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2006.03.06

第12:「顧客に伝わる」ポジショニング

販促会議4号が発売されましたので、前号バックナンバーをアップします。
いよいよ最終回です。1年にわたるご愛読ありがとうございました。

また、来月あたりから、装いを新たに、続編ともいうべき新連載が始まりますので、
お楽しみにお待ちください。

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 当連載も一年間・12回まで今号と来月号を残すのみとなった。ここまで「顧客視点」の重要性を説きつつ、その視座でマーケティングの基本を見直し、筆者オリジナルの理論も加えて解説してきた。そして最後の2回は「今まで誰もが疑わなかった基礎・常識を見直し、さらに今日的な時代背景の中で新たな視点を見つけていく」という当連載の主旨の総まとめをしたい。マーケティングの基本戦略の集大成とも呼べる"STP"(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の見直しである。

 当連載は今回で12回目、1年を迎えとりあえず一区切りとしたい。そして最後に前回マーケティングの基本戦略の"STP"(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の中でも最重要と記した「ポジショニング」を取り上げる。ポジショニングは企業自らが「こうありたい」と定めることも重要であるが、それが顧客に伝わらなくては意味がない。そこにはやはり、「顧客視点」がなければ成立しないのだ。また、前号でも述べた通り、セグメンテーション、ターゲティングをいくら深く考えようとしても、自社のポジショニングを意識した上でなければ確定するためにはひどく体力のかかる作業になってしまう。その意味からも、今回述べるポジショニングは重要事項であるのだ。

■自動車メーカーに見るポジショニングの違い
 冒頭から引用となるが、企業のポジショニングの定義とその業績に反映された結果は、フィリップ・コトラーが著書に端的に表している。「コトラーのマーティング・コンセプト」(恩藏直人教授監修・東洋経済社刊)の「ポジショニング」の項を紐解くと、欧州の自動車メーカーのポジショニングが解説されている。ボルボが「最も安全な車」。BMWが「究極のドライビング・マシン」と。この二社はポジショニングが明確だからこそ、最終的な広告表現にしてもメッセージが明確だ。ボルボはダミー(衝突実験人形)をビジュアルによく登場させ、その安全性を繰り返し強調している。また、BMWの「究極のドライビング・マシン」は有名な「駆けぬける歓び」というコピーに表されている。どちらもポジショニングが顧客に伝わりやすく設定され、メッセージとして届けられるまでブレがないからである。一方、悪い例としてコトラーは米国のGM(ゼネラル・モーターズ)を挙げている。「GMの製品ラインアップが抱える弱点は、各社が明確なポジションを欠いたまま設計されているという点だ。製品の完成後に、大いに苦労しながらポジショニングを考えるというのがGMのやり方なのである」。と同書に明記されている。高級セダン、スポーツカー、ピックアップトラック等あらゆる車種を取りそろえ、さらにラインアップに隙間を見つけてそこを埋めるように開発・上市するようなやり方は、プロダクトアウト志向そのものである。先の欧州車との違いを考えれば、今日新聞紙上でも頻繁に目にするGMの危機的状況を招いた原因の一端が分かるだろう。これほどに、ポジショニングにおいて顧客視点の欠落は企業にとってクリティカルなダメージをもたらすのである。

