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2006.02.02

”顧客視点”入門講座 第11:今日的に"STP"を再考する

販促会議3月号が発売されましたので、前号バックナンバーをアップします。

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 当連載も一年間・12回まで今号と来月号を残すのみとなった。ここまで「顧客視点」の重要性を説きつつ、その視座でマーケティングの基本を見直し、筆者オリジナルの理論も加えて解説してきた。そして最後の2回は「今まで誰もが疑わなかった基礎・常識を見直し、さらに今日的な時代背景の中で新たな視点を見つけていく」という当連載の主旨の総まとめをしたい。マーケティングの基本戦略の集大成とも呼べる"STP"(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の見直しである。

■階層構造の変化と共に変わるSTP
 「階層二極化」。昨今、マーケティングだけでなく経済学や社会学などでも扱われる、今後の日本の姿を表すキーワードである。すなわち、今までの「国民総中流意識」は崩れ去り、上流と下流に二極化していくという説だ。先進国の先輩である英国の姿と対比した論説も多いが、より日本の現実を如実に表した各種データに基づき記された、三浦展氏の「下流社会」(光文社新書)は昨年ベストセラーになっただけあって、さすがに出色である。その説を借りれば、今後の日本は「上」が15%、「中」が45%、「下」が40%という構造に変化していくという。つまり、多くの中流が下流に滑り落ちることによって二極化するということだ。
 そのように社会構造そのものが変化する中、従来通りのSTPでものを考えていたのでは商売がうまくいくはずもない。三浦氏は著書の中で百貨店を一例として「市場が『中流社会』から『階層社会』あるいは『下流社会』に変わったのに、相変わらず中流型社会型のビジネスモデルで対応しているから、売り上げが減るのである」と洞見している。今、認識を改めなければ全ての業種で同じような過ちが繰り返されることになるだろう。例えば日本の基幹産業である自動車。昨年12月17日の日本経済新聞朝刊一面には以下のような記事が掲載されていた。「トヨタ3年ぶり減益・"軽"との競合激しく」「トヨタの苦戦は、より低廉な車種に需要がシフトする国内市場の構造変化を象徴している」と。しかし、一方でトヨタの高級車ブランド「レクサス」は比較的滑り出し好調であるし、輸入車勢も善戦している。低廉車と高級車の二極分化。この流れを看過し「誰にでも受けの良い中型車」などを今後、開発・上市・販売しようとするものなら、苦戦は目に見えているだろう。市場のセグメント、狙うべき顧客ターゲット、商品が顧客に向けて打ち出すべきポジショニング、つまりSTPの全てを見直すべき必要があるのだ。

