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3 posts from June 2005

2005.06.22

日経BizPlus新連載開始!

今まで、同サイトの「営業」カテゴリーにて「IT&マーケティングEYE」を連載していましたが、看板カテゴリーである「トレンド」に出世しました。

過去、木村剛氏なども連載されていたコーナーなので非常に光栄です。

「IT&マーケティングEYE」の時と異なり、マーケティングの理論的なものを全面に出すのではなく、世の中のトレンドを幅広く独自の視点で切り取って紹介して欲しいとの日経のデスクからの依頼でした。

確かに私はタウンウオッチング、マンウオッチングは大好きなのですが、どこまで「独自の視点」とやらで語れるのか少々心配なところではあります。

とはいえ、第1回原稿がアップされ、隔週で更新されますので是非ご覧ください。

初回と第2回は「都心回帰かもたらすものは?」と題し、最近の駅近マンションの林立や、構想巨大マンションの開発によって何が変わっていくのかを予測してみました。

http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/kanamori.cfm?i=2005111601onec6

-----------<以下バックナンバー用転載>-----------

「都心回帰がもたらすものは?(1)」


■都心に人々が帰ってきた!

 ここ数年前から起こっている、人々の「都心回帰現象」は何をもたらすのかを考えてみたい。かつて少しでも広く環境のよい「理想のマイホーム」を夢見、過酷な長距離通勤も厭(いと)わず郊外の住宅を競って購入した日本のビジネスマンたち。しかし、ここ数年その平均通勤時間が短くなりつつある。つまり、郊外から都心に人々の暮らしの舞台が戻ってきているのだ。ビジネスマンだけではない。エンプティー・ネスト(empty nest)と呼ばれる子供たちが独立したリタイア後の夫婦たちも帰ってきている。

 彼らを引きつけるものは何か。ビジネスマンにとってはやはり通勤時間の短さが魅力であろう。リストラで人が減っても変わらぬ仕事量。心身への負担はいやが上にも増す。さわやかな郊外のマイホームで過ごす週末も魅力であろうが、日々の負担は週末まで体力を温存させてはくれない。

 その彼らの受け皿となっているのが、都心のしかも駅近くに次々と建設されるマンション群や、新しい街が突然出現したような大規模都市再開発である。これらも元々はリストラによって企業が放出した資産や遊休地である。つまり、ビジネスマンにとってはリストラの影響で疲れた体を、リストラによって生まれた街や我が家で休めるという皮肉な構図が生じているのだ。

 一方のリタイア層は少々事情が違う。郊外暮らしの不便さや戸建てのメンテナンスから解放され、強固なセキュリティーと都心の利便性を求め都心に戻ってくるのだ。一部でマンションは既に供給過剰ともいわれ始めているが、当分この都心回帰傾向は変わりそうにない。

■「Less is more:持たざる豊かさ」が生まれる

 都心のマンション、特に駅近くの生活は便利だ。通勤だけでなく、買い物、行楽などにおいても全ての移動時間が短縮できる。ただ、一つだけ困るのは駐車場の確保だ。全戸駐車場付きを売り物にしている物件もあるが、全てがそうではない。駅近くであるが故、駐車場の賃貸相場はかなりの値段になる。

 だが、駅に近い生活に慣れてくると車に乗らなくなっている自分に気づく。もちろん、手段としてではなく、「車に乗るのが趣味」というようなエンスー(車好き)は別として、電車の方が渋滞もなく便利だという事実の前には車に乗る理由が自然と消失してしまうのだ。さらに、新たに増額される駐車場代を筆頭として、車の維持にかかる年間の諸費用を冷静に計算してみるとその額に呆然とする。そして、愛車との別れに踏み切る人も少なくない。

 さて、そうして車を手放して得た家計の余剰資金はどこに回るのか。堅実に貯蓄する層もいるだろう。しかし、家の近くには日本そば屋とラーメン屋と寿司屋が一軒ずつしかなかったような、いわゆる住宅地の暮らしと異なり、駅近くや再開発された新しい街に存在する飲食店は非常な魅力を放って誘ってくる。また、車を手放して浮いた家計の総額を考えれば、毎年車で渋滞と戦いながら帰省していたのを「夏のレジャー」であると称していたのから、一気に「海外旅行」までランクアップさせることも十分可能であることにも気づく。

 「Less is more」という言葉をご存じだろうか。「持たざる豊かさ」とも訳されるが、これはドイツ生まれの建築家、ミース・ファン・デル・ローエ(Mies van der Rohe、1886~1969)の言葉だ。ミースは古典的な建築様式を脱し、鉄・コンクリート・ガラスを用いた新しく合理的な様式を広めた。その言葉を知ってか知らずか、まさに今、かつては豊かさの象徴であった「マイカー」を手放し、持たざるより豊かな生活を手に入れる人々が密かに増えてきているのである。

■それは「業際競争」の様相も見せている?

 かつて自動車会社は「課長になったら○○、部長になったら△△、役員になったら□□」と、顧客のライフステージの変化に合わせて商品をフルラインナップで揃え、アップグレードさせ、囲い込むと同時に収益を伸ばすことを戦略の主軸としていた。

 それが今日では突然、「車を手放す」という選択肢を顧客が持ってしまったのだ。競合他社にブランドスイッチされたのであれば、車の買換えサイクルが長くなっているとはいえ、自社の顧客として再度取り返すWin-Backも可能だろう。

 しかし、顧客の価値観が変わってしまったのではいかんともし難い。自動車メーカー・販売会社のライバルは同業他社だけではなく、「貯蓄」「外食」「海外旅行」とどこに敵が潜んでいるのかわからない状況だ。つまり業界の境を喪失した「業際競争」の様相を見せ始めているのである。

 今までは車の性能のアピールや他社との差別性が、自動車会社が行う顧客とのコミュニケーションの中心であった。しかしこれからは、第一に「車のない生活」を選択することを阻止し、「車を使った豊かな暮らし」というライフスタイル提案なども必要になるのだろう。この傾向がさらに顕著になっていくとしたら、「呉越同舟」で自動車メーカーの連合広告でも展開することになるのだろうか。

 人々の街の風景が変わり、人々が都心回帰し、その心の中までが変化していく。この「都心回帰」がもたらすものについては、次回も引き続きどんな姿が覗けるのか見てみたい。

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2005.06.11

企業改革のためのIT活用術 第一回

企業改革のためのIT活用術 ~The methods of 9 steps to make KM succeed in~ という新連載をジャストシステムのメールマガではじめましたので、バックナンバーのリンクを公開します。

http://www.justsystem.co.jp/km/press/20050425.html

企業改革をITを使って、しかもKMのフレームワークで解き明かしていこうとするものです。
この9ステップは先のご紹介した「思考停止企業」で3章の解説部分として記載したものを
大幅に加筆改訂した決定版です。

現在第2号までナックナンバーが公開されており、全6回の連載予定です。

今後の同社のメルマガでは執筆を行うことも多いと思いますので、この機会に是非、ご登録ください。
(登録フォーム) https://www.justsystem.co.jp/mailmag/sinki_toroku.html?ml=KPM


-----------<以下バックナンバー用転載>-----------

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         ■企業改革のためのIT活用術 第一回■
      ~The methods of 9 steps to make KM succeed in~
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■この10年でITはどのように成長したのか

一昔ほど前は「高度情報化社会」というキーワードがある種の夢物語のように話
題になっていましたが、それがなぜか「IT(Information Technology)」という
言葉に置き換えられてから、急速に現実味を増すようになりました。
「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」(IT基本法)が成立したのは2000年
11月の事です。そして、IT基本法を実効性のあるものとするために2001年1月に
「e-Japan戦略」がとりまとめられ2005年までに世界最先端のIT国家となること
を政府は目標としたのです。

そして今、2005年。途中、2000年に米国のナスダック市場におけるドットコム銘
柄の暴落に引きずられ、「ネットバブルの崩壊」と呼ばれるような踊り場もあり
ました。しかし、ブロードバンドの普及率を見ても日本は世界一の国になったの
です。また、企業もIT抜きでは経営も現場の運営も考えられない時代になったの
は確かでしょう。

■その「IT」は有効に活用されているのか?

