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2006.02.13

”顧客視点”入門講座 第10:顧客視点でブランドを再考する

読者の方から「顧客視点入門講座の第10回が抜けている」とご指摘をいただきました。
・・・確かに第9回の次が第11回になっていました。スミマセン。至急以下にアップします。

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 今号はマーケティングにおいても重要なパートを占める「ブランド」について解説したい。もちろんいつものごとく、「顧客視点」を忘れずにだ。

■ブランドと顧客視点は切っても切れない
 ブランドを考えたとき、顧客視点を忘れれば、企業の独善的な革新運動になってしまう。かつてのCI(Corporate Identity)がそうであった。「企業としてどうありたいか」のみを自社の視点だけで制定していく。そこに顧客視点はない。
 一方、顧客視点においてもブランドを意識せずに、ひたすら「顧客のために」と「お客様は神様です」よろしく対応していたとすれば、それは戦略なき顧客満足追求運動、かつてのCS(Customer Satisfaction)ブームの再来となってしまう。つまり、ブランドと顧客視点は顧客を中心とした車軸の両輪でなければならないのだ。

■マーケティングの変遷とブランドに対する考え方の変遷
 ブランドとひと言でいうと広告などによる「ブランドイメージ」が先行しがちだが、現在では「ブランド論の神様」といわれている、”デビット・A・アーカー”が1994年に発表した「ブランド・エクイティー」から連なる、ブランド三部作といわれる著書によって完全にその位置づけが変容している。つまり、それ以前はブランドとは生活者に「イメージ」を植え付けることが主たる機能であり、短期的視点で考えられた衣装・化粧のようなものとして捉えられていた。また、ブランド・コミュニケーションに費用を投下するのは「コスト」として捉えられていたし、それはすぐに忘れ去れる“フローのコミュニケーション”であるとされていた。つまり、「広告」の視点でしか考えられていなかったのだ。
 だが、現在ではアーカーの提唱した「ブランド・エクイティー」という考え方が広く浸透した。つまり、「ブランドは中長期的視点で企業が”投資”をすることによって、生活者にイメージ訴求するだけでなく”認識”を植え付ける”ストック型コミュニケーション”である」と。その認識の変革によって、ブランドは単なる広告の課題ではなく、経営的な課題に格上げされた。事実、今日ではいわゆる「強いブランド」には数百億を超える価値が付いている。もはや広告だけでどうなるものではないことが分かるだろう。

■ブランドは席が3つしかない「イス取りゲーム」
 では、どうやったら「強いブランド」になることができるのだろうか。それは言うは易しになってしまうが、「イス取りゲームに勝つこと」である。ブランドはまず「そのブランドを知らない」という”未知”の段階から、「知っている」という”認知”の段階に進み、さらに「そのブランドを意識している」という”ブランド想起”の段階に進まなくてはならない。あとは「○○ならこのブランドと決めている」という”トップオブマインド”のポジションが取れればまずはゴールだ。しかし、人があるカテゴリーの商品の購入においてブランドを意識しているという、”ブランド想起”の段階と”トップオブマインド”の中に入れるのは、せいぜい3つといわれている。その3つは”Evoked Set(想起集団)”といわれる狭き門なのだ。

■まずは自社のブランドを顧客視点で捉え直してみること
 「イス取りゲーム」に勝つためには、まずはライバルのことを考えるよりも、自社と顧客のことを起点として考え直すことから考えてほしい。例えば、個々のプロダクトのブランドではなく、コーポレートブランドを考えてみよう。この場合、企業のミッションステートメントと結びついていることが多く、いわゆる社訓・社是と同一化している場合も少なくない。問題はそれが顧客を意識して作られているものであるかどうかだ。
 数十年前の創業社長の言葉をそのまま筆書きし額装して、毎朝呪文のように唱和しているだけではないだろうか。本当にその意味を理解し、顧客と自社の関係を意識して行動のレベルにまで反映させているだろうか。極端に言えば自分自身がそのブランドの一部として行動できているだろうか。そうでなくてはとても「強いブランド」への道など遠いものになってしまう。

