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5 posts from August 2005

2005.08.31

フリー情報氾濫時代に"情報の価値"について考える

NIKKEI NET BizPlusの連載・ニッポン万華鏡(カレイドスコープ) 第5回がアップされました。
この記事、お盆の日曜日に事務所でのんびり書いたものです。

とはいえ、前連載の時のような「説教臭さ」がちょっと復活しているような・・・

しかし、皆さん、自分の持っている「可処分時間」の中でどのような情報取得をしていますか?
「仕事に役立つ」という観点だけでなくても構いません。
「心の栄養」である文学でもいいと思います。

問題は、その「質」にあるのではないでしょうか。

今日、フリーの情報はが氾濫し、その多くが記憶に残らないフローの情報。
つまり消え去っていくものが非常に多くなっている気がします。

そんな思いをお盆中に各種書籍を乱読している時にふと思って書きました。
皆さんはどう思われますでしょうか?


http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm?i=2005111605onec6

-----------<以下バックナンバー用転載>-----------

■お盆休みは自らのナレッジ増強のチャンス?

 この原稿を書いている時期、世間はいわゆるお盆休みに入っていて事務所の界隈は静まりかえっている。「お盆前にお願いしますね!」といわれていた仕事も片付いており、非常にリラックスした時間が流れていく。

 こんな時こそ、自らのナレッジ(知見)をアウトプットばかりしている日常業務を離れて、各種書籍や雑誌からインプットするチャンスだと乱読行為にふける。しかし、ふとその中で昨今、人々の特に若年層の"情報取得の方法"が大きく変わってきていることに気づく。

■情報の"ストック"の方法を少し整理してみよう

 この休み中に筆者がやっていることは、"ストックの情報"を取得する作業だ。人によって方法は異なるかもしれないが、とりあえず自己分析してみると二つに分類できる。

 まずは、普段気になって購入したものの、とりあえず書棚に収めただけになっているビジネス書・学術書の類に手を出し、ざっと斜め読みする。「隅々まで読まねば」と思ったものは、熟読する。これはその本の情報を"自らのナレッジに変換して頭の中にストック"しているのだ。一方、斜め読みの後、「何が書いてあったか覚えておき、必要な時に読み返せばいい」と、"リファレンス(参照)情報だけをストック"する場合もある。各々、ストックされた情報の深さは違うものの、その行為によって頭の中に新しい引き出しが作られているのは間違いない。

■インターネットの検索に依存しすぎる危険性

 最近気になっていることは、前述のような"情報をストックする"という習慣が特に若年層から少なくなっている気がすることだ。インターネットの普及によって、必要な時に"検索"をすれば、自らの頭の中にあるナレッジやリファレンス情報を思い出すより遙かに早く必要な情報にたどり着ける。検索エンジンの性能向上によって年々高速化し、検索結果は1秒もかからず候補が羅列される。一方、頭の中のナレッジやリファレンス情報は、元からインプットしておく必要があり、それを思い出すことも頭が固くなってきている現れか、年々低速化傾向にある。どちらが楽かはいうまでもない。

 しかし、検索エンジンによって表示された結果は、果たして自分にとって価値のある情報なのか。必要としている情報との適合性はどの程度あるのか。それらは羅列されてしまっている以上、一つ一つ開いて確かめていくしかない。しかし、その判断の基準軸が自らになければ、誤った情報や不適合な情報を取得してしまうことになる。その結果、質の低い情報を使ったアウトプットは、同じく質の低いものになってしまう。

■"フリーな情報"の氾濫

 インターネットから情報を得ようとして、結果的に質の低い情報を手にしてしまうリスクが発生する。原因は"情報をストックする"という習慣が普段からついていないからだ。なぜ、ストックする習慣がなくなってきているのか。それは、世の中に"フリーな情報"が氾濫し、それらはフリーであるが故に、読み捨て、つまりストックされないからだろう。

 最近新聞を購読していない若い社会人が増えている。若いといっても30才前後の中堅クラスまでだ。新聞代を払わずに、会社に来てからニュースサイトをブラウジングして済ましてしまうのだ。それも何か自分の仕事に関連があるか、興味を引かれたもの以外はヘッドラインをクリックせずにトップページを斜め読みするだけのレベルだ。だから、「今日の日経に書いてあったけど・・・・・・」と話しかけても「ああ、何かありましたねぇ」レベルで終わってしまい、話が深まらない。記事本文を読んでおらず、情報が頭の中にストックされていないからだ。

 自分の仕事に関連した専門誌などを購読しているという人も減っている。せっかく会社が定期購読契約してくれていて、マガジンラックに並べてあっても手に取る人は少ない。代わりに彼らは何を読んでいるのか。街で受け取ったフリーペーパーである。

■フリーは実はフリーではない!

