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2006.10.29

センター・アイデンティティーの確立に向けて:第2回

LCAコミュニケーションズ社が発行しているコンタクトセンターの専門隔月誌「コンタクトセンターマネジメント」の連載、この連載は、金森の自説をコンタクトセンター向けにまとめ直して発表しています。

しかしながら、前号では入院騒ぎで第3回を休載し、今、一号飛ばした穴埋めの原稿をようやく書いています。

で、第2回をBlogに掲出することを忘れていたのも思い出しましたので、遅ればせながらお届けいたします。

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第2回「センター・アイデンティティー構築の準備作業」

■魔法の呪文のその前に・マーケティング環境分析
 前回はマーケティングとコンタクトセンターの歴史を振り返り、センターの今日置かれた企業内でのポジションを整理した。コンタクトセンターは企業内において、顧客情報を一元的に扱い、各部門と連動して一人の顧客に一貫性と整合性のある対応を行うためのハブとなるべき存在である。しかし、「苦情処理」や「受注処理」といった、処理中心の「業務をこなす」ことだけが求められてきたコンタクトセンターの出自そのものが、本来的な位置づけからの乖離を招いている。結果としてセンターに勤務するコミュニケーターやスーパーバイザーといった現場スタッフが、高いレベルでモチベーションを維持するということが困難な状況にあるのが現状である。そのため、現場スタッフに顧客対応の重要性を理解させ、各々の業務の重要性を認識させることで鼓舞し、高いモチベーションを持って業務に向かわせるためには何らかの精神的支柱が必要である。その精神的支柱となるのがセンター・アイデンティティーという考え方であると述べた。
 しかし、センター・アイデンティティーは一瞬で現状を激変させる、「魔法の呪文」ではない。ステートメント化(明文化)するためにはまず、準備作業が必要だ。センター・アイデンティティーはセンターの現状を的確にとらえた内容でなければならない。故に、まず環境分析が必要となる。環境分析はマーケティングの基本的なフレームワークに沿って現状の洗い出しを行っていくワークである。実際にワークはセンターに勤務するスーパーバイザーやコミュニケーターを巻き込み、作業のプロセスを共有することが肝要である。最終的な成果物であるステートメント化されたセンター・アイデンティティーの基礎となる分析段階から参画させることによって、より納得感を醸成できるからだ。センター勤務者全員を参加させることはできないであろうが、その場合でも現場スタッフが参画しているという事実と、作業プロセスを開示し、共有することが重要である。

■環境分析を実行する
 では、具体的な環境分析の実行方法に話を進めよう。図1にあるような表を作り、まず、各々の項目がどのような環境にあるのかを列挙し、事象のプラス面とマイナス面を埋めていく。より自社の置かれた環境を明確にするために、自社との対比で「競合」の要素も盛り込むとよい。1_3

 まず、センターのことだけではなく、自社を取り巻く外的な環境を大きく分析していく。マクロ分析の典型的なフレームワークである「PEST分析」を用いる。「PEST」とは、P= Political:関連法案や規制など、政治的な影響はないか。E = Economical: 自社を取り巻く経済環境はどうなのか。好景気であればよい業種ばかりではない。また、自業界の先々の経済見通しも需要だ。S = Social:経済情勢だけでなく社会情勢全般を見渡すことが重要だ。人口動態や人々の関心に登っている社会問題など考慮せねばならない。T = Technological:現状の技術的な側面はどうなのか。自社にとって優位な技術、脅威となる技術などを明確にしておくことが重要だ。
 次に自社のごく周辺の環境を洗い出す。ミクロ分析といわれるもので、フレームワークとしては「3C分析」を用いる。3Cとは、市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の頭文字を取ってている。Customerは自社顧客だけを意味するのではなく、市場に広く存在する、顧客となりうるべき生活者を意味している、その意味からは「市場」という日本語訳の方が本来の意味に近い。市場全体を広く見渡し、自社のチャンスとチャンスロスの危険性を探ることとなる。Competitor =競合となりうる企業を洗い出し、それらの動きを観察し、市場全体の動向を把握する。Competitorといってもライバル会社だけではなく、昨今では思いもよらぬ企業がCompetitorになることも少なくないので、できるだけ広い視野で捉えることが必要である。Companyは自社の現在のFACT(事実・現実)を中心に洗い出す。
 続いてマーケティング・ミックスの洗い出しを行なう。いわゆる「4P」を検証していくのだ。Product = 製品:自社と競合の製品的な違い・強み弱み。Price = 価格:自社と競合の価格戦略の違い。Place = 販路:自社と競合の流通経路の特徴と、経路に起因する売り方及び情報取得の方法の違い。特に商品の流れ「物流」と、お金の流れ「商流」、情報の流れ「情報流」は各々異なるので留意が必要である。Promotion = プロモーション:この部分だけで狭義にマーケティングをとらえがちであるが、飽くまで一要素でしかないことが一連のワークを行ってくると理解できるだろう。今日、メディアは多様化し、プロモーションの方法も大きく変化している。とにかく幅広に考えてみることが必要だ。

