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2006.08.01

「質問編」顧客視点”入門講座 第5回

「販促会議」の9月号が発売されましたので、前月号のバックナンバーを掲出いたします。

今回は少々趣を異にした内容となっています。
昨今の新聞紙上を賑わす事故・事件を見るにつけ、いてもたってもいられない気持ちになって書きました。
皆様はどのように思われるでしょうか?

 この連載は、前連載の各回のテーマに関連した読者からのご質問にお答えすることを主旨としているが、今回だけは「筆者からの追加のメッセージ」という形を取りたい。というのも、筆者が「顧客視点」の根幹である「カスタマーインサイト」(前連載第4回にて紹介・関連質問を本連載第1回に掲載)のさらに中核である「本質的価値」が理解されていない思われるビジネスの事象がこの所頻発しているからである。是非とも読者諸兄も他山の石としてお考えいただきたい。

■Peace of Mindにおける「本質的な価値」の提供
 何度も同じ内容を繰り返すつもりはないが、ごく簡単に振り返る。詳細はバックナンバーを参照されたい。「顧客の心を洞察する」という意味の「カスタマーインサイト」は最終的に顧客に「ああ、この企業と取引をしてよかった」「この商品を買って良かった」というPeace of Mindを提供することを旨としている。そしてそのためには、自社が提供している商品・サービスの「本質的な価値」を理解することが大切である。
 前連載で例示したが、生命保険の「本質的な価値」は「補償額」ではなく、「万が一の時の安心感」である。それが理解できている営業職員は、顧客への対応にも万全の安心感を与える対応をするが故に成績もよい。それが理解できている会社は広告などのコミュニケーションでも的確な訴求ができる。
 前回、もっと一般的なマーケティングのセオリーで類似した考え方として、フィリップ・コトラーが示した「製品特性分析」を使って説明をした。製品を大きく「コア」「形態」「付加機能」の三層に分かれて考えた時の「コア」が筆者のいう「本質的価値」に意味としては近い。顧客に提供するべき中核たる「ベネフィット(便益)」である。

■エレベーター事故にみる安全への無理解
冒頭述べたように、上記の「本質的な価値」や「コア」が理解されていないケースが昨今、散見される。某外資系エレベーター会社で人命が失われる重大事故が発生した。エレベーターの本質的価値とは何であろうか。通常の製品特性分析で考えれば、コアは「スムーズかつ、高速な上下移動」であろう。しかし、「上下移動」という方向感覚に惑わされてしまうが、エレベーターとは紛れもなく「乗り物」である。そして全ての、特に人を運ぶ事業に求められる本質的価値とは、「安全な移動サービスの提供」である。それはJR福知山線の大事故で、乗客の安全は効率や競合との戦いに比べれば、無限大に優先されるべきものであるということを、事業者も利用者もイヤというほど認識した。
エレベーター会社の海外本社は日本でのそんな認識を理解していたのか。調べが進めば進むほどずさんな管理に疑いを持ちたくなる。

■同じ旅客業の航空会社でも・・・
あるビジネス誌の経営危機に陥っている航空会社の特集でも気になる記述を見つけた。あるチーフパーサーが機長から語られた言葉として、以下のような主旨が紹介されていたのだ。
「機長から『原油高のせいでジャンボ機は満席になっても利益が出ない状態だ』と聞かされ、『じゃあ私たちは何をしても無駄なのか』と茫然としてしまった。そうしたら、『マグロ』を大事にしろよと。貨物として運ぶ冷蔵マグロは儲かるから、人よりマグロだと。」
思わず筆者は目を疑った。この機長は間違いなく自分の仕事の「コア」を「効率的な運輸」であると認識している。しかし、その機長の操縦しているのは「旅客機」である。確かにマグロだの何だのと、貨物も当然積んでいるだろう。しかし、主たる輸送物は「人間」である。とすれば、「旅客機ビジネス」の本質的価値は何であるのか、もはや言うまでもない。しかし、その「本質的な価値」が判っていない人間が何百人もの人命を預かり操縦桿を握っているのだ。

