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2006.01.31

「納得消費の時代~アリとキリギリスの折り合い~」

日経BizPlusの連載が更新されましたのでリンクをアップします。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm

今回ご紹介した「ニューロエコノミクス(神経経済学)」という領域はかなり面白いですね。
日経に掲載された記事は日曜日だったので、お読みになっていない方も多いかと思いますが、
会社にある新聞のバックナンバーかどこかから捜して、全文をご一読なさることをお勧めします。

-----------<以下バックナンバー用転載>-----------


日本経済新聞1月15日付のサイエンス欄「経済行為 脳科学で解明」という記事が目に留まった。

 経済学と脳科学を融合したニューロエコノミクス(神経経済学)によって消費行動が予測できるようになってきたという話だ。記事によると、脳の前頭前野は「理性脳」と呼ばれ、将来的な利益を考え合理的な判断を下す。一方、大脳辺縁系は「情動脳」と呼ばれ目先の利益に走る。こうした研究から「アリの周到さとキリギリスの刹那主義は同じ人間に共存し、別々の神経回路が司っている」と、イソップの寓話を下敷きにした米国の脳科学者の解説が分かりやすく紹介されていた。この分析は、消費行動・マーケティングへの示唆に富んでいる。

■ 「ワンコインビジネス」をアリとキリギリスで再考してみる

 2005年12月10日の日本経済新聞別刷り特集版「NIKKEIプラス1」の「はやりを読む」のコーナーで紹介された「ワン・コインライフ 気軽さ、手が出る500円」で、筆者のコメントも掲載された。冒頭の学説を引き合わせながら、「ワンコイン」を再考してみたい。

 100円ショップが登場した時には「これがたったの100円!」という価格に対する驚きから多くの消費者が飛びついた。これはニューロエコノミクスがいうところの「キリギリス」の仕業に違いない。しかし、今日では100円ショップに対する驚きは薄れ、主要顧客である主婦たちは「本当にその商品に100円の価値があるのか」と、一般のスーパーに並んでいる商品と単価計算してまで厳しく選別している。もはや100円ショップは「アリ」が冷徹に仕事をする場になったということだろう。同じ価格、同じ業態でも消費者が慣れてしまい「驚き」を感じなくなった結果、「キリギリス」はもう動かなくなったのだ。確かに反応する神経回路が変わってしまっているなら、最近100円ショップを覗いても面白みを感じなくなったことにも得心がいく。

 しかし、500円のワンコインでは少し様子が違う。徐々に下流化していると言われる一般庶民にとって、500円という価格は微妙な設定だ。サラリーマンの中にも昼食代を「一日500円まで」とセーブしている人が多くなった。そこにローソンの「ごはん亭」が登場し大ヒットした。「いつもの500円の昼食と比べて豪華だ」と多くの人が購入した。


 しかしそれは、キリギリスの衝動的な購入ではない。「いつもの500円の昼食」と「ごはん亭」を短時間で比較検討し、アリも許容して購入したと解釈できる。大脳辺縁系と前頭前野を情報が駆けめぐり、アリとキリギリスが折り合いを付けたという形ではないか。

■「納得」という消費に欠かせない要素

 前述の「アリとキリギリスの折り合い」の結果は「納得」という言葉で表せるだろう。確かに「衝動買い」という行動はどの消費者にも起きうることだ。それは「キリギリス」単独の判断に違いないが、消費の多くは両者が折り合いをつけ「納得」が得られた状態でなされると考えられる。

 「納得の形成」ということを考えれば、インターネットから得られる情報の恩恵は大きい。消費者はかつて売り手の勧め言葉の真偽を、少ない情報で判断しなければならなかった。しかし今日では、価格比較サイトや既に購入した人たちの意見など、多くの情報が手に入る。消費者はこうした情報を消化したうえ「納得」して購入できるようになった。

 納得できる判断材料が得られなければ、アリは間違いなく冬眠だ。だからといって、キリギリスだけが大活躍して何でも衝動買いしてしまうほど人は愚かではない。「納得できない」ということは、「消費者の企業不審」に繋がり消費行動に歯止めをかけてしまう。それだけ、企業が「納得できる情報の開示」を進める必要が高まっているわけだ。

■消費者の「納得感」をストレートに得るためには

 筆者が10年以上経っても忘れられない、噺家・桂文珍師匠のお話がある。曰わく、「大阪で980円カメラのワゴンセールをしていた。さすがに客の心が良くわかる大阪の商人がすることで、東京だったら『激安!』と書くところを、ズバリ一言書いていた。『写る』だ。980円が安いのは当たり前で見て判る。それよりも『ちゃんと写るんやろか?』という客の不信感に応えることが大切」。

 この話の眼目は何といっても、客の一番欲しい情報を提示して、不信感を払拭し、納得してもらっているところだ。「980円、安い」と大脳辺縁系のキリギリスが反応する。それを「いやいや、ちゃんと映るのかどうか怪しいもんだ」と前頭前野のアリが制止する。しかし、ちゃんと「写る」と予め目の前に掲げられてはアリも納得せざるを得ない。先に記した「企業が『納得』につながる情報を開示する」とはかくもタイムリーに、ストレートになされることが理想だろう。

 脳内の働きに基づいて、消費行動が科学されるようになり、脳内の冷徹な「アリ」の存在が明らかになった。もはや「商売は売り手と買い手の騙し合い」などといってはいられない。せっかく景気も回復したのだ。「騙し合い」ではなく、「納得」をキーワードにアリとキリギリスが折り合いを付けられるような企業努力を切に願う。


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