■「顧客と共に生きる」ブランド構築のメソッド①
 以下に筆者が前職において仲間たちと開発した、一つのメソッドをご紹介しよう。全体を分かりやすく理解するために、まずは図を見てほしい。ブランドを見直すにはまずはそのブランドを端的に言い表し、全社員が共有できる「ステートメント」として明文化することが重要だ。
 そのステートメントは以下の5つの要素から構成される。
①価値理念・・・その企業の哲学を表す、ブランドの価値ともなる部分。もちろん、ここも「自社は顧客に対してそのような存在であるのか」を明確にすることが中心となる。
②個性・・・他の企業にはない、その企業の独自性を表す部分。自社にしかできない、顧客に提示できることは何かを明確にする。
③機能的付加価値・・・顧客に提供できる物理的メリット。できないことを擅断しても仕方ないが、自社が自信を持って提供できるものは何なのかを明確にする。
④情緒的付加価値・・・顧客との各種コミュニケーションを通じてどのような気分にさせることができるかという、無形の付加価値を明確にする。③も④も「自社にしかできない」という模倣困難性が高いほど強い力を持つ。(そのため、今、それがなければ開発する努力が欠かせない)。
⑤理想とする顧客・・・誰も彼も「大切なお客様」としていたのでは「強いブランド」とはなれない。いや、ブランドとしてのアイデンティティーが形成できないことになるからだ。上記①~④はどのようなお客様に対して提供するものなのか。自社はどのようなお客様のために存在するのかを明確に設定する。

■「顧客と共に生きる」ブランド構築のメソッド②
 上記①~⑤を設定するためには、図のピラミッドでそれぞれのパーツがどのような相互関係を持っているのかを意識して検討していくことが大切だ。しかし、それでもなかなか思い浮かばないのであれば、次のような文章に当てはまる言葉として作り込んでいくといいだろう。

○○会社は、【価値理念】を約束します。
私たちは、【個性】として、
【理想的なお客様】に、
【機能的な付加価値】を提供し、
【情緒的な付加価値】を感じていただくため、努力をしていきます。

 いかがだろうか。上記の各パーツに入るべき言葉が見つかったら、前述の図のピラミッドに載せて相互関係を再度点検してみよう。違和感なく、整合性が感じられれば出来上がりだ。

■顧客が感じるブランドとは
 上記のステートメントが完成したとしても、それをまた額装して壁に飾り、毎朝唱和するだけでは何にもならない。それではただの「社内自己満足活動」になってしまう。
 ステートメントを決定したら、その通りトップから現場の社員・パート・アルバイトに至まで、それを実現するよう行動しなければならない。顧客が感じるブランドとは、「顧客自身が受け取った経験の集積」に他ならない。顧客が接触するブランドとは、商品そのものや店舗、広告だけに留まらない。店舗での接客はもとより、メディアに流れるトップの発言、ネットやリアルの世界での口コミ、コンタクトセンターの応対、WEBサイトやE-mailやDM、各種広告などなど・・・。それらに顧客は接触しその都度そのブランドを評価する。それらの全てがステートメントの通り整合性が取れ、顧客に受け入れられるものでなければ「イス取りゲーム」で生き残ることはできないのである。

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Comments

金森さん

おはようございます。中里でございます。
昨日は、「企画パーティー」にて、講義ありがとうございました!

ブランドというと、
ちょうど私は、年末から、年明けにかけて、
「インターネット・ブランディング11の法則」のアル・ライズ氏、
元コカ・コーラ社伝説のマーケター、セルジオ・ジーマン氏、
2人の書籍を読みふけっておりました。

「顧客視点」を常に忘れない
大変参考になります。

Posted by: 中里 貴幸@メルマガの鉄人 | 2006.02.16 06:44 AM

金森です。
昨夜はありがとうございました。

「ブランド」はともすれば「企業としてどうありたいか・見られたいか」
という、かつての独善的なCI活動のような「顧客視点」の欠如した
ものになりがちなので、このようなフレームを作ってみました。

一度ご活用いただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: 金森努 | 2006.02.16 02:08 PM

金森さん

コメントありがとうございました。
顧客に受け入れられるものとしてのステートメントと、
その一貫性がブランドを構築する。
是非、活用させていただきます。

昨日の講義感想をブログにアップしましたので、
ご覧いただければと思います。

ちなみに、今日は雨でしたが、
私は「傘を持たない」超少数派でした。
朝これぐらいの雨では、荷物になるくらいなら、持ちません。(笑)

Posted by: 中里 貴幸@メルマガの鉄人 | 2006.02.16 09:15 PM

中里さん、またまたコメントありがとうございます。
少し話しはずれますが、私も「帽子愛好家」なので多少の雨は傘なしです。ただ、大雨の時は傘も結構好きで、「前原商店」の逸品を一本愛用しています。なので、雨の原宿で「傘」が目に付いたのでしょうね。
ファッションネタであれば、先程アップした日経ビズプラスの最新号をご覧ください。
結構力を入れて書いたつもりです。
よろしくお願いいたします。

Posted by: 金森努 | 2006.02.17 01:45 PM

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