しかし、ITに頼れるからといって、全ての企業で経営の判断や現場の運営がうま
くいっているとは限りません。半分は国策として、半分はブームに乗って多くの
企業がIT投資を行いましたが、「思ったような意志決定をサポートするデータが
上がってこない」とか、「現場が効率化すると聞いていたのにかえって手間がか
かる」などといった声も聞こえてきています。

なぜでしょうか。それは「ITを使えば経営や現場が良くなる」という手段と目的
の逆転があちらこちらで発生していたからです。「IT」はあくまで手段でしかあ
りません。「企業の何を改善したいのか、または何を達成したいのか」といった
目的設定が曖昧なまま、IT投資をしても何の結果も残せません。むしろ投資のダ
メージが残るだけでしょう。「仏作って魂入れず」という言葉がありますが、ま
ずは「何の魂を吹き込むのか」を明確にして「TIの導入」という形を作り始めな
ければ、うまくいくはずがないのです。

■ではどこに「選択と集中」を行えばよいのか

「選択と集中」も企業経営における流行語の一つになりましたが、まさに「ITの
導入はまず、目標を定めてそこに集中すること」です。

では、何を目標とするのか。確かに業種業態や企業毎においてプライオリティー
付けは異なるでしょう。しかし、昨今の経済情勢を見てみれば、それは幾つかの
キーワードに集約されてくるのではないでしょうか。

例えば、身近なところでいえば「2007年問題」。といっても、「2003年に続いて
新築オフィスビルの竣工で大量の空室が出てしまう不動産業界」。「一流外資の
大量参入により多くの得意客を持って行かれてしまうホテル業界」。「少子化に
より総応募者数を総募集数が上回って受験者主導になって生き残りがかかる大学
学校法人」。など、各業種で2007年には色々なことが起こります。

しかし、どの業種にも等しくどの業種にも当てはまるのが、「団塊世代の定年の
ピークである2007年」。「あの仕事に関しては、あの人に聞けばいい」。と誰も
が思っている「あの人」はあと2年で会社から去ってしまうのです。「あの人」の
知識や技術を誰がどうやって会社に残すのか。これは大きなテーマです。

別の側面を見てみましょう。「景気が回復した」といわれるようになって、しば
らくが経ちました。しかし、一向に私たちの暮らしが楽になってきた気がしませ
ん。それはなぜか。それには二つの側面があるのです。

一つは営業現場。企業の業績回復は、いわばバランスシート上だけのもので、本
当の企業の業績回復を示す営業収益は改善していません。なぜなら、業績回復の
ために行った大量のリストラで企業の戦力が落ちていることと、さらに好景気の
時代の営業スタイルはK・K・D(勘・経験・度胸)の力わざで数字を作り出す
スタイルが主流を占めており、組織的かつ計画的・効率的な今の時代に求められ
る手法が開発されていなかったのです。今のままの営業では企業は自社の製品を
売れない。売れなければ社員の給料が再び上がることはなく、それだけではなく
限界に来ている数字上の業績回復は再び悪化。倒産という最悪のケースすら発生
しかねません。

もう一つ全社的な連携が必要な課題です。消費者の好みは多様化し「十人十色」
といわれたのは、もはや大昔。「一人と色の時代」といわれるようになってから
既に十年近くが経っています。

そんな中、消費者は何を欲しているのかを、「お客様の生の声(VOC = Voice Of
Customer)」から探り出すことが重要になってきているのです。そのためには物
作りのための生産技術研究の場と、お客様との接点であるコンタクトセンターが
連携してその「生の声」を分析し、売れる物をマーケティングセクションが考え
る。研究所や生産現場がそれを現実のものにし、営業がしっかりと売ってくる。
さらにお客様の声を顧客サービスセクションが拾って改良しさらに売れるような
物にしていくという好循環の形成。そうした全社協同が作り出せていないからで
す。まずは営業改革。そして全社的な協同体制の構築。これも簡単なテーマでは
ありませんが、避けて通ることはできません。

■KM(Knowledge Management)でひもといてみる

前述の2007年問題。組織営業への転換と営業力強化。お客様の生の声の分析・活
用。売れる製品作り。これらのテーマは、もはやさほど新しい概念ではなくなっ
ている「KM(Knowledge Management)」で括ることができるのです。

ITを目的として勘違いしてはいけないのと同じように、KMも目的ではなく、目的
達成のための手段でしかありません。しかし、上記に例示したような今日の企業
が抱えている問題は、社内に眠っている解決手段を洗い出し、解決策を立案し共
有し、組織的・かつ計画的に実行することでしか解決することはできません。そ
のための一番の近道がKMなのです。

そこで今回から、”The methods of 9 steps to make KM succeed in”つまり、
「成功するためのKMの9つのステップ」をご紹介したいと思います。
といっても、実はここまでで1番目のステップは半ば説明が終わっているのです。
1番目のステップ。それは「きっかけの見極め」。社内の数々の課題の中からKMを
適用することによって解決できる課題を見つけ出し、プロジェクト化し、走り出
すことです。その際、多くの場合「KM」という言葉はプロジェクトの最後まで出
てこないでしょう。「2007年問題対応緊急プロジェクト」や「営業強化プロジェ
クト」などの名前のもとに、その実行手段として「KM」が隠れているのです。そ
れが最も企業にとって有効な姿なので。

仮に、KMを目的と勘違いして経営陣に「我が社もそろそろKMに取り組むべきだと
思うのですが」と言ったらどんな反応がくるでしょう。「お前、以前SFAを導入し
て、次にCRMをやってみて、今度KMっていうのは幾らかかるんだ。どれも中途半端
じゃないか」と言われるのが関の山ではないでしょうか。

まれに、トップダウンで「KMを導入せよ」というミッションが下ることもありま
す。いわゆる「トップダウン型のKM」です。しかし、それは既に経営者が自社の
ファースト・プライオリティーを見極めており、その解決策としてKMに既に気が
ついているからに他なりません。その場合は確実にKMのミッションが何なのか、
そして経営者の求めているゴールは何なのかを把握することが重要なのです。

■次回からの ”The methods of 9 steps”

今回は今日の企業の置かれた環境から考えて、KMをその課題解決のツールとして
選んでみました。つまり前述のように既に9ステップの一つめを上ったわけです。
このあとはスタートを切ったプロジェクトの成功に向けて仲間を作ったり、様々
な事象の洗い出しをしたりと幾つもの段階が待ち受けています。

この連載は今回より6回で9つのステップをご紹介していきます。プロジェクトの
常で行く手には谷あり。9つのステップもその段差は一様ではありません。
しかし、その階段を上りきったときには自社の新しい姿が見えてくるのです。

次回からの連載をお楽しみにお待ちください。

         ■企業改革のためのIT活用術 第二回■
      ~The methods of 9 steps to make KM succeed in~
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前回からのこの連載は、企業改革に今まで以上にうまくITを活用してみましょう
というテーマで開始されました。今日の企業において改革すべき課題には枚挙に
いとまがありません。2007年問題、組織営業への転換と営業力強化、お客様の
生の声の分析・活用と売れる製品作りなど、いずれも経営の根幹に関わる問題
です。そしてその解決のためにはKM(Knowledge Management)という手段が有効
であり、その成功のための9つのステップをご紹介するのがこの連載のポイント
です。

前回ご紹介したのはその第一ステップ、「きっかけの見極め」。冒頭に列挙した
ような社内の数々の課題の中から、KMを適用することによって解決できる課題を
見つけ出してプロジェクト化し、まずは走り出すことだとご説明しました。
そして今回は第2と第3のステップをご紹介しましょう。