 WEBサイトやフリーペーパーは無料であるが故に気楽に見ることができる。そもそもこの現象は、"情報の対価を支払う"という意識がだんだん希薄になってきている現れではないか。しかし、気づくべきなのはお気楽に無料の情報に接している間にも自分があるものを消費しているということだ。それは"時間"だ。

 情報がフリーであれば、自らの可処分所得の減少を防ぐことには貢献するだろう。しかし、誰しもに等しく与えられている24時間という時間の中の、睡眠・食事・仕事などの必要不可欠な時間から残された"可処分時間"をどう使うかで、仕事なり何なり、自分のアウトプットの質が変わってくることに気づくべきだろう。フリーな情報に接している間にも、自らの貴重な可処分時間は消費されているのだ。

■情報の価値に関する教育の必要性

 WEBサイトの情報やフリーペーパーがいけないとか、情報の価値が低いといっているのではない。それらの中にも良質な情報や貴重な知見が隠されているはずだ。しかし、そもそも情報の価値を判断する軸が自らの中に育っていなかったら、それすらも読み流してしまうことになる。

 そうならないためには、情報の対価を払い、世間や自分の業界でいわれている"良書"や"必読書"を読み、情報をストックする判断軸を身につけることが必要だ。まずは今、取得している情報の価値と自分の可処分時間の価値が見合うものなのかを一度考えさせる必要がある。


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2005.08.29

九州地方の方へ

宣伝会議発行「アドバタイムズ」の九州版9月7日号にて「ワン・トゥ・ワンマーケティングと九州の現状」という特集企画が予定されています。
そこで、ダイレクト戦略マーケティングラボの中澤功氏、CRM協議会の匠英一事務局長、同協議会九州支部長の大井氏らと共に、(1)ダイレクトプロモーション、特にCRMの観点から取り組みの際に必要なポイント(2)個人情報保護法への対応、などについてのコメントを寄稿いたします。巨匠の方々と拙稿を連ねるのは緊張します。
600字程度の短いものですが、お目に留まったら是非お読みください。

同誌が届かない地域の方のためには、当Blogにて一定期間後、バックナンバーとして筆者分記事のみを掲出する予定です。

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2005.08.20

Eビジネス研究所BizMarketingアカデミーで講師をします!

10/5(水)と、まだだいぶ先なのですが、受講受け付け(有料)が始まっているようなので、告知いたします。
会場が、なんとあの、ライブドアのセミナールームということで多少興味もあり、引き受けてしまいました。
また、このセミナーの主催者である「Eビジネス研究所」の木村氏は、実は東洋大出身であり、後輩でありました。
マーケティング業界やネット業界で東洋大出身って少ないんです。
どなたかいらしたら、お声かけください。「東洋の会」でも作りましょう。(半分本気です)。

セミナーの案内は以下をご覧ください。

http://www.e-labo.net/ac001.html

以下に、主催者のセミナー紹介を転載します。


講座の概要
◆ビジネスの成功には「顧客視点」が重要

講師である金森 努氏は、2005年に青山学院大学経済学部にて「産業論(ベンチャービジネスとマーケティング)」の講義を担当し、その中で、ビジネスの成功には「顧客視点」が重要であると強調。

本セミナーでは、さらにその考え方をより具体的な考え方のフレームワークのご紹介と、テクニカルな部分にも広げて展開することを考えています。現代のマーケティングは十人十色を経て一人十色の時代に突入しているといわれています。その中でCRMや1to1などの考え方が生まれてきていますが、ベンチャーが牽引するネットビジネスの世界では、ともすれば「作り手の思い」が先行し、かつてのプロダクトアウトな発想にも似た例が散見されます。ビジネスを成功に導くため、徹底して顧客視点の検証と具体策をご紹介します。