■貸金業では・・・
業界大手の法令違反から、法改正も含めた政府の検討が始まり業界存亡の危機に立たされているのは消費者金融だ。確かに返せないぐらいの金額を高利で無理に貸し込み、強引に取り立てるといった悪質なケースもあっただろう。しかし、本当に消費者金融という存在自体が悪なのか。
答えは否であると筆者は考える。確かに消費者金融の利率は高い。しかし、低利の銀行で借りようにも長い審査期間や、与信の厳格さでお金を借りたくても借りられない人も少なくない。そんな時、無担保即日融資が原則の消費者金融が助けの神になる生活者も少なくないのだ。消費者金融の「コア」は単純に考えれば、「貸し金」である。しかし、実態は融資を求めてきた顧客に対して、その状況に応じた利率の提示や様々なアドバイスを行なっていたりする。とすれば、「本質的な価値」は「企業と顧客の間の相互信頼関係の元に、十分なアドバイスを行なった上で、適切な金額と利率でお金を貸すこと」であると定義できる。極端にいえば、銀行は紛れもなく「金融業」であるが、消費者金融は金融業であると同時に、「相互信頼関係の構築」や「アドバイス」などを要する「サービス業」の色彩も強い。法令違反をした企業はやはり、そんな側面を持った「本質的な価値」を見失っていたのだろう。

■結婚情報サービスの事件
少子高齢化対策の一環として、政府は結婚情報サービスの積極的な活用を後押ししようとしていた。日本では今ひとつマイナーな存在であるが、この手のサービスは米国では多くの人が利用しているメジャーなサービスだ。そして政府は、今まで規制していたテレビCFを解禁し、さらに優良業者に「マル適マーク」を交付しようとしていたのだ。
しかし、そんな矢先、業界の大手二社が会員の成婚率の水増しという誇大広告を行なっていたことが発覚した。水増ししようとした背景は、「とにかく会員数を集めなければ始まらない」という考えからだろう。しかし、会員同士ではなく、男女片方が会員であった場合や、既に退会していた過去の会員まで含めて成婚率に加えていたことからも、「結果を出す」ということが重要であるとの思いが駆ってのことであろうと推察できる。
確かに会員になる以上、「会員の中から伴侶が見つけられる」という「結果が出ること」を顧客が企業に求めるのは当然のことだ。しかし、実際には結果は男女の機微のこと。「確実に結果が出せる」などということは約束できるはずもない。しかし、問題の企業二社は、自社の「本質的価値」を「結婚というゴールに至までの結果を約束すること」と拡大してしまったのだろう。
「本質的価値」は「本質」である以上、実現可能で確実に約束できることでなければ意味がない。それもまた、誤った解釈となってしまうのである。

■「本質的な価値」を考えるヒント
ここまで前連載を含めて3回をこの「本質的価値」に関する解説で費やしてきたが、実際に「自社、もしくは自らのビジネスにおける本質的価値は何なのか?」を明確にすることはそんなに容易なことではない。
そこで、一つそれを理解するためのヒントを提示しよう。ブランド論の大家、デビッド・A・アーカーの「ブランド優位の戦略」(ダイヤモンド社)のブランドエッセンスとコア・アイデンティティを現す記述がある。ブランドエッセンスとコア・アイデンティティは乱暴にいってしまえば、「製品特性分析」の「コア」や、筆者の言う「本質的価値」と便宜的にニア・イコールと今回はとらえて欲しい。曰く、「コア・アイデンティティは、ブランドの永遠の本質を表す。それは、タマネギの何層もの皮や、チョウセンアザミの葉をむいて後に残っている中心部分である」。
なかなか難解な表現なので、かえって判らなくなるかもしれないが、ちなみに「チョウセンアザミ」とはイタリアンなどでおなじみの「アーティチョーク」のことだ。タマネギもアーティチョークも外側から何層にも皮がかぶっているのは判るだろう。そしてそれを担縁に一枚一枚むいていく。すると、最後に残るものは何か。実は最後までむききると、何も残らない。しかし、確かに目に見えなくともそこに「中心」が存在するから、それを取り巻く難渋もの様々な要素が存在できるのだ。「全てを取り去って目に見えないが、確かに存在する中心にあるものとは何か」。それをアーカーは問いかけている。そして筆者も同様に、「本質的価値」を突き詰めて考える際にはそうした思考を繰り返し、答えを導き出して欲しいと考えている。


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いつもコメント&トラバ、ありがとうございます。相互リンクも大歓迎!アイフルの件はやはり氷山の一角だったんですね。厳しい取り立てなんて、業界では当り前とのこと。 [Read More]

Tracked on 2006.08.06 05:03 PM

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