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2005.10.18

「“ビジネスセレブ”とはいうけれど~メディアの幻想とターゲティングの狭間~」

NIKKEI NET BizPlusの連載・ニッポン万華鏡(カレイドスコープ) 第8回がアップされました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm?i=2005111608onec6

前職が広告業であったので、人によっては私の仕事は「流行の仕掛け人」みたいに思われているようです。
いやいや、そんな大層なモノではないのです。今回のコラムを読んでいただければ、むしろ「流行に翻弄される日々」がおわかり頂けると思います。

それにしてもメディアの力はすごいと思います。しかも、盛り上げるだけ盛り上げて、”オチ”がなくても許されてしまうのですから・・・。(メディアの方、ごめんなさい)

というわけで、今回は体験的「メディアの作った流行との戦い」を書いてみました。
ご一読ください。


-----------<以下バックナンバー用転載>-----------


 先日、筆者はある新製品のプロモーション会議に出席していた。その会議の開口一番、プロダクトマネージャーは宣言した。「この商品は"ビジネスセレブ"にターゲットを絞って展開していく!」と。

■「ビジネスセレブ」はマーケティング上セグメントできない!

 マーケティング上のセグメントとして「富裕層」という年収や保有資産で分類するものは確かに存在する。プライベートバンキングの顧客となり得るのもこの層であり、階層が二極化してきた日本社会においては各業界、各企業とも一斉に食指を伸ばしてきているところだ。しかし、「ビジネスセレブ」は単純に「富裕層」のことを指しているとは思えない。

 そもそもの「celebrity」という言葉。辞書で引いてみると、「有名人/名士/名声/知名度」とある。この言葉が定着してきたのはここ3~4年だろうか。恐らく「有名人」や「芸能人」もしくは「high societyの人」というような意味合いで、その時々のシチュエーションに合わせて曖昧に使われてきたようだ。もはや本来の意味を離れた和製英語であると考えた方がよいだろう。

 しかし、「ビジネスセレブにターゲットを絞って展開」などと宣言されると非常に困る。「セレブ(celebrity)」にも増して、最近突如出現してきた「ビジネスセレブ」は全く本質が定義されていない。それゆえにクライアントに「ビジネスセレブってどんな人を指しているのでしょう」と聞きたい衝動に駆られる。しかし、「それを考えるのがプロのあなたの仕事でしょう!」と切り返されるのは明らかだ。やぶへびになりそうなので、余計なことはやめておく。

■ターゲットとなるのは「ビジネスセレブあこがれ層」?

 トヨタのレクサスブランドのターゲットは「ビジネスセレブ」だそうだ。ではトヨタの定義する「ビジネスセレブ」の条件とは何なのか。詳細に公表されてはいないので、「ビジネスセレブ」なる曖昧模糊(あいまいもこ)とした人物像を描いてみることにした。簡単に言えば、日本経済新聞紙面に登場するライブドアの堀江貴文氏、楽天の三木谷浩史氏、村上ファンドの村上世彰氏のような方々が浮かんでくる。しかし、特定人物をリスティングしたところで「セグメント」にはならない。具体的なアプローチを考えれば、個々の人物との直接的な交渉になり、一本釣りしか考えられない。

 セグメントとして定義するからには、広汎にアプローチできるようなターゲット像が描き出せなければならないのだ。そう考えると、ターゲットセグメントとしての「ビジネスセレブ」は、本来の「ビジネスセレブ」な面々にあこがれる「ビジネスセレブあこがれ層」であると考えるべきだろう。同じ車種がトヨタブランドにもあるにもかかわらず、内外装の質感が高まっている対価としてかなりのプレミアムを支払う余裕がある。その価値が理解できる。そんな自己演出をする層こそレクサスブランドの狙いなのだろう。

 とすれば、「ビジネスセレブ」攻略法は、だれもが知っている「ああ、この人はビジネスセレブと呼ばれるにふさわしいな」と思える人々を「イメージターゲット」として設定。そして「ビジネスセレブあこがれ層」を「リアルターゲット」と定義する。そうすることによってイメージターゲットの人々にその商品を使ってもらい、あこがれ層に「あの人が使っているなら・・・・・・」という「シャワー効果」を働かせ購買行動を起こさせるのが基本戦略となるのだ。

■「ペルソナ」という手法で解き明かす

 しかし、上記戦略を実行するにしても、「ビジネスセレブ」なる人物像をもっと明確化しなくてはならない。そのために、マーケティング実務の世界で1980年代頃からよく使われるようになった「ペルソナ」という手法を用いてみたい。「ペルソナ」という手法はターゲット像をより明確にするために「ファミリー層」「シルバー層」などというひと言で括ってしまうのではなく、生き生きと鮮明かつ詳細にその姿を描き出していく作業だ。例えば「年齢は? 家族構成は? 職業は? ワークスタイルは? 収入は? 可処分所得は? 可処分時間(趣味などに自由に使える時間)は? 趣味は? 好むブランドや持ち物は? ファッションスタイルは? ライフスタイルは?」など、想定に想定を重ねて、一つの人物像を作り上げていく。元々「ペルソナ(persona)」とは「人」という意味だけではなく、「仮面」とか「登場人物」という意味を持つ。つまり、仮の人格を詳細に作り上げていくのだ。

 さて、そのようにして組み上げた筆者なりの「ビジネスセレブ像」は「30代後半以上の年代で、高度のビジネススキルと豊富な人脈を身につけている。その経験・知識・スキル・人脈を活用し、仕事だけに没頭せずに高収入を得ている。可処分時間もそれなりに確保できており、自分だけの趣味や隠れ家的な店などでくつろいだりする」などといったものだろう。

■「ビジネスセレブ」ってかつて「エリート」と呼ばれていたもの?

 前述のごとく「ビジネスセレブ」のペルソナの要素には、かつて「エリート」と呼ばれていた言葉と重なる部分が多い。しかし最近「エリート」という言葉はあまり使われなくなった。ストイックな孤立した雰囲気に加えて、少々古臭い印象もあり、メディア映えしないためだろう。これに対して、セレブという言葉の持つきらびやかさが好まれるのだろう。まあ、「エリート」すら本来は「elitist =秀才」であり、とっくに和製英語になっている。時代に合わせて新たに「ビジネスセレブ」という和製英語が開発されたのだと筆者は推測する。

 マーケッターは、そんなメディアの生み出す新たなライフスタイルやコンセプトに振り回されてしまうことも少なくない。しかし、それをメディア側の意図も推測しながら解き明かしていくのはなかなか楽しい作業だ。さて、次はどんな言葉が飛び出してくるのやら・・・・・・。

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