■第二のステップは「味方作り」

社内の何らかの課題の解決を命じられたということは、少なくとも上部からの業
務命令の形が取られていることでしょう。ただ、こうした課題解決の業務は最近
では既存の部門に落とされるのではなく、”プロジェクト型”でスタートさせら
れることが多くあります。なぜなら、多くの部門はリストラで多くの人員を削減
されており、削減された人員で何とか既存の業務を切り盛りしているのが実情だ
からです。そんな中で、いきなり重たい業務を特定の部門に背負わせたら・・。
社内暴動やボイコットが起きるようなことはないまでも、実際に業務は進まず、
その部門の人間が不満の声を上げるかモチベーションの低下を引き起こすかの
どちらかでしょう。 だからこそ、各部門から少しずつ人材を兼任辞令によって
つまんでくる”プロジェクト型”で発足することが多いのです。

しかし、このプロジェクトという形は大きな落とし穴が存在します。それは、兼
任者ばかりで主体性がなく、本来業務に追われてプロジェクト業務で稼働ができ
ないという現象が発生するのです。中学・高校の部活動を思い出してください。
どの部にも幽霊部員といわれる、在籍していても部活動に顔を出さない人間がい
たでしょう。それと同じことが起きるのです。無論、本人に悪意があってのこと
ではないにしても、得てして兼任人事は部門とプロジェクト業務の間で股裂きに
なり、結局はより責任・義務の明確な自部門の業務を優先してしまうことになる
のです。本人にとっても苦渋の選択であるかもしれません。

ではどうしたらよいのか。それは”実力のある味方”を見つけて、お墨付きもし
くは錦の御旗をもらうことです。プロジェクトリーダーやオーナーが部長クラス

であったら、そのレポートラインの上にいる、いわゆる”Cクラス”、つまりCOO
やCIOが味方につけば最高です。それ以下でも役員クラスであれば、役員会での
発言や動議、決議ができるのですから、そういった実力者を“良き理解者”もし
くは“パトロン”として確保し活躍してもらいましょう。プロジェクトリーダー、
オーナーが部長級であったなら、この役員への水面下でのネゴシエーションが
最初の大仕事です。

そしてまず承認してもらうことは、プロジェクトチームへ参画した兼任者には、
MBO(Management By Objective =目標管理制度)のミッション項目の一つに
プロジェクト業務を記載させること。そして、その人員の全ワークの何%はプロ
ジェクトのために宛てることを義務づけ、その活動内容の評価権はプロジェクト
オーナーが有するというようなしくみを作ることです。もし、MBOが取り入れら
れていなければ、その制度の導入か、同様の効果を持つ人事評価のしくみを作ら
なければなりませんので少々骨の折れる前作業になります。 しかし、そこまで
してでもプロジェクトメンバーに縛りを入れておかないと、前述の”幽霊部員”
になるメンバーが続出してプロジェクトも頓挫することになります。

その他、プロジェクトが進行していく様々な場面で”実力のある味方”がいれば
力になってもらうことでスムーズな進行が可能となるでしょう。

■第三のステップは「チーム作り」

プロジェクトがスタートしたとしても、恐らくそれは最小限の人数で構成される
“準備室”としてのスタートとなるでしょう。本格的にスタートを切って、どん
どんプロジェクトを進め成果を出して行くにはなんといってもまだまだメンバー
が足りないはずです。 しかし、このメンバー集めの段階こそ序盤戦の山場。
人事や各部門長の調整などに任せていたのでは優秀な人材はたとえ兼任とはいえ
確保できないでしょう。なぜなら各部門とも前述のように今日では人材は逼迫し
ており、使える人間、ましてやエース級の投入など期待すべくもありません。

グリム童話の一つ、「ブレーメンの音楽隊」は皆さんご存じでしょう。年老いて
捨てられたロバ、犬、猫、おんどりが集い、”ブレーメンに行って音楽隊に入る”
という”プロジェクト”を立案し旅を始める。ところが途中で盗賊たちが占拠し
て楽しげに暮らしている隠れ家を見つけ、四匹で力を合わせ盗賊たちを追い出し、
そこで余生を楽しく暮らしたという話です。

四匹の動物は幸せになったということで、物語はハッピーエンドとなっています
が、よく考えれば”プロジェクト”は成功していません。なぜなら、彼らは本来
の目的地ブレーメンには到着していないし、音楽隊にも入隊していないのです。

なぜ、プロジェクトは成し遂げられなかったのか。一つは四匹の動物は飼い主に
捨てられ、道を歩いているうちに自然に形成されたグループにすぎず、最初から
目的を持って、”どのような能力を持ったメンバーが必要”という条件設定もな
く集まったメンバーだからです。要するに、単に優秀といわれている人を集めれ
ばいいのではなく、このプロジェクトを成功させるためには、どのようなスキル
セットを持ったメンバーが必要なのかという明確な定義のもとメンバー構成を
考えることも欠かせないのです。

さて、前述の通り、黙ってメンバーが集まるのを待っていては、ブレーメンの音
楽隊ができるだけなのはご理解いただけたと思います。 ではここで強力に、
前ステップで確保した”実力のある味方”にも動いてもらい、プロジェクトの
課題となっているテーマに関するトッププレイヤーを確保しに行きましょう。
それらトッププレイヤーに対して兼任人事を発令してもらい、チームメンバーと
して囲い込み、前述の通りしっかりMBOで縛りを入れる。その上で彼らの持つ
潜在化しがちないわゆる“暗黙知”の供出をさせるのです。当然専任者として
辞令が出たメンバーには徹底した理解と啓蒙が必要なのはいうまでもありません。

さらに参加メンバーのモチベーション管理をしっかり考えることも重要です。
また、童話の例えになって恐縮ですが、桃太郎が犬、猿、キジというメンバーを
伴って鬼ヶ島攻略プロジェクトを成功させたのは、(それが鬼と戦うという
リスクに見合うものなのか、かなり疑問ですが)キビ団子という明確なインセン
ティブをメンバーに事前に提示していたからでしょう。つまり、MBOにおいて
このプロジェクトの成功によって、どのような評価が受けられるかということま
で明確にコミットしておくことが必要なのです。いくらトッププレイヤーをうま
く参画させることができたとしても、それが低いモチベーションの状態であって
は何の意味もありません。


さて、プロジェクトには強力な味方も付いた。メンバーも集まったというところ
で、9つの成功へのステップは3つの階段を上ったことになります。実際にこれを
行うとしたら、ここまでの各階段もずいぶんと高いものだと思うはずです。
しかし、プロジェクトが本格的にスタートを切る次のステップあたりからは、
さらに階段は高さを増していくことになります。

成功への階段はあと6段。次号もお楽しみにお待ちください。

         ■企業改革のためのIT活用術 第三回■
      ~The methods of 9 steps to make KM succeed in~
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企業改革にうまくITを活用していくための、具体的なステップをお伝えするこの
連載も第三回。その課題解決のために有効な9つのKMのステップのうち、今回は4
番目をお伝えいたします。

前回までで、自社における改革すべき課題が特定され、改革を実行する担当責任
者とチームメンバーが揃ったはずです。いよいよ、今回から具体的な改革のため
の作業に入っていくことになります。

■まずは「目標設定・指標作り」から

企業改革という大層なテーマを背負い、役員クラスの味方がついてメンバーが
揃ったとなれば「まずは具体的に行動を!」とはやる気持ちも分かりますが、そ
の前に一つステップをおいてください。

相田みつをの珠玉の言葉に「とにかく具体的に動いてごらん。具体的に動けば具
体的な答が出るから。」というものがあります。しかし、具体性を持たせるため
にもまずは目標を細かく設定し、何を持って成否の判断材料とするのかという指
標作りが必要です。それがなければ闇雲に地図のない旅に出るようなもので、自
分たちの行っている改革がどこに向かって進んでいるのか。また、それは社内に
貢献し、全社に受け入れられるような内容になっているのかをどう判断すればい
いのでしょう。また、プロジェクトの各段階で振り返り、必要に応じて軌道修正
をしていくためにも、最終段階で振り返って、別のプロジェクトに引き継ぐ場合
などにも無くてはならないものなのです。

