記事をバックナンバーとして掲出いたします。

以前、当Blogに書き下ろした「PS3のプライシング」をきちんとまとめてみました。
実際に発売されてみると、やはりWiiの強さが際だっていますね。

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第8回「PS3に見るポジショニングとプライシングの難しさ」

 「マーケティング」というと「4Pですよね」という応えが返ってくるほど、そのキーワードは一般のビジネスパーソンの間にも浸透し始めている。平易なマーケティング入門書が数多く出版されている影響であろうか。しかし、「知っている」のと「実践できる」のでは大違いだ。そこで今回は、その4Pのうちでも非常にセンシティブな“Price”について考えてみたい。

■ソニー「PS3」値下げの衝撃
 「貴重なビジネスケース」と言ったら関係者の方はご立腹されるであろうが、お許し願いたい。この原稿が掲載される頃に発売直前となっているのだろうか。11月に発売されるソニー・コンピュータエンターテイメント(SEC)の「プレイズテーション3」(以下、PS3)が9月下旬に発売前に「予定価格を引き下げる」という異例の発表があった。それを聞いた瞬間に、筆者は「製品の価格決定プロセスを考える上で、非常に参考になるケースだ」と感じたのだ。
報道によれば、12月に発売が予定され、強力なライバルになると予想されている任天堂の「Wii」が2万円代前半の価格を予定しており、同じくライバルであるマイクロソフトの「Xbox360」も3万円を切る廉価版を11月に発売する。それに対してPS3は当初6万円を超える価格が設定されていたが、一気に5万円を切る価格に引き下げたのだ。ライバル製品との価格差が大きすぎるため、市場に受入れられないと苦渋の判断を下したのであろう。PS3はそもそも「ゲーム機」というポジショニングを「情報家電の中核」というポジショニングへシフトさせようとしていたはずだ。そのため、ハイスペック、ハイプライスという結果になったのだ。

■そもそも「プライシング」とはどうやって行なうのか
 では、一般に「モノの値段」とはどうやって決められるものなのであろうか。マーケティングにはあるセオリーがある。一つは「原価からの積み上げ」であり、もう一方は「需要予測からの設定」である。前者は製品をある一定数量作るときにかかるコスト=原価をベースとして、その原価にいくら利益を載せるかという考え方であり、後者は製品を購入してくれるターゲットが、いくらまでなら払ってくれるかという予測に基づくものだ。
 当然、前者の方が試算は簡単で、原価計算をきちんと行なえばおおよその価格は設定できる。後者は、その製品を使用することによって、購入者が得られる便益、例えば生産性の向上や、時間節約効果などを試算して、その効果に対して購入者が妥当と考える価格を設定する。この場合、前述の「購入者が得られる便益」というものを洗い出し、定量化するのはかなり困難な場合も少なくない。そのため、実際には場合、原価+望ましい利益を試算した上で、競合となる製品の価格と比較し、最終的な利益を調整するということになる。
 但し、今までに前例のないような画期的な新製品の場合、「競合となるような製品」がなく、また、ユーザーはその「画期的な点」に惹かれ、「ここまでのことができるなら、いくらまでなら払うだろ」というような予測に基づいたプライシングを行なう。つまり、PS3の場合は「ゲーム機を超えた画期的な存在」であると自社でポジショニングをし、その結果、ユーザーが様々な楽しみを得られるという便益に対して、高い販売価格でも購入するであろうと予測し、当初の価格設定を行なったと推測できる。

■「シェア確保」と「利益率確保」の天秤
 前述の通り、PS3の値下げは、当初「需要予測からの設定」でプライシングしたものの、市場の反応が芳しくないことから「競合製品との比較調整」によって値下げを行なったわけだが、プライシングにはもう一つ重要な判断基準が存在する。それが「シェア確保」と「利益率確保」の天秤なのである。
 当然、販売価格が安価な方が購入しやすいため、発売から短期間で大量販売が見込め、シェア確保が可能となる。これを「ペネトレーション・プライシング」という。豊富な資金力があり、流通コントロール力があれば確実に早期にシェア確保ができ、「薄利多売」でも結果的に大きな利益を上げることができる。また、低利益率に耐えられる体力のない後発の参入を抑制することもできる。しかし、コトはそんなに単純ではない。発売した製品が「思ったより売れなかった」などという事態になれば、投下した原価の回収さえままならなくなってしまうリスクもある。また、安く発売した製品の価格を引き上げることは容易ではない。
 そうなると、やはりシェアではなく、きちんと利益率を確保した方がよいのかという考え方が出てくる。シェアよりも利益率の確保を狙う考え方を「スキミング・プライシング」という。購入者が何らかの便益や魅力を製品に感じてくれると踏んで、たとえそうした購入者が数多くいなくとも、価格を受容してくれる人に高く買ってもらおうということである。そうすることによって、投下した原価の回収は最低でも回収でき、うまく製品が売れ続ければ良質な顧客層を確保し、確固たるブランドとして育つことも期待できる。しかし、こちらにもリスクがある。利益率が高い、つまり「おいしい市場がある」と競合となる企業がかぎつけた場合、同等の機能や価値を持った製品を、利益率を落として市場に投入してきた場合、元々大きくはないシェアはあっという間に浸食されてしまうことになる。また、対抗措置として値引きをすれば、泥沼の値引き合戦になり、体力のない方が倒れることになる。以上のように「ペネトレーション・プライシング」と「スキミング・プライシング」では全く逆の価格設定となり、想定されるリスクも全く異なる。
 では、自社の場合、どちらのプライシングを行なうべきかと悩んだ場合は、当然、定量的に試算を行なうことが重要であるが、本連載の第6回(10月号)で紹介した「5forcesモデル」で考えれば、自社と競合や新規参入の関係を把握することによって、おおよその方向性はつかめるだろう。

