「文部科学大臣からのお願い」をマーケティング的に検証する
遅ればせながら子供がくだんのプリントを持ち帰ってきた。
様々な議論がなされているが、改めてそれを眺めて考えてみた。
(内容は以下のサイトを参照のこと)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06110713.htm
このような前例のないメッセージを大臣自身が発信するという行為自体にはまずは敬意を表したい。
しかし、内容がどうもいけない。
まず、問題なのが、一枚のプリントに「いじめる側」と「いじめられる側」に向けたメッセージが併記されていること。
もう一枚の父兄向けのプリントには「子供の心の中に自殺の連鎖を生じさせぬよう」とあるが、だとすれば、
いじめる側に向けたメッセージより先に、いじめられる側に向けたメッセージを持ってくるべきではないか。できるなら、プリントは2枚に分け、生徒各々に2枚ずつ配布すべきではないか。受け取った生徒はどちらが自分に向けられたメッセージであるか認識できよう。
ターゲットを明確にし、そのターゲットに適したメッセージを送ること。基本中の基本だ。
さらに問題なのが、「いじめる側」と「いじめられる側」に向けたメッセージが「未来ある君たちへ」という一つのタイトルでくくられていることだ。そのタイトルの直後は「いじめる側」向け。いじめる側に「未来ある君たち」はメッセージとして適切なのか。しかも、「いじめるのは、はずかしいこと」とある。
「未来ある人間としてはずかしいことをしないように」という文脈と解釈できるが、いじめという行為をしている人間が、この文脈で「そうかはずかしいことだったんだ。やめなきゃ!」と思うだろうか。メッセージにインパクトがなさすぎる。
この場合、「はずかしいこと」ではなく、「いじめは犯罪である。脅迫、場合によっては恐喝、暴行など刑事罰に相当すること。そしてそのような行為を続ける限り決して未来はない」と明確に言い切るべきだ。メッセージを受け入れにくいターゲットに対して有効なのは「恐怖訴求」である。「君たちもいじめられるたちばになることもあるんだよ」という一文もあるが、そんな想像力が働くようであれば、そもそもいじめを行わないだろう。このメッセージではいじめる側に、「自らに関係のあるメッセージ」として届かない。
後半のいじめられる側へのメッセージも、「はずかしがらず、一人でくるしまず、いじめられていることを話すゆうきをもとう」とあるが、いじめられる側の多くは「誰にも相談できない」ことに悩み、最終的に「自殺」という選択肢を選んでしまっている現状に対する認識が甘いのではないだろうか。話せないで悩んでいる者に対して、「ゆうきをもとう」「話せば楽になるからね」では問題の解決策を提示していることにはならない。話せというなら、「だれでもいいから」ではなく、「誰に」「どのように」はなし、その結果「どのような解決につながるのか」まで明確にしなくては、話せず悩んでいる者の口を開かすことはできないはずだ。インサイト(洞察)不足である。
具体的な例を挙げるなら、「話せば警察が介入して問題を解決してくれる」ぐらいのことを明言すべきなのだ。
警察は学校への介入を嫌うが、今回のメッセージは「自殺の連鎖という非常事態の解決」のために行われているのであれば、それぐらいの対策を提示しなければ空手形を切っていることになる。「きっとみんなが助けてくれる」と最後を結んで、文部科学大臣の署名があるが、署名しているにもかかわらず、自らは解決策を提示せず「みんなが」と他人任せにしているようでは、該当者の信頼は得られない。
マーケティングの基本は「いかにターゲットの潜在的なニーズを洞察できるか」が眼目である。そこから考えると、いじめる側、いじめられる側双方に対する洞察が非常に表面的すぎであり、文章が上滑りしている。問題は学校で起きている。そこを束ねる長としては、もっと問題を深く見据えて、当事者の心の洞察にもっと務めてもらいたかった。
さ末なことを付け加えるが、低学年の子供を意識して平仮名を多用していると思われるが、「立場」が平仮名であるのに対し、「仲間」が漢字であるなど、何年生でどの漢字を習うかを決めているのは文部科学省であるので、その整合性にも気を遣ってほしかった。さらに、いじめる側へのメッセージには「友だち」という表現を遣い、いじめられる側へは「友達」と表現しており、一貫性がない。細かいことであるが、一般の企業であれば、トップのメッセージであれば広報などが入念にチェックを行い、修正を加えるであろう。なぜなら、こうした細かなところでも信頼性を損ないたくないと考えるからだ。
以上、雑ぱくではあるが、メッセージ内容を検証してみた。繰り返すが、賛否はあるものの、メッセージの発信自体に関しては賞賛に値する。しかし、巧遅より拙速を重んじたのかもしれないが、内容的には有効性に乏しいものである観が否めない。残念だ。
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