■目標を詳細・明確にブレイクダウンし同床異夢を防ぐ

改革すべきテーマとしてフォーカスされるのは、企業によって第一回に例示した
ように、2007年問題・組織営業への転換と営業力強化・お客様の生の声の分析/
活用/売れる製品作り等、様々に異なるでしょう。しかし、例えば「2007年の熟
練者大量定年退職に備えよう」という課題が共有されたとしても、そのままでは
大掴みすぎてプロジェクト内のオーナーやメンバー毎にも理解のしかたが異なる
はずです。

プロジェクトの推進において一番怖いのは、この「同床異夢」。同じ床に寝てい
ても見る夢は異なる。同様に「一見同じ目標に向かって行動を共にしながらも、
各々の意見や考え方は実は異なっていた」ということにうならないよう、初めに
細部まで目標をブレイクダウンしておく必要があります。

そのためには具体的に作業イメージも明確にしてみることが一番です。誰でも
知っている”5W1H”で紐解いてみてもよいでしょう。who(誰が)、what(何を)
when(いつ)、where(どこで)、why(どんな目的で)、how(どのように)、
です。例えば2007年問題対応だとすれば、who =定年退職していくどの熟練者か
ら、誰がその技術を伝承するのか。what=伝承すべき技術の範囲・対象は何なの
か。when=プロジェクトのエンドはこの場合決まっているので、その間の時間を
どう使うのか。where =具体的な現場か会議室か。why =最低限の技術を受け継
げばいいのか、全てを受け継ぎさらに作業改善の糸口を見つけるところまで行う
のか。how =現場で伝承すべき人がつぶさに観察しつつ明文化するのか、会議室
で対象者からヒアリングで聞き出すのか。上記は一例ですが、このようにすれば
だいぶ細かなイメージが見えてくるのではないでしょうか。

■目標をさらにブレイクダウンすれば、もっと細かい実行ステップが見えてくる

プロジェクトメンバー内で5W1Hのレベルでブレイクダウンができたら、次は実行
ステップを明確にすることを考えましょう。これにはプロジェクトマネジメント
で用いられる、WBS(Work Breakdown Structure)という手法が有効です。

実際の作業としては、プロジェクトの成果物を思いつく限り細かい単位に分解し
ていくことの繰り返しになります。まず、全体を大きな単位に分割してから、分
割された各々の部分をより細かい単位に分割し、階層的に構造化していきます。
これでプロジェクト全体を細かい成果物に分割した構成図ができあがるはずです。

次に、成果物の細分化が終わったら、各々の部分を構成するのに必要な各種の作
業を考え、固まりにしていきます。個々の作業の固まりを”ワークパッケージ”
と呼びます。そして、ワークパッケージ毎にそれを担当する責任者と担当者を決
めていけば、プロジェクト遂行のための組織図が完成します。これをWBSと同時
に行うOBS( Organization Breakdown Structure)といいます。

このように、典型的ではありますが、プロジェクトマネジメントの手法を用いる
と、詳細な実行ステップが明確化し、誰が、いつまでに何をやらなければならな
いのかが一目瞭然となるのです。こうなれば、このWBSとOBSに従って具体的な行
動に移せる気になるでしょう。

しかし、ちょっと待ってください。具体的に動く前に、別の観点から作り上げた
WBSに抜けがないか検証してみることをお勧めします。WBSは成果物を詳細に規定
するもの。とすれば、その成果物が合格点で次のステップに進んでいいのか否か
の成果指標が規定されているはずです。しかし、ともすると成果物を作ることの
みに一生懸命になり、その指標が曖昧になってしまうものです。曖昧に進んでし
まうと何が起こるのか。大きく二つの問題点が発生します。

一つは冒頭に述べたように、「プロジェクトの軌道修正」が不可能になってしま
うことです。振り返りを忘れたプロジェクトの多くは空中分解するか、思いもよ
らなかったような結果に終わるか、ひどく目標として掲げたものよりも縮小した
結果に終わるかというような運命が待っているのです。ですから、成果物を作る
ことも、スケジュールを気にすることも大切ですが、同等以上に各段階での合格
ラインの設定を欠かすことはできないのです。

■プロジェクト終了時の成果指標を作る

前項で述べた発生する問題点のもう一方とは何でしょうか。それは、プロジェク
トが終了した時に、そのプロジェクトがどの程度成功したのかという評価ができ
なくなることです。特に、二番目の終了後の評価は、予めプロジェクトの成否を
判断できる指標 = KPI(Key Performance Indicator =目標数値)を設定して
おかなくては後追いでは曖昧模糊とした結果しか分からなくなってしまいます。

特にプロジェクトの目標が何であれ、その実行手段としてKMを推進していくとし
たら、最も困難なのがROI(Return On Investment =投資対効果)の測定であり、
得てして最後にそこが問題になるのです。「果たしてこのプロジェクトは、どの
程度投資に見合った利益を挙げたのか」と。

2007年問題の対応などは、まさに企業としての死活問題であり、トップダウンで
プロジェクトがスタートするのでROIが問題になるような可能性は低いでしょう。
しかし、目標が”営業改革”などであった場合は非常にやっかいです。仮に営業
成績が向上したとしても、例えばそれがプロジェクトの最終成果としてできあ
がった”営業支援ポータル”がどの程度貢献した結果なのか、営業担当の努力の
積み重ねなのか、景気の回復によるものなのか、複合的な要素の中で正当な評価
が成されないこともよくあることです。

ROIの測定ロジックを作るなど、当然この段階では無理な話です。しかし、当面
の目標が営業支援ポータルの構築に設定されたなら、それに対するKPI(Key
Performance Indicator =目標数値)を設定することが将来的なROIのロジック
構築に向けても必要になってくるのです。それはポータルの更新頻度や来訪頻度、
リピーター率のような手軽に取れるメジャメントでもかまいません。その意識を
持ってプロジェクトの設計にあたることが重要なのです。

さて、プロジェクトはいよいよチーム内の検討だけで済む段階は今回で終了しま
した。次回の5番目のステップからはいよいよ社内関係各部署に出かけて、具体
的な課題の洗い出しを行うことになります。

ある意味、様々な難関にぶつかるかもしれませんが、今まで自分の周りだけしか
見えていなかったものが、色々な情報を得て自社の課題がどんどん明確化されて
くる一番面白い部分でもあります。冒頭にご紹介した「とにかく具体的に動いて
ごらん。具体的に動けば具体的な答が出るから。」という相田みつをの珠玉の言
葉をまさに実現する次のステップをお伝えする次号。
お楽しみにお待ちください。


         ■企業改革のためのIT活用術 第四回■
      ~The methods of 9 steps to make KM succeed in~
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当連載の主旨である、企業改革にうまくITを活用していくための具体的なステッ
プも今回で第5段目に差し掛かりました。このステップからはプロジェクトは、
チーム内の検討だけで済む段階から、いよいよ社内関係各部署に出かけて具体的
な課題の洗い出しを行う段階となっていきます。
洗い出しといっても闇雲に行ったのでは何も見えてくることはありません。その
ための方法論、心構えなど今回はご紹介していきたいと思います。

■課題洗い出しの基本はなんといってもヒアリング

社内の課題を洗い出そうと思ったら、まずは社内各所に足を運んでヒアリングを
かけてみることです。いくら社内の動きに精通しているという人がプロジェクト
チームにいたとしても、その人だけに頼ることは避けなくてはなりません。改革
プロジェクトには足を使わず、安楽椅子に座ったまま頭の中だけで推理をする名
探偵、「ロッキングチェア・ディテクティブ」は必要ないのです。むしろ、「現
場百遍、捜査は足でするもんだ!」といういぶし銀の古参刑事魂の方が求められ
るのです。なぜなら、ヒアリングが終わってみれば分かることですが、社内には
自分たちが思っている以上に色々な考え方の人がいて、それぞれ立場や利害関係
を持っているため様々な意見が出てくるからです。