■マトリックスから「意味合い」を抽出する 
 図1の全ての欄が埋まったら、図2のようにマトリックスを分割してほしい。2_2
3Cの「Competitor」のところで上下に分ける。Competitor以上の項目が「外的要因」。「Company」以下の項目が、「内的要因」である。さて、次に、各々の項目のプラス要因とマイナス要因の間に線を引く。すると左下の象限は「内的要因のStrong」である。右下が「内的要因のWeakness」。左上が「外的要因のOpportunity」。右上が「外的要因のSleight」。つまり、一般に言われる、SWOT分析を丹念に行っていたということがここでわかるだろう。3_2
SWOT分析は通常は図3のような表を元に四つのマス目を埋めようとするが、表単独でマス目を埋めようとしても、なかなか正確には作り上げられないものなのだ。一連のプロセスを踏んで表を完成させれば、極めて精緻なSWOTの表が完成する。
 しかし、この表が完成しても安心してはいけない。ここまでは単なる現状洗い出しの「作業」にすぎないのだ。S/W/O/Tの象限ごとに、象限の持つ意味合を抽出する。状況は明るいのか暗いのか。原因は何か。解決するための打ち手は何かを検討するのだ。四象限全て検討し、最後に全体として、自社の状況は明るいのか暗いのか。解決する打ち手は何かを検討する。そして最後に次のようなワードに落とし込んで意味合いを明確にすれば完成だ。
 我が社を取り巻く環境は
 T                 というマイナス要因と、
 O                 というプラス要因があり、
 総合的には T+O             であると言える。
 その中で
 W              という弱みをカバーし
 S              という強みを活かしていく。

■ 「カスタマーインサイト」という名のフレームワークを理解する
 上記の通り、環境分析によって自社を取り巻く様々な事象が浮かび上がり、「今、何をなすべきか」がおぼろげながら見えてきたのではないだろうか。
 しかし、ここからセンター・アイデンティティーを構築してしまうと、ともすれば自社の視点からだけで、顧客の視点を置き去りにしてしまう恐れがある。それを防ぐためには、いま一度、顧客の心の中を深く考えてみることが必要となる。そこで、筆者は「カスタマーインサイト」というフレームワークを提唱したい。カスタマーインサイトとは、直訳すれば「顧客の心を洞察する」という意味であるが、複雑な人の心の動きを一つのフレームワークに押し込めることによって、対応策を考え出すことが眼目である。それは<Recognition><Time Saving><Peace of Mind>という3つの要素から構成されている。以下、図4を元に各々の構成要素について解説しよう。4_1

