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2006.05.08

「続”顧客視点”入門講座:第1回」

 前号までで、「”顧客視点”入門講座」は連載12回、1年間で一区切りをつけた。しかし、筆者にもまだまだ伝えたいこともあり、読者からもいろいろな質問が寄せられている状況だ。そこで編集部の御厚意に甘え、前12回で記した内容に具体的な例示を加えたり、別の角度から説明し直すなどして、「顧客視点」というものをもう1年かけてより完全に伝えていきたいと思う。

■「カスタマーインサイト」は分かったが・・・
筆者に寄せられる質問の中で最も多いのが、前連載の第4回で紹介した「カスタマーインサイト」をいかにすれば実現できるのか?というものだ。「カスタマーインサイト」をもう一度おさらいしよう。
 カスタマーインサイトとは、「顧客の心を洞察する」という意味であり、<Recognition><Time Saving><Peace of Mind>という3つの構成要素からなる。(図1)
<Recognition>は顧客の存在を適切に認知・評価すること。顧客のプロフィールデータや購買行動データ、来店履歴やWEBへの来訪・利用履歴などを用いて把握すること。言ってみれば商売の基本である「大切なお客様のことはちゃんと分かっています!」という態度を示すことにつながる。
<Time Saving>は利便性の提供、若しくはボトルネックの解消である。これも商売からすれば当然のことであり、「お客様にお手間は取らせません!」という姿勢を示すことだ。
<Peace of Mind>は理解するのが少し難しい。その意味するところは「本質的な価値」の提供によって、顧客に安心感と満足を与えることである。結果、顧客は「ああ、これでよかったんだ!」という気持ちになり、顧客と企業及び担当者の相互信頼関係が生まれる。
ざっと説明すれば上記のような内容になり、「ふむふむ、これは重要だ」と頭では理解できる人も多い。しかし、これを実現しようとした場合「じゃあ、具体的にはどうすればいいんだ?」ととたんに途方に暮れてしまう人が多いようだ。

■まずは「本質的価値」の理解から
 カスタマーインサイトにおける最重要ポイントは「本質的価値」の理解だ。自分は顧客に対して何を提供しているのかということが理解できていなければ、商売は始まらない。しかし、それを理解しないまま、セールスマニュアルに乗っ取って型どおりのセールス活動を展開している例が散見される。
 前連載で「本質的価値」の具体例として、生命保険は「保険証券」や「補償額」などではなく、「加入していることによって得られる、万が一の時の安心感」であると述べた。保険証券という目に見える物質や、補償額という数字だけに捕らわれるのではなく、その根本にある顧客が欲しているものを洞察するのが要点なのだ。
 どうしてもうまくそれが見つけ出せないというのであれば、オーセンティックなマーケティングのフレームワークを利用してみればいい。フィリップ・コトラーが示した「製品特性分析」(図2)を見てほしい。製品は大きく「コア」「形態」「付加機能」の三層に分かれて考えられる。「コア」とは顧客に提供するべき「ベネフィット(便益)」である。筆者のいう「本質的価値」に意味としては近い。さらに注目すべきは、そのベネフィットがどのような「形態」で提供されているのかという点である。例えば、「安全・快適にスキーに行くために車を四輪駆動車に買い換えよう」と思っている人がいたとしよう。その人にとっての製品の「コア」は「安全・快適な移動手段」である。それを実現する「形態」として「四輪駆動車」をまずは想定しているという状況だ。ここで自動車の販売担当者が「さすがにお目が高い。当社の四輪駆動車はこんなにパワーがあって、ステアリング特性も・・・」などとスペックを羅列しても、その顧客には響かない。顧客の欲しているのは「安全・快適にスキー場に移動すること」なのだ。別の「形態」でそれを実現する方法を考えれば「新幹線でスキーに行く」ということでも実現できる。いや、新幹線の方が確実に安全であるし、眠ったりお酒を飲んだりすることができるので快適性も数段上だ。そうした顧客の心を汲み取って、顧客の最も欲しているベネフィットに沿って「コア」と「形態」の魅力を説得しなければ、顧客は「まあ、別に四輪駆動に買い換えなくても、たまにスキーに行くときは新幹線を使えばいいか」とあっさり購入を棄却してしまうだろう。

■「本質的価値」が分かったら次は・・・ 
前項で本質的価値に関しては理解できただろうか。では次にはどうすべきなのか。まずは(図3)を見てほしい。「何だ、今までの図を逆さまにしただけじゃないか」と言うなかれ。Recognition→Time Saving→Peace of Mindというステップは、「どのように顧客を理解すべきか」という考え方の流れを示している。それを実行に移すには、Peace of Mind→Time Saving→Recognitionという、逆の流れで一つ一つ要素を確認していきながら、顧客に向かい合う準備をするのだ。
 前項で述べたとおり、まずは「自分が顧客に提供するものの真の価値はどこにあるのか」をとことん考える。そして「自分たちはこんな存在なんだ」という確信が持てれば、おのずと次に「それではお客様にはこんなふうに接しよう」という、とるべき行動が見えてくる。さらにそこまで分かれば、今までの顧客との接触がいかに表面的であったかも分かるだろう。「お客様のこんなところも理解しなくては」と思うようになるに違いない。この流れは今までの自分の営業や販売における顧客との接触を省みるためのものなのだ。

■カスタマーインサイトの達人になれば・・・ 
前連載と今回でカスタマーインサイトを理解するためのフレームワークを詳説したが、フレームワークを埋めていくことが目的化してしまわないことが重要だ。マーケティングにおいては様々なフレームワークが使用される。本連載においても今後も様々なフレームワークを紹介することになるだろう。しかし、フレームワークの本来の目的は「ものごとを客観的に、モレ・ヌケなく把握する」ために使うことにある。飽くまでそれは、顧客とのコミュニケーションにおける部品であり、道具でしかない。その点を間違えないよう留意が必要だ。本当にそのフレームワークを使用し導出することに慣れれば、逆にフレームワークなど使わずに一気に結論にたどり着けるようにもなる。本当の商売人とは、そうしたものなのだろう。そんな例を一つ。

 それは、もう10年以上前にうかがった、噺家・桂文珍師匠のお話である。曰く、「大阪で980円カメラのワゴンセールをやってました。そこはさすがに客の心が良くわかる大阪の商人がすることで、東京だったら『激安!』と(POPに)書くところを、ズバリ一言書いていた。『写る』だ。980円が安いのは当たり前。見ればわかる。それよりもカメラを手に取った客に『安っすいなー。でも”ちゃんと写るんやろか?”』と思わせないことが大切なんですな」。脱帽である。

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