■ヒアリング対象者の選び方

ヒアリングの対象者は、対象が全社なら、大変ですが当然全社から選抜すること
になります。そうではなくて、改革すべき部門が例えば営業部や研究所などのよ
うに限定的なのであれば、当然その部門の人が中心になります。但し、その場合
でも何人かはその部門と関連する、もしくは利害関係のある部門に人間からもヒ
アリングをしておくことが必要です。例えば、最終的に自社のIT部門に構築を頼
むのか、全て外注するのかの判断はまだ先になりますが、とりあえずIT部門は加
えておく。営業部門がメインなら、関連もあり、場合によっては対立関係にもな
るマーケティング部門やサービス・サポート部門も加える。研究所のうち、基礎
研究部門(中央研究所など)がメインなら、その技術を活用する関係にある生産
技術部門(エンジニアリング部門)も加えるといった範囲までを対象とします。

また、忘れてはいけないのが職階毎の設定です。スタッフ、現場マネージャー、
ミドルマネジメント、そして場合によってはトップまでも。さらに地方展開をし
ている場合や、首都圏に限定したビジネスをしていても細かく営業所が分かれて
いる場合など、本社部門と各拠点での差異も見るため、対象を設定しなくてはな
りません。
そうして挙げていった対象をマトリックス化してみると、実際にはかなりのセル
数になることが分かります。しかし、ここでめげてはまだいけません。意見の個
人差を無くすために各セル毎に最低でも2~3人はサンプルが必要になるのです。

■ここでの苦労は後で報われる

しかし、前述のようになぜこんなにも数多くのヒアリングを繰り返さなければな
らないのでしょう。一つは、当然その回答内容の正確性を高めるためです。しか
し、それ以上に重要なのは、この段階で数多くの人を巻き込み、改革プロジェク
トのメンバーと話をさせ、意見を言わせるというその「プロセス」そのものに価
値があるのです。メンバー外の人でも自分も改革プロジェクトに参画している。
自分の意見が反映されるかもしれない。と、感じさせることは、プロジェクトの
今後の円滑な推進に欠かすことはできません。また、対象とならなかった人も、
自分と同じような人が対象となっていることで、代表して意見を言ってくれてい
るという気になります。
つまり、将来ユーザーとなるヒアリング対象者に対して、プロジェクトへの参加
意識を醸成しつつ、社内に対し「これだけ手間をかけてユーザーの意見を反映す
べく努力しています」というアピールをする機会であると考えいただきたいと思
います。
この「プロセスの共有」を怠ると、プロジェクトメンバーが密室で自分たちだけ
の意見を元に何かを作ってしまったと、後からユーザーにそっぽを向かれること
にもなりかねないのです。

■ヒアリングで何を聞くのか

さて、大切なのはヒアリングの中身ですが、あまり四角四面にヒアリング項目を
設定して、それさえ聞けば「はい、おしまい」という感じにはしないことをお勧
めします。まずは項目ですが、例えば「業改革のためのIT活用の具体的な成果物
としてナレッジ・ポータルを作ってみよう」ということになったとした場合、
「社内のナレッジマネジメントの方針」「ポータルの構造」「ポータル場合のデ
ザイン」「収録されるべきコンテンツ」といった程度の大枠のヒアリング項目を
決め、後はフリーディスカッション形式でヒアリングをしていく方が対象者の純
粋な意見が出てきます。

さらに質問のテーマをポータルだけに絞らず「普段必要としている情報はどこか
ら入手しているのか」や「自分自身の業務のプロセス」なども聞き出しておくこ
とが重要です。
また、項目には当てはまりませんが、「自分の仕事に対する考え方や価値観」だ
とか、「会社に期待すること」だとか、そういったその他のフリーアンサーも聞
き逃せない貴重な意見として記録していくのです。
場合によっては若い担当者が対象者の場合、仕事や人生に対する相談のような内
容にもなってしまう場合もありますが、それでも根気よくつきあうことが大切で
す。そこから思わぬ発見があるかもしれないのですから。ヒアリング時間は一人
1時間程度が目安でしょう。

■覚悟を決めて集計作業に取り組もう

前項までのヒアリングでかなりの期間と労力を費やすことになると思いますが、
その後の集計作業もなかなか骨が折れるので覚悟が必要です。別に特定の製品の
導入をお勧めしているわけではないのですが、テキストマイニングのシステムな
どがあれば作業はかなり簡便になります。しかし、そうしたものが導入されてい
ない多くの職場では、表計算ソフトに対象者の所属・職階・性別・年齢・社歴等
の属性と、それに各々各項目での発言内容を淡々と入力。そして属性×発言内容
でソート、並べ替えを果てしなく繰り返していかなくてはなりません。そうして
出力された帳票から共通項を読み取っていくのです。

さらに、前項で示した「普段必要としている情報はどこから入手しているのか」
や「自分自身の業務のプロセス」といった項目には特に注目が必要です。最終成
果物がナレッジ・ポータルだったとしても、それを司るKM全体の設計に大きく関
わるからです。なぜなら、普段の情報入手や自分の業務プロセス自体に問題を感
じている人がいたとすれば、それこそが改革のポイントとなります。また、全対
象者の意見がプロジェクトチームの目から見て不合理なプロセスになっていると
すれば、それに気づいていない全社に対する意識改革の必要性すら必要になるか
らです。
非常に大変な作業段階ですが、丁寧にかつ結果の読み解きには十分な時間と知恵
を使って取り組みたい工程です。

■重要な意味を持つ中間発表を行う

さて、ヒアリング結果の集計が完了したら、それを「ヒアリンク結果レポート」
という中間成果物としてまとめましょう。それを社のトップ層である役員会で発
表したり、そのサマリー版を全社に向けて発信します。それによって、社員の求
めているものや、皆が不合理に思っていること、改革すべきと感じていることな
どが明らかにされ、改革に向けたムーブメントを作り出すことができるのです。
この中間発表の工程を踏むのと踏まないのでは、明らかにその後の社内での協力
が異なってきます。また、ここで反対意見などが出るようであれば、その反対者
もしくは反対している部門に赴き、追加ヒアリングを行い、何を彼らが問題視し
て、何を求めているのかを明らかにする必要があります。その追加ヒアリングが
理に適ったものであればプロジェクトの中間結果を軌道修正する必要があります
し、適切な指摘ではなかったとしても、反対者の声を聞くというプロジェクトの
プロセスを踏むことはそれ以上に反対勢力を拡大させないためにも重要なことな
のです。

さて、今回の第5番目のステップで全て社内から材料は調達できたことになりま
す。連載の残り2回でいよいよ社内改革をKMという手法で成功させるための、設
計・構築段階をお伝えします。次回、次々回は2ステップずつテンポアップして
階段を上がっていただくことになります。お楽しみに。

         ■企業改革のためのIT活用術 第五回■
      ~The methods of 9 steps to make KM succeed in~
++--------------------------------------------------------------------++

この連載も残すところ今回と次回のあと2回となりました。前回の5番目のステッ
プ、プロセスの洗い出し・見直しはかなり手間のかかる工程ですが、それが済め
ば社内から材料はすべて調達できているはずです。いよいよ、構築をアップテン
ポで進めていきましょう。

■ステップ6:改革のためには「推進エンジン」が必要

推進エンジンとは、社内の改革、又はKMを推進する原動力と方法論を意味してい
ます。いくら「改革するぞ!」「KMをやるぞ!」と声を大にしても、それが恒常
的に動いていくしくみ=エンジンを設計し、組み立てておかなければ動き出しま
せん。仮に少しは最初の勢いで動いても、すぐに頓挫してしまいます。
しかし、そのエンジンの内容を何にするかは組織の文化や社風によってかなり異
なるため、慎重な見極めと設計が必要になってくるのです。