<Recognition>
 顧客の存在を適切に認知・評価すること。つまり、この顧客はどのような人で、どのよ うな行動特性を持っているのか。購買履歴や傾向からするとこれくらい自社の利益に貢 献するであろう。というようなことを、顧客のプロフィールデータや購買行動データ、 来店履歴やWEBへの来訪・利用履歴などを用いて把握することである。
 このRecognitionは言ってみれば商売の基本であり、「大切なお客様のことはちゃんと分 かっています!」という態度を示すことにつながる。当然、営業規模の小さな個人商店 などは顧客を個別識別し、好みなどもきちんと把握した上で商売をしている。しかし、 企業規模が大きくなり、顧客数が増え、流通も複雑になった結果、顧客の個別識別がで きなくなってしまったのが今日の企業の姿である。それを顧客データの活用によって商 売の原点を取り戻すである。顧客の状況がつかめていなければ打ち手も考えられない。 極めて基本であり、かつ重要な原点である。
<Time Saving>
 利便性の提供、若しくはボトルネックの解消である。これも商売からすれば当然のこと であり、「お客様にお手間は取らせません!」という姿勢を示すことだ。つまり、顧客 がふとしたきっかけで「こんな資料が欲しいな」などと思ったら、すぐに提供する。顧 客が何か契約の更新や申し込みなどを忘れていたら、きちんと思い出させる。顧客が気 になったものがあったら、探しやすい環境を提供する。そういう努力を惜しまないこと が大切だ。
<Peace of Mind>
 本質的な価値の提供によって、顧客に安心感と満足を与えることである。結果、顧客は 「ああ、これでよかったんだ!」という気持ちになり、顧客と企業及び担当者の相互信 頼関係が生まれる。そこから初めてアップセルやクロスセル、アフターマーケティング や顧客紹介への道が開ける。
 では、「本質的な価値」とは何か。筆者はよく生命保険を例にとって説明している。保 険に 入ると保険証券が送られてくる。しかし、そんな物はただの紙っぺらだと誰もが 分かっている。では、万が一の時に支払われる一億だか何千万だかの保険金の額が本質 的な価値なのか?確かに金額は重要だろう。しかし、保険の本質的価値とは「自分 に万が一のことがあっても、家族は大丈夫だろう」という「安心感」なのだ。成績が優秀な保険の営業担当者でものは、そのことがわかっているが故に、顧客に対する手厚いフォローによって「安心感」を与え、決して離反させることなく、追加の契約を獲得したり、知り合いの紹介をもらったりしてさらに成績を伸ばしている。「本質的な価値」が理解できているといないのでは、顧客対応が大きく異なり、成績にも大きく影響するのだ。

■「カスタマーインサイト」活用法
 「カスタマーインサイト」は理解できただろうか。フレームワークは考え方の整理であり、黙って読んでいるだけでは抽象的に感じられるかもしれない。今回は保険業を例示したがも、実際に自社のビジネスに当てはめて考えてみなくては具体的な意味合いはなかなか見えてこない。環境分析に続いて、「カスタマーインサイト」もフレームワークに従い、自社への適応を具体的に話し合い、自社版の「カスタマーインサイト」を作り上げることが次の作業である。
 上記の通り、3つの要素が整理するためには、「カスタマーインサイト」を活かした顧客対応をどのように実現するのかも同時に考えるとよいだろう。そのためには、図4を図5のように逆さまに組み直してみると理解しやすい。5
Recognition→Time Saving→Peace of Mindというステップである。これは、「どのように顧客を理解すべきか」という考え方の流れを示している。逆の流れで一つ一つ要素を確認していくことで、顧客に向かい合う準備をするのだ。
 ポイントはPeace of Mindの要諦である「本質的価値」の理解である。「自分が顧客に提供するものの真の価値はどこにあるのか」をとことん考える。そして「自分たちはこんな存在なんだ」という確信が持てれば、おのずと次に「それではお客様にはこんなふうに接しよう」という、とるべき行動が見えてくるのだ。それは、センター・アイデンティティーのステートメント化のためには欠かせない準備作業となる。
 もし、今回提示したプロセスを踏まずにいきなりステートメントを作成したら、ただの言葉遊びに過ぎない、美辞麗句に終わってしまう。次回いよいよ具体的なステートメント作成のパートに入る。そのためにも、今回のプロセスを是非、実行してもらいたい。


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