講座の特徴
1. マーケティングの基本を振返りながら、「顧客視点」とは何なのかを考えます。

2. インターネットの普及による消費者の進化を深く検証します。

3. 自社の商品の「本質的な価値」と顧客心理を深く追求します。

4. 上記の各ポイントを押さえた上で、顧客との関係構築/文脈作りを考えます。

5. 最終的に具体的な成果をどのように上げればよいかという方法論と検証方法を考えます。


こんな方におすすめ
・ マーケティングプランニングに従事している方

・ 顧客対応業務に従事している方

・ インターネットだけではなく総合的に広告宣伝を考えている方

・ プロダクトマネージャーの方

・ 広告業界の方

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2005.08.03

「リストラに負けない!! 目標を直接狙う『飛び級』作戦とは」

NIKKEI NET BizPlusの連載・ニッポン万華鏡(カレイドスコープ) 第4回がアップされました。
この連載、「なるべく幅広い切り口やテーマで書いて欲しい」と日経のデスクから依頼されているので、なかなか毎回のテーマ選びがチャレンジングなものになっています。
今回のテーマは、なんと「中高年の自殺問題」です。タイトルも元々は「生きろ!」だったのですが、ちょっと直接すぎて直されてしまいました。自殺問題をマズローとフランクルの理論で解いてみました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm?i=2005111604onec6

ちなみに、私の密かなこだわりは一つめの小見出し、「暗い月曜日(Gloomy Monday)」。
気づいていただけた方、いらしたでしょうか?
元ネタは「暗い日曜日(Gloomy Sunday)」。1930年代に作曲され世界に大ヒットを飛ばしたものの、なぜかこの曲を聴いた人々が自殺をするということで各国で発禁処分になり、「自殺の聖歌」などとも呼ばれるようになった曲です。それと引っかけてみました。(マニアックすぎてだれも気づかない?)
1999年にドイツ・ハンガリー合作で同名の映画も制作されました。この曲の誕生にまつわる男女3人と、当時第二次大戦中のナチスドイツ将校の関わりを描いた内容ですが、これがまた秀逸なのです。DVDも買いましたし、オリジナルサウンドトラックも買って繰り返し聞いています。当然、「暗い日曜日(Gloomy Sunday)」は何度も聞いてますが、しっかり私は生きてます!是非、一度ご鑑賞を。

-----------<以下バックナンバー用転載>-----------

■暗い月曜日(Gloomy Monday)

 月曜の朝、また通勤電車に揺られる一週間が始まるのかと思うと憂鬱な気分になる。さらに最近は、ほかの曜日よりもさらに早く家を出なくならなくてはならない。電車が頻繁に遅延するからだ。そして今朝も駅に到着するなり「人身事故のため、ただ今大幅にダイヤが乱れております」というアナウンスで、また誰かが線路に散ったのだと知る。

■「行ってらっしゃい! 気をつけてね!」

 子供のころ、会社に向かう父の背中に毎朝「行ってらっしゃい! 車に気をつけてね!」と声をかけていたことを今でも覚えている。しかし、1997年を境に日本の自殺者総数は前年の2.7万人から一気に1万人も増え、3.7万人となり、現在も高水準で推移している。また、自殺死亡率(人口10万人対比)はバブル崩壊後の93年以降、現役世代の50代が40ポイントを超えている。(厚生労働省白書16年版より)。

 一方の「車に気をつけてね」の対象である交通事故死者は年間1万人前後。これでは子供が父親を送り出すときに、「車に気をつけて!」ではなく、「自分で死なないでね!」と言わなくてはならない、ぞっとする光景が日常になってしまう。

 前出の白書にも紹介されているが、男性自殺者と完全失業者数や負債総額の間に優位な相関関係を認める研究がある。(産業科学大「労働者の自殺に関する研究II」)。「生きがい」、「収支家計」、「家族関係」、「健康」等にストレスを感じている人の割合が、失業率が増加する以前に高まっていると自殺率が増加するようだ。(国立社会保障・人口問題研究所)