■研修をエンジンにして初速を稼いだW社の事例

このエンジンの設計に関しては抽象論をいくら述べても伝わらないと思いますの
で、事例を元に解説をしましょう。大手広告会社の関連会社である、W社は「研
修」をエンジンとして社内の改革とKMの推進を成し遂げました。
W社は広告会社にありがちがちな「個人商店の集まり」的な企業文化、つまり、
有用なノウハウやナレッジは個々の社員の頭に暗黙的に存在して共有もできてお
らず、後進の育成にも活用できていませんでした。そんな企業風土の改革を目指
し、KMの推進を決断したのです。
そして同社が「エンジン」として選んだのが「高頻度な社内研修の企画・実施」
という手法でした。つまり、あるテーマについて、その領域のトップクラスのプ
レイヤーを社内講師として指名し、実施の日時を伝えます。するとその担当者は
大勢の他の社員の前で恥はかきたくありませんし、うまく実施すれば評価も上が
るということで、今まで暗黙的に眠っていた自らの専門領域に対する知見を、プ
レゼンテーションソフト上に形式知化していくことになるのです。かくして、研
修に参加した者は彼の知識を共有し、参加できなかった者、後から再度見直す必
要が生じた者のためにその研修資料をナレッジポータルの中に、研修を行った背
景や講師のプロフィールという背景情報と共に格納していくのです。

この方法の良いところは、トップクラスのプレイヤーに負荷がかかるものの、そ
のままでは暗黙知のまま、彼が転職でもしようものなら全く社内から消えてしま
うナレッジを形として残せ、いつでも参照可能にできることです。また、講師と
なるトッププレイヤーが研修を行うために、彼自身が改めて自らの考えを理論・
体系化した資料であることから、非常に質の高いものが確保できるということで
す。

■会議やその他の社内行事もエンジンとして組み込める

上記は一例ですが、それ以外にも例えば社内で業務報告会や各種会議の何らかの
発表が行われていれば、その内容次第ではそれを価値ある情報、ナレッジとして
格納することもできます。
大切なのは「ナレッジ収集のポイントを意図して既存の社内のアクティビティー
に組み込む」というポイントを理解し、有効に活用することです。「営業会議」
というものが毎週実施され、そこは数字の報告しか成されていない会議だったと
します。だとしたら「隔週で各部門の持ち回りで営業成功事例の発表をしましょ
う」と会議のオーナーに交渉するのです。その交渉がうまくいけば、貴重な事例
が黙っていても以後、隔週で一つ収集できるようになります。
また、よくある報奨・顕彰のしくみですが、それも頻度やエントリーの方法、報
奨金額などを見直すと今まで漫然と行われていたものが、見違えるように機能す
る場合もあります。

■アメとムチをどう使い分けるか

前項まででポイントは「一つ一つ収集して回るのではなく、いかにオートマティ
カリーに集まってくるしくみを構築するか」であるとご理解いただけたかと思い
ます。そのためにもう一つ考慮しなければならないのが、「アメとムチの使い分
け」です。
前項までの研修講師への指名や報償・検証は名誉や評価、金銭など各種インセン
ティブやそれに類するしくみで自主的に供出させる「アメ」に相当します。逆に
義務として「報告に組み込む」など「ムチ」に相当する方法もあるのです。
営業報告に記された、個々の営業担当者の報告から有用な情報を抽出することに
主眼をおいた設計を行ったある企業は、報告徹底のため「ムチ」営業担当を当て
ることにしました。具体的には日々、終業時に営業報告の入力・送信が行われて
いない場合、画面にアラートが出ます。何日分か溜まると「あなたは○日分の報
告が成されていません」とアラートの文面も変わってきます。と、ここまでは普
通な話。しかし金曜の夜、アラートを無視して帰ろうと出退勤打刻端末にIDカー
ドを通そうとしても、うまく退社処理ができません。そして端末の画面には「本
日分までの営業報告を提出してから退社してください」の文字が・・・。これか
ら楽しく週末の街に繰り出そうとしていたとしたら、自らの招いたこととは言え
気の毒としか言いようが状況です。しかし、社風としてそこまで「管理統制」を
行っても大きな抵抗や反対、ボイコットが起こらないのであれば、非常に有効な
手段であるといえるでしょう。

実際にはそこまで管理統制に粛々と従う社風の会社は少ないでしょうから、運用
設計に対しては「アメ」と「ムチ」をうまくブレンドして動かしていくことにな
ります。具体的には、報償のような目に見えるわかりやすい「アメ」と、社内研
修への講師任命などのような、大変だが名誉と評価につながる「ムチとアメのブ
レンド」、業務報告の提出の完全義務化のような明らかな「ムチ」、それらをう
まくメニュー案として書き出し、その組み合わせを考え設計していくのです。

■ステップ7:アメとムチを超えフィロソフィーに高める

改革の推進は往々にして壁に突き当たるものです。社内部門間の壁、社員の非協
力性、マネジメント層の無理解などなど…。そして、それらを防ぐには、改革の
骨格が見えてきた時点、つまり設計図ができあがる直前で、「何のために改革を
推進するのか」という問いかけを改革メンバーの中でももう一度し直してみるこ
とが必要です。
メンバー全員がそれに即答できればよし。しかし、ここに至るまでに様々な現実
を目の当たりにし、体験することによってメンバーの間にも若干の体温差や考え
方の違いが生じていることもあり得ます。放っておいたらゴール間際で内部崩壊
してしまうでしょう。
逆にここでメンバーの意識を再びきれいに揃えることができたら、それを社内に
向けて改革のフィロソフィーとしてそのまま発信できる改革の旗印ともできるで
しょう。

具体的にどのようなポイントを改革のフィロソフィーとして統一すればよいので
しょうか。以下はその一例です。

 1.改革のコンセプト=何のための改革で、何を目指すのか。そしてその成功の
  後には社内はどのように変革されているのか。
 2.理想的な社員=改革の結果、理想的な活動ができるようになった具体的な社
  員像。改革の範囲内の関連各部署・各階層において、どのような姿が理想な
  のか。(現状の問題点との対比で考えることもできる)
 3.改革によって得られる便益=改革が成功した暁に得られる便益を企業視点・
  従業員視点で各々明確にしてみる。また、「収益が上がる」といった物理的
  な便益だけではなく、改革によって風通しが良くなり「日々すっきりとした
  気分で仕事ができるようになる」というような心情的な便益まで踏み込んで
  考えるとよりリアリティーが出てきます。

■フィロソフィーを明文化する

上記のように明確化したフィロソフィーは、明文化(ステートメント化)しチー
ム内で共有、また、社内へもそれを発信し必要な人に賛同してもらい、必要なと
きに協力を仰ぐことができるようにすると有効です。いくらブレインストーミン
グ的に意見を出し合っても、それを一つの形にまとめなければ、それは放談会で
終わってしまいます。
確かに各々の意見を発散させることは気持ちのいいものですが、発散の後には収
束させなければなりません。それが明文化(ステートメント化)です。会社にも
「社訓・社是」があるように、改革のプロジェクトにも誰もでも理解でき、納得
でき、いざというとき拠るべき縁となる根拠であり精神的支柱が必要なのです。


さて、残るステップはあと二つ。改革の総仕上げ、又はKMの立ち上げが完成する
次回・最終回をお楽しみにお待ちください。

         ■企業改革のためのIT活用術 第六回■
      ~The methods of 9 steps to make KM succeed in~
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皆様にお付き合いいただいてきたこの連載も、ついに今回でフィナーレとなりま
す。つまりそれは、企業改革の突破口としてのKMの立ち上げが完了することを意
味します。前回のKMを社内で推進する原動力となる「エンジン=推進のしくみの
設計」や、推進のためのアメとムチの使い分け、さらにそれをフィロソフィーに
まで昇華させるというステップの6と7はうまくいきそうでしょうか。その前の
ステップ5:プロセスの洗い出し・見直しなどと比べ、実行する際には体力的や
手間で苦労するというよりも、かなり繊細な設計が求められるフェーズであった
わけです。
しかし、その胸突き八丁を超えればゴールはもうすぐです。今回はここまでの苦
労がやっと具体的な「ポータル」という形になるところと、最後に効果検証を行
うステップを整理します。

