コンタクトセンター改革
プロフィールにあるように、筆者はコンタクトセンターの出身です。
しかし、ここ15年ぐらいの顧客とのコンタクト手段はインターネットの登場ですさまじい変化を見せています。
その中で、「限られた予算の中で効率と応対クオリティーの向上、さらにはセンターとしての付加価値を」と皆さん必死でがんばっていらっしゃいます。
そのがんばりにエールを送るつもりで書いたのがこのコラムです。
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/eigyo/media/index.cfm?i=e_idnl056
-----------<以下バックナンバー用転載>-----------
「コンタクトセンターのグッドスパイラルを完成させよう!」
最近、当社のWEBサイトからのお問い合わせ・お引き合いの中で「テレマーケティング関連」が増えている。そこで今回は、そのジャンルに関連したTipsをお届けしたい。
■テレマーケティングの本来の意味と今日的な姿
テレマーケティングというとやはり、電話でのコミュニケーションが想起されるが、それを実施する「コールセンター」は、今日では「コンタクトセンター」と呼ばれることの方が多くなっている。コールという電話だけのコミュニケーションに限らず、WEBサイトからの問い合わせ、Eメールでのやりとりまでも取り込み多様化しているからだ。
「テレマーケティング」という言葉の本来の意味は「Telephone Marketing」ではなく、電話以外も含めた「Tele-communication全般を活用したマーケティング手法」を表していた。もっとも、その概念が生まれた当時の「電話以外」といえば、FAXぐらいしかなかったのだが、テクノロジーの進化がその概念をより本来の意味に近づけたのだ。
■何とかしたい!Eメールオペレーションの効率
しかし!顧客からのコンタクトチャネルが多様化したことにより、現場はそんな「本来の概念が云々・・・・・・」などといっていられないくらい大変なことになっている。古参のセンター担当者は一様に「電話しかなかった時代が懐かしい」ともらす。それくらいWEBサイトからの問い合わせ対応とEメールでのやりとりに手間がかかるのだ。
コンタクトセンターにおける永遠の課題の一つは「いかにしてオペレーションコストを低減するか」であるが、その観点からするとEメール対応は最悪なのだ。試行錯誤の蓄積によって回答テンプレートの充実に成功し、電話応対以上の効率化が図れているといった例もごくまれに見られる。
しかし、一般にはEメールでの対応は電話応対の3倍の手間、オペレーション時間がかかるといわれている。電話で話す言葉と違ってEメールは相手に残るものであるだけに、その記述は慎重にならざるを得ない。ちょっとした言葉遣いの誤りは聞き流されることも多いが、Eメールでの誤字や表現ミスは下手をするとクレームにもつながってしまう。このEメールオペレーションの効率化は多くのセンターにとって緊急課題だろう。
■WEB FAQの充実に活路を見いだせるか?
Eメールで問い合わせをしてくる顧客は(まれに携帯メールの場合もあるが)当然PCがあり、WEBが見られる環境にある。そこで各社とも、必死に力を入れているのがWEBサイトのFAQ(Q&A)の整備だ。FAQが整備されておりユーザビリティーも良ければ、顧客自身が自ら求める回答を探し出せ、問題解決に到る、いわゆる「セルフサービスWEB 」が実現する。
センターの受付時間に関係なく、24時間自分の必要なときにいつでも問題解決ができるため、顧客満足の向上にもつながる。また、このWEB FAQの利用者が増えれば、Eメールでの問い合わせは激減するし、電話での問い合わせも減る傾向を見せるのだ。
しかし、言うは易く行うは難し。このFAQの整備には実際、かなりの労力がかかる。まず、顧客のFAQの利用ログを見て表示順位を考えなくてはならない。製品が様々なラインや品番で展開されているとしたら、それごとに作業が必要になる。また、新しく発生した質問と回答は随時追加しなくてはならないが、その際先に入っている同じような質問と回答との類似性を考え、記載か削除かの判断をしなくてはならない。また、ほとんど閲覧されていないような項目の削除も必要だ。そのようなメンテナンス作業を怠れば一気に顧客の利便性は低下してしまうのだ。
■CTIの導入で一気に片を付ける?