■「男は3基のエンジンで飛んでいるジェット機だ!」

 それは以前の職場でバリバリ働いていた先輩の言葉で、「なるほど」と思い今でも覚えている。曰わく、3基のエンジンとは「仕事」「金」「家族」だそうだ。何かで財産を失ったとしても、家族に支えられ仕事をがんばれば取り戻せる。離婚などで家族が壊れても、金と打ち込むべき仕事があれば自分自身はやり直せる・・・・・・。などというものだ。しかし、3基のエンジンのうち2基が同時に停止してしまうと男は墜落してしまうから、そうならないように気をつけるのだと説かれた。何か、前出の人口問題研究所の 「生きがい」、「収支家計」、「家族関係」という人を支えている項目とよく似ている気がする。

■画一的価値観に支配されていないか?・・・・・・マズローの刷り込み

 人は努力を重ねて「生きがい」「収入」「家族」などを段階的に手に入れていく。言い換えれば階段を登るごとく一つ一つ自己の欲求を満たしていくわけだ。

 それを体系的に表したのが、アブラハム・マズロー(1908~1970)の「欲望5段階説」である。第1段、第2段の「生理的欲求」「安全欲求」は人としての最も根本的な欲求であり、「衣食足りて礼節を知る」の基本でもある。しかし、昨今のデフレ不況やそれに伴うリストラや倒産はこのレベルにまでインパクトを与えることになる。つまり、「食えない」という状況に陥るのだ。

 第3段階の「親和欲求」は他者と関わり、その層(集団)と同質化して同じように振る舞うことに喜びを見いだすものだ。しかし、リストラによる会社からの強制退去や倒産などは、所属していた集団自体そのものの消滅と、収入減によるいわゆる「中流」や「中の上」と思っていた階層からの転落を意味し、「親和欲求」に大きなインパクトを与える。
 第4段階の「自我欲求」は自分が集団から認められ、尊敬されることに喜びを見いだすことを意味するが、まさにこのレベルに達している人が、その集団(企業)からリストラされる、もしくは集団そのものが消失した場合など拠るべき縁がなくなり、計り知れないインパクトに襲われることになる。

 だが、最後の第5段階の「自己実現欲求」だけはほかの欲求と少々意味合いを異にする。それは自分の能力を発揮し、創造や自己実現を図ることに喜びを見いだすことを意味している。もし、能力の発揮や創造・自己実現を、「会社」という枠の中だけに固執しているのならもはやどうにもできない。しかし、それを「社会」というもっと広い枠で考えることができれば、リストラや倒産などという憂き目を見ても、また別の所で自己実現を図ろうと頑張れるのではないだろうか。

■5段階説は人生の修行なのか?

 問題はマズローの法則はあまりに有名であり、その理論に社会通念が大きく影響を受け、個々人にも強く刷り込まれていることだ。さらにこの5段階説は「飛び級」なし。登山のごとく、一段一段上って行かなくてはならない人生の修行なのだ。

 筆者は一度それをバラバラにし、一気に5段階目の「自己実現欲求」に特に注目した価値観を今まさに考えてみることをお勧めしたい。

■「意味探求人」モデルというものも考えてみよう

 一気に5段階目の「自己実現欲求」に特に注目するというのは、実はヴィクトール・E・フランクル(1905~97)の考え方があるからだ。その理論は「人間は本来的に意味探求を目指す存在なのであり、自己実現は人生の最終目的ではない。そして、人間は真・善・美、等の価値追求と"自己超越・他者愛"を目指すものである」。というものである。何やら哲学的であるが、要するにマズローが最高位に置いた「自己実現」は企業・職業を通して成される場合が多いが、「意味探求モデル」では地域社会や趣味活動を通して成される場合が多いという違いがあるというようなのだ。

 「我慢してコツコツ修行して上っていかなくても、好きなことをまず考えてやればいいんだよ」と言われているようで救われる。そう。会社での地位向上や会社を大きくすることだけを考えるのではなく、そもそもの「自分にとっての生きる意味」をよく問い直してみることが重要だと問いかけられているのだろう。

■生きろ!