■再びPS3について考えてみる
 ゲーム機という製品の特性を考えれば、そのゲーム機が市場でどの程度シェアを持っているかによって、サードパーティーも含めて、ソフトの作り手をどれだけ吸引できるかが変わってくる。魅力のないソフトしかない、または使えるソフトが少ないゲーム機などには商品価値はない。そのため、「シェア」は非常に重要な意味を持つ。となれば、前述の「ペネトレーション・プライシング」で戦うのが定石だ。しかし、PS3は単なるゲーム機を超えたポジショニングを設定されていた。そうなると、ゲームだけに留まらない、ハイスペックな機能によって「購入者が得られる便益」が高いとすれば、それが認められれば高い価格でも市場に受入れられるという考え方も出てくる。
しかし、実際にはやはり、元来がゲーム機であり、コアユーザーはゲーム愛好家であるため、ライバル製品との価 格差が二倍~三倍となると、コアユーザーには受容しがたい価格としてとらえられ、断腸の思いで値下げを発表したのではないだろうか。筆者は以前から「ポジショニングの大切さ」を説いてきたが、正に今回のケースはPS3が従来機からのポジショニングチェンジという挑戦を図ったものの、それが市場に受入れられず、プライシングの見直しをせざるを得なくなったと読み取ることができる。

2006.12.01

「人気動物園に学ぶ顧客ニーズ対応の極意」

日経BizPlusの連載が更新されました。

今回はマーケティングのキモとは何かという、根源的なテーマを「動物園」を題材に掘り下げてみました。

文中、実は金森は高校時代「獣医を目指したこともある」という、少々恥ずかしい過去をカミングアウトしています。
高校一年の最後に、文系選抜クラスに進むか、理系選抜クラスに進むかの選択を迫られ、「獣医になりたい」などという夢見がちな少年であったため、理系を選択。が、すぐによくある「文系転び」をしたため、おかげで物理や数Ⅲなどの科目に泣かされました。。まぁ、今となっては思い出ですし、笑い話ですが。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm

----------------<以下バックナンバー用転載>-----------------------

「人気動物園に学ぶ顧客ニーズ対応の極意」

 「『カメラをください』というお客様が目の前にいたら、その人はどんなニーズを持っているか分かりますか?」。筆者が教壇に立っている、ビジネススクールのマーケティング初学者向け講義の一コマだ。受講生から「写真を撮りたい」と答えが返ってくる。「そうですね。でもそれは、表面に現れている“顕在ニーズ”です。顧客心理を洞察するには、“潜在ニーズ”までとらえなければなりません。『写真を撮りたい』という場合、どんな潜在ニーズが考えられますか?」。少し間を置いて、「思い出を作りたい」「証拠を残したい」「趣味として写真を撮りたい」などの答えが挙がる。いずれも正解である。

 ここでのラーニングポイントは、「マーケティングの第一歩は顧客ニーズの深掘りから」だ。マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラーも著書「コトラーのマーケティング・コンセプト」(東洋経済新報社)で、「マーケティングの本来のスローガンは、『ニーズを見出し、ニーズを満たせ』というものである」と述べている。

■マーケティングの第一歩は「顧客ニーズの深掘り」

 転じて、昨今の様々なブームの中でも、「これは顧客の潜在ニーズをうまく引き出したな」と感心させられる例がある。大人も楽しめる人気スポットとして復活した、動物園である。 