当ニューズレターで筆者はいままで基本的に「システム先行」での課題解決に反対してきた。「ソリューション(課題解決)」という言葉に「システム」が置き換えられ、「まずはシステムを導入して、自社の課題解決につながるプロセスを構築しよう」としたケースはかなりの確率で失敗に到るからだ。
しかし、このFAQの整備に関していえば、比較的早期にシステム導入することをお勧めしたい。自社で行うかコンサルティングを受けるかはともかくとして、当然、事前の環境調査や設計・整備をという人的プロセスが必要となるものの、実際の運用フェーズの作業に関しては人的対応の限界と非効率が顕在化するからだ。今日のCTI (Computer Telephony Integration)は非常に進化しており、冒頭記したコールセンターの守備チャネルの拡大に対応して、電話だけではなくWEB FAQにも対応している。それによって、前項で述べたような運用フェーズでの整備・メンテナンス作業の大半は軽減できる。また、手作業で行うよりも漏れや抜けもなく、確実な結果が得られるのである。
■コンタクトセンターのグッドスパイラルとは?
前述のCTIによるFAQ整備のもう一つの効用は、それが今回のタイトルでもある「コンタクトセンターのグッドスパイラル」構築の糸口となることだ。グッドスパイラルとは、コンタクトセンター内、及びそこから社内にもたらされる知見の好循環を意味する。顧客との応対を最適化しセンターの効率を向上させつつ、さらに顧客からの知見(顧客知)を応対業務の中から抽出して社内の各事業部に供給するのだ。
以下にその実現ステップでまとめる。
1.前述の通り、WEBサイトのFAQを整備し、Eメール、電話での問い合わせを軽減。効率化を達成する。
2.FAQの整備の過程において、頻出クェッション項目や顧客が自ら解決に到った最適なアンサー項目を明らかにし、それを転用してEメールの回答用テンプレートの整備や、オペレータの電話応対用Q&Aも整備する。それによって、効率化と応対品質の向上を実現する。
3.さらに上記3つのコンタクトチャネルを連動させることによって、より顧客からの質問や要求傾向が統合的に見られることになる。それによって、センターの業務は単に顧客からの問い合わせを「処理」するのではなく、製品開発やサービス向上のための手がかりをつかむレポートを作成する機能までを果たせることになる。
4.上記レポーティング機能は、顧客からのEメールの問い合わせデータやオペレータの電話応対記録(コールログ)をテキストマイニングするところまで踏み込めば、さらなる知見を抽出することも可能となる。
■まだまだ余地のあるセンター改革
前述のようなサイクルが完成されているセンターが実際にはどの程度あるかといえば、まだまだ少数派だといえよう。上記プロセスの大半を人的労力に頼っているために、FAQの最適化や顧客のユーザビリティーが向上しなかったり、顧客知を吸い上げるところまで到らず、「処理業務」に追われてしまっている例が散見される。日々の業務に追われていることでセンターの担当者のモチベーションも上がらず、顧客満足も向上しない。まさにグッドスパイラルの逆、バッドスパイラル(悪循環)に陥っているのだ。
コンタクトセンターには先に述べたように、いかにコストを低減するかという大きな課題が常に存在する。今回提唱している「コンタクトセンターのグッドスパイラル」を完成させることはその答えになるだけではない。もう一つのコンタクトセンターにおける永遠の課題である、「いかに自社に対してプロフィットをもたらすか」という点に応えることにもなるのだ。
「プロフィット」というと、アウトバウンド・テレマーケティングによる新規獲得効果のようなROIに現れやすい部分にまず目がいくが、それ以上に顧客のFAQ利用状況や対応状況の中から抽出された「顧客知」の中にこそ利益の源泉が隠されているはずなのだ。
当然、システムを入れればそれがすぐに実現するものではない。また、そのROIを明らかにすることも難しい。しかし、あえて今回のTipsはシステムを上手に利用して、最短距離でコンタクトセンターの永遠の課題である「効率化とプロフィット貢献の両立」を実現しようという主旨である。目的はシステムの導入ではない。課題の解決方法の一つとして提唱しているわけだ。それこそが本来の「ソリューション」というものではないだろうか。