■STPにおけるセグメンテーション 
 セグメンテーションとは、一般にそれに続くターゲティング、すなわちどのような顧客層を狙うのかを検討するための下準備であると考えられる。市場を幾つかの同じような「集合体」に分類するために、ジオグラフィック(地理的要因)=地域・人口密度等、デモグラフィック(人口動態的要因)=年齢・性別・所得・世帯規模・ライフステージ等、サイコグラフィック(心理的要因)=ライフスタイル・ロイヤルティー等の変数を用いることが一般である。しかし、ここにまず顧客視点が欠落する一つの危険性が潜んでいる。上記三つの変数要因が狙うべき顧客ターゲットに対して全てカバーするだけのデータが事前に揃っている場合などは希であり、多くの場合「マーケターの"勘と経験"」で補う、悪く言えば「当て推量」を働かせることになる。そのアンチテーゼとして「顧客のことは個々の顧客に聞け」という考え方で、CRM(Customer Relationship Management)やOne to Oneマーケティングが提唱されてきた。
 では、社会構造の変化はそれにどのような変化をもたらすのか。階層二極化が進めば、「パレートの法則」を体現するが如く、企業の収益の大半は少数の上流階層からもたらされ、多数の下流は低収益な存在となる。となれば、上流を狙うのであれば、前述のCRMやOne to Oneといった個々の顧客(個客)に合わせた個別ターゲティングが重要になり、セグメントという概念は希薄になっていくだろう。正に顧客視点こそがセグメントに変わる重要な切り口となるのだ。今まで概念先行で大きな成功例がなかなか出にくかったCRMやOne to Oneであるが、それは「国民総中流」の中で「個客」として扱うべきターゲットを特定しにくかったからに他ならない。今後の階層格差が進む社会においてはターゲットが特定しやすくなるのだ。
 しかし、全ての企業が上流を狙うわけではない。同業種であるセブン&アイとイオンでは前者が百貨店グループを傘下に納め、上流から下流まで垂直的に顧客を取り込もうとするのに対し、後者は百貨店などには手を出さず、水平的な拡大路線をひた走っている。そして、中~下流を狙う際に重要になるのはやはりセグメンテーションなのである。なぜなら、数が多く個々の収益性が低い層に対して個々に対応などはできないからだ。しかし、中流~下流の層もかつての高度成長期の消費者のように、企業が勝手にプロダクトアウト的に上市した商品を受け入れるような購買行動はとらない。モノが満ちあふれ十人十色、一人十色といわれた多様な嗜好はそのままに、限られた購買力の中で益々選択眼が厳しくなるからだ。低収益だといって一律に扱うようなことをしては誰も振り向いてはくれなくなる。個別対応はしないものの、より精緻なセグメンテーションを行うことが求められてくるのである。それ故に、「マーケターの"勘と経験"」で補うような粗いセグメンテーションでは成功しない。前々回に述べた調査(リサーチ)・分析(アナリシス)に基づき、展開する自社商品と現実の消費者ニーズがマッチした適切なセグメントの全体構造を構築することこそ重要なのだ。
 
■STPにおけるターゲティング
 セグメンテーションが完了したら、次は「どのような市場を狙うのか」というターゲティングを行うのが一般的である。しかし、階層二極化が進む社会構造においては、「上流」を狙うのであれば、セグメントではなく「個客」を直接狙うという狭義のターゲティングに直接入ることになるのは前項で述べたとおりだ。しかし、同じく前項で述べたとおり、「中~下流」を狙うのであれば、従説通りのターゲティングを実行することになる。
 ターゲティングは以下の二段階のステップで実施する。第一に、セグメンテーションの全体構造を構築した中から、どのセグメントを対象として施策を展開するかを決定することである。セグメント全体が自社商品に最適化された状態になっていたとしても、展開する施策の内容や、施策に対する想定される反応度によって外すべきセグメントが出てくるであろう。もしくは施策に充てられる予算や期間の問題から、幾つかの特定のセグメントに集中して展開することもあるだろう。その意志決定が第一のステップなのだ。
 第二のステップは施策×セグメントをどう組み合わせるのかというプランニングだ。単純に行うのであれば、第一のステップで決定した対象セグメントの全てに同一の施策を展開することになる。しかし、各々が特徴を持ったセグメントであるとすれば、セグメント別にその特徴に対応した別施策をぶつけるなり、同一施策であったとしても多少の味付けを変えたりといった手を加えることでより高い反応が期待できるまた、より精緻に施策効果を検証するのであれば、同一セグメントの中からテストサンプルを抽出して別施策を展開し、効果の高い方の施策で全体に展開するという「スプリット・ラン」という手法もある。つまり、第二のステップは、施策×セグメントをどの程度の細かさで展開するかの意志決定であるといえる。

 ここまででSTPのうち、SとT、すなわちセグメンテーションとターゲティングを終えたことになる。次号では最後のポジショニングを解説するが、実はこのポジショニングこそSTPのうちで最も重要なパートなのである。なぜなら、既に「施策」という言葉を何度か使ってきたが、実際の「打ち手」を考えるには、自社及び商品の市場におけるポジショニングを明確に定義していなければ、それを検討することができないからだ。その意味では「STP」というS→T→Pという手順に従った従来のプランニングの認識自体を改める必要もあるだろう。そうした点もふまえ、次号にて解説する。

No11STP


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