 筆者は動物好きだ。子供の頃はテレビの動物番組や自然番組を毎晩観ていた。高校生の頃は獣医を目指したこともある。だが、動物園というものは大嫌いで、子供の頃親に連れて行かれたきり、最近まで全く足を運んでいなかった。狭苦しい檻の中に閉じこめられ、生気を失った動物。ストレスフルに意味もなくひたすらウロウロする姿。そんなものは見たくなかったのだ。

 動物園に来園する人のニーズは何か。「動物が見たい」である。しかしそれは“顕在ニーズ”。多くの人の“潜在ニーズ”は、「生き生きした動物の姿が見たい」であろう。

 その潜在ニーズにいち早く応えたのが、旭山動物園(北海道旭川市)だ。動物の姿形を見せることに主眼を置いた従来の展示方法に対して、同園では1997年度から、動物本来の生態や能力を引き出して見せる「行動展示」に取り組んでいる。そして、水中を空飛ぶように泳ぐペンギンを見渡せる水中トンネルや、ホッキョクグマと“獲物”の視点で対面できる透明カプセルなど、動物の自然な姿を間近で観察できる施設を次々と導入し、改良を重ねてきた。

 同園の夏場の月間来園者数は2004年以降、東京・上野動物園を抜いて日本一に躍り出た。現在でもその人気は衰えることを知らず、来園者数はうなぎ上りだ。「生き生きした動物の姿が見たい」という来園者の真のニーズをとらえた結果であることは間違いない。

■潜在ニーズに応えるための工夫の積み重ね

 対する上野動物園も負けてはいない。今年の春には5億円を投じ、クマの本来の住環境を再現する新しいクマ舎を整備した。ここでは木登りや餌を取る様子など、野生のクマ本来の生態はもとより、冬には冬眠する姿も見ることができる。筆者も久々に上野動物園に行ってみたが、確かにクマ舎は立派であり、かつてのような、檻に閉じこめられた悲惨な動物の姿とは全く異なっていた。

 もちろん、5億円といえば大金だ。資金力が豊富な自治体でなければ簡単に捻出(ねんしゅつ)できるものではない。だが、上野動物園で筆者は、顧客ニーズに応えるためにはお金に頼るだけが能ではないことも実感した。ほんのちょっとした工夫で動物が生き生きし、観覧者も楽しくなるような仕掛けを見つけたのだ――ふと、頭上を見ると、カナダヤマアラシが檻の柵を飛び出した木の股にちょこんと座っている。別の場所では同じく檻から外に大きく張り出した木の枝に、ホフマンナマケモノがぶら下がっている。逃げ出す心配のある動物ではないので、檻に閉じこめておく必要はないのだ。

 旭山動物園の水中トンネルも、上野動物園のクマ舎も、来園者のニーズに応えるべく、それなりの費用を投じたものだ。財政事情の厳しい自治体の動物園では「旭山のようにやりたくてもできない」という声も多いと聞く。だが、一方で上野動物園のヤマアラシやナマケモノの展示のように、ほんの小さな工夫で来園者のニーズに応えている例もあるのだ。

■イノベーションかカイゼンか

 動物園から再び転じてビジネスの話。モノが満ちあふれた今日、生活者のニーズはほとんど開拓されつくし、全く新しいニーズを喚起できるようなイノベーションこそ必要であるとも言われている。しかし、本当にそれだけが真実だろうか。

 例えば、ソニーは1979年に初代ヘッドホンステレオ「ウォークマン」1号機を発売した。録音機能なしでは売れないとの社内外の声に反して大ヒットとなり、新たなライフスタイルを創造したのは正にイノベーションだ。だが、それ以降、ソニーを含め、各社が競って軽量化したり、メディアをカセットテープからCD、MDと変えたりしたが、それらは全て「より手軽に音楽を持ち歩きたい」という顧客ニーズに応えたカイゼンである。そして、現在大ヒットしているiPodもソニーの「パーソナルオーディオ」という概念の延長であり、「より手軽に、より大量の音楽を持ち歩けるように」という顧客ニーズに応えたカイゼンだと解釈できる。つまり、「パーソナルオーディオ」というイノベーティブな概念が誕生して以来、27年間カイゼンを積み重ねることによって、市場を広げてきたのだ。考えてみれば先の動物園の例にしても、やはりそれはイノベーションではなく、飼育環境や展示方法の愚直なまでのカイゼンの結果にほかならない。

 我々の周りにも、掘り起こし損なっている顧客ニーズはないだろうか。また、それに十分対応できているだろうか。「難しい時代」「お金がない」などと嘆く前に、マーケティングの第一歩である「顧客ニーズの深掘り」をもう一度考えてみたいものである。動物園に負けてはいられない。

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