■独自の世界観×顧客ベネフィット×競合優位性
 前述の通りポジショニングの設定においては、「顧客視点」を持って確実に顧客に伝わるということが重要である。では、具体的にはどのようにすれば実現するのであろうか。それは以下の三要素の掛け合わせで実現できると考えられる。
①独自の世界観の構築
 独自の世界観といっても、当然「独りよがり」で「斯くありたい」と思っただけでは顧客に認めてはもらえない。その裏付けたる事実(ファクト)が積み上がっていることが前提であることはいうまでもない。逆に言えば、ファクトを積み上げるということは、製品を設計する段階から、顧客に提供するその接点に至までの全てを予めデザインしておかなくてはならないことを意味する。そうでなくては「後付けのポジショニング」となり、設計・開発、販売企画、顧客との接点などの各段階で様々なスタッフが各々の考えや思いで自分の担当領域の仕事をしてしまい、結果としてちぐはぐで顧客に伝わらないポジショニングが設定されることになる。そうならないためには、予め自社の今まで積み上げてきた実績を元に、自社の核たる価値は何なのかをステートメント化(明文化)しておく必要がある。ステートメント化については2月号のブランドに関して用いたチャートやメソッドが流用できるだろう。再度確認して欲しい。そうしてファクトを基盤にステートメント化していけば、自社の核に基づいた独自の世界観を定義することができるだろう。
②顧客ベネフィット
 前項のように、ブランドのメソッドを流用して考えれば、当然、顧客に対してどのような価値を提供すべきなのかという「顧客ベネフィット」という要素も加味され、「独自の世界観」は定義されることになる。しかし、この顧客ベネフィットの定義が不完全であると、やはり「提供側の独りよがり」になってしまうため、再度検証することが必要だ。前項では自社の積み上げてきたファクトを基盤に考えたが、今度は完全に顧客の視点で、設定された世界観が「自分にとって何をもたらしてくれるのか?」という意識で見直してみよう。その際にそれが実際に自分の価値観と整合するようであれば大丈夫だ。ここでいう「自分」とは「ターゲット顧客」のことであり、STPのT、即ちターゲティングにおいてその範疇に入らない対象者の視点まで考慮する必要はない。あくまでブランドの項で「理想的とする顧客」を中心に、その予備軍レベルまでを想定して考えればよいだろう。ターゲット顧客層を広げてすぎて考えると、ポジショニング全体のブレの原因になるため注意が必要だ。また、顧客に提供するベネフィットも「機能的価値」と「情緒的な価値」があったことを思い出してみよう。例えば、その商品を用いることによって時間的な節約ができるというような「利便性の提供」と、もう一方で、その商品を所有しているということによる「心理的な満足感」など提供すべきベネフィットには幾つかの切り口がある。自社または、当該商品に一番適合する側面を見つけなければならない。
③競合優位性
 競合の存在しない、全くの新機軸の商品でもあれば、競合優位性など検討する必要もない。しかし、市場が成熟した今日、そのような商品の開発は困難であるし、前項の顧客ベネフィットを考えれば、異なる商品カテゴリーでも競合になり得る。極端な例を出せば、「スキーに行くために四輪駆動の車に買い換えたい」と思う顧客にとって、「スキーは年に何回も行くわけでもなく、行ったとしても渋滞もなく気軽で、酒も飲めるし、短時間で目的地に到着できる」というベネフィットを考えれば、新幹線という交通機関さえも競合となり得るのだ。
 では、競合を洗い出し、それとの比較優位性をどのように打ち出していけばよいかを考えるには「ポジショニングマップ」を描いてみることをお勧めする。(図参照)マップを描くには縦軸、横軸をどのように設定するかが一番のポイントとなる。何らかのリサーチを行い、その結果をデータマイニングやテキストマイニングのツールにかけると、回答から有意な差異を自動的に抽出し、マッピングできることもある。しかし、マーケターとしての経験値を上げたいのであれば、まずは額に汗を浮かべながら頭をひねって考えてみた方がよい。例示の図は筆記具についてのポジショニングマップである。縦軸に商品価格の高低を、横軸に機能性と装飾性を設定してみた。競合商品Aは商品価格が廉価商品よりやや高く、その分、機能性を高めている。プロ仕様の実用品といった位置づけができるだろう。競合製品Bは製品価格が高く装飾性も極めて高い。趣味人向けの高価な万年筆。筆記具としてだけでなく、それを所有していること自体に歓びを見いださせるような商品という位置づけだ。それに対して、自社商品は価格は最高レベルに近いが、装飾性はさほど高くない。つまり、日々使いながら、その機能性の高さ、使い心地で愛着を持たせるというポジションを取ったわけだ。このようにポジショニングマップを作ると比較対象がしやすく、そこから顧客に実際にどのようなメッセージを発すればいいのかも考えやすくなることが分かるだろう。ただし、マップを一つ作って安心していてはいけない。前述の通り、ベネフィット、つまり、縦横の軸の定義を変えてみれば、全く違ったポジションにもなるし、思いもしなかったような商品が競合として浮かび上がってくることもあるからだ。実際にはこのようなマップを幾つも書いて検証するという努力が必要となるのだ。

 以上で、ポジショニングについて述べ、また、「顧客視点の持ち方」についても12回の連載の中で一通り伝えてきたつもりである。「顧客視点」も世の中の流れの中で日々移り変わっていくため、「これが絶対正しい」という見方は存在しない。しかし、最も重要なのは「自分はマーケターである以前に、一人の生活者なのだ」ということを忘れずに、その視座でものごとを考えたり、再検討したりする習慣を付けておくことであると最後に強調したい。

NO12

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