■ステップ8:ポータルの構築

9つのステップの項目だけを見たとしたら、「ポータルの構築が何でこんなに後
なのだろう」と訝しむ方もいらしたかもしれません。しかし、この連載にお付き
合いいただいている方々にはその理由はよくご理解いただけると思います。つま
り、ここまでのステップは社内風土や改革すべき点を明確にし、その材料を丁寧
に積み重ねることであり、この8番目のステップでそれらを元に、一気にナレッ
ジポータルを構築することを意図しているからです。
この段階であれば自社の改革すべきポイントやKMの形が明確になっているため、
アウトプットとしてのポータルは比較的容易に設計できることになります。逆に
ここまでの過程・検討を経ず、積み重ねのないまま既製のソリューションを導入
することは、あとからその分の苦労を背負い込むことになるのです。

■ここまでの苦労を無駄にしない!カスタマイズで要求仕様は必ず実現すること

では、具体的な設計・構築はどのように行えばよいのでしょうか。実際には何ら
かのソリューションを導入することになりますが、最適ソリューションの選定と
そのカスタマイズすべき点はここまでの要素を整理すれば、「システム要求仕様
書」という形でまとめることができるはずです。ここで重要なことは、せっかく
洗い出したり整理してきた検討内容を、既存のシステムに合わせて取捨選択する
ようなことはしないことです。基本方針は「あくまで必要な機能・要素はカスタ
マイズによって100%実現すること」とすべきでしょう。

よくあるポータル構築の失敗事象として「ユーザーが使ってくれない」というも
のがあります。しかし、本当に使いたがっていないのでしょうか。ユーザーヒア
リングを再度行ってみると、「使いたくても使えない」という答えが返ってくる
ことがよくあります。つまりユーザーインターフェースや情報整理が悪くどこに
何があるのか分からなくなってしまっていたり、使いこなせなくなってしまって
いる場合が少なくないのです。ここまでのステップでユーザーのニーズや価値観
は十分洗い出し、整理できているはずです。それを徹底追求することこそが「使
われるポータル」となる必須要件なのです。

■ポータルの入り口の設計に注力しよう

ポータルは文字通り「玄関口」です。その玄関が入りにくいものだったとしたら、
やはり入ってくる人は少なくなってしまいます。しかし、ユーザーの求める玄関
への入り方は一通りではありません。
ポータル内にあるコンテンツが明確になっていて、とにかく検索によって最短で
たどり着こうとする人。目指すコンテンツは明確でなくても目的がはっきりして
いる人。予め設定されている体系化されたカテゴリー(タクソノミー)をドリル
ダウンしてコンテンツを探索しようとする人。少なくともこの3つのタイプの人
は存在するはずです。だとすれば、検索、目的別コンテンツ集(目的別に編集さ
れたリンク集)、カテゴリーの3つの入り口が必要になります。
さらに、ポータルは全社員が利用するものですから、社員が見ておくべき情報を
認知し、取得できるようなPush型のコンテンツエリア(入り口)もあるとベスト
です。

■さらに使われるようになる構築設計と運用設計をしよう

上記のようにユーザーニーズを満たす設計は当然ですが、ユーザーの利用意欲を
向上させる設計も重要です。具体的には、社内ユーザーの使用度の高いコンテン
ツのランキングをトップ画面に表示したり、Amazon.comのようなユーザーの評価
(フィードバック機能)を搭載することで「人が見ているもの、評価が高いもの
は自分も見ておかなくては!」という心理を働かせ、利用を促進するのです。当
然、その場合は利用ログの集計機能がバックエンドで動いている設計になってい
なければなりません。
さらにポータルの設計が詳細化してくると同時に、ポータルの運用設計も平行し
て行うことになります。コンテンツの更新・管理の方針と方法などが主なもので
す。さらに前述の利用促進の観点からすると、「社内メルマガ」なども検討に値
するでしょう。定期的に新たにアップされたコンテンツや、社員が見ておくべき
コンテンツを告知して、メールからのアクセスを促すのです。コンテンツのラン
キング表示機能を搭載しなかった場合は多少手間がかかりますが、ログを見てこ
のメルマガでコンテンツランキングを告知するという方法もあります。
このように設計構築と運用構築はユーザーの行動をできるだけ具体的にイメージ
して、それを可能な限り実現できるようにしていくことがポイントとなります。

■ステップ9:検証

一口に検証といっても、その範囲と深さによっては非常な困難が伴う場合があり
ます。とかくトップは、企業活動の全てをROI(Return on investment =投資
対効果)で図りたがります。確かにそうした数値は分かりやすい指標ですが、こ
のKMを突破口として企業改革を行おうとする取り組みは明確なROIは図りにく
いのが実情です。
例えば営業・企画部門を強化して売り上げ回復を図ろうという改革だったとすれ
ば、実際に売り上げが上がったという事実のうちKMの貢献した割合がどの程度で
あるかなど計測できないからです。営業・企画担当は言うでしょう「確かにポー
タルは役に立った。でも実績が上げられたのは自分の能力と努力の成果だ」と。
技術者の情報共有を活性化して開発商品のヒット率を高めようという改革だった
場合でも、恐らく技術者たちも言うでしょう「よい製品ができたのは日頃の自分
たちの研鑽の賜物である」と。つまり、ポータルという便利なしくみができれば
利用はするものの、最終成果は自分たちの手柄だと主張するのです。
しかし、そんなところで手柄の取り合いをしてもしかたがありません。基幹系シ
ステムがROIを問われないのは「あって当たり前」だからです。同様にKMとい
う取り組みもポータルも「あって当たり前」と認識してもらい、成果をROIで
図らないようトップの理解を得るしかないでしょう。なぜなら、これは企業改革
なのですから。

■定量的な効果指標と定性的な効果指標をウオッチすること

しかし、だからといって効果検証を全くしないのは怠慢というものです。例えば
ポータルから得られる数値からだけでも随分と色々なことが分かるはずであり、
そこからさらなる改革のヒントも生まれてくるのです。
ポータルの代表的な成果数値としては、ユーザーの訪問数、訪問平均時間、1日
の平均訪問数、訪問回数10回以上のユーザー数(週)、訪問回数1回のみのユー
ザー数、文書参照数などでポータルの活用状況が分かります。そこから、アクセ
スアップ施策、ユーザーとのコミュニケーション設計、各種改善プロセスが見え
てくるはずです。
さらに数値情報だけではなく、ユーザーの定性的な評価も収集すべきです。定期
的にユーザーアンケートを行うこともいいでしょう。または、ログを見てアクセ
ス頻度の高いユーザー数人の元を訪れて、具体的にどのような業務成果が上がっ
ているかを聞いてみるのも一つの方法です。前述の通り、そこで挙げられた成果
を金額に落として取り合いをするとユーザーは効用を認めたがりませんが、定性
的な評価を聞くだけであれば、「いざというときに頼りになる。この間もクライ
アントへの提案を考えるヒントが見つかった」などという嬉しい声が聞けること
もあります。

■効果はトップ層にまで報告を挙げること

さて上記のように定量と定性の両面から成果を図ることは定期的にきちんと行い
トップマネジメントまできちんと届くように報告を欠かさないことです。ステッ
プ2の「味方作り」で“良き理解者”、もしくは“パトロン”でもあるミドル~
トップマネジメントレベルのキーマンを引き込んだはずです。そこへのレポート
は改革及びKMを継続するための命綱であると認識すべきです。その層が適切に理
解し、評価し続けてくれなければ、業績が悪くなったときなど費用削減対象にさ
れ、最悪改革及びKMはお取り潰しになってしまうこともあり得ます。きちんとし
た理解さえ得られていれば、業績が悪くなったときなどは、むしろ一層力を入れ
改革し事態打開の原動力となることを期待されるはずなのです。

以上で6回にわたってお伝えしてきた連載を終了させていただきます。この9つ
のステップは、企業改革の突破口としてのKMを立ち上げ、安定的に稼働させるま
でのものです。実際にはこの後に、社内に永続的に定着させていくというフェー
ズと、さらに時々の経営課題に合わせて改革を進化させていくという段階も残っ
ているのです。企業が存続し、知的生産活動が続いている限り改革もKMも必ず必
要であり続けます。この続きのフェーズはまた、別の機会にお届けしたいと思い
ます。
ご愛読ありがとうございました。