 前述の先輩の「男は3基のエンジンで飛んでいる」という言葉も、よく考えれば多分にマズローが刷り込まれている。エンジンは1基でも動いていれば飛び続けられるかもしれない。全てが止まってしまっても、「生きる意味」を見つめ直せば、「金・仕事・家族」以外の別のエンジンが見つかって人生の飛行を続けられるかもしれない。

 また、自分の希望するものに向かって一段一段階段を登る必要もない。これだけ世の中とそのルールが変わってしまっているのだ。「飛び級」でも「近道」でも何でもできることはすべきだろう。人は皆、画一的な価値観に縛られる必要はなく、人にはそれぞれの生き方があるのだから。


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2005.08.01

”顧客視点”入門講座:第4回・第5回一挙公開!

「販促会議」の9月号が本日発売になりましたので、前号の連載のバックナンバー原稿を掲出します。
なお、本誌の今月の特集は「フリーペーパー特集」で各種フリーペーパーを一気に紹介。媒体資料のダウンロードもあるなど、かなりの力の入れようです。最近力持ち始めた媒体だけに見逃せないかも。

さて、以下、バックナンバーです。

実は、第4回の公開を忘れていたので、一挙公開です。
「長すぎて読みたくなーい」という声が聞こえてきそうですが、どうかお付き合いください。

「”顧客視点”入門講座:第4回」

 「人の心は複雑で、思う人とは心のすれ違いばかり。」そんなほろ苦い青春を胸に秘めている方は読者の中にもきっと数多くいるはずだ。そして、「あの時こう言っていたら、こうしておけば・・・」などという思い出が去来するのではないだろうか。

 しかし、ビジネスの世界で「すれ違いばかり」では成果は上がらないし、まして「たら・れば」は言い訳にならない。
 そこで今回は企業の利益を最大化させることと、顧客の望むお勧め実現することを両立させる一つのフレームワークを御紹介したいと思う。「顧客視点」を身につける実践編だ。

 このれは筆者の前職、電通ワンダーマンにて同僚とともに開発したオリジナルであり、どこのマーケティングの本にも載っていないはずだ。その意味では連載の「マーケティングの基礎を学ぶ」という主旨からは外れるかもしれないが、一般的ではなくとも基礎であることには間違いない。これを理解し、実践できればトップセールスマンやトッププランナーになることも夢ではないのだ。なぜなら、これは実際に様々な業種の営業担当者の行動分析調査を基に導き出された物だからである。

■ 「カスタマーインサイト」という名のフレームワーク
 カスタマーインサイトとは、「顧客の心を洞察する」という意味である。複雑な人の心の動きを一つのフレームワークに押し込めることによって、対応策を考え出すための物だ。それは<Recognition><Time Saving><Peace of Mind>という3つの要素から構成されている。以下、各々の構成要素について解説しよう。

<Recognition>
 顧客の存在を適切に認知・評価すること。つまり、この顧客はどのような人で、どのような行動特性を持っているのか。購買履歴や傾向からするとこれくらい自社の利益に貢献するであろう。というようなことを、顧客のプロフィールデータや購買行動データ、来店履歴やWEBへの来訪・利用履歴などを用いて把握することである。
 もちろん、個人情報保護法が完全施行された今日、アンケート等によって最初にプロフィールデータを取得する時点で、当該データを各種のお勧めや自社のマーケティングデータとして使用して良いか、というパーミッション(使用許諾)を取得することは欠かせない。

 このRecognitionは言ってみれば商売の基本であり、「大切なお客様のことはちゃんと分かっています!」という態度を示すことにつながる。当然、営業規模の小さな個人商店などは顧客を個別識別し、好みなどもきちんと把握した上で商売をしている。それが、企業規模が大きくなり、顧客数が増え、流通も複雑になった結果、顧客の個別識別ができなくなってしまったのだ。それを顧客データの活用によって商売の原点に戻そうということである。顧客の状況がつかめていなければ打ち手も考えられない。極めて基本であり、かつ重要な原点である。

<Time Saving>
 利便性の提供、若しくはボトルネックの解消である。これも商売からすれば当然のことであり、「お客様にお手間は取らせません!」という姿勢を示すことだ。つまり、顧客がふとしたきっかけで「こんな資料が欲しいな」などと思ったら、すぐに提供する。顧客が何か契約の更新や申し込みなどを忘れていたら、きちんと思い出させる。顧客が気になったものがあったら、探しやすい環境を提供する。そういう努力を惜しまないことが大切だ。

 肝に銘じなくてはいけないのは、顧客は移り気な存在であるということである。その気になった、つまり何らかのライフステージの変化があったときに、このTime Savingを提供しなければ、顧客は「まぁ、なくてもいいか」とか、「これじゃなくてもいいか」などと思ってしまい、自社のビジネスチャンスを逸することになるのである。特にいくらでも代替物のある最寄り品(消費者があまり比較検討せずに購入する日常生活雑貨・食品)や、できれば余り普段考えずに済ましたい、保険などの低関与度商品はその危険性が極めて高い。そのためにも顧客の手間を省くためには、売る側は手間を惜しんではいけないのだ。

 しかし悲しいことに、それができない。前述の通り、このフレームワークを考える際に役に立ったのは、様々な業種の営業担当者の行動分析調査であると先に述べた。その調査の中で成績上位の営業担当者と下位の担当者に対して共に、「お客様に手間を取らせないように○○というようなことはしていますか?」と質問すると、どちらからも「はい、やっています。基本ですから」と答えが返ってくる。確かに連載第2回で従来のマーケティングの4P以外にもProcessのPが重要であると述べた。しかし、上辺のプロセスだけ見れば同じことでも、どこまで徹底してやっているかで結果は大きく異なるのだ。

 低関与商品の代表の一つとしてあげた生命保険の契約を例に考えてみよう。これは筆者の実体験だ。駄目な営業担当から保険の申込書が送られてきた時には、「鉛筆で丸印を付けたところに印鑑を押して返送してください」とだけ書いた付箋紙が貼り付けられていた。その通り捺印して送付すると、なぜか突然それが送り返されてきて、「2か所捺印漏れがありました」などと書いてある。何のことはない、その担当者が捺印すべきところに鉛筆の○を2か所付け忘れたからだ。筆者は面倒になって契約をキャンセルしてしまった。彼はビジネスチャンスを失ったわけだ。
 ある時、非常に気の利く優秀な営業担当に交代し、それをきっかけに保険の見直しをしてみて、新規加入をすることになった。今度送られてきた申込書類には捺印箇所に鉛筆の○があるだけでなく、申込書の分かりにくいところには解説が付箋紙で幾つも張られていた。営業担当者の直筆だ。ここまでされると間違えないだけでなく、非常に彼に対する信頼感が自分の中で醸成されるのが分かった。
 つまり、Time Savingはどこまで徹底して行えば、本当に顧客の手間が省けるかを考え直すところがポイントなのだ。

<Peace of Mind>
 本質的な価値の提供によって、顧客に安心感と満足を与えることである。結果、顧客は「ああ、これでよかったんだ!」という気持ちになり、顧客と企業及び担当者の相互信頼関係が生まれる。そこから初めてアップセルやクロスセル、アフターマーケティングや顧客紹介への道が開けるのだ。
 では、「本質的な価値」とは何か。同じく生命保険を例にとって考えてみよう。保険に入ると保険証券が送られてくる。しかし、そんな物はただの紙っぺらだと誰もが分かっている。では、万が一の時に支払われる一億だか何千万だかの保険金の額が本質的な価値なのか?確かにその金額は重要だろう。しかし、保険の本質的価値とは「自分に万が一のことがあっても、家族は大丈夫だろう」という「安心感」なのだ。前述の○を付けるのを忘れて申込書を突然送り返してくるような担当者は、明らかに自らが扱っている商品の本質的な価値を理解していなかったのだ。誰がそのような担当者に安心感を見いだせようか。

 逆に極めて関与度の高い商品であるマンションを例に考えてみよう。毎週末、新聞にはイヤというほど新築マンションのチラシが折り込まれてくる。しかし、それらを並べてみると「駅近3分」「全室角部屋住戸」「安心のダブル・セキュリティーロック」など、そのマンションというハコのスペックを競う内容の物ばかりだ。
 マンションの本質的な価値とは何だろうか。その個々の住戸や建物全体というハコなのだろうか。しかし、マンションは長期に亘って家族がそこで暮らす場所である。「マンションを買う」ということは、「人生の中で長期間に亘る家族との暮らしを買う」ということに等しい。だとすれば、訴求すべきは細かいスペックではなく、周辺の生活環境や将来的なアフターサービスの万全さ、子供の成長に対応すべくどのような設計の工夫がなされているのかなどの点だと分かるだろう。
 つまり、本質的な価値を理解しているのといないのでは、広告の作りからモデルルームでの担当者の接客まで、すべてが異なってくるのだ。事実、最近数社のマンションデベロッパーは広告や売り方・接客などが明らかに以前と異なってきている。果てしないスペック合戦の末に、自分たちの商品の本質的な価値に改めて気づいたのであろう。

■フレームワーク活用法
 「カスタマーインサイト」は理解できただろうか。フレームワークは考え方の整理であり、黙って読んでいるだけでは抽象的に感じられるかもしれない。今回も幾つかの例示をしてみたが、自分のビジネスに当てはめて考えてみなくては具体的な意味合いはなかなか見えてこないだろう。しかし、一度使いこなし方が分かったら、様々な局面で応用が可能となるはずだ。また、他の担当者や他業種を見てもそのポイントが分かるようになり、自分のビジネスに取り込める要素が見つかる。是非、この3つの要素を自分のビジネスや行動を当てはめて見つめ直してみることをお勧めしたい。     


「”顧客視点”入門講座:第5回」

 今回は前回の続編とも言うべき内容なので、まずはおさらいから入ろう。「顧客の心の中を洞察し、しっかりと離さない」ためには以下の3つの要素が欠かせないと論じた。Recognition =顧客の存在を適切に認知・評価する。Time saving =利便性を提供する。Peace of mind =本質的な価値・安心・満足の提供。この3つの要素から構成された、「顧客との関係性を深めるためのフレームワーク」を活用し、第3回の「企業は顧客との関係性の中から利益を出す5つのポイント」と併せて、「顧客を優良顧客へと進化させる方法」を今回は提示したい。5つのポイントとは、ライフステージの変化に対応する、アップセリングを図る、クロスセリングを図る、アフターマーケティングでさらに収益を拡大する、お客様紹介(MGM)で顧客の拡大再生産を図る、である。

■顧客は三段階で進化する?
 「顧客が進化する」とは、企業が行う各種施策によって徐々に顧客を優良顧客化することができるという考え方で、論者によって3段階だったり5段階だったりする。しかし、何段階であるかより重要なのは、本来、「”顧客が進化する”のではなく企業側が懸命に各種の働きかけをすることによって、”顧客との距離が縮まる”」のだという基本認識だ。冒頭では分かりやすくするためによく使われている表現を使用したが、顧客は決して勝手に進化などしてくれない。顧客視点で考えれば簡単に分かることであるが、ともするとマーケティング的表現は誤解を誘発する。注意が必要だ。
 さて、その3段階での「顧客への働きかけ」の具体的な内容を見ていきたい。

■Step 1:最低限のCSの達成段階
 企業にとっての最大のダメージは、マーケティングコストを投下し、せっかく商品の購入などの関係が構築できた顧客が離れていくことである。そうなってしまっては、せっかく顧客化のために投下したコストも水泡に帰してしまう。そうならないためには”Recognition”つまり、「顧客を理解し、適切なケアを行う」というポイントを怠らないことが重要だ。そうすれば最低限のCS(Customer Satisfaction =顧客満足)は達成され、少なくとも顧客の不満が解消でき、離反は防げる。例えどんなマーケティングプログラムを先々用意していたとしても、関係構築ができたばかりの顧客が離れていっては何にもならない。ここが基本ポイントである。そのためには顧客の人生の節目(ライフステージ)、もしくは何らかの”きっかけ”をきっちりとフォローしていくことが重要なのだ。

■Step 2:満足度の向上段階
 一度顧客になってもらったら、その顧客には再度購入してもらいたい。そのために前のステップが存在したのだから当然だ。収益構造(レベニューモデル)として再購入を前提としてマーケティングプログラムが構築されている場合も少なくない。例えば、PCメーカーのデルコンピュータの収益モデルは、一人の顧客に5年間の間に3台のPCを購入してもらうことで成立するよう組み立てられているという。デスクトップPC→ノートPCの追加購入→デスクトップPCの買い換えという具合だ。つまり反復購入なくして早期に離反が起これば、マーケティングコストのROI(Return On Investment = 投資対効果)が赤字となってしまうのだ。
 確かに一度自社の商品・サービスを購入し、使用体験を持つ顧客であれば、初回購入に踏み切らせることよりも壁は高くはないだろう。しかし、再購入・反復購入という壁は一見低そうに見えるが厚く、突き破ることは難しいのである。
 ではどうすればいいのか。Recognitionは当然として、Time savingの要素を忘れないことが肝要だ。顧客に対してタイミングよく適切なお勧め(レコメンデーション)を行い、その商品の買い換え、または買い増し(アップセリング)、もしくは関連商品の購入(クロスセリング)の必要性を感じさせ、納得してもらい、購入結果に満足してもらうのだ。そのためには、むやみやたらとお勧めを繰り返すのではなく、「顧客に最も必要なものを提供する」という基本精神を忘れないことである。また、反復購入のほかにも、例えばプリンタやコピー機の場合のように、サプライ品や保守メンテナンスなどで収益を上げる(アフターマーケティング)ことも可能となる。

■Step 3:満足度の最大化段階
 反復購入を続けてくれる顧客と企業の間には次第に信頼関係が生まれ、強固になっていく。そして顧客がファン化する。この段階までくれば、顧客と企業の最適な関係が維持されさらに拡大されていくことになる。つまりPeace of mindが達成された状態だ。ここに至るまでには前段階でいかに努力したかが重要であり、前段階を飛び越したり、最初からこの段階を狙ってできるものではない。一段抜かしや二段抜かしで階段を駆け上がることはできないのだ。
 この段階に至ると企業にとって嬉しいことに、顧客が企業(もしくは企業側の担当者)に対して積極的にコミット(関与)してくれることだ。つまり、顧客自身が満足している商品・サービスを友人に勧めてくれるのだ。前回生命保険の契約を例として述べたが、筆者の生保の担当営業は非常に優秀でサービスもよく、とても緻密に設計されたプランを提案してくれた。それがきっかけでファン化した筆者は、実は新入社員や結婚した知人に、人生の節目に保険の加入や見直しを勧め、その担当者に紹介している。(今までに4人ほど加入したようだ)。 さらにこのタイミングを見計らって、何らかの紹介インセンティブを付与するMGM(Member Get Member =知人紹介)のプログラムを行うと非常に効果的である。
 逆に間違った例として、全顧客に対して一律にこのMGMのプログラムを投下していることをよく目にする。”紹介”は、紹介者が程度の差こそあれ、ある程度のリスクを負う行為であると理解すべきだ。例えば自分が勧めたものが被紹介者である友人・知人に気に入られなかったら、恐らく気まずい思いをするだろう。それが高額なものであったら関係が悪化するかもしれない。そのリスクを冒してまで紹介という行為に踏み切るのは、顧客自身がその商品・サービスに満足し、間違いないと確信しているからにほかならない。つまりPeace of mindが達成されていなければ、いくら紹介を依頼してもそれが達成されることはない。故に、全顧客に対して一律にMGMの施策を投入することは甚だ効率が悪いものになるのである。しかし、企業側の都合で「お客様紹介キャンペーン!」なるものを全顧客に対し展開している例は数多い。自らの立場に置き換えて顧客視点で考えれば明白なのに、やはりその基本を忘れてしまっているのだろう。

 以上が顧客との距離を縮め、優良顧客化するための3段階の方法である。連載の第3回4回の集大成といった感じであるが、マーケターという視点ではなく顧客視点で読み返せばごく当たり前なステップであることがわかるだろう。しかし、この連載の主旨である顧客視点でマーケティングを捉え直すには有用なフレームワークである。一度、自社の施策全体をこのフレームで俯瞰して見直してみていただきたい。


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