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2005.06.01

「販促会議」誌の連載バックナンバー:第2回

「営業担当者・マーケティング初心者のための”顧客視点”入門講座:第2回」

 前号では「時代とマーケティングの変遷、そして顧客視点の誕生」を解説し、さらに第一歩としてマーケティングの“基本の基”である“4P”を顧客視点で再度とらえ直すことを解説した。
 つまり、「4Pとは4つのP(Product=製品  Price=価格  Place=販路  Promotion=販促)の要素をどう組み合わせて、その製品を売るために最適化するかと」うことと定義されている。しかし、製品も高度化・複雑化し、生活者のニーズや価値観も多様化している今日、これを当該製品の販売計画として一律に考えたのでは今までと何も変わらない。結論からいえば、この「4Pの全てさえ、個々の顧客に対して個別最適化する」ことが必要であると解説した。
 そして、今日のマーケティング環境は、4P正しく今日的にとらえ直してもまだ足りない。さらにもう2つのPが必要であると予告させていただいた。

■その前に、今日の企業の根本的な問題を考えてみよう。
当連載を読み始めて思った方も恐らくおられるのではないだろうか。「なぜ、営業担当・マーケティング担当がそんなにがんばらねばならないのか。」と。
確かに企業の業績は回復したと政府も各種メディアも発表している。確かに、多くの企業で経常利益もきちんと出るよう回復している。しかし、みなさんの給料は増えただろうか。多くの方は減りこそすれ、増えてはいまい。
 それは今日の企業の業績回復は、営業経費の切りつめ、分かりやすくいえばリストラによって、かろうじて出金を絞って業績が回復したように見せているだけなのだ。例えるなら、減量に失敗しフラフラで戦うことのできないボクサーのような状態なのだ。その証拠に昨年12月中旬の日経新聞の記事であるが、「企業の経常利益は回復しているが、営業利益は回復していない。日本経済は完全に再生していない。失速の懸念も残る。」という記事が掲載されていた。
 そんな中で企業の中で、唯一、外からお金を持ってこられるのが営業であり、それをサポートするのがマーケティング担当者であるから期待されているのだ。
 その証拠に、ビジネス雑誌の特集を見ていただきたい。「ハーバード・ビジネスレビュー」のような学術的な本から、ビジネスの王道「プレジデント」、そして本誌「販促会議」まで「営業特集」を組んでいる。他にも何誌も、何度も特集が組まれている。少しでも効果のある営業手法や営業トーク、優秀な営業担当の動き方を我がものにしようと営業担当者は必死なのである。是非、他人事と思わずにマーケティング担当者も手に取ってみてもらいたい。

■もう一つの“P”=“Process”
 さて話しを本題に戻そう。4Pでまだ足りないPのうち、一つは“プロセス”である。前号において、営業担当に特にありがちな認識であるが、「K・K・D=勘と経験と度胸」で乗り切れるほど今日のマーケティング及び生活者・企業は単純ではないと述べた。つまり、「勘と経験と度胸」とは、個々人の営業担当が自分の今までの経験の中で得てきた暗黙的な方法論、もしくは成功体験に基づき自分の中だけに蓄積されてきたものだ。
 しかし、ここに3つの問題点がある。一つは個人の“勘”に頼っているが故に、打率が上がらないこと。確かに優秀な営業担当の勘はばかにできない。しかし、それが個人の頭の中にあるだけで形になっていない、「暗黙的」な状態なのだ。雑誌の「スーパー営業担当の一日」や「決めぜりふ」を読んでもぴんとこない。まねしてもうまくいかないのは、彼らは自分のプロセスの全てではなく、その断片を開示しているに過ぎないからだ。また、当然企業や扱う製品、対象となる顧客毎によって変わってくる。そのまま真似できようもない。
 さらに問題なのは、そこに記されているのは、2つめの問題である、彼らはそこで「過去の成功体験」を語っていることだ。それを鵜呑みにするわけにはいかない。「成功体験」はプロセスを表わしてはいない。あくまで結果の一例だ。商談相手に対して、いわば脊髄反応的に対応し成功した、いわば「うまくはまった」単なるいくつかの「ケース(事例)」かもしれない。
 プロセスとは、その成功事例から成功要因とさらに失敗事例から失敗要因を抽出・分析し、誰もが成功するようなパターンを一連のプロセスとして組み立てることが必要なのだ。
 それがないと、「なぜ成功したか、失敗したか」が分からないのだ。「ラッキーでした」「熱心に通ったおかげです」。よく言われる言葉だが、本当に単なるラッキーだったのか?一度で商談相手を納得させる決定的な“決め手”を無意識に引き出させ、いくつかトークをしているうちに、クリティカルなカウンターが当たったのではないか?だとすれば、その相手のニーズとそれに対応したカウンターがを明らかにすれば、単なるラッキーではなく、成功のためのプロセスが作れ、他の担当者でも同じことができるようになる。また同様に「熱心に通ったおかげ」も商談相手は本当に“熱心さ”にほだされたのだろうか?ラッキーの場合と同様、通って何度も話しをしているうちに、商談相手を納得させる決定的な“決め手”を無意識に引き出すことがやっとでき、いくつかもトークをしているうちに、クリティカルなカウンターがやっと当たったのではないか?では、同様に長いことかけて引き出した相手のニーズとそれに対応したカウンターがを明らかにできれば、その商談期間を大きく短縮するプロセスが作れる。
 プロセスとは、個々の営業担当の製品や顧客に対する知識(ナレッジ)を棚卸しし、誰もが成功するための方法論、手法として組み立て直すことをいうのだ。これはナレッジマネジメントの世界では、営業担当全体のボトムアップ、もしくは準優秀な営業担当をトップ営業担当に引き上げるためには、必ず必要な作業とされている。
 全社的にやろうと思うと結構骨が折れるが、自部門だけでもやってみることを是非オススメしたい。

■6つめの“P”は“People”
 最後の“P”は「誰がやるのか」ということだ。当然、大切な顧客や商談には優秀な営業担当が充てられるだろう。だからといって、その商談が必ずうまくいくとは限らない。優秀な担当者が本当にその商談を成功させるためには、その商談において必要な「スキル」(能力と知識)を持っているかを把握した上で行かせるのでなければ、結果は神のみぞ知るということになる。
 一方、営業成績のふるわない担当者が、いくら「がんばります」「努力します」といったところで、結果が上がらなければ今の時代、許されない。では、彼にどうがんばれと上司は言うのだろうか。「もっと靴をすり減らせろ!努力が足りない!俺が若い頃にはなぁ…」などと言うのであればそれは最悪の指導だ。やみくもに訪問件数、活動量を増やしてもムダなのだ。問題なのはその上司が恐らく結果としての営業数字だけを見て「優秀」「ダメ」という判断をしていることだ。
 必要なのはその担当者の「スキルセットの棚卸し」である。その担当者は何が分かっていて、何が分かっていないのか。できることとできないことは何か。それを明らかにした上で、この案件のリーダーは誰、とか、この顧客には誰を行かせる。と、科学的に行うのが“People”だ。スポーツの世界ではとっくに行われていることが、なぜかビジネスの世界では行われていない。ピッチャーが交代した瞬間に代打が出されるのは何度もご覧になっているだろう。誰でもいいのではなく、「誰が行うのか」が重要な6つめのPだ。
 そのためには同時に優秀な数字の上がっている営業担当のスキルセットを棚卸しし、「なぜうまくいくのか」を明らかにする必要がある。そして、それが前述の「プロセス」に起因するものであれば、そのプロセスを踏襲させるべく、成績中~下位者に習得させればいい。プロセス以外の、本人のモチベーションや、気づき、気働き、に起因するものであればメンター(先生役)として優秀な営業担当の下に付け、気づきを与えることも必要だ。
 この“People”でも大切なのは、個々人の潜在能力を暗黙的に放置せずに、目に見える形(可視化)して、適材適所